NHKを受信料制度から解放してネット企業に

12月8日(金)6時10分 JBpress

NHK放送センター。最高裁は受信料制度を合憲としたが、NHKは全面的に勝訴したとはいえない

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 最高裁判所は12月6日、NHKが視聴者に対して起こしていた受信料請求訴訟の判決を出した。個人に対する民事訴訟について最高裁が大法廷を開いて判決を出すのは異例で、受信料制度を違憲とする判決が出るのではないかと注目された。

 結果的には受信料制度を合憲とする判決だったが、判決の中身をみると、NHKが全面的に勝訴したとはいえない。最高裁は慎重な表現で、受信料制度に注文をつけたとも読むことができる。


受信料はNHKが民事訴訟を起こさないと取れない

 争点は単純である。NHKから受信料を請求された被告の男性は「NHKを見てないのに受信料を取られるのはおかしい」と主張したが、NHKは「テレビを設置した人は放送法で受信契約の義務がある」と主張した。

 放送法64条1項では「協会[NHK]の放送を受信することのできる受信設備を設置した者は、協会とその放送の受信についての契約をしなければならない」と定めているが、この規定は憲法に違反する疑いが強い。

 契約が当事者の合意で成り立つのは近代社会の根本原則だ。請求書を送ったら自動的に契約が成立するというNHKの主張が成り立つなら、オレオレ詐欺で請求書を送っただけでカネを取ることができる。

 今回の最高裁判決では、この点でNHKの主張を退け、「放送法は、受信料の支払義務を、受信設備を設置することのみによって発生させたり、NHKから受信設備設置者への一方的な申込みによって発生させたりするのではなく、受信契約の締結(NHKと受信設備設置者との間の合意)によって発生させる」と判断した。

 具体的には「NHKがその者に対して承諾の意思表示を命ずる判決を求め、その判決の確定によって受信契約が成立する」。つまりNHKが個別に民事訴訟を起こさないと受信料は取れない、という判例が確定してしまった。これはNHKにとって高いハードルだ。

 裁判でテレビを設置した日をNHKが確定できれば受信料を請求できるが、年額1万3000円程度の料金にそんな手間をかけることは費用対効果が見合わない。いちいち訴訟を起こさないと徴収できない公共料金とは何だろうか。NHKは公共放送といえるのだろうか。


NHKは国営でも民営でもない宙ぶらりん

 最高裁判決は放送法の受信契約の規定については「立法として憲法上許容される」と判断した。この意味でNHKの勝訴だが、その理由は複雑で分かりにくい。今の奇妙な経営形態になった原因は、終戦直後にさかのぼる。

 GHQ(連合国軍総司令部)は戦時中に国策に協力したNHKを解体しようとしたが、日本政府が反対し、戦後のNHKは電波監理委員会のもとに置かれる特殊法人という形で発足した。電監委はアメリカのFCC(連邦通信委員会)のような独立行政機関だったが、占領が終わると解散され、NHKは郵政省の直轄になった。

 このように政府が放送を直轄している国は先進国には他になく、NHKの実態は国営放送に近い。自民党政権はあまり直接介入しない方針を取ってきたが、毎年2月のNHK予算の承認のときは全会一致が原則なので、野党も含めてNHKの「国会担当」が根回しをしなければならない。

 受信料を「視聴料」と誤解する人がいるが、視聴した人だけが払うなら分かりやすい。スカパーのような有料放送は、料金を払わないと電波を止められる。これは電気代や電話料金などの公共料金と同じで、電力会社が電気代を利用者に請求する必要はない。電気代を払わない人には電気を止めればいい。

 ところがNHKの電波は誰でも受信できるので、見ても見なくても払わないといけない。テレビ放送が始まった1950年代には、特定の人に電波を止めることができない「公共財」だったため、テレビを買った人はすべて(NHKを見ても見なくても)受信料を払う制度にせざるをえなかったのだ。

 法的に不安定な受信料制度には、昔から批判が強い。NHKも不払い者から罰金を徴収するBBC(イギリス放送協会)のような規定を設けようとしたが、うまくいかなかった。自民党としては、国営でも民営でもない宙ぶらりんの状態のほうが口を出しやすいのだ。


民放連の最大のライバルはNHK

 このように奇妙な経営形態のおかげで、戦後ずっとNHKは政治のおもちゃにされてきたが、時代は変わった。インターネットを使えば無限のチャンネルが配信できる。B-CASカードを使えば、受信料を払っていない人には見えなくすることができる。

 BS受信料を払っていないと、画面の左下に「NHKではBS設置のご連絡をお願いしています」というメッセージが出るが、これはBS受信料を払うと消える。同じことは地上波でもできる。インターネット端末でもスマートフォンでも、有料配信アプリにすればいい。

 今は家庭に何台テレビがあっても1世帯分しか受信料を取れないが、有料放送にすれば1人ずつ取れる。企業や学校ではひとまとめにして受信料を取っているが、これも1台ずつ取れば収入は上がるだろう。

 有料放送にすれば、報道は増収になるだろうが、教育テレビやラジオ第2放送などの地味な番組はなくなるおそれが強い。NHKが有料放送にしない原因は公共性ではなく、こういうお家の事情なのだ。

 NHKオンデマンドは独立採算で「見逃し番組」を放送しているだけなので、事業として成り立たないが、BBCは2007年からすべての番組をネット同時配信するサービス「iPlayer」をスタートし、ヨーロッパ最大の人気サイトになった。NHKと違うのは、BBCがiPlayerをテレビと同格の基幹サービスと位置づけていることだ。

 インターネットを使えば、誰がいつ見たかというビッグデータも取れる。そういう自由度を高めるには受信料制度を廃止し、NHKをインターネット中心の有料放送に変える必要がある。BBCのようにインフラ部門を売却すれば、コンテンツに特化してネットで世界展開することも可能だ。

 しかし民放連(日本民間放送連盟)は「NHKオンデマンドは民業圧迫だ」などといってNHKの有料放送化を妨害してきた。安倍政権は民放連を牽制するために電波オークションを導入しようとしているようだが、民放の最大のライバルはNHKなのだ。放送の世界に競争を導入するには、NHKを受信料制度から解放する必要がある。

筆者:池田 信夫

JBpress

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