死骸が転がり地獄絵図と化した“猫の楽園”・青島を救った『TNR』って?

10月13日(日)12時0分 週刊女性PRIME

“猫の楽園”青島の様子

写真を拡大



 瀬戸内海に浮かぶ周囲4・2キロの小さな島・青島が一躍、脚光を浴びたのは2013年の夏のこと。

 動物カメラマンとして世界的にも有名な岩合光昭氏が青島を訪れ、猫たちを撮影。その様子がテレビ番組で放送されるや、たちまち青島は“猫の楽園”として注目を集める。

■楽園どころか地獄絵図に



「さらに島民10数人に対して猫が100匹。猫密度の高さが動画サイトで話題になると、閲覧者数はあっという間に数百万人に達し、国内はおろか世界各国から“猫と触れ合いたい”と願う愛猫家たちが訪れ、島は観光客であふれ返ってしまいました」

 そう話すのは、公益財団法人『どうぶつ基金』の佐上邦久理事長。突如、脚光を浴びた青島だが、島内には宿泊施設はもちろんのこと、トイレや自動販売機すらない過疎の島。

 ところが“猫の楽園”として注目を集めたことも一因となり、猫の数は増え続け、気がつけば200匹以上に膨れ上がっていた。

「地元の愛護団体がエサやり、掃除、ノミダニ駆除に奔走していましたがもはや限界。地元・愛媛県大洲市も手をこまねいて見ているばかりでした」(佐上さん、以下同)

 やがて猫が倍増したことで、恐れていた事態が起きてしまう。

 観光客から気まぐれに与えられるエサにありつけずにやせ細った負け組の猫が行き倒れ、飢えて食い殺された子猫たちの死骸があちこちに転がった。青島は“猫の楽園”どころか地獄絵図へと様変わり。

「見かねた地元の獣医師会やボランティアによってメス猫80匹の不妊手術を行いましたが、この手術によってオスとメスのバランスが崩れ、ますます状況は悪化。不妊手術を受けていないメス猫は、数に勝るオス猫たちに囲まれゆっくりご飯を食べることもできずやせ細るばかり。子猫は母親の育児放棄などにより、ほとんど成長することもできませんでした」

 こういった惨事を招いたのは、決して行政だけの責任ではないと佐上さんは話を続ける。

「自立した野良猫を動物愛護センターで引き取ることは法律で禁じられており、行政も手が出せない。さらに無料で不妊手術をするといっても、“子猫の顔が見たい”と反対する島民もおり、なかなか意見もまとまりませんでした」

 しかし、この惨状が国内だけでなく、海外にもSNSを通して報じられたことから、地元ボランティア、行政、島民が粘り強く話し合い、2018年10月。ようやく『どうぶつ基金』によるオス・メス一斉TNR(※)が行われることとなる。





 しかし、この大規模な不妊手術は困難を極めた。

「5年越しで不妊手術が決まったものの、当初予定されていた9月は台風のために1か月延期。満を持して10月2日に上陸するも連絡船が欠航となり、当初3日間で行う予定を急きょ一昼夜で行わなければなりませんでした」

 島内に宿泊施設はなく、コミュニティセンターで仮眠をとりながら、たった3人の獣医が20名のボランティアスタッフとともに172匹の不妊手術および、ワクチン投与、ノミダニの駆除を行った。

「手術を終えた後、島民の方に、70年間生きてきて今日がいちばんうれしい。ありがとう、と言われたのを覚えています。このひと言で疲れも吹っ飛びました」

 と、佐上さんは当時を振り返った。

■「殺処分ゼロ」達成の裏側で……



 こうした『どうぶつ基金』のTNRの取り組みは、年々増えている多頭飼育崩壊でも十分に効果が得られると佐上さんは話す。

「多頭飼育崩壊に陥っている人たちは、まず身近な人やボランティアに相談するケースが多く、ボランティアと行政が緊密に連携できれば、早期の介入が可能になります。

 さらに行政が飼い主のいる猫の手術費用を捻出するのは難しいので、全国の行政に、協働ボランティアに登録申請してもらい、『どうぶつ基金』で手術を行い問題を解決するケースも増えています」

 しかし、行政とボランティア団体との関係にもデリケートな問題があるのだ。ある動物愛護団体のボランティアスタッフは、声を潜めてこう語る。

「私の県では、殺処分数が全国でも上位だったのに、ある年に、いきなり殺処分ゼロを達成しました。でも、根本的な問題は何も解決されていません。

 例えば授乳中の子猫は2時間に1回授乳しなければなりませんが、1匹5分として、200匹いたら1人や2人ではとうてい追いつきません。

 これだけの手間をかけられるだけのスタッフがいる団体は、全国レベルで見てもほとんどないんです。これでは“殺処分ゼロ”といっても、その後の猫たちの安否すら疑わしいと思いませんか? 行政もマスコミも、もっと現実を見てほしいです」



■TNRこそ共生のモデルケース





 2018年の一斉不妊手術から半年がたった2019年4月4日。猫たちの事後調査のために『どうぶつ基金』は再び、青島に渡った。

「猫たちは毛並みもよく太っており、健康状態も良好。不妊手術をしたおかげで、猫同士のケンカも見られず、マーキングなどの悪臭もなくなっている。そして何より、子猫が生まれた形跡もなく胸をなでおろしました」

 今回の青島で行った一斉TNRを経て、「TNRこそ人と猫の共生を目指す地域にとってお手本になる」と、佐上さんは話す。

「2017年度に行われた猫の殺処分数は全国で3万5000頭あまり。そのうち、保健所やセンターに持ち込まれた所有者不明の猫の73%が生まれて間もない子猫です。不妊手術さえしていれば、生まれてすぐ殺される悲劇は、起きていなかったはずです」

 そういった意味でも“猫の楽園”といわれる青島のTNR活動は、“殺処分ゼロ”社会を目指すうえで大きな一歩となりそうだ。

(※)TNR 猫を捕獲し、不妊手術を行い、元の場所に戻す。そして地域の住民や、ボランティアたちがその猫たちの世話をするという運動。TNRを施された猫は、耳の先をV字にカットし、判別する


《PROFILE》

佐上邦久さん ◎公益財団法人『どうぶつ基金』理事長。殺処分される犬猫の状況を改善しようと保護と里親探し、TNRを全国各地で実施している

週刊女性PRIME

「青島」をもっと詳しく

「青島」のニュース

トピックス

BIGLOBE
トップへ