花の都パリが「犬の糞」「ポイ捨て」だらけの理由。フランス人はなぜ“街をきれいにする意識”が低いのか
2024年12月8日(日)21時25分 All About
エッフェル塔やセーヌ川といった華やかなイメージが定着しているパリ。しかし、その裏側には「ゴミのポイ捨て」や「犬の落とし物」といった、日本では非常識とされる問題が存在しています。そんな現状について、在住者がリアルなリポートをお届けします。
ゴミ箱は多いのに、ポイ捨てや落書きが放置されるパリ
パリの街を歩いていると、「日本とは違う」ある点に気付きます。それは、「ゴミ箱の数」がとても多いこと。日本では安全面などの理由からゴミ箱が撤去される傾向がありますが、フランスではそのような動きは見られません。道端、公園、公共交通機関の駅前など、「みんなで使える」ゴミ箱の設置が当たり前になっているのです。現在、パリ市内には約4万個のゴミ箱があると言われています。しかし、これほどの数がありながら、人々の「ポイ捨て」は依然としてなくなりません。落書きやタバコの吸い殻が放置されることも多く、パリの美しい景色と対照的な現実にがっかりした人も多いのではないでしょうか。
人気観光スポットはきれいだが……
フランスでは、ゴミ箱の交換や道路の清掃は「行政」が担うサービス。街をきれいに保つために専門の清掃員が仕事として活動しているのです。パリには1区から20区まであります。清掃員の配置や活動頻度は各区の予算によって決められるもの。例えば、エッフェル塔やルーブル美術館、凱旋門といった観光地では清掃員の人数が多く、1日に5回から8回もゴミ箱が交換されるそうです。つい最近も街路樹から大量に落ちた枯葉を、清掃員たちが見事に片付けていました。
パリ郊外には「無秩序な落書き」も多い
しかし、パリの端や郊外に目を向けると、清潔さは一気に低下します。特に目につくのは「落書き」です。パリらしい情緒を感じさせるアパルトマンの壁にスプレーで描かれた無断の落書きを見ると、どうしても残念な気持ちになってしまいます。一部の地区では「ストリートアート」として認められたエリアもありますが、そうでない場所にまで広がる無秩序な落書きは、美しいパリの景観を完全に損なっています。さらに、そうした地区ではゴミがきちんとゴミ箱に捨てられず、タバコの火を消さないまま投げ捨てられていることがあります。目の前にゴミ箱があるにもかかわらず、なぜこうした行動が繰り返されるのか。「どうしてルールを守らないのだろう」と、日本人には疑問でしかありません。犬の糞はいつまでたっても片付けない
ゴミのポイ捨て以上に厄介なのが、犬の糞の後始末です。これは犬を飼っているフランス人全員というわけではありませんが、日本に比べれば、圧倒的に放置する人が多いと言えるでしょう。筆者が暮らす自治体では、「犬のための砂場」がいくつか設置されています。これは犬が用を足すために作られた公共の施設で、飼い主はここで自由にトイレをさせることができます。ところが、筆者はここからそう遠くない場所で糞が放置されているのを何度も見かけました。尿をした後に水をかけて流すといった配慮も、まったく見られません。中には「回収用のビニール」すら持っていない飼い主もいます。
こうした問題の背景には「清掃員が片付けてくれるから」という甘えがあるのかもしれません。いくつかの自治体は専用の掃除車を導入したり、違反者に自ら掃除をさせたりするなど、改善に向けた取り組みを進めているようですが、完全な解決には長い時間がかかるはずです。
学校では掃除の時間がない
「みんなで街をきれいにしよう」という意識があまり根付いていないフランス。その理由は、フランス特有の文化的背景や学校の制度に起因していると言えます。まず、フランスの小学校、中学校、高校では「掃除の時間」がありません。学校には清掃を担当する専門のスタッフがいるためです。フランスの学校は日本に比べて授業時間が長いので、清掃は専門の人に任せるという考え方が一般的です。
このような環境では、学校という公共の場所を「みんなできれいにしよう」という感覚が育ちにくいでしょう。幼少期に培われた習慣が、大人になってもそのまま影響している可能性があります。
また、フランスには「個人の自由」が最優先される傾向があります。フランス人は、周囲に配慮する日本人の感覚とは異なり、個人の行動を細かく制御されることが大嫌い。こうした価値観では、一人ひとりに「街をきれいにするよう求める」ことは難しいと言えるでしょう。
ただし先述した通り、フランス人の全員がそうであるとは限りません。自ら率先して清潔を保つ人もたくさん存在しています。そのような人々は意識も高くポイ捨てに強い嫌悪感を抱いていて、捨てる人に口頭で厳しく注意することがあります。
実は高い罰金制度
パリ市はポイ捨てを取り締まるため、2015年から罰金制度を導入しています。対象は幅広く、家庭ゴミ・粗大ゴミの放棄から、たばこのポイ捨て、犬の糞の未回収、そして立小便まで。罰金額も年々引き上げられていて、2015年当初は68ユーロ(約1万800円)だったものが、2021年には135ユーロ(約2万1600円)に増額されました。さらに、45日以内に支払わなければ375ユーロ(約6万円)に跳ね上がります。ですが実際には罰金が科される場面に遭遇することは少なく、まだまだ効果的とは言えません。罰金制度がなくても街がピカピカな日本を見ると、「文化の差」や「意識の差」を痛感してしまいます。
在住者としてもう1つ感じるのは、街の汚れが「仕方ないもの」として受け止められていること。個人の清掃活動や罰金だけでは解決できない「当たり前」の感覚を変えるには、長期的な教育や啓蒙活動が欠かせないのかもしれません。
この記事の筆者:大内 聖子 プロフィール
フランス在住のライター。日本で約10年間美容業界に携わり、インポートランジェリーブティックのバイヤーへ転身。パリ・コレクションへの出張を繰り返し、2018年5月にフランスへ移住。2019年からはフランス語、英語を生かした取材記事を多く手掛け、「パケトラ」「ELEMINIST」「キレイノート」など複数メディアで執筆を行う。
(文:大内 聖子)