世界初の脳波でラップ。ALS患者の可能性を拡げたイベント

12月24日(火)14時4分 女性自身

12月22日の夕刻、冷たい雨がふりしきる中、東京都江東区の新木場スタジオ・コーストには、多くの観客が詰めかけた。定刻より少し遅れて17時30分に開始されたこのイベントは「MOVE FES. 2019」といい、難病のALS(筋委縮性側索硬化症)啓発のために企画されたイベントだ。



主催するのは、自身もALSの患者で闘病中であり、一般社団法人「WITH ALS」代表理事を務める武藤将胤さん(32)。



大手広告代理店「博報堂」の広告マンだった14年10月、27歳でALSという難病の宣告を受けた。



ALSとは身体を動かす運動神経が変性して、だんだん壊れていく疾患。手足をはじめ体中の筋肉が少しずつ動かなくなっていき、声を出すこと、食べ物を飲み込むことさえ難しくなり、やがて自発呼吸もできなくなってしまう。その原因は解明されておらず、有効な治療法も開発されていない。日本では患者数が1万人ほどで、発症してからの平均余命は「5年ほど」とされている。



武藤さん自身は、発症からすでに6年ほど経った現在、呼吸障害や食べものが喉に詰まる嚥下障害による窒息などの事故を防ぐため、気管切開と胃ろう(お腹に通した管から栄養を摂取すること)をしており、経口の食事ができない。さらに手足も動かなくなってきており、自立歩行ができないため車椅子で移動している状態だ。



開演前の会場内には、15年に彼と結婚した妻の木綿子さん(35)の顔が見えた。



「徐々に進行していくALSと闘いながら、毎晩遅くまで準備して、今日を迎えることができました。みなさまのおかげです」



詰めかけたおよそ500人の観客の中には、車椅子を利用している患者さんやご家族、支援者などの姿もみられた。その後、ミュージシャンたちが多様な音楽ライブを奏でて、会場は最高のグルーブとなった。



イベント前半のヤマでステージに上がったのは、ロボットコミュニケーター・吉藤オリィさん(32)。



武藤さんと同世代の彼が開発した分身ロボット「Orihime」。難病を抱えている人、寝たきりの人、育児などで在宅勤務の人などが、パソコンやスマホの文字盤を通して「Orihime」に指示する。ロボットはそのとおりに発話し、他者とコミュニケーションを図ることができる。



吉藤さんは、わが国でこれから進んでいく超高齢社会に備え、ロボットテクノロジーの担う重要性を熱くスピーチした。



そして、クライマックスの「ブレインラップ」では、武藤さんが登壇。電動椅子に腰かける彼がゆっくりゆっくり、一語一語、声を懸命にふりしぼって発する。



「ALS患者さんが、一番思う恐怖は、『TLS』(=体のほとんどの筋肉が動きを奪われ、残る眼球の動きもままならなくなる「完全な封じ込め状態」の意)です。しかし、不可能を可能にしていく挑戦をしたい。脳波を使って伝えていくのもひとつ。つまり、脳波を読み取るシステムによって、表現します。ALSと闘っている人をはじめ、多くに希望を与えたい。たとえ全身が動かなくなっても、表現できる手段をあきらめてはいけないんです。それを音楽で伝えたい。伝え続けたいです!」



以前より、発生がしづらくなっているようにも感じられたが、最後までしっかりと宣言した。



そして世界初の試み、最新テクノロジー、脳波を使ったパフォーマンスの開始だ。



脳波からラップを生成するシステムを構築。AIが、あらかじめ武藤さんが言いそうな言葉を学習、記憶しておいて、武藤さんの脳波がその言葉に反応を示したとき、AIがそれを拾う。そして、その言葉を今回、ラッパーが自分のラップとともに伝えた。



演奏が始まり、ラップのリズムとともに、徐々に歌詞がスクリーンに映し出されていく。



《垣根を超えろ、borderless、創る新時代with ALS、まだ見ぬ可能性への挑戦、今ここがその始まりのshowcase》



そしてもうひとつのクライマックスは、「EYE VDJ」だ。



携帯端末を通じ、目の動きだけでAIが曲や映像を読み取り、操る。つまり、DJとVJ(ビデオジョッキー)の両方の役割を同時に果たすというのだ。



眼鏡メーカー「JINS」制作の眼鏡型ウェアラブルデバイスが眼球の動きに反応・分析して、音や映像を選択していく。



「僕のアクションを通じて、すべての人に表現を届けたい。そして『すべての人の表現に自由を』」



その武藤さんの思いが、ステージではじける。



ALSになって約1,900日。



これからも武藤さんの挑戦は続き、多くの人たちの困難を励まし、救っていくことだろう。23時近くなったフィナーレで愛妻・木綿子さんとともに再登壇した武藤さんが、こう締めくくった。



「こんなに遅くまで残ってくれてありがとうございます。みなさんへのエールの思いを込めて。『みなさんの人生にも限界はありません!』」

女性自身

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