GSOMIA延長合意後も続く韓国の対日批判……なぜ文在寅大統領はどこまでも譲らないのか

11月26日(火)18時0分 文春オンライン

 韓国の軍事情報包括保護協定(GSOMIA)の失効回避の余波が収まらない。 


 いま日韓で摩擦が起きているのは、11月22日のGSOMIA失効回避の決定直後、日本の経済産業省が行った会見だ。


 韓国側はGSOMIA失効回避とともに、世界貿易機関(WTO)提訴手続きの中断を約束し、日本側はフッ化水素など3品目の輸出管理強化について、局長級の対話を始めるとしていた。


 しかし、経産省の担当者が会見で、局長級対話について「韓国の貿易管理体制の不備が改善されたか確認する場」と位置づけたことに、韓国側が反発。24日には、韓国大統領府の鄭義溶国家安保室長が、日本側が「非常に意図的に歪曲して発表した」と抗議。外交ルートを通じて、日本が謝罪してきたとも説明した。

 

 これに対し、日本側は同日中に、経済産業省がツイッターで「方針の骨子は、韓国政府と事前にすり合わせたもの」と反論。25日には、菅義偉官房長官が「政府として謝罪した事実はない」と否定する騒動となった。



韓国大統領府の鄭義溶・国家安保室長 ©AFLO


 なぜ韓国は、ここまで強気の外交姿勢を崩さないのだろうか。


「いまや韓国には、日本とアメリカは友人どころか、時には自国の行く手を阻む“鬱陶しい邪魔者”とさえ映っている。韓国が日米双方に対しこんな強い態度に出る背景には、日米から距離を取ろうという戦略的な意図があると考えるべきです」


 そう分析するのは、国際政治が専門の京都大学名誉教授の中西輝政氏(72)だ。中西氏は、韓国が日本に強気一辺倒での外交を仕掛けてくる状況について、「週刊文春デジタル」のインタビューに次のように答えていた。






韓国に反論した経済産業省のTwitter


「在韓米軍があるから統一が果たせない」


「韓国は日本についても、今や日本は『負け組』になっていると見ている。とくに日本の国力を支えていた経済も、バブル崩壊から30年にわたって衰退し続けているからです。一方、韓国はその間、1997年のアジア通貨危機の時期を除けば、高いときは11%を超える成長率を記録していた。一人あたりのGDPでみても、日本が4万ドルを割り込んだのに対し、韓国は3万ドルを超えるところまで追いついている。防衛費(2017年)も日本が454億ドルに対して、韓国は392億ドルまで迫り、朝鮮史上最強の軍事国家になりつつあります。もはや、韓国が描く未来に日本は必要とされていないのです」



 今回、GSOMIAの失効回避を発表したのは、失効期限の6時間前。それまで、アメリカのエスパー国防相、米軍制服組トップのミリー統合参謀本部議長ら米軍幹部が次々に訪韓して圧力を掛けたが、文在寅大統領はぎりぎりまで決断することはできなかった。


 中西氏はインタビューで、文大統領が決断を躊躇せざるを得ない韓国国民の「米軍に対する意識の変化」を指摘していた。


「同民族の北朝鮮との統一を望む韓国にとっては、より近い中国やロシアと仲良くすべきだと考えるようになる。韓国の若い世代などは、『在韓米軍があるから統一が果たせない』とすら思っている。在韓米軍が占領軍のような意味合いになっているのです。米韓同盟を大切にしてきた保守派は高齢化が進んでいることも大きい」



文大統領に欠けていた感覚とは?


 いま、韓国国内では、保守派から「GSOMIA破棄を発表してから3カ月間は何だったのか」という批判が渦巻いている。この「理念先行」の政策判断をした文大統領について、中西氏は次のように指摘していた。


「文在寅大統領は、韓国の『理念』を体現している大統領でしょう。ただ、日本の指導者より戦略的に自国の将来を描いている反面、その理念に縛られて、性急に一足飛びに結論に向かってしまっている。理念と現実の間で慎重に考え抜いて行動するのが成熟したリーダーですが、すぐ結論に向かってしまって、現実と折り合いを付けるリアリティの感覚が抜け落ちているようにみえます」



 文政権がアメリカの圧力に屈した形になった今回のGSOMIA失効回避。中西氏がインタビューで危惧していたのが、アメリカが“日本寄り”の解決をした場合に想定される「韓国の中国接近」だ。


「(問題は)アメリカが韓国に『日本寄り』の解決を迫って、反発した韓国が中国側に駆け込んだ場合です。韓国から『日本がアメリカを後ろ盾に圧迫してくる。助けてくれ』と働きかけられたら、中国も出て行かないわけにはいきません。


 中国にとって、香港や台湾をめぐってのアメリカとの関係と比べても、実は朝鮮半島の方が戦略的な重要度はずっと上なのです。中国は、北朝鮮問題も『韓国を中国に引きつける』というかたちで解決したいと考えている。韓国を引きつければ、中韓に挟まれた北朝鮮は『アメリカと手を結ぶ』ような勝手なまねができなくなります」



警戒すべき中国の「韓国カード」


 この中国の「韓国カード」という考え方は、アメリカのキッシンジャー氏をはじめ、国際政治の世界では長年指摘されてきた問題だという。


「米中貿易戦争の“武器”として、香港や台湾でアメリカがプレッシャーを掛けてくる状況下で、韓国は非常に強い対米交渉のカードになりえます。『アメリカが台湾や香港に手を出し続けるなら、韓国をアメリカから引き離して米韓同盟を破壊しますよ』という脅しをかけられる。韓国を人質に取ることで、アメリカに対し台湾・香港から手を引け、という抑止力になるのです。


 この『韓国カード』という考え方は、アメリカのキッシンジャー大統領補佐官が1971年に訪中して、中国の指導者だった周恩来と会談した際にも持ち出された話でした。周恩来はアメリカに対して『もし台湾にアメリカが今以上に深く関与しようとしたら、朝鮮半島問題で中国はアメリカを困らせますよ』と脅しをかけているのです。キッシンジャー以来、韓国が、国際政治の上で、台湾問題をはじめとした米中間の力比べで中国の外交カードとなってきたことは、アメリカと中国の戦略家にとっては自明のことなのです」



 中西氏は、そのほかにも、安倍外交への提言、ボリス・ジョンソン英国首相を生んだ世界の指導者の「プーチン化」など、大転換点にある世界の現状を分析。この混乱の中で日本の進むべき道を明らかにしている。


 中西氏の約9000字にわたるインタビュー全文は、「 週刊文春デジタル 」などで公開している。



(「週刊文春デジタル」編集部/週刊文春デジタル)

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