数理の本質から考える「さくらんぼ演算」

11月30日(金)6時0分 JBpress

さくらんぼ。山形県のホームページより

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 11月の連休「さくらんぼ計算」の1本目の記事がよく読まれたとのことで、社会の関心が高いらしいことを感じ、やや頼もしく思っています。

 この連載では、加減乗除など簡単な式を伴う議論はビューが高くなる傾向があり、大学での講義・演習を考えるうえでもいろいろヒントをいただくことがあります。

 そんな観点で「さくらんぼ計算」を、より一般化した「さくらんぼ演算」の特長、特に長所をいくつかのケースで考えてみましょう。


引き算で、より本質的な「さくらんぼ計算」

 例えば

13−7=?

 という計算を考えてみてください。

 私も、小さな子供に計算を教えていて経験があるのですが、こういう問題をきちんと把握できないとき、子供は不条理としかいいようがない心理に陥るようです。

 「3から7は、引けないの・・・」と小さな瞳に涙をいっぱい浮かべて、訴えられたことがありました。

 そういうとき、大人が「何でこんな簡単なのできないのよー! 隣の1から1つ借りてきて・・・」とか、どなりながら教えたりすると、もう完全に逆効果です。

 子供は混乱するし、不条理の中で「できないだ、バカだ」と面罵されるわ、で、「私、算数嫌い」が1つ出来上がってしまいます。

 教えているつもりで「算数嫌い」を複製していることに、自身も算数が嫌いで、かつ「隣から1つ借りてくる」をまくしたてる大人は気づいていない・・・。

 身近にあった現実のケースを、1つ引いてみた次第です。

 こういうとき「隣から1借りてくる」式の説明ではなく、すべてをきちんと数式で表現して「涙なしの数理」で子供に笑顔と正解を取り戻すことはできないか?

 少なくとも、その方が気が利いているし、頭も涼しい教え方と思います。こういうとき「さくらんぼ演算」すなわち恒等式の利用が、非常に有効であるように思うわけです。

 小さな子供にとっては「13−7」の1の位、つまり、見かけ上<3−7>の処置に困るわけです。

 私は<3−7= −4>という「負の数」マイナスの数を早くに教えてもらい、何か進んだものに触れたような気持になって、この種の問題で泣くことはありませんでした。

 しかし、日本国の教育指導要領は、中学に入るまで負の数を教えない(教えてはならない?)というシバリがあり、その種の人為的な制約から、この種の偽問題が発生するように思います。

 「さくらんぼ」については、すべて「恒等式との連立」とすることで、非常にスマートに物事が整理できますので、それを確認してみましょう。

 7を除算すべき元の数13の1の位が問題になるわけですから、まずこの「3」を、引くべき数「7」の中で括り出す、すなわち

7=3+4

 という「さくらんぼ」計算、あるいは「恒等式への分解」を行ってみます。

 すると、この恒等式と元の方程式の連立として、問題をすべて整理して、数式で記述することができますね。

 条件②を条件①に代入すれば

 10とか20とか、1の位が0である「10の倍数」からひと桁の数を引き算することにさえ慣れておけば、

 「隣から1つ借りてくる」という、珠算などに淵源があるのだと思いますが、結果的に理不尽な教え方になっている可能性のある方法よりも、より明晰でストレートな教え方ができるかと思います。

 実際に子供に教える際、こうした方法で奏功したことがあります。

 さて、1桁の数でこの種のことを記すと「わざわざそんなことをしなくても・・・」とか「問題はもっと別のところにある」とか、自由多彩なコメントを読者からいただくようで、興味深く思っています。

 これを小学1年から中学レベルにシフトすると、突然その種のコメントが息を潜めてしまいます。

 これも「日経ビジネスオンライン」というネットメディアが始まって、そこに連載を書くようになって以来、干支が一巡する間に学んだ経験則です。

 類題を出題してみましょう。


文字の式での「さくらんぼ演算」

問:つぎの因数分解を実行せよ。

 という問いがあったとします。

 一応、問いの趣旨の確認から。因数分解というのは、ある数式を「かけざん」だけで結びつけられた1つの項に同値変形する演算を指すのでした。

 すなわち、足し算や引き算が混ざった a+b+c…みたいな数式をA×B×・・・×Z みたいなかけ算だけの1つの項に変形してしまうわけです。

 どうしてこんなことをするのでしょう? それは、上の式で右辺に相当する

A×B×・・・×Z

 の「因数」A、B、C、、、の中の、どれか1つでも「ゼロ」になれば、左辺もゼロになりますから、方程式

a+b+c・・・=0

 の根(あるいは解)が導けるなど、様々なご利益があるからで、因数分解はとても重要かつ興味深い式の同値変形と思います。

 ここで、どうか「因数分解? 公式覚えてないよ」とか言わないでください。

 因数分解に暗記せねばならない公式などありません。すべてその場で計算すればいいだけです。

 一方、暗記という付け焼き刃は、極めて短時間に莫大な問題を解かねばならない大学入試の筆記式2次試験などでの時間節約に役立つだけで、本質的には不要なものに過ぎません。

 上に示したのは、一番最初に習う因数分解の問題で、公式を記憶しておられる人もおられると思いますが、きちんと計算してみましょう。

 ここではxとy、双方がかけ合わせられている2xy に注目しましょう。2つの文字が交差しているので、こうした項を「クロスターム」と呼ぶのは、ご存知の方も多いかと思います。

 xとy、文字が2つありますがから、その双方で使えるように2xyを2つのxyに分けておきます。

 このように考えると、元の問題は2つの条件

 ①と②の連立として考えることができます。ここから先の計算は、言葉で書くとかえって面倒なので式で示せば

 のようになり、比較的よく知られているであろう式の形

 が導かれました。

 この導出過程で用いられた条件②は「さくらんぼ演算」そのものですね。同じ計算をしている。ここで中学高校生には

 「ここで 2xy = xy + xy と変形できるので・・・」などと教えると「そういう変形をする動機が分からない」「必然性が分からない」などと不平を垂れられることが少なくありません。

 そういうとき「xについて、と、yについて、各々で整理したいので 2xy を2つのxyに分けて考える作戦を立てて見よう」などと、ほんの少し「さくらんぼ演算」の動機を話すだけで、理解と食いつきが全然違ってきます。

 30数年ほど前、バブル経済期でしたので非常に高い時給で受験生を教えていた当時の家庭教師の私の思い出でもあります。


余談:アルゴリズムを考える地頭を育てよう!

 ちなみに私は、大学院の1年目に出光音楽賞をもらってから、この種の教え業務を一切止めました。それまでは、率直に申して、相当この種のことで稼いでいました。

 教えを辞めたため、月々の安定収入は激減しましたが、続く数年、ほとんど無給助手として働いた東京フィルハーモニック交響楽団での副指揮者修行などで、お金では買えない下積みを20代で経験できました。

 それらの上にいまの自分の仕事があります。ただ、音楽を仕事にする以前、アルバイトで数学や物理を教えた経験は、確かに私の楽風に影響を及ぼしています。

 マスタークラスや公開講座で私のレッスンを受けた方はお分かりだと思います。

 バイオリンの音程を正確にとるのでも、ピアノのタッチでアクセントを明瞭につけるのでも、頭ごなしで「隣から1つ借りてくる〜!」式の宇宙人言語で子供を叱ったりしません。

 涙なし、45分程度で必ず1つ、生涯活用できる本質的なテクニックを学んでもらったと思います。

 こういうマナーがなければ、東アジア人である私が、元来が差別の逆風からスタートする西欧圏での西欧音楽で、何事か仕事することは不可能だったと思います。

 メソードを考え一般論を組み立てるうえで、恒等的な条件を臨機応変に駆使することで、小さな子供にも確実に、最も筋の良い基礎を教えることができます。これは数理も音楽も全く同じことと思います。

 「さくらんぼ計算」ないし、そこから派生する「恒等的な条件を臨機応変に随時連立することで、クールでエレガントなメソードを確立する」という、実に涼しい手筋を、多様な対象に見つけ出すことができます。

 論理を棚上げにしたまま、しゃかりきになって力んで見せても、AIや電子計算機などが関わる問題で役に立つことは一切ありません。

 また、上記のように条件のすべてを式で書き下すのは、今日の高度に情報化が進んだ社会で、プログラミング以前にアルゴリズムをくみ上げていくうえで、最も基本となる能力にほかなりません。

 アルゴリズムを組み立てる地頭を持つことが、今後AIが多様に社会進出する時代、知性が沈没しない一番の条件になると思います。

 枝葉末節の議論以前に、まずこうした論理の根幹から、小さな子供にしっかり教えていく必要性を強く感じるゆえんです。

(つづく)

筆者:伊東 乾

JBpress

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