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日本一のブラック企業「病院」、人材が海外流出 低賃金でこき使われる若手医師、将来の開業もはや夢に

JBpress11月25日(金)6時40分
画像:病院では過剰勤務が状態化している。特に若手医師が置かれた状況は劣悪だ(写真はイメージ)
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病院では過剰勤務が状態化している。特に若手医師が置かれた状況は劣悪だ(写真はイメージ)
画像:(図1)医師の労働時間
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(図1)医師の労働時間
画像:(図2)内科常勤医1人あたりの救急患者受け入れ数
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(図2)内科常勤医1人あたりの救急患者受け入れ数

 電通の過剰労働問題が話題だ。女性社員の自殺について、厚生労働省は強制捜査を行い、書類送検する予定という。

 実は、電通以上に過剰勤務が状態化している職場がある。それは病院だ。特に若手医師が置かれた状況は劣悪だ。

 少し古いが2006年の国立保健医療科学院のタイムスタディーをご紹介しよう。この研究によれば、週の平均労働時間は、20歳代の男性医師が85時間、女性医師が78時間だ(図1)。

 法定労働時間は週40時間であり、残業が週20時間(月80時間)を超えると過労死の認定水準に達すると見なされている。この状況は早急に見直すべきだ。

 ただ、それは極めて難しい。若手医師のサービス残業を念頭に医療システムが設計されているからだ。下手にいじると、日本の医療が崩壊しかねない。

低賃金でこき使われる若手医師

 日本の医療の制度設計の問題は「医師が肉体労働者」であることを考慮していないことだ。部長や教授のような管理職になる一部の医師を除き、医師が最も働けるのは20代後半から30代半ばまでだろう。前出の調査でも残業時間は年齢とともに単調減少している。

 ところが給与は年功序列だ。大学病院の場合、20〜30代の年収は300万〜600万円、40〜50代で800万〜1000万円くらいだ。市中病院では、それぞれ600万〜800万円、1500万円くらいだろうか。病院経営は「若手が働き、年寄りを養う」構造になっている。

 経営を効率化するには、若手を確保し、年寄りを辞めさせるのがいい。以前から、働けないロートル医師は、病院幹部から肩たたきされて開業したり、中小病院の管理職になっていた。

 このやり方はプロ野球経営と似ている。毎年オフになれば、ドラフト会議で有望な若手を獲得する一方で、働きの悪いベテラン選手は肩たたきされる。コーチや解説者になれる一部の選手を除き、野球とは全く別の第二の人生を歩む。多くの場合、収入は激減する。

 医師がプロ野球選手と違うのは、「現役」の勤務医よりも、「引退後」の開業医の方が収入が高いことだ。人にもよるが、開業医の年収は2000万〜3000万円程度だ。

 この差は、開業医の方が勤務医より、よく働くとか、提供する医療行為の付加価値が高いからではない。厚労省が定める診療報酬が、開業医に有利になっているだけだ。

 例えば、心停止の患者に心臓マッサージをしても、その対価は30分まで2500円で、それを超えると30分ごとに400円が加算されるだけだ。

 一方、風邪の患者に3分診療すれば4000円程度を得ることができる。この格差は、戦後、日本医師会が自民党の強力な支援団体であり続けた名残だ。

 そして、このような医師の人事管理を担ってきたのが大学医局と、そのOBたちが仕切る地元の医師会だった。

 この体制が維持される限り、医師が若い頃に安い給与で働いても、年をとって開業すれば「元が取れる」仕組みになっていた。このように考えれば、医師のキャリアの実態は、実力勝負のスポーツ選手とは程遠く、終身雇用を念頭に置いた高度成長期の会社組織と変わらない。

 ところが、近年、この戦略が通用しなくなっている。一部の地域で、開業医の数が充足し、新規開業の余地がなくなったからだ。

開業する夢も消え・・・

 診療報酬は全国一律の公定価格なので、診療報酬が抑制されれば、物価の高い都市部ほど経営は不安定になる。この結果、都市部の勤務医は開業せず、勤務医を続けることになる。

 1990年に40.3歳だった勤務医の平均年齢は、2014年には44.2歳に上昇している。一方、開業医の平均年齢は、58.5歳から59.2歳と大きな変化はない。

 これが都市部の病院で、若手医師の待遇を悪化させる1つの要因だ。中年医師が辞めないため、若手は、いつまでも「専修医」や「後期研修医」という肩書きでの勤務を強いられる。

 このような立場の医師の多くが、有期雇用であり、研修終了後の雇用継続は経営者の判断に委ねられる。圧倒的な買い手市場であり、一部の病院では違法な状態となっている。

 例えば、聖路加国際病院では、サービス残業が常態化していたことが発覚した。給与も低く、30代前半の医師の年収は約400万円だ(『選択』10月号より)。

 今春、労働基準監督署(労基署)が入り、未払いの残業代を支払うこととなった。同病院の財務は悪化し、今夏のボーナスは1割程度カットされ、支払も遅れたという。これが前年度まで約130億円の利益を上げていた名門病院の実態だ。

 若い勤務医をブラック労働から解放するにはどうすればいいのだろう。

 この状況は容易には改善しない。聖路加国際病院のケースが示すように、若手医師に正当に給料を払えば、多くの病院は赤字になってしまうからだ。

 問題の抜本解決には、医師が生み出す付加価値に給与体系を合わせるしかない。アスリートのように引退後は自力で生きるか、あるいは看護師のように本給を下げて、手当てでの支払を増やすかだ。いずれにせよ、中年以降は収入が減る。

 このような改革をするには、開業医優遇の診療報酬のあり方や、医師・看護師の業務独占の緩和、さらに医学部新設や医学部定員増が必要だろう。ただ、いずれも痛みを伴う改革だ。様々な業界関係者の既得権が絡み合い、容易には実行できない。

 では、そこまで待っていられない若手勤務医はどうすればいいだろうか。

 私は、研究室に出入りする若手医師たちに「男性の場合は40代以降、女性の場合は出産後のセカンドキャリアを考えるように」と指導している。ちょうど、アスリートが現役引退後のセカンドキャリアを考えるのと同じだ。

 その際に重要なことは、中年以降に役立つ特技を身につけること、将来にわたり信頼できる仲間を持つこと、および今後需要が高まる分野での仕事にチャレンジすることだ。

 特技については、専門性が高く、年を取ってもできるものがいい。できれば1人でもやれる方がいい。その意味で内視鏡や、白内障や乳がんの手術はお奨めだ。

 自分にやる気があれば、国内外、どこでも診療科を立ち上げることが可能だ。ベトナムで白内障手術を行っている服部匡志医師など、その典型例だ。

若い時代に働く場所が医師の未来を左右

 一方、心臓外科や膵頭十二指腸切除などの大型の手術は、その限りではない。初期投資が大きく、やれる施設は限られる。そのような施設のスタッフ医師の枠は、すでに飽和している。

 高齢化が進む我が国で、侵襲的な手術を受ける患者が増加するとは考えにくく、既存の教授や部長など管理職のポジションを確保するしかない。もし、確保できなければ潰しはきかない。

 診療科と同じく、働く場所も重要だ。

 現行の全国一律の診療報酬制度が続く限り、首都圏などの都市部の将来は暗い。病院の経営は悪化し、ブラック労働が常態化しているのに、若手医師が集まり過ぎて、経験を積めないからだ。

 図2は常勤内科医1人あたりの年間の救急患者受け入れ数だ。赤が2015年度の研修病院マッチングでトップ10に入った施設だが、何れも経験が積める病院とは言いがたい。

 働くなら、医師が少なく、かつ物価が安い地域がいい。私が注目するのは、福島県や宮城県など東北地方の太平洋側だ。冬場でも雪が降らず、東京からも近い。さらに、民営化される仙台空港を使えば、数時間で関西や福岡にも行ける。

 この地域からは、仙台厚生病院、ときわ会常磐病院(福島県いわき市)などの成長著しい病院が出ている。

 このような病院は、診療を通じて得た収益を、将来投資に充てている。ダヴィンチなど先進機器を積極的に導入し、人材にも投資する。

 仙台厚生病院は天野篤・順天堂大学教授を非常勤で雇用し、手術を指導してもらっている。ときわ会常磐病院は、論文不正の責任を取って東京大学分子細胞生物学研究所の教授を辞職した加藤茂明氏の基礎研究室を開設し、若手医師の論文指導を担当してもらっている。このような病院では実績が上がりやすい。

 さらに民間施設であることも大きい。選挙のたびに経営方針が変わり、役人が意思決定する国公立病院と違い、経営陣と信頼関係を構築できれば、長期的なお付き合いも可能だ。

 病院が成長し続ける限り、自らの居場所は確保できる。有期雇用の後期研修とは雲泥の差だ。どの病院で修業するかで、医師としての人生は大いに変わってくる。

 最後は「今後の成長分野」についてだ。私は、若い医師が生き残るには、海外、特にアジアとの連携が必須だと考えている。

中国や東南アジアを目指す若手医師たち

 中国をはじめ、アジアで医療ニーズが高まることは言うまでもない。現在、習近平政権は医療改革の真っ只中で、規制緩和を実行中だ。

 民間病院で外国人医師の診察が可能になったらしい。知人の上海在住の女性は「非常勤で上海の民間病院に勤務してくれる医師を紹介してほしい」と言ってきた。上海までは片道3時間。先方では、向こうのスタッフがアテンドしてくれる。知人の医師を紹介したところ、早速、上海に見学に行くことが決まった。

 このような状況は上海だけではない。フィリピン、ベトナム、インドネシアなども同様だ。医療ニーズが高まっているが、それに対応できる医師がいない。

 『ランセット』など医学誌は、今後、経済成長し、販売拡張が期待できる中国・東南アジアからの寄稿を歓迎する傾向がある。私の個人的な経験からも、このような国との共同研究の論文は受理されやすい。

 若手医師が生き残るには、論文を書かねばならない。「ブラック労働」が常態化している首都圏の病院よりも、アジアの病院は、若手医師にとってはるかに魅力的な職場だ。

 これまで、我が国は「医療ツーリズム」と称し、海外からの患者の受け入れに熱心だった。今後は、元気な若手医師は海外に出て行くことになるだろう。

 我が国の医療提供体制が崩壊の瀬戸際にある。ところが、厚労省は、この問題に真摯に取り組んでいない。「医師不足は軽微で、医師遍在が問題である」と主張し、若手医師の地方での勤務を義務化しようとしている。

 もちろん、こんな弥縫策では対応できない。高度成長期に適合した医療提供体制を、低成長でグローバル化した現代に適合させなければならない。

 そのためには、机上の空論に時間を浪費するのではなく、地道な試行錯誤を繰り返し、蓄積したノウハウを共有しなければならない。オープンでフラットな議論が必要だ。

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筆者:上 昌広

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データ提供元:アニメキャラクター事典「キャラペディア