「ハコよりお祭り!」幸せについてのささやかな考察

1月6日(日)12時15分 Forbes JAPAN

放送作家・脚本家の小山薫堂が「有意義なお金の使い方」を妄想する連載第41回。「幸福」を測る技術、UAEに誕生した初の幸福担当大臣、イェール大学で人気の授業……。「幸福」はいま、全世界が注目するトピックだ。

「幸福」を数値化する──そんな技術を長年研究して開発した人がいる。日立製作所のフェロー、矢野和男さんだ。
 
先日、矢野さんと対談するため、東京・国分寺の日立製作所中央研究所を訪れた。研究所の正門を入って50mほど行くと、渓谷に「返仁橋」という橋がかかっているのだが、この「返仁」の謂れが面白いので、まず紹介したい。
 
日立創立者のひとりである馬場粂夫博士は「20年間で30人の博士を創出する」という悲願をたて、1952年に願いが叶ったのを機に「三十人会」を発足。翌年、「高度の発明を為すものは変人以外は期待し難い」という持論により、「変人会」と名称を変更した。
 
59年には「返仁会」に改称されているが、「学位に安住せず自己研鑽に励み、高度の発明・技術開発を成し、かつ後進の育成に努める変人たれ」という理念は変わらない。会員はいまも「変人」と呼称され、馬場初代会長だけは尊敬を込めて「大変人」と呼ばれているそうだ。
 
さて、そんな返仁会の副会長(つまり変人!)でもある矢野さん。ウェアラブルセンサーを用いて人間の行動データを取得する研究を進める中で、これをもう少し推し進めたら人間の幸福感=ハピネス度がわかるのではないか、と考えたという。

そこで7社10組織、468人を対象に20項目の質問を行った。例えば、今週幸せだった日、楽しかった日、孤独だった日、悲しかった日は何日あったかなどの問いに0〜3の4段階で答えてもらい、組織ごとに平均化。同時に被験者の行動データを計測し、幸福感と行動の相関関係を見つけたのである。「ハピネス度の高い集団は生産性も高い」ということも明らかになったそうだ。
 
こんな話も教えていただいた。2016年、アラブ首長国連邦(UAE)政府は、社会的な善行や国民の満足度・幸福度を高める政策を推進するため、初の幸福担当大臣を任命した。一方、アメリカのイェール大学では「よい人生の科学」という講義が人気らしい。全学部生の4分の1にあたる約1200人が講義を受講しており、今年4月にはオンラインでも開講している。
 
つまり、「幸福」はいま全世界的なトピックだということだ。人の幸せが社会の幸せを形成するということで、価値が高まり、研究対象や商品として扱われる時代になってきたのだろう。

日常の小さな幸せに目を向ける

『もったいない主義』という本で僕は、「小さな幸せをミルフィーユのように重ねていくことが、幸福ということではないかと思う。それを僕は『プチハッピーのミルフィーユ』と呼んでいます」と書いている。

熊本県には「しあわせ部」があり、くまモンが部長に就いているのだが、このしあわせ部と熊本県立大学の学生が「くまはぴ」というアプリを共同開発した。 

例えば「急に寒くなり秋らしくなってきました。紅葉の飾りで季節感のある部屋もプチはっぴーです」とか「昨日は書庫で書類の整理をする作業でした。体を動かしたから、今朝の目覚めがいいのかもしれません」「いちばんの親友が入籍しました。結婚式は来春。楽しみです」など、日常で感じた小さな幸せ”プチはっぴー”を投稿し、それを読んだり集めたりする。

また、投稿数に応じて”しあわせのミルフィーユ”が積み重なり、それをくまモンに食べさせることもできる。いわば、幸せを共有したり拡散したりするアプリで、いまもたくさんの方が毎日投稿してくれて、読むとつい笑顔になってしまうのである。

自分ひとりが幸せというのはつまらない。みんなとシェアすれば、もっと幸せな気分になれる。人生や仕事において僕がいつも大事にしているのは、「Your happiness is my happiness.」という心持ちだ。
 
それをよく理解しているディレクターが、あるとき僕のラジオ番組で「薫堂さんの誕生プレゼントとして、誰かを幸せにして、それを報告してください!」というコーナーを企画した。

リスナーからは「ずっと諦めていたダイエットを再スタートしました」「久しぶりにおばあちゃんを誘ってご飯を一緒に食べに行こうと思います」「絶縁関係だった父に会いに行きました」などというメールやFAXが次々と送られ、僕はそれを読みながら本当に幸せな気持ちになった。おかげで最高の誕生日になりました。

福利厚生費を地域創生に利用する
 
ラジオといえば、僕の故郷である熊本・天草にFMラジオが開局することを本連載でお伝えしたが、正式名称を公募したとこ「みつばちラジオ」が採用された。提案者は8月8日生まれの8歳の女の子! 周波数の88.8 MHzにかけて、8が3つで「みつばち」。とてもセンスありますよね?
 
そこで、今秋の社員旅行は天草にして、社員総出でラジオ番組をつくることにした。タイトルは「あまくさハッピーハンティング」。社員たちが3人ひと組となって天草じゅうに散らばり、自分たちにとっての幸せと、天草の人たちの幸せを探し回り、生中継で報告するという内容だ。
 
企画意図としては、よそ者である社員が天草の魅力を知って幸せになること。次に彼らが「これは面白い」「あれは魅力的だ」と発掘することによって、天草の人たちが「そがんとが面白かと!?」と自らの街の魅力に気づくと素敵だなと思う。
 
もうひとつ、いまやアプリを使えば世界中で聴取可能なラジオという媒体の良さをあらためてアピールしたい。
 
いま自治体はどこもMICEの誘致に忙しい。研修やセミナー、展示会のできる建物や隣接するホテルを建て、企業を誘致して観光客を増やすという、わかりやすい方策に右往左往している。しかし、そうしたハコに頼るのではなく、地元のコミュニティラジオを企業にジャックさせることで、その土地全体と住民がMICE機能を果たせるのだ。しかも、両者にとってものすごく安上がりで、かつ良い効果が見込める。 

例えば、SONYが天草で特番8時間を制作すれば、その時間は天草全体がSONYになる。デジタル一眼カメラ「α9」で天草を撮るという企画もできるし、新商品を地元の人に使ってもらって使用感を集めることもできる。レトロな映画館で新商品発表会をやれば、そのまま大スクリーンに映像を映し出せる。つまり、ラジオを介してその地域全体がMICE施設に変わり、住人も参加できる「お祭り」になるのである。
 
お祭りは停滞している経済や、人の生きがい・やりがいを波立てる装置である。しかも世界配信もできるわけで、一石三鳥くらいの試みになるだろう。ハコよりお祭り! 記憶に残る思い出を、皆さんもぜひ実施してみてはいかがでしょうか。

Forbes JAPAN

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