さらば下請け、ラジコン部品メーカーの大変身

12月27日(水)6時12分 JBpress

2015年にグッドデザイン賞を受賞した「腹腔鏡手術トレーニング機器」(グッドデザイン賞HPより)

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 医療現場の困りごとから製品開発をする医工連携が広まり、異業種のもの作り企業が続々と参入する。

 今回、取材した寿技研もその1社で、医療関連の製品開発を始めて5年目になる今年は、植物性食品原料でリアルな模擬臓器を開発した。

 これを使って医師らは、針や糸で縫ったり、電気メスで止血や切開、超音波メスで患部を切除したりなど、様々な練習を行える。

 原料については言及を避けながらも、動物愛護意識の高まりや廃棄処理の観点から動物にも環境にもやさしいと国内のみならず、米国の学会でも評価されている。

 寿技研は、ミニ四駆などのラジコンのタイヤを製造する埼玉県の下請けの町工場。1984年の会社設立から金型製作や金属部品加工を手がけてきた。

 そんな同社が、なぜ模擬臓器を開発することになったのか。医工連携の人材を育成する「さいたま市メディカルエンジニアリング講座」で講演した同社社長の高山成一郎さん(49歳)に、その背景を聞いた。


植物性食品材料で人間の臓器をリアルに再現  

 今年発売した模擬臓器は、千葉大学フロンティア医工学センターの中村亮一准教授と川平洋准教授と共同開発した。

 「あったら助かるモノってありますか?」という高山さんの問いかけに、「安くて管理も簡単な模擬臓器であれば、病院にも医師にも喜ばれるかもしれない」と中村准教授が答えたことで製品開発が始まった。

 様々な原料を配合して試作品を作っては中村准教授と川平准教授のもとへ足を運び、電気メスで切るなどのテストを繰り返した。国や埼玉県の補助金を獲得しながら、2年半でようやく素材を特定して実用化に成功。販売に漕ぎ着けたばかりだ。

 素材を決めるにあたっては、臓器の感触、電気メスなどの使用感などを独自に研究した末に、 「スーパーに並ぶような食材から本物に近い模擬臓器が作れるのでは」という発想に至った。

 一般的に、医師の手技の訓練には動物の皮膚や臓器、シリコン樹脂などが使われてきたが、植物性食品原料を使うことで、動物特有の匂いや煩雑な廃棄処理からも解放されるというメリットは大きい。

 「1回の打ち合わせから、2週間から遅くても1か月以内に医師に試作品を届けてフィードバックをもらうことが大切。また、医療機器は認可が不要な周辺機器がたくさんあるので小さな案件でもチャレンジすることで、最初の一歩を踏み出せる」

 町工場だからこその機動力が成功のカギになったと高山さんは言う。


“自社製品”の重要性を認識したリーマンショック

 寿技研が医療産業に参入して5年になるのだが、そのきっかけにさかのぼろう。もともと同社の売れ筋はラジコンのタイヤ。1989年に第1次、1997年に第2次のミニ四駆ブームの恩恵を受け、爆発的に売れた。

 しかし、ミニ四駆のブームが去った直後に社屋が火災に見舞われ、業績はガタ落ち。それでも技術力が評価されていたことが救いとなり、10年かけて徐々に回復基調へと持ち直した。

 そこへリーマンショックが襲った。売り上げは火災時よりも下がり、下請けという業態ゆえに、顧客が傾けば自社も傾く構図の厳しさに直面した。

 「仕事が減ったから何とか新しい仕事をもらえないかとかけ合っても、『仕事がないんだからしょうがないだろう』と片づけられる。自社製品を持たない下請け専業は、とどのつまりはお客さんに頼る構図。さすがに限界が見えました」と高山さんは当時の苦渋を振り返る。

 何とかしなければと思っていた矢先に、高山さんが医療分野に進出するヒントを得たのは、 外資の大手医療機器メーカーで営業をしていた小学校からの幼馴染との会話だった。

 「営業先の医師たちが腹腔鏡手術の練習をする道具が高額で、病院では買えても個人ではなかなか手が出ない」という話を聞いた。

 腹腔鏡手術とは、おなかを切って開く開腹手術に対し、おへその周りから直径2〜12ミリの内視鏡を横隔膜から下の腹部の内部にあたる腹腔内に挿入し、外部のモニター上に映る患部の映像を見ながら行われる手術。

 胆嚢や大腸がん、胃がんの摘出、子宮筋腫などの手術で用いられる。おなかを横または縦に10センチ以上切る開腹手術に比べて、1センチ程度の術跡になり、患者の回復の速さや美容面ではメリットがある。

 その一方で、開腹手術よりも手術の難易度は高く、手術の時間も長くなることが報告されている。傷跡は小さくてもケロイド状になることもある。

 一般的に、医師が腹腔鏡手術の練習をするには、トレーニングセンターに予約を入れて、出向かなければならない。医師不足により、臨床現場の現役の医師にとっては、なかなか思うように時間の融通が利かず、練習したくてもできないという悩みがある。

 「自宅や医局の机にあれば、5分、10分でも短い時間を見つけて練習ができるが、さすがに自費で数十万円負担するとなると、医師も二の足を踏む」という話を幼馴染みから聞いた高山さんは、早速、試作に取りかかった。


医師が集まる勉強会で需要を認識 

 最初に開発したのは、人間の胴回りに似せた透明のプラスチックカバーから柄の長い鉗子を挿入し、内部に設置したパッドで縫合や結紮(けっさつ)といった手技を目視で確認しながら練習する「腹腔鏡手術トレーニングボックス」だった。

 幼馴染みの営業先の医師から試作品の出来ばえに合格点はもらえたものの、その友人が務める医療機器メーカーが販売をしてくれるだろうという目算は外れた。 

 ゼロから販路を開拓することになった高山さんは、手はじめに合格をくれた医師にお願いして、医師が集まる内視鏡手術の勉強会に「腹腔鏡手術トレーニングボックス」のチラシと購入申込書を置いてもらった。

 その結果、20人ほどの医師から申し込みがあり、創業初の自社製品として事業化できるのではないかという期待が生まれた。「消費者はいる。でもどこに持っていけば、より売れるのか」と、直接、医師との繋がりがなくても拡販できる方法はないかを考えた。


ネットショップで手術訓練機器を医師に販売

 高山さんには、ラジコン製造販売のネットワークがある。その多くはネットショップでも販売をしているので、月々のコストや運用方法などを教えてもらった。

 そうすると月々9000円で自社のネットショップを開設できることが分かり、「失敗しても痛手はない」と、早速、ネットショップを自分で構築した。

 最初の数か月間は、売れても20万〜30万円程度で、商売と言えるほどの売り上げにはならなかった。製品開発のアイデアをくれた前出の幼馴染みにそんな悩みを明かしたところ、「医師が集まる学会に出展したら何かしら手応えはあるはず」という助言をもらう。

 高山さんも「ここまで来たらやるしかない」と、 初めて医学系の学会に出展した。

 独りで学会のブースに立ち、2万円の腹腔鏡手術トレーニングボックスや、カメラモニターをつけた6万〜8万円程度のセット品などを展示した。それが4年前に福岡で開催された日本内視鏡外科学会総会で、同社に大きなターニングポイントをもたらした。

 医師からは「数十万円するものが、なぜこんなに安く手に入るんだ」という感想が目立ったという。

 会話ができたのは興味を持ってブースに立ち寄ってくれた医師だけだったが、それでも医師の人だかりはできていた。結果として、この学会に出展した月の売り上げは約10倍近くの跳ね上がりを見せた。

 「売り上げが上がったことも大きいですが、多くの医師と話ができたことが自信につながりました。自社製品が受け入れられる喜びを肌で感じました」と、高山さん。


試作品を2週間以内に医師のもとへ

 福岡での展示会で、次の製品開発につながる医師との出会いがあった。

 高山さんのブースに、似たような手術訓練セットを自作したという医師が立ち寄った。医師が自ら考えて開発支援を求めて、医療機器メーカーに持ち込んできたが、どこも取り合ってくれなかったという。

 高山さんは、その医師の試作品を自社のブースに参考品として展示してもらい、製品化をその場で約束し、展示会終了後、試作に取りかかった。高山さんがグッドデザイン賞を受賞したのは、この時に生まれた腹腔鏡手術の訓練セットだった。

 「作りは粗いけどコンセプトはいい」と、グッドデザイン賞としては少し微妙な評価だったものの受賞できた。このモデルは1つ3万円で、これまでに600個以上売れており、同社の主力商品の1つとなった。

 学会への出展が次の商品開発につながり、腹腔鏡手術トレーニングボックス以外の手術練習用品へも広がり、1つ3000〜5000円程度の安価な縫合練習用パッドなどを開発した。

 同社は、いずれの製品も、遅かれ早かれ売り上げが伸び悩む時がくることを見据え、次世代の商品として今年発売に至った、 手術訓練用の模擬臓器へと製品群を拡大した。繰り返し購入してもらえる消耗品を揃えることも高山さんの戦略の1つ。

 グッドデザイン賞のほか、これまでに埼玉県主催の渋沢栄一ビジネス大賞特別賞や医療機器等試作品コンテストのアイデア賞など、数々の賞を受賞。これからも医師に受ける製品開発が期待される町工場だ。

筆者:柏野 裕美

JBpress

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