【国難を問う(3)】少子化問題、国家の土台揺るがす「静かな有事」 「戦略的に縮む」決断を 論説委員・河合雅司

10月14日(土)5時3分 産経新聞

 首相、安倍晋三は衆院解散にあたって、少子高齢化を北朝鮮問題と並ぶ「国難」と位置づけた。

 少子高齢化が解散理由とされたのは初めてである。政権選択選挙のメインテーマとなった意義は極めて大きい。

 少子高齢化は国家の土台を根底から揺るがす「静かなる有事」だ。これが「国難」であることは、多くの説明を要しないだろう。

 むしろ問題は、少子高齢化の意味を正しく理解している人が少ないことにある。

 これまでの選挙戦では非現実的な公約や認識不足の主張が目についた。今回も幼児教育・保育の無償化に議論が集中しているが、これが国難の解決策というなら、あまりにも貧弱である。求められているのは、もっとダイナミックな対策だ。そうした政策論争を巻き起こしていくためにも、われわれ自身が“極めて特異な時代”を生きていることを自覚する必要がある。

 国立社会保障・人口問題研究所の将来推計人口によれば、2015(平成27)年の国勢調査で1億2700万人を数えた日本の総人口は、2053年には1億人を割り、100年もたたないうちに5千万人ほどに減る。こんなに急激な人口減少は類例を見ない。

 少子高齢化の現実は極めて深刻だ。人口減少も出生数減も止めることは簡単ではない。これまでの少子化の影響で女児の出生数が減っており、子供を産める年齢の女性の激減が避けられないからだ。

 成熟社会となった日本が再び多産社会に戻ることは考えにくい。出生率が多少上昇しても、出生数は減り続ける。われわれは、人口減少が避けられないという「現実」を受け入れ、それを前提に社会を作り直さざるを得ないのである。

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 これから日本で何が起こるのか。「未来の年表」を展望してみよう。例えば24年には3人に1人が65歳以上の“超・高齢者大国”になる。25年には東京都の人口がピークを迎えて減り始め、33年には3軒に1軒が空き家となる。60年には3人に1人が認知症を患う社会が到来する。

 これらを見るだけでも、過去の延長線上に「未来」はないことが理解できよう。われわれに突きつけられているのは、戦後の成功体験との決別なのである。

 “極めて特異な時代”への対応が難しいのは、人口減少をもたらす出生数の減少に加えて、高齢者数の増加、社会の支え手である勤労世代の減少が同時に起こるからだ。これらの要因はそれぞれ異なり、全国一律に進むわけでもない。対策の成果が表れるのに何十年もかかる場合がある。

 では、社会の激変に向けて何をすべきなのか。

 人口減少を止めようもないならば、追い込まれてから対策を考えるより、「戦略的に縮む」という積極的な選択をすることだ。

 「縮む」というと衰退や貧困といったマイナスイメージで受け止められがちだが、そうと決まったわけではない。時代を先読みし、打つ手さえ間違えなければ、小さくなろうとも豊かな国であり続けることは可能なはずである。

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 「戦略的に縮む」には発想の大転換が必要だ。

 これまでの少子高齢化への対策といえば、現在の人口規模を前提とし、それを維持せんがためにどうするかというアイデアが多数を占めてきた。あるいは景気刺激策や家計支援策にねじ曲げられてきた。

 典型的なのが外国人労働者の受け入れだ。日本人にはない技能や能力を持つ人材の受け入れは経済成長にとって不可欠である。受け入れを全面否定するつもりはない。

 だが、日本の生産年齢人口は2015(平成27)年から40年までの25年間で約1750万人減る。そのすべてを外国人で穴埋めしようとの発想には無理がある。

 大型開発事業も同じだ。少子高齢化で需要見通しは大きく変化しているのに、人口が増えていた時代の計画を見直さず突き進めていくケースは珍しくない。

 結果として、完成直後から利用者が思うように伸びず、維持費の捻出すらできないということになる。成功体験にこだわり、無理を重ねたところで早晩行き詰まるだけである。

 それよりも、コンパクトな社会の実現のためにエネルギーを振り向けたほうがよほど有効だ。過去の価値観について捨てるものは捨て、残すべきは残す。日本の強みを伸ばし、小さくともキラリと輝く国であり続ける。日本より人口が少なくても、国際的な影響力を持つ国は少なくない。

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 急がれるのは(1)勤労世代の激減への対応(2)少子化対策−だ。働き手や出生数の減少スピードを可能な限り遅らせることで、社会の激変を少しでも緩和する。次の世代が対策を考えるための時間稼ぎである。

 社会をスリム化することで、必要となる労働力の総数を小さくするのである。労働力人口が1千万人減っても、1千万人分の仕事が不要となれば労働力不足は起こらない。

 人工知能(AI)の開発や24時間社会からの脱却、国際分業の徹底などに挑み、少子化で少なくなる若き人材を新成長分野へと重点配置するのである。

 一方、少子化対策に一番必要なのは社会の機運を高めることだ。「第3子以降に1千万円給付」といったインパクトのある政策が待たれる。

 日本に残された時間は少ない。どの候補者がダイナミックな改革を実行し得る「本物」かを見極めなければならない。漫然と時間を費やしたならば、「静かなる有事」の敗者となる。=敬称略

産経新聞

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