子のためデリヘルで働く母親の悲しすぎる事情

1月9日(木)15時15分 プレジデント社

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/bee32

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シングルマザーの貧困率は高い。一方、夫がいても、家庭内の問題などで事実上シングルマザーと同じような経済状況に陥ることがある。性風俗で働く女性たちを支援する坂爪真吾氏は、「児童扶養手当などの支援制度は、夫と死別・離婚した女性でないと利用できないことが多い。そのため高収入のデリヘルで働く既婚の母親たちがいる」という——。

※本稿は、坂爪真吾『性風俗シングルマザー』(集英社新書)の一部を再編集したものです。



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■事実上のワンオペ育児に苦しむ母親たち


人口約80万人の政令指定都市(県庁所在地)、S市。2019(令和元)年8月現在の世帯数は約34万世帯であり、そのうちひとり親世帯(母子・父子)は約4400世帯。そのうちの約4000世帯が母子世帯である。


そのひとり親世帯の統計には含まれないが、夫婦の関係不和や家庭内の問題によって事実上のワンオペ育児を強いられている「隠れシングルマザー」もいる。S市内のデリヘルの待機部屋ではごく日常的に出会う存在である。


児童扶養手当を含め、シングルマザーに関する支援制度やサービスは、夫と死別・離婚した女性でないと利用できないことが多い。夫と離婚できないがゆえに、あるいは離婚するまでのつなぎの仕事として、デリヘルを選ぶ女性は少なくない。


杉本玲美さんは、現在32歳。出身はS市で、現在は結婚してS市に隣接するA町に住んでいる。


子どもは11歳の長女(小6)、6歳の長男(小1)、4歳の次男(年中組)の3人。夫(37歳)・義父(無職)・義母(現役で働いている)と同居している。


高校卒業後、S市内の飲食店に勤務していた際に、現在の夫(当時24歳)と出会った。


交際を始めてから間もなく、妊娠が発覚。玲美さんはまだ19歳だった。


妊娠を報告したところ、「じゃあ、結婚しよっか」と言われ、そのままできちゃった婚をすることに。


妊娠が発覚した後、飲食店は退職した。入籍後はA町にある夫の実家に入り、家の近くのスーパーでレジのパートを始めて、臨月まで働いた。



■子どもが生まれる直前に夫の借金が発覚


第1子(長女)を出産後、2カ月で別の店のレジに勤め始めた。産後すぐに働き始めた理由は、夫に借金があることが判明したからだ。


第1子の生まれる1カ月前に、夫の借金(300万円程度)が発覚。理由はパチンコでの使い込みだった。「そこから、ずっと苦労の連続で……」と、玲美さんはうつむく。安定した仕事を探したものの、子どもがまだ小さいため、正社員としてはなかなか採用にならない。時給がよさそうなアルバイトを転々とした。


一方の夫は、長女が生まれてからすぐ、玲美さんの事前了解を得ることなく、正社員として勤めていた会社をやめてしまった。主にユニック(クレーン車)等を操作する建設系の仕事で、中型免許の資格を活かせる職場だった。やめた理由は人間関係。


「給料もボーナスも出る安定した職業なのに、なんでやめてしまったんだろう。子どもがいればそのくらい我慢できるんじゃないかな……と思うんですが」


それ以降、現在に至るまで、夫はずっと給料週払いの交通誘導員として、S市内の現場で働いている。正社員だった以前の仕事に比べて給料も大幅に減り、社会保険にも加入していない。国民健康保険で、支払いは免除という形になっている。


■週払いの給料はその日のうちに全額パチンコに


パチンコによる借金は全て消費者金融から借りており、現時点での合計額がいくらになっているのかは確認できていない。夫は「自己破産はしない。毎月ちょっとずつ返す」と主張している。


金額的に見ても、現在の給料で働いて返済することはまず不可能だ。「債務整理した方がいいのでは」と玲美さんが提案するものの、かたくなに拒否。弁護士に債務整理の相談に行くこと自体、「絶対に無理」と拒んでいる。なぜそこまで嫌がるのか分からない。


夫は普段人とあまり接することもなく、休みでも1日中家にいて、暇さえあればパチンコに行く。地元のパチンコではなく、隣のB市にある大手のホールにいつも通っている。交通誘導員の給料は週払いで、毎週金曜日に入るが、その日のうちに全額パチンコに使ってしまう。


「なんで全額使ってしまうの? なんで生活費のために残さないの? と呆れてしまいます」


こうした状況のため、借金は減らずに増える一方。子ども3人分の児童手当も夫の口座に振り込まれてしまうため、全て夫がパチンコに使ってしまう。


児童手当は夫婦のうち所得の高い方(一般的には夫側)に支給されるルールがあるため、玲美さんの口座に振込先を変更することができない。



■それでも続く性生活、拒むと浮気を疑われる


こうした夫の借金問題以上に、玲美さんが一番気に病んでいるのは、同居している義父との関係だ。


義父はアルコール依存。定年退職の前から腰と足が悪くなり、仕事ができなくなったことをきっかけに酒に走った。医者嫌いで、病院には全く通っていない。


月に3〜4回、義父の機嫌が悪くなる時がある。お酒に酔って、不平不満をダラダラと言う。玲美さんの子どもたちに当たったり、「うるさい」「あっち行け」と理不尽に怒ったりする。


玲美さんに対しては、「俺がお前たちの面倒を見てやっているんだから、金をよこせ」と生活費を渡すように迫る。渡さないと、キレて大変なことになる。


夫との関係が悪化する中でも、性生活は続いていた。玲美さん自身は、日々の育児や家庭内トラブルで身体的にも精神的に疲れており、夫とはセックスしたくないと思っているが、夫の要求を拒否すると「男がいるんじゃないか」と疑われる。夫は嫉妬深い性格で、玲美さんのスマホを勝手に見るなど、いつも束縛したがる癖がある。


「そうやって疑われるのも嫌だし、いくら『浮気なんてしていない』と主張しても、夫から執拗にあれこれ言われるので、仕方なく応じていました。


私は子どもができやすい体質で、すぐ妊娠しちゃうんです。真ん中の子も、下の子も。でも、おろすことは考えたくない。子どもが一番かわいそうなので、産む方向にしか考えられない。産んだら大変なことは分かっているけど、私1人が頑張ればいいか……と考えていました」


■全てを我慢して1人で背負い込んでいる現状


「私1人が頑張ればいい」──これは、風俗で働くシングルマザーの女性が異口同音に発する台詞である。


自己責任論の内面化という視点からも理解できる台詞だが、現実的に見れば、パチンコ依存の夫やアルコール依存の義父の言動を変えることは、極めて難しい。


この家庭の中で離婚せずに子育てをしようとした場合、「玲美さんが全てを我慢して、とにかく1人で頑張る」以外に答えはない。


A町は育児支援が非常に充実しており、子どもはすぐに保育園に入ることができた。子どもが3歳以上になると、「ここの保育園に行ってくださいね」と役所から通知が来るという。保育料も全て無料だ。


「育児に関しては、A町に住んでいて非常に助かりました。そうした支援がなかったら、おそらくやっていけていないです」



■義母にも子どものことで責められてしまう


長女の時は、初めての育児で夜泣きに対してどう対応していいか分からず、夫も非協力的だったため、大変だった。どうしても寝ない時は、車に乗せてドライブした。


車内で寝ついた頃を見計らって家に戻り、静かに布団に置く。しかし背中が布団についた瞬間、また泣いてしまう。


それでも、慣れてくれば楽になる。2人目、3人目になってあやし方も分かってくると、気持ちに余裕ができた。ちなみに玲美さんは母乳が出ず、ずっとミルクだった。


育児に関しては、義母のサポートはあまりなかった。長女が生まれた初めの頃はあれこれアドバイスをしてくれたが、次第に「あなたのやり方が悪い」と文句を言われることが増えた。


義母は子どもに厳しく、「なんですぐ泣くの」と叱る。玲美さんが泣いている子どもを抱っこすると、「なんで抱っこするの?」と怒られる。まず子どもの気持ちを落ち着かせてから「どうしたの?」と聞くのが玲美さんのやり方なのだが、義母にはそれが通じない。


「なんで私のやり方でやらせてくれないの、と腹が立ちます」


仕方がないので、子どもが泣いた際は、義母の見ていないところに連れて行ってあやすしかない。ずっと義母に監視されているような状態なので、早く家を出たいと考えている。しかし、それは経済的に難しい……。


■家族に黙ってデリヘルの仕事を始めた


地方都市では、玲美さんのように「義実家という名の牢獄」に閉じ込められている女性は決して少なくない。


三世代世帯には、ひとり親世帯に比べて安定したイメージがあるが、決して貧困に陥るリスクが低いわけではない。三世代世帯の子どもの貧困率は核家族世帯よりも高い、と主張する研究者もいる(阿部彩・鈴木大介『貧困を救えない国 日本』PHP新書)。


そうした中で、玲美さんは2年前から風俗の仕事を始めた。きっかけは、当時勤めていた保険会社で出会った女性からの紹介。彼女はS市内にあるぽっちゃり専門店のデリヘルで働いており、玲美さんの家庭の事情も知っていたので、「嫌かもしれないけど、稼ぎたいのであれば、こういう仕事があるよ」と勧められた。


「ちょっとでも稼げるんだったら……」と思い、いやいやながらデリヘルでの勤務を開始。知り合いの女性の働いている店の姉妹店である人妻・熟女デリヘルで働き始めた。30〜50代の女性が在籍しており、料金は90分1万5000円。S市では安い価格帯に入る。


出勤は週5日、10時半から17時まで。夜は17〜21時。働いている間、子どもは義父

母に見てもらっていた。


「休みの日があると、義父母から『なんで働かないんだ』と嫌味を言われるため、ほぼ毎日出勤していました。風俗で働いていることはもちろん告げずに、普通にレジの仕事で働いている、と伝えています」


この仕事で稼いで、ちょっとでも貯金したいと思ったが、子どもが3人いるとなかなか貯められない。



■デリヘル接客中にかかってきた電話は保育園からだった


低価格帯の人妻・熟女デリヘルということもあり、お店の客層は正直あまりよくない。むしろ悪い人の方が多く、「挿れさせろ」「店外で会おうよ」と執拗に言い寄ってくる客もいる。


地方都市の人妻・熟女デリヘルでは、本番行為が常態化しているような店もある。玲美さんは、客からの要求や誘いはきっぱり断っている。


「うちのお店は本番禁止ですが、他の女の子たちに話を聞くと、している子も多いみたいですね。稼ぐためには、自分も本番をしなきゃいけないかな……と思ったこともありました」


S市の郊外にある事務所は、待機部屋と一体になったオープンスペース。待機中は、他の女の子たちとテレビを見ながらしゃべったり、他愛もない会話をしたりといった交流もあった。1〜2人ほど仲良くなる人はいたが、お互いの家庭のことまでは話さなかった。お店のスタッフとも仲良くなり、居心地のよい環境ではあった。


しかし、働いている最中も家の義父母が足かせになった。保育園から「お子さんが熱を出したので、迎えに来てください」という連絡があっても、義父母は全く対応してくれないため、玲美さん自身が行かなくてはいけなかった。


ラブホテルでの接客中に、保育園から電話がかかってきたこともある。どうしても玲美さんがすぐに迎えに行かなければならない場合、お客に事情を話してどうにか納得してもらい、プレイを中断してそのままホテルから保育園に向かったこともあった。


「その時は、本当にお客様に申し訳ない気持ちでいっぱいになりました。友達にも『よく我慢しているよね』と言われます」


■何度も離婚を考えたが、「自分さえ我慢すれば」と思う


デリヘルの仕事を始めたことで、かなりの収入は得られるようになった。だが、玲美さんの収入が増えると、夫が勝手に財布からお金を抜いてしまうようになった。




坂爪真吾『性風俗シングルマザー』(集英社新書)

「気がついたら、財布にお金がない。『えっ?』みたいな。支払いのために分けておいたお金がなくなっていることもありました。


でも、そこで夫に文句を言っても口論になるだけなので、もう面倒臭くなって、何も言わないようになった。同居の嫁という立場なので、あまり強く言えない。義父母も昔の考え方の人間なので、話が通じないんです」


離婚は何十回も考えた。でも、子どもたちが夫とニコニコしながら遊んでいる姿を見ると、自分が我慢すればいい、と思ってしまう。


「自分さえ我慢していれば、なんとかなるかな……という考えで今までやってきました。今はもう、子どもしか生きがいがありません。財布からお金を抜くような夫には全く信頼関係を持てませんが、子どもがいるから、家に帰ろうと思えるんです」


S市の実家にいる親は、玲美さんの現状を知っている。「そんな家、早く出て戻ってこい」と言ってくれるが、子どもたちのこともあって、なかなか離婚には踏み切れない。


2年前に母親が50代の若さで亡くなった。「早くこっちに戻ってこい」と親身になって言ってくれたのに、母親の願いに応えることができなかった。



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坂爪 真吾(さかつめ・しんご)

ホワイトハンズ代表理事

1981年新潟市生まれ。東京大学文学部卒。新しい「性の公共」をつくる、という理念の下、重度身体障害者に対する射精介助サービス、風俗産業の社会化を目指す「セックスワーク・サミット」の開催など、社会的な切り口で、現代の性問題の解決に取り組んでいる。2014年社会貢献者表彰、2015年新潟人間力大賞グランプリ受賞。著書に、『セックス・ヘルパーの尋常ならざる情熱』(小学館新書)、『男子の貞操』(ちくま新書)など。

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(ホワイトハンズ代表理事 坂爪 真吾)

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