【香港デモ】警察当局がウォーターキャノンで発射した「透明な水」と「青い水」の有毒物質《現地写真ルポ》

12月5日(木)17時0分 文春オンライン

 11月27日、トランプ大統領が香港の反政府デモを支援する「香港人権・民主主義法案」に署名し、同法が成立した。この法律は香港に高度な自治を認めた「一国二制度」が中国政府によって損なわれていないか、アメリカが香港に通商上の優遇措置を与えるのが妥当かどうかについて、国務省に少なくとも1年ごとに検証することを義務付けるものだ。これに対して中国外務省は「独断的な行動」と激しく反発している。


 アメリカを動かしたのは、香港で今も政府への抗議活動を続けるデモ隊だ。「香港人権法」成立を受けて、抗議活動はさらに激化すると見られている。一体、現場はどんな状況なのだろうか。現地で密着取材を続けている写真家のキセキミチコ氏は、現地の様子を「もう内戦ですよ」と漏らした。撮影した写真を公開するとともに、その苛烈な実態を語る。



 私が香港入りしたのは2019年7月です。元々は香港の生活を写真に撮りたくて渡航したので、デモを取材するつもりはありませんでした。しかし滞在中に何度もデモを目撃し、取材しなければいけないという使命感に駆り立てられていきました。デモ取材に本格的に取り組もうと決意したのは、8月31日に起きた出来事がきっかけです。



11月17日に起きた理工大でのデモ ©キセキミチコ


目の前で10代の少年がリンチされ、連行された


 その日、私は警察隊の近くでカメラを構えていました。すると、デモ隊の男の子が警察に捕まった。その子は他のデモ隊と同じように黒いマスクに黒い長袖長ズボンを着ていたので、どんな子だったのかは判然としませんでした。ただ、声や体格からおそらく15、16歳くらいの少年だろうと思いました。


 彼が、警察に捕まる瞬間、咄嗟に私の腕をつかんで広東語で何かを叫んだんです。おそらく「助けて」と言ったのだと思います。でも私は立ち尽くすことしかできなくて、男の子は引き剥がされました。彼は私の目の前で複数の警察官にリンチされ、連行されていった。彼が果たして保釈されたのか、今無事なのか、現在の足取りを確かめるすべはありません。



 この出来事のあとに知ったことですが、取材記者はデモ隊が逮捕される直前に、必ず香港IDと名前を聞くんです。そうでないと、逮捕後に彼らがどうなったかを確かめることができないので。


 デモが始まってから、香港では不審死が相次いでいます。9月には15歳の女子学生の水死体が発見されました。彼女はなぜか全裸だったそうです。逮捕されたデモ隊の行方を調べるすべを確保することは、記者の大事な仕事のひとつなんです。



 取材のとき、記者はデモ隊と間違われないように必ず黄色いベストを着用します。しかし黄色いベストを着ていても、警察から攻撃を受けたり、逮捕されたりすることもあります。



理工大で起きたデモでは装甲車に火炎瓶を投げつけた


 11月16〜18日、理工大で起きたデモ隊と警察との激しい衝突では、何人もの外国人記者が逮捕されました。私も取材していましたが、苛烈な現場でした。警察はウォーターキャノンや装甲車を稼働させ、デモ隊は火炎瓶を投げつけるなどして応戦していました。ひと段落したら道端に座り込んで休憩し、またどちらかからの攻撃で衝突が再開する、ということが4、5時間続きました。


 デモ隊は火炎瓶をバンバン装甲車に投げつけていたのですが、そのうち装甲車に火がついた。そこで警察が「ここにいる全員を逮捕します」と宣言しました。その情報はあっという間に駆け巡りました。私は逮捕から逃れるために、その場を離脱しました。しかしそのまま現場にいた外国人記者や、ボランティアの救護隊はたくさん逮捕されてしまいました。





 その際に使われたのが“青い水”です。警察がウォーターキャノンで発射する水には、透明の水と青い水があるんです。青い水はかかると青い色素が服や靴、肌についてしまう。警察はその青い色素がついた人を無差別に逮捕したのです。私も青い水がかかってしまったのですが、青い色素は洗っても落ちませんでした。




 そして、透明な水にも青い水にも催涙弾の成分が含まれています。目に入れば激痛で涙が止まりませんし、肌に触れただけでもヒリヒリビリビリとした鋭い痛みが走ります。青い水がかかったときは酷い日焼けをしたときのような、肌を刺す痛みがしばらく続きました。


警察が使う武器が徐々に凶暴化している


 警察隊が使う武器は徐々に徐々に凶暴化していっています。よくみかけるのは催涙弾ですが、数カ月前はアメリカの催涙弾を使っていたのが、次第にアメリカ製だけれど使用期限切れのものになり、最近では中国製のものが使われるようになったと言われています。中国製は発砲される速度が従来よりも少し早く、撒き散らす弾の温度が非常に高く、有毒成分が含まれているのが特徴です。肌に触れたときの刺激も、以前より確実に強くなっています。デモ隊は食塩水で拭いていますが、それでもすぐに痛みが治まるわけではありません。





 前線で、黒いマスクをして戦っている子たちが「勇武」と言われるデモ隊です。中心メンバーは15〜18歳くらいの若者で、下は12歳くらいから、上は20歳前後までいます。彼らは多くが学生なので、夜にデモへ参加して、朝には学校へ通うという生活を送っています。友達同士で2、3人一緒に参加する子もいますし、1人で行く子もいる。カップルで参加しているという子も意外に多い。彼らの多くは親に内緒でデモに参加しているようですが、なかには「親に言ってないけど、たぶん知っていると思う」という子もいました。親が政府関係の仕事をしているという子もいるので、そういう子は家出をして友達の家を泊まり歩きながらデモに参加しています。




デモに身を投じる若者を支援する香港市民


 過激なデモ隊の姿がメディアに取り上げられることが多いですが、実はデモ隊を後方でサポートする大人たちもいるんです。デモ隊の子たちは多くが学生です。お金がないので食費を削って、警察に対抗するためのギアやヘルメットなどを購入しています。だから彼らを支持する一般人が、「テイクフリー」と書いた段ボールに水などをいれて街中に置いていたり、カロリーメイトやおにぎりなどの食べ物を配ったりしています。


 香港では今「警察・政府」vs「親中派をのぞく香港市民」という構図になっています。年配者には親中派が多いので、比較的若い世代に香港政府への不満がたまっているということでしょう。しかし、いままでは実際にどれくらいの反政府派がいるか目には見えなかった。でも、11月24日の区議会議員選挙で民主派が大勝し、かなりの数の反政府派がいるということが可視化されました。




 しかし一方で、香港にはデモを迷惑がっている人もいます。中国人や香港人は仕方がないと思っている人が多いですが、欧米人ら駐在員は仕事の邪魔になる、と煙たがっている。日本人駐在員の奥さんに「昨日のデモすごかったですね」と聞いても、「え? 昨日デモあったの?」という声が返ってくることもありました。香港は東京23区の2倍程度の面積ですが、知らなければ知らないまま生活することはできます。




 それだけに、デモ隊の子たちが青春や平穏を犠牲にして、デモ活動に身を投じている姿をみると、いたたまれなくなります。デモ活動が激化していた今夏、30代の香港人女性に「彼らを見てどう思う?」とインタビューしたんです。彼女は「本来なら彼らはバーベキューやカラオケをして、海へ行って、この夏を楽しまなければいけなかった。でもみんな道に出てきて、未来のために逮捕のリスクを背負いながらデモ活動をしています。本当に悲しいですよね」と語っていました。



 私も「彼らはなぜここまでするんだろう」と何度も疑問が浮かびました。しかし話を聞いているうちに、彼らはこれまで幼い目であらゆる不条理を見てきたんだとわかってきたのです。1997年7月1日に香港が中国に返還された後、本土から中国人が押し寄せ香港中の不動産を次々に買っていきました。それで地価や物価が高騰し、外貨を稼ぐ術のない一般の香港人はどんどん貧しくなっていきました。


幼い目が見てきた“煌びやかな香港”の裏側


 一般の香港人が住む環境は、私たち日本人からすると想像を絶する酷さですよ。「ここではできない……」と二の足を踏むような不衛生なトイレのすぐ横にキッチンがあり、お風呂もある。下水もひどいし、ゴキブリも至る所にいます。旅行雑誌に載っているような“煌びやかな香港”を享受しているのは欧米人や中国人で、それを下で支えるのが香港人という構図になっているんです。



 今までにも香港ではこの苦境に声を上げた人々がいました。2014年の香港反政府デモ「雨傘運動」もそうです。しかし結局は何一つ改善されなかった。



 デモ隊の1人は「政府はいままで僕らの声に一切耳を傾けなかった。雨傘のときも失敗したし、逃亡犯条例改正案への反対も無視された。だから今回は絶対にあきらめない」と語っていました。暴力に訴えることは間違っています。しかし彼らをただ責めることは私にはできません。警察の非人道的な行動を肯定するわけにもいきません。できるだけ多くの人に彼らの姿を伝えるために、私はこの活動を最後まで見守ろうと思っています。



(「週刊文春デジタル」編集部/週刊文春デジタル)

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