熱海復活は本物か 照準は団体客から「新世代個人客」へ

1月1日(火)7時0分 NEWSポストセブン

再び賑わいを取り戻しつつある熱海

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 バブル崩壊以降、衰退の一途をたどっていた日本有数の温泉地・熱海だが、近年、街並みやホテルの再開発などによって見事復活を遂げつつあるという。果たして、人気復活は本物なのか。ホテル評論家の瀧澤信秋氏がレポートする。


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 近年、旅行の態様が変化した例として“団体から個人へ”というワードを耳にする。個室が並ぶホテルは、ある程度の客室数があれば団体客も受け入れられるし、もちろん個人客にもマッチした業態だ。


 他方、旅館はどうであろうか。高度成長期からバブル期に隆盛を誇ったのは、社員旅行、観光旅行を例とする大型の団体を受け入れる温泉地の大規模な施設であった。和室を中心とした客室は定員4名、6名、中には10名という大部屋も。大人数で利用できる大浴場に大宴会場、カラオケスナックにゲームセンターなど、団体客を想定した大型温泉観光旅館ともいえる施設だ。


 東京から団体客が大挙して押し寄せた温泉地が熱海であった。宿泊施設の活気もさることながら、熱海といえば夜の盛り場も賑やかで、男性諸氏にも人気の温泉地として名を馳せた。


 そんな熱海もバブル崩壊の影響をもろに受け観光客は激減。宿泊施設利用者数でみると、バブル崩壊直前の1991年には約440万人だったが、2002年度には300万人にも届かなかった。その後もリーマンショックや震災などが重なり、2011年度には約246万人と、20年前と比較して半減にも迫る減少となった。


 宿泊施設等の団体客増減が世の中の景気動向の判断材料にされることがある。景気に左右されるのも団体客といえるが、特に温泉地の大型施設にとっての生命線もまた団体客である。


 景気が衰退し団体客が減少したからといって、多くの施設では一朝一夕に個人客向け施設へ方向転換できる資金もなく、熱海では大型旅館を筆頭に宿泊施設の廃業が相次いだ。団体客依存の内在するリスク顕在化といえる。これは熱海に限ったことではなく、全国各地の温泉地でも同様のケースがみられたが、首都圏が大規模マーケットであった熱海の衰退は特に目立ち、温泉観光の衰退例として度々取り上げられた。


 そんな熱海がいま活況に沸いているという。2017年の市内宿泊客数をみるとバブル時には及ばないものの307万人余りで、前年比で4万5000人ほどの増加、3年連続で300万人を超えているという。



 当然、訪日外国人旅行者の激増も影響しているが、実際に宿泊施設を取材すると“個人旅行者”を主たるターゲットにしているという回答が多く得られる。中高年層はもちろんであるが、特に若者の増加が顕著だという。


 熱海では地元や移住者の若者を中心とした活性化への取り組みもみられる。元気な熱海のキーワードは“若者”ということで、リーズナブルなゲストハウスの宿もみられるようになった。


“団体から個人へ”といえば予約形態の変化も大きい。インターネットは宿泊施設予約にも革命をもたらした。店舗のある旅行会社、いわゆるリアルエージェントは“団体旅行の手配”というイメージもある一方、オンラインエージェントと個人旅行の弾力性は実に親和的である。若者であればなおさらだろう。


 このように個人旅行者増加という熱海活況を受け、宿泊施設の建設・開業が続いている。


 たとえば、ラグジュアリーな施設を多く手がけるカトープレジャーグループでは、プライベート感の高さで人気の「熱海 ふふ」で新棟の増築がなされるという。熱海 ふふは隠れ家的なラグジュアリー感の高さで人気。まさにカップルを中心とした個人旅行者向きだ。


 また、ビジネスホテル「ドーミーイン」で知られる共立メンテナンスでは、高級リゾートホテルブランドである既存の「ラビスタ伊豆山」に加え、「ラビスタ熱海」を着工するという。いずれも個人旅行者が主たるターゲットになるだろう。


 これらは内資系であるが、新たな投資では中国資本も目立つ。中資系では短期で転売というバブルを彷彿とさせる活発な動きもみられる。


 個人旅行の増加により宿泊施設でみられる傾向のひとつが“旅館のホテル化”だ。温泉や和食会席も愉しめるのは当然であるが、和室にベッドを設えたり、そもそも洋室中心というホテルライク旅館を標榜するケースもある。こうした施設の担当者に聞くと、


「畳敷きに布団というスタイルは人気がない」

「仲居さんがプライベート空間に入り込むのをよしとしないゲストが若者を中心に多い」


 という。熱海で新たに誕生する施設やリニューアルのケースをみると、確かに露天風呂付きの客室や個室の食事処などを設ける施設が多い。伝統的な温泉文化の衰退を嘆く声もあるが、団体客から“新世代個人客”へというターゲットの変化に則した傾向だ。



 だが、熱海の魅力のひとつは昭和の温泉地といったレトロ感でもある。往時からある大型ホテルや、街中に昔ながらの小規模な温泉旅館がいまだ見られる光景は一興。とかくラグジュアリーが注目されがちな熱海ホテルの活況ぶりであるが、リーズナブルな宿や地元の団体客に人気の施設も残っている。


 とある宿泊施設の主人は、「確かに街には人が多くなったが、自分の宿が活況かといわれると厳しいものがある」と語る。個人、カップルにファミリー、三世代、訪日外国人旅行者……多様な旅行者を受け入れる懐の深さが温泉地熱海の隠れた魅力であろう。


 大都市ではホテル不足が叫ばれるほどの稼働率、客室単価の上昇がみられる一方、観光地やリゾート地の繁閑差は事業者にとって大きな課題だ。繁忙日には大挙してゲストは押し寄せるが、閑散期日の稼働や単価の低迷は宿命とさえいえる。これは熱海でも同様だ。東京至近という地の利も生かし平日に足を向けさせる魅力、地道なアプローチ作りが実を伴ったホテル活況に波及していく。


 熱海復活の目指す先に、往時の団体客のようなインパクト再来への待望、バブルふたたびといった浮き足立つ温泉観光地の姿があるのだとしたら、果たして多様化するいまの個人旅行者へ魅力的に映るだろうか。“熱海流おもてなし”が多くの旅行者へ感動を与える温泉地に変貌することを期待したい。


■写真提供/瀧澤信秋

NEWSポストセブン

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