女子高生が町を甦らせた福井県・鯖江市

11月15日(水)6時0分 JBpress

鯖江市の紅葉(同市のホームページから)

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人口増加率県内No1の「めがねの聖地」

 福井県鯖江市は嶺北地方の中央部に位置する、人口約6万9126人(2017年4月)の町である。

 メガネフレームの国内製造シェア約96%を誇る産地の中心であり、「めがねの聖地」とも言える。

 近年はドイツのIT大手SAPなどとのオープンデータを活用した「データシティ鯖江」を推進するなど地域活性化への取組みが盛んで、人口も1970年の5万2614人から右肩上がりで、人口増加率が県内の市町村で1位である。


JK課の誕生

 鯖江市では、2003年に「鯖江市市民活動による町づくり推進条例」、2010年に「鯖江市民主役条例」を市民提案で策定するなど、早くから市民協働の町づくりに努めてきた。

 また大学のない鯖江市にとっては、逆に全国の大学生に訪れてもらい提案を募る学生連携事業を行っているが、毎年9月に実施される、2泊3日の「地域活性化プランコンテスト」では、学生からの提案を必ず市で実現可能性を検討する仕組みになっている。

 これまでにも、駅舎2階に市とNPOが協働で開設した「えきライブラリーtetote」など、いくつもの実現事例がある。

 その「おとな版」が2014年に開催されたときに、女子高生が町づくりに参画する「鯖江市役所JK課」という企画が提案された。

 当時の市としても、特定の市民層だけが市民協働に参画するのが目立ち始め、底辺拡大が課題の1つでもあった。

 さらには、上記条例の推進組織である市民協働推進会議の参加要件に、「15歳以上の者。ただし、中学生は除く」という高校生の参画を想定した先進的な規定が盛り込まれていたのにもかからわず、実現に至っていなかった。

 JK課の提案はそれらを打開する契機となったのである。

 これを受けて市は、女子高生が自ら企画した地域活動を実践することで、若者や女性が進んで行政参加を図っていく新たなモデル都市となることを目指し、提案を採用することとした。


「決めました。私、誰が何と言おうとJK課やります」

 JK課事業が公表された当初は、各方面から「行政には不適切な名称」だとか、「女子高生に何ができる」など様々な苦情が寄せられた。

 それに対し、市としては「参加する高校生自身がこの言葉に若者らしい積極的かつさわやかな意味を見出し、従来のイメージを吹き飛ばすような斬新な活動をしてくれると信じております」との公式見解を出した。

 世間の冷ややかな目もある中で、牧野市長を訪れたJK課参加予定の女子高生は数人だったが、市長の気遣いの言葉や市の本気度に触れ、ある1人が「決めました。私、誰が何と言おうとJK課やります」と決意表明したことから、JK課が始動することとなる。

 また、市民主役条例推進委員会にも、JK課をサポートすべく「若者部会」が新設されたり、「鯖江市OC(おばちゃん)課」も誕生するなど、市民も呼応して動き始めた。

 最終的には13人の参加者が集まり、2014年4月には鯖江市役所で初の公式活動が行われた。


驚異的な活動実績

 事業にあたって一番重視したのは、徹底的に高校生を信じ「任せる」こと、そして「教えない」ことであった。

 町づくりの講義も、鯖江市のことも一切教えなかった。

 高校生たちは授業で学んだKJ法を活用し、やりたいことや活動への思いなどを自由に付箋に書き出し、グルーピングしながらいくつかのプロジェクトにまとめていった。

 その中から、「鯖江市ピカピカプラン」という、若者主体の清掃活動や、オリジナルスイーツの開発・販売など、様々な企画が生まれ実践された。

 結果的に1年目は、79回の活動、22回のイベント・事業参画という途方もない実績となった。行政が強制して成し得る回数では決してない。

 オリジナルアプリを作ろうと地元のIT企業を訪問した際は、社長から「困っていることない?」と尋ねられたことがきっかけで、市立図書館の学習スペースの空き状況をスマホで閲覧できるアプリが生まれた。

 「若者が町づくりに興味を持ってくれない」と嘆く前に、若者は未熟であるとか無関心であるなどの先入観を取っ払い、困っていることを問うことから始めるのが大事であることに気づかされる。

 後日、メンバーの1人がマスコミの取材の中で、「今までは大人に意見を言っても否定されたり、聞いてもらえるだけということが多かったが、JK課では肯定してもらえ、本当に形になる。JK課を卒業しても、いろいろなことにチャレンジしたい」と答えている。

 2015年3月に1期13人のうち11人が卒業したが、そのうち7人が、市民主役条例推進委員会・若者部会へ入会し、2人名が市民協働推進会議の委員公募に応じ、大人とともに活動した。


JK課で一番変わったのは職員

 初年度の1年間を総括して市長が以下のように述べている。

 「JK課で一番変わったのは、職員だと思います。それまでは、女子高生の意見を聞いて施策に反映させることなど考えてもいなかったはずです。政治に無関心な若者に、意見を求めても無駄。そのような先入観があったと思います」

 JK課に触発されて、市内の各種団体やIT企業の経営者など、その活動を自発的に支える応援団が自然発生的に生まれてきた。

 これまでの行政事業にはない「おもしろさ」「楽しさ」などが、市民を巻き込むことにつながっている。

 さらには、40〜60代を中心とした女性たちがJK課に負けじと「鯖江市OC(おばちゃん)課」を立ち上げ、ユニークな町づくり活動に取り組んでいる。

 JK課は年々参加者が増え、2期目は16人、3期目は27人とメンバーを増やし、今期は41人に至っている。


若者による若者のための活動

 2016年4月には、鯖江市のドームでアイドルグループによる2万人規模のコンサートがあったが、そこではJK課卒業生で結成した「若者部会・SAN」が、たくさんの来場者をもてなすプロジェクトを立ち上げた。

 これまでにも同規模のコンサートは年に数回行われていたが、市にはそれだけの観客をもてなす仕組みがなく、様々なリスクを案じる大人たちは、発起人となることに腰が引けていた。

 そんななか、「若者部会・SAN」が言い出しっぺとなり、市の町づくり基金事業から補助金も調達し、スペース確保、安全管理、売れ残り商品の扱い、食品衛生など、粘り強く関係者との打ち合わせを重ね、JR東日本の全面的な協力もあり、見事に成功に導いた。

 当日はメンバー考案のオリジナルお菓子が2日間で1000個以上売れたり、定休日の商店もお店を開いたり、町内会の壮年グループは案内誘導などボランティア参加するなど、若者たちの頑張りが大人を動かした結果であった。

 今年度、市では、「サバエ×ワカモノ夢創造大学事業」を立ち上げた。

 市内の中高生を対象に、ワークショップなどでアイデアを募集し、若者自身が提案者である中高生と一緒に具現化するという事業である。

 さらに市では、提案型市民主役事業化制度を活用し、SANから具体的な事業提案を受け、審査会の決定を経て委託契約を結ぶことも始めた。

 明らかに若者自身の意識が変わってきている。自分たちが動けば町や大人が変わることを実感したことで、これまで他人ゴトだった町づくりを自分ゴトとして捉え、当事者意識が生まれてきている。

 未来を作るのは若者であるから、大人はその若者への先入観を捨て、思い切って「任せる」ことでオーナーシップを触発し、シチズンシップを育むべきではないか。

 自分ごととして町づくりにかかわり、町に愛着を抱ければ、仮に市外や県外の大学へ進学したり、就職したりしてもいつかまた戻ってくる若者は増えるであろう。

 大人の役割は、若者が将来に希望と夢を持てる環境づくりと、そのサポートであると言える。

【鯖江市の財政事情(2015年度)】——————————————————————

鯖江市は、財政の強さを示す財政力指数※1が0.66と、全国の類似団体の平均0.73には及ばないが、経常収支比率※2は88.3%と、類似団体の平均88.7%を下回り、財政の弾力性は維持していると言える。

一方で、人口1人当たりの地方債現在高は38万4336円と類似団体平均とほぼ同額だが、積立金現在高が6万4063円と、類似団体平均の11万197円の約半分であることがやや気になるところである。

特徴的なところでは、商工費と農林水産業費に多くの予算を割く一方で、行政職員の数や人件費が抑えられていることである。

JK課のような活動を積極的に推進しながら、鯖江市民主役条例に基づく、「市民協働」「市民主役」の理念が徹底されることで、小さな行政が実現できるとも言えよう。

<人口1人当たり目的別歳出(単位:円)>
○商工費 2万6632(鯖江市) ⇔ 1万3226(類似団体)
○農林水産業費 1万6559(鯖江市) ⇔ 1万1737(類似団体)

<人口1人当たり性質別歳出(単位:円)>
○人件費 4万4978(鯖江市) ⇔ 6万2416(類似団体)
 うち職員給 2万9061(鯖江市) ⇔ 4万308(類似団体)

<人口千人当たり職員数(単位:人)>
○職員数 4.89(鯖江市) ⇔ 6.82(類似団体)

※1 財政力指数= 基準財政収入額 ÷ 基準財政需要額(3ヶ年の平均値)
基準財政収入額…自治体の標準的な収入である地方税収入の75% などを対象とする。
基準財政需要額…人口や面積などにより決められる標準的な行政を行うのに必要と想定される額。
※2 経常収支比率…財政構造の弾力性を判断する指標で毎年度経常的な収入に対し、人件費や扶助費(児童福祉費や生活保護費など)、公債費(借金返済費など)のように、経常的に支出しなければならない経費が占める割合
※3 標準財政規模…自治体の標準的な状態で通常に収入されるであろう経常的一般財源の額
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【参照、出典】
 ・鯖江市HP(https://www.city.sabae.fukui.jp/)
 ・鯖江市市民まちづくり課によるリポート

筆者:大和田 一紘

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