渋谷スクランブルスクエアが開業! 47階建のビル屋上に展望台が設けられた “意外な背景”を読み解く

11月5日(火)6時0分 文春オンライン

 11月1日、渋谷に新しい再開発ビルがオープンした。渋谷スクランブルスクエアだ。これは「渋谷駅街区開発計画」の一環で、JR東日本、東急電鉄、東京メトロが推進している計画の第1期工事にあたる部分だ。この建物は開発地の東側にあり、2012年4月に開業した「渋谷ヒカリエ」と明治通りを挟んで向かい合う。


東京の街並みを一望できる「渋谷スカイ」


 渋谷駅のほぼ真上となる中央棟と、東急東横店があった場所の上にあたる西棟は2028年の完成を予定している。今回オープンしたのは東棟で、工事ばかりが続く渋谷駅周辺でようやくお目見えした駅再開発事業の顔となる建物である。


 東棟は地上47階・地下7階建。延床面積18万1000平方メートルの巨大ビルだ。3階部分でJRや東京メトロの駅と接続。地下2階から3階のアーバンコアを通って東急東横線、田園都市線、東京メトロ副都心線、半蔵門線に接続される。



11月1日にオープンした渋谷スクランブルスクエア東棟(中央) ©時事通信社


 また、地下2階から地上14階部分には2万5000平方メートルの商業施設(212店舗)、17階から45階はオフィスとしてミクシィやサイバーエージェント、ZINEなどのIT系テナントの入居が決まっている。45階から上は展望施設となっており、屋上部分の「渋谷スカイ」からは東京の街並みを一望できるとの触れ込みだ。


 ちなみに展望料金は大人1名で2000円(当日窓口チケット)。東京スカイツリーの3000円は日本一高い眺め(地上450m)だからまだしも、せいぜい地上230mで2000円とは驚きの価格だが、11月中は既に予約でいっぱいだという。


カスタマーファーストの大盤振る舞いなのか?


 たしかにビルの屋上を開放して展望施設にする事例はあまりない。ビルの屋上部は多くの場合、空調機械などのビル設備で埋め尽くされ、また防犯上の問題もあって一般には開放されていない。せいぜい屋上緑化で、あまり値の張らない樹木や植物を植える程度が活用方法だった。そこに不特定多数の顧客を招き、屋上からの眺望を楽しんでいただこうというのは斬新な発想だといえる。


 タイのバンコクにあるウェスティンホテルの屋上には屋根のないトップバーとレストランがあるが、日本では百貨店の屋上に夏季期間中にビアガーデンなどを設置する程度がこれまでの利用法だった。


 もちろん屋上部分は天候の影響を受けるので、渋谷スクランブルスクエアでは屋内からの展望施設も用意し、景観を楽しんでもらうために贅の限りを尽くしている。



 展望施設は今回、1名2000円の料金をとるというが、収益性という観点から考えるならば、オープン当初は大勢の顧客が来場するかもしれないが、中長期的に高収益を期待できるような施設とは言えない。


 そうした施設をわざわざ設けてくれるのだからずいぶんと太っ腹、大盤振る舞いのように見えるが、ここには大きな理由がある。それは、2014年の7月に実施された建築基準法の改正である。


 実はこのときの改正で、建物を建設する際の規制となる容積率(敷地面積に対して建設することができる建物の面積の割合)に手心が加えられたのだ。



「エレベーターのスペース」が床面積の対象外に


 これまで容積率の対象となる建物の床面積には、エレベーターのシャフトの空間部分、つまりエレベーターのカゴおよびカゴを囲むシャフト部分の面積もカウントされてきた。


 たとえば、1台のエレベーターが1階から50階まで行きかうビルでの計算はこうなる。エレベーターにはいろいろな大きさがあるが、「東芝製乗用エレベーター15名定員」の昇降路は縦2.15m、横2.15m。面積にして4.62平方メートル(約1.4坪)ある。これまでの建築基準法では、50階建であれば50層分の床があると考え、4.62平方メートル×50層=231平方メートル(約70坪)を、容積率の対象となる「床」としてカウントしてきた。



 一見すると大した面積には見えないかもしれないが、通常の超高層オフィスになるとエレベーターは30台以上設置されている。もちろんすべてが最上層階までつながっているわけではないが、その面積は建物延床面積のおおむね3%から4%に相当する。


 つまり、たとえば床面積15万平方メートル(約4万5000坪)のオフィスであれば、4500平方メートルから6000平方メートルが、本来はエレベーターのスペースなのに「床」とみなされてきたということである。


 それが、建築基準法の改正により、容積としてカウントしなくてよいということになった。これは超高層オフィスの優に1フロアから2フロア程度の面積に匹敵するのである。


法律改正による“ボーナス”で生まれた展望施設


 この改正は14年7月からであったために、当時建設計画をすすめていた多くの超高層オフィスビルで建築申請のやり直しが頻発した。赤坂インターシティAIRは14年9月に着工したが、途中で計画を変更して37階建を38階建に変更、床面積も17万5000平方メートルから17万8000平方メートルに約1.7%「嵩上げ」している。


 また、太陽生命日本橋ビルは14年11月に着工したが、これも途中で計画変更。26階建から27階建と、やはり1フロア積み増し、面積にして約3.5%膨らませた。



 渋谷スクランブルスクエアも同様だ。当初は床面積を17万4000平方メートルにしていたものを、建築基準法の改正後、18万1000平方メートルに約3.5%「積み増し」しているのだ。つまり、法律改正によるいわば“ボーナス”を展望施設などに充当したというのが、今回の「渋谷スカイ」のカラクリだとも想像される。


 現在計画中のビルは、すべてこの法律改正によるボーナスを前提に設計している。容積率の変更は都市計画に関わる問題なので地域内でのコンセンサスを取るのに自治体は苦労するが、建築基準法改正は毎年のように行われているので、こちらはあまり調整する必要がないという側面がある。さらに与党多数の国会であれば、大手企業の望むような改正案が通る可能性は高いというわけだ。



大手デベロッパーにとっては“飴玉”となった


 新築ばかりに目が行きがちだが、この改正は既存のビル、つまり既得権益者の懐をも実は潤すことになる。そもそもこの法律改正が行われた背景には、エレベーターがない老朽化した団地やマンションに対し、その設置を促そうとする目論見があった。容積率が制限いっぱいだったり、既存不適格ですでに現行容積率をオーバーしていても、「エレベーターは床面積とみなさない」とすることで、新たに設置できるようになると考えたのだ。


 だが実際には、老朽化した団地やマンションの管理組合にはエレベーターを設置する財政的な余裕はなく、この恩恵は既存のビル業者、とりわけ超高層ビルなどを所有する大手デベロッパーにとってとても「おいしいボーナス」となったのだ。



 たとえば西新宿の超高層ビル群は床面積がおおむね5万坪程度。これまでは容積率いっぱいに設計されていたためにこれ以上の床の増築は望めなかったのが、3%程度とはいえ「余剰容積」というボーナスが転がり込んだのだ。5万坪の3〜4%といえば1500坪から2000坪に相当する。


 現実的には既存建物に「積み増し」することは不可能だが、超高層ビルは敷地に余裕のあるところが多いので、敷地内に物販所やレストラン棟を建てて賃貸すれば、新たな収益源となるのだ。実際、このエリアのいくつかのビルで今、増築工事が行われている。それはこの法律改正という“飴玉”がなせる業なのだ。


「富める者」にさらに利益が与えられる構図


 オフィスビルだけではない。この改正はタワマンにも大きな恩恵をもたらす。40階建、50階建のタワマンで14年夏以前に建設されたものであれば、やはり1000坪以上のボーナスをもらっているところも多いはずだ。


 分譲後のマンションは、管理組合が運営する。ちょっと賢い理事長であれば、管理組合で借金して敷地内に店舗を建設して賃貸するだろう。また、新たに別棟のマンションを建設して分譲売却するなど、管理組合財政を思い切り改善できる可能性があることに気が付くことだろう。もちろん土地には建蔽率があるので、建蔽率以内に建物部分の面積が収まっていることが条件とはなるが。



 立法府と大手企業はこうしていろいろな手段を弄して利益を享受する。目の前の事象だけで「いいね」と思うだけでなく、「なぜ」「どうして」とその背景を探っていくと、世の中は必然として「富める者」にさらに利益が与えられる構図になっていることがわかるのだ。知らないものは損をする。世の中の理だ。



(牧野 知弘)

文春オンライン

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