トヨタ「スープラ」復活に込めた想い スポーツカーの吸引力

1月9日(水)7時0分 NEWSポストセブン

トヨタ東京本社にも展示された新型スープラの試作車(写真:時事)

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 トヨタ自動車が2002年まで製造・販売していたスポーツカー「スープラ」の新型モデルが今年早々に発表される。若者のクルマ離れも叫ばれて久しい中、トヨタは“尖った”スポーツカーの復活にどんな想いを込めているのか。自動車ジャーナリストの井元康一郎氏がレポートする。


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 若者のクルマ離れ、クルマの購入意欲が高い団塊世代が高齢化でクルマから降りる「2025年問題」、都市部への行きすぎた人口集中による需要減など、逆風だらけの日本の自動車市場。日本メーカー各社にとって、マザー市場がこれ以上縮小するのは死活問題だが、決定的な打開策は見出せていない。


 そのような状況の中、トヨタ自動車は2019年、かつてラインナップしていたスポーツクーペ「スープラ」を復活させる。これまでもコンセプトカーをたびたび公開してきたが、1月14日の米デトロイトモーターショーでいよいよ市販モデルを世界初公開するという。


 発表の場がアメリカであることからわかるように、主戦場はアメリカ市場。だが、アメリカだけでなく、日本市場をはじめ、先進国市場を中心に世界展開が図られる見通しだ。


 新型スープラの詳細な情報はショーで明かされることであろうが、断片的な情報はすでに相当伝えられている。


 プラットフォームはトヨタと技術提携関係を結んでいるBMWのもの。エンジンはBMWの3リットル直列6気筒ターボ。パッケージングは後輪駆動、2シーターで、ボディはクーペのみ。BMWモデルで言うとラグジュアリーオープンカーの「Z4」に相当するが、性格付けはグランドツアラーではなくリアルスポーツにぐっと寄せられるという。



 このスープラ1モデルで日本市場を活気付けることができるとは、当のトヨタも考えてはいまい。トヨタは2012年、スバルと共同開発した2リットル級スポーツカー「86」を発売した。


 企画に関わっていたトヨタマンの一人は、「こういうクルマを出すことで、若者を含め多くの人たちがクルマの楽しさにもう一度目を向けていただきたい」と語っていたが、現実は厳しかった。コアなクルマファンの間ではしばらく話題になったものの、クルマ離れの流れを止めることにはほとんど役に立たなかったのである。


 では、スープラはどうか。商業的にはもちろん難しいだろう。公道の制限速度が先進国の中ではブッチギリに低い日本は、そもそもスポーツカーを楽しく走らせられるような環境ではない。しかも、86とも比較にならないくらいの高速車になるのが確実なスープラは、合理性で選ばれるようなモデルではない。当然数は期待できない。


 それでもトヨタがスポーツモデルを出すのは、豊田章男社長がスポーツカー好きで、ユーザーにクルマは楽しいものだと再び感じてもらう起点になる──と信じているのが大きい。そのハードウェア偏重の考え方が当たっているかどうかは別にして、日本市場を決して諦めないという気持ちを持っていることは存分に伝わってくる。


 もっとも新型スープラくらい気合の入ったモデルは、活用法によってはクルマに興味を持ってもらうツールに十分なり得る。その方法のひとつはカーシェアだろう。スープラのスポーツという記号性で顧客を引き寄せ、半日程度の短い時間でもいいので、リーズナブルな価格でドライブの自由さを体験してもらうのだ。


 そんな単純なことのために、と思われるかもしれない。だが、自動車メーカーが今日、一番頭を悩ませているのは、ユーザーがそもそも自動車を運転してみるという“第一歩”を踏み出してくれないということだ。そんな高い敷居をまたがせるのに有効な手段のひとつは、「ドライブに興味はないけど、面白そうだから一度くらい運転してみようかな」と、思わせるだけの吸引力のあるクルマを用意することだ。



 ドライブについての思いは人それぞれであろうが、確信を持って言えることは、自分の自由意思によるドライブがつまらないわけがないということだ。


 筆者は地方に取材に行ったり、実家に帰ったりする際、できるだけクルマで移動することにしている。そうする最大の理由は運転行為を楽しむためではなく、いろいろなルートを通り、世の中を見物するためである。


 旅の移動手段はいろいろある。鉄道、飛行機、バスなどの公共交通機関を使えばラクだし、自分でクルマを運転するより安く済むケースが圧倒的に多い。だが、それら公共交通機関による旅は、2点間の移動が基本になる。もちろん車窓から景色は見えるが、それらはムービーのように次から次へと現れては去っていくだけだ。


 パーソナルなクルマの旅がそれらと圧倒的に違うのは、バイクや自転車、徒歩と同じく、自分の自由意思による旅になるということ。綺麗な景色や興味深い文化財、イベントなどを見かけたとき、先を急ぐ必要がない限り、どこでも自由に寄り道ができる。


 わけあって昨年は東京〜鹿児島をクルマで10往復ほどしたが、毎回、ちょっとルートを変えるだけで、見える景色や出会う物、人はまるで違ってくる。また、同じルートであっても季節や時間帯、天候などによって表情はまるで異なる。言い換えれば、そのときに見えている風景はそのとき限り。一期一会の世界である。


 そういう楽しさは、自分で冒険的な移動をしてみないと実感できないのだが、それにはまずクルマを運転してみなければ始まらない。自由なドライブの世界にユーザーを引き寄せる役割を担うのに、スペシャリティカーとしての派手なデザイン、ハイパワー、スポーティといった多くの記号性を持つスープラはぴったりだ。



 スープラの投入で期待できる効果はそれだけではない。話題づくりいかんでは、現在すでに売られている楽しいクルマに顧客の目線を向ける原動力にもなり得る。


 ユーザーのクルマ離れの原因はいくつもある。都市への人口集中でクルマに乗らなくても生活できてしまうこと、クルマを持つにも走らせるにもお金がかかりすぎること、安全や環境の規制をクリアするためのハイテク化でクルマが高価になったことなどが主因だ。が、それに並ぶ理由としてよく耳にするのが、買いたいクルマがないという意見だ。


 自動車メーカーが楽しいクルマづくりをしなくなったという批判は、ずいぶん前からずっとなされている。だが、本当に面白いクルマはないのか。否、実際にはたくさんの面白いモデルが存在している。


 自動車工学の発展により、今のクルマは本当に性能が良くなった。昨年、ロングドライブを試してみたモデルは20車種近くになる。振り返ってみると、フォルクスワーゲン「ゴルフ1.4ターボ」、ホンダ「シビックハッチバック」、スバル「XV」等々、ごく普通のファミリーモデルであっても、シャキッと走ってみるとバブル時代のリアルスポーツなみのスピードで平然とコーナリングをこなせるクルマのオンパレードだ。


 普通のクルマがそれだけ高性能化していることが、スポーティカーの居場所を圧迫している一因でもあるのだが、それでも探せば面白いクルマはスポーツセダン、クーペ、コンバーチブル、SUVに至るまで、いろいろある。


 国産車だけを見ても先に挙げたトヨタ86およびスバル「BRZ」、ダイハツ「コペン」、マツダ「ロードスター」、ホンダ「S660」、スバル「WRX」、スズキ「スイフトスポーツ」、日産「ノートNISMO S」ほか、枚挙にいとまがない。輸入車や中古車も含めれば、選択肢はそれこそ無限に広がる。


 にもかかわらずクルマがつまらなくなったと言われるのは、多分にクルマやドライブへの関心が薄れたことによる先入観によるものだ。前述のようにかなり高価になるであろうスープラを保有しようというユーザーの数は限られているであろうが、クルマに対するユーザーの関心を引き寄せる材料にすることができれば、それら既存の楽しいクルマが改めて脚光を浴びる一助にもなるかもしれない。



 トヨタで国内販売を担当する常務執行役員の長田准氏は、「今、クルマやドライブの楽しさを訴えられなければ、今度こそ日本市場は終わってしまう」と、ハードウェアとしてのクルマ、ソフトウェアとしてのドライブというパーソナルモビリティの両輪が揃って衰退していることに危機感をにじませる。その打開策のひとつにスープラを使ってくる可能性は十分にある。


 クルマがどんどんコモディティ化している今の時代、スポーツカーを発売するのは大変なことだ。スポーツカーを定期的に出し続けているのはポルシェやフェラーリなど、もともとスポーツ性の高いメーカーであったり、メルセデスベンツやBMWのようにユーザーからスポーティモデルを出すことを期待されているようなメーカーばかりだ。


 そういうブランドでないトヨタにとって、いかに巨額の利益を上げていようとも、スポーツカーを作るハードルはきわめて高い。実際、レクサスブランドでさえスポーツモデルは苦戦しており、カテゴリーの下位に沈んでいる。


 そのトヨタがBMWのプラットフォームを使うとはいえ、スープラのような情感重視のクルマづくりを諦めないというのは非常に心強いことだ。果てしなく難しいチャレンジではあるが、これでユーザーをちょっとでもクルマに吸引することができれば、他メーカーの追随も期待できよう。2019年の日本の自動車マーケットにおいて、ぜひ注目したい動向と言える。

NEWSポストセブン

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