黒川紀章・コシノジュンコ・横尾忠則が飛躍した大阪万博…55年後、若い才能が「挑戦」

2024年12月15日(日)5時0分 読売新聞

「ウーマンズパビリオン」の模型を前に、万博の開催について「若い世代が新しい夢を持つきっかけになれば」と語る永山祐子さん(東京都新宿区で)=田中秀敏撮影

万博考 祭典の意義<3>

 1970年大阪万博の会場は近未来を思わせた。奇抜な外観の展示館が並び、中でも異彩を放っていたのが、カプセルを組み合わせた「タカラ・ビューティリオン」や真っ黒な鉄の格子が赤いドームを抱える「東芝IHI館」だ。デザインしたのは建築家の黒川紀章(2007年死去)。その後世界の建築界に多大な影響を与えた巨匠は、万博開幕時は35歳だった。

 展示館などの前衛的なユニホームはファッションデザイナーのコシノジュンコさん(85)が手がけ、ジャンプ台のようなスロープ中央にドームが突き出た「せんい館」のデザインは現代美術家の横尾忠則さん(88)が担当した。その斬新な意匠は後の活躍を予感させる。

 大阪・関西万博でも、多彩な人材が新たな挑戦をしている。女性の活躍を紹介する「ウーマンズパビリオン」を設計する建築士の永山祐子さん(48)は「未来の実験場である万博でメッセージを発信すれば、建築に対する社会の意識を変えられる」と意欲的だ。

 パビリオンには、前回のドバイ万博で自身が手がけた「日本館」の外観を彩った麻の葉模様の建材を再利用する。万博から次の万博へと資材を大規模に転用する先駆的な試みとして注目される。

 資金面など苦労は多い。一般的なパビリオン解体には国の予算が出るが、再利用のための部品ごとの解体や輸送は対象外。永山さんは独自に協力企業を探し、日本館を建設した大手ゼネコンの大林組や総合物流会社の山九などが賛同してくれた。持ち帰ったパーツは1万個以上に上った。

 建築資材のグローバルな再利用は、各国で異なる基準が壁になる。ドバイの日本館の建材は欧州の規格で製造され、再利用のためには日本のJIS規格の取得が必要だった。しかし、今回は万博期間中の仮設建築物のため、大阪市が基準の適用外として許可した。

 永山さんは「実社会でも、法整備を含めた建材再利用の動きが起きればいい。チャレンジすることで得られるものの大きさを伝えられたら」と話す。

 日本国際博覧会協会は今回、「第2の黒川紀章」を発掘しようと、45歳以下の建築家を公募した。20組がトイレなどの設計を担う。

 建築士の斎藤信吾さん(37)は、ジェンダーや障害に配慮したトイレを手がけた。「誰もが使うトイレは社会のあり方が凝縮される。多様性を認める社会を建築でどう表現するのか、ひとつの形を示したい」。車いす利用者や視覚障害者、介助者らの意見を聞き、個室の広さや手すりの位置を調整した。

 ギャラリーを担当した建築士の金野千恵さん(43)は「廃棄物と見なしていたものが暮らしを形づくる資源になりうる」と、使用済みの茶葉やコーヒーかすを圧縮したパネルを建材に使う。

 建築には未来への思いが込められ、その大きさ故に視覚に訴えてくる。

 万博の建築物に詳しい国際日本文化研究センター所長の井上章一さん(69)は「デジタル社会の今、現場でしか体感できない価値を示せるかどうかが重要。建築がそういうものになれば面白みが増える」と期待する。(大阪文化部 中田敦之)

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