ファーウェイ禁輸で打撃を受ける日本の悲しい現実

1月13日(月)6時0分 JBpress

中国・上海に設置されたファーウェイの5G体験施設(2019年12月1日、写真:Imaginechina/アフロ)

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 中国の通信機器メーカー、華為技術(ファーウェイ)に対する米トランプ政権の禁輸措置がうまく機能していない。ファーウェイ排除に消極的な欧州とは異なり、日本はトランプ政権と協調しているが、アジア各国はお構いなしにファーウェイ製品を導入している状況だ。

 日本メーカーの国際競争力が高ければ、米国の禁輸措置をきっかけに、日本製品をアジア市場に大量投入することでファーウェイの製品を駆逐できたはずだが、もはや日本メーカーにそうした力はない。アジア各国にファーウェイの製品が拡大していくのを指をくわえて見ているしかないというのが現実だ。(加谷 珪一:経済評論家)


禁輸措置が実施される中、最新製品を出荷

 トランプ政権は安全保障上の理由からファーウェイに対して懸念を表明しており、2019年5月から事実上の禁輸措置を実施している。米商務省が同社製品を禁輸措置対象リストに加えたことから、米国企業は同社に対して輸出できなくなっている。

 この禁輸措置は第三国を経由した輸出も対象となるため、米国企業が一旦、別の国に製品を輸出して、その後、ファーウェイに納入するという手段も使えない。当然のことながら、この第三国には日本も含まれており、米国製部品もしくは米国由来の部品を使用した製品を日本企業がファーウェイに納品した場合、米国での取引が禁止される可能性がある

 禁輸措置はあくまでも米国内の措置だが、日本メーカーは米国市場に依存しているので、米国内での取引が禁止されてしまうと、事実上、ビジネスが立ち行かなくなる。このため多くの日本メーカーが今回の措置に追随しており、政府としてもこの動きを歓迎しているはずだ。

 ファーウェイは、米国企業からはもちろんのこと、日本企業からも部品を調達できないので、製品の開発や製造に大きな支障が出るとの予想が成り立つ。つまりこの禁輸措置が実施されて以降、ファーウェイは米国製部品を調達することが極めて難しくなっているはずである。

 だが現実には、この措置は大きな効果を発揮していない。ファーウェイは禁輸措置が実施されてから4カ月後の2019年9月、スマホの最新モデル「Mate 30」などの販売を開始した。

 米国や日本から部品を調達できないのに、ファーウェイはどのようにして最新モデルを出荷しているのだろうか。


部品の多くが中国製に置き換わった

 当初、米国の禁輸措置でもっとも大きな影響を受けるのはスマホの基本ソフト(OS)だと言われていた。iPhone以外のスマホには、たいていアンドロイドという基本ソフトが入っている。これは米グーグルが中心となって開発した製品なので、もしも“米国製製品”と認定されて供給を受けられないとスマホはただの箱になってしまう。これがファーウェイにとっては致命的とされた。

 ところがファーウェイの最新製品にはそのアンドロイドが搭載されている。アンドロイドは確かに米グーグルが中心となって開発したが、基本的にオープンソースとなっており、米国製という扱いにはならないため、ファーウェイは引き続きアンドロイドを搭載できた。

 しかもファーウェイは、こうした事態に備え、以前から独自OSの開発を進めていたと言われる。最悪、アンドロイドが搭載できなかった場合でも、自社製OSを搭載した製品を出荷した可能性が高い。

 もっとも、搭載できるのはアンドロイドのみであって、電子メールの「Gメール」やアプリを配信する「グーグルプレイ」といったグーグル製のアプリやサービスは使用できない。だが中国国内では、もともとグーグルのサービスが禁止されているので、アプリが搭載されないことが影響するのは輸出分だけになる。

 ではスマホのハードウェアについてはどのように製造したのだろうか。

 米紙が調査会社などの協力を得てファーウェイ製のスマホの部品構成を調べたところ、かつて米国製だった部品の多くは、中国製に置き換わっており、一部の部品にはオランダメーカーや日本メーカーの製品が使われているという。

 また、米国の規制にも抜け穴がある。商務省は一部の部品については輸出を許可しており、ファーウェイ製品には今でも米国製部品が使われているという。

 近年、中国メーカーの技術力は驚異的なペースで高まっており、すでに多くの半導体部品を自国で製造できるようになった。また中国国内には10億人の消費市場があり、国内需要だけでも巨大なビジネスになる。スマホというコンシューマー向け商品を海外に輸出しにくくなったことを除けば、それほど大きな影響を受けていない可能性が高い。


基地局市場では圧倒的なトップ企業

 ファーウェイはスマホを製造するメーカーでもあるが、売上高の約半分は基地局などの通信機器や各種ネットワーク機器となっており、法人向けの販売も多い。こうした法人向けの製品についてはどうだろうか。

 実は、ファーウェイという企業は、携帯電話の次世代通信規格「5G」関連分野で極めて大きな影響力を持っている。

 携帯電話基地局の出荷においてファーウェイは全世界の31%を占めるトップ企業となっており、他社も含めると中国メーカーは世界の基地局市場の4割を握っている。アジア各国は国策として5Gのインフラ構築に力を入れているが、一連のインフラ整備にファーウェイはなくてはならない企業になっている。

 米中のいずれとも距離を置き日本の保守層からも高く評価されているマレーシアのマハティール首相ですら、「東洋の製品はもはや模倣品ではない」「(ファーウェイについて)可能な限り技術を利用したい」と延べ、ファーウェイを排除しないどころか積極的に活用する方針を示している。基本的にアジア各国は、ファーウェイの技術を使って5Gのインフラを構築する方向で動いており、米国の禁輸措置はほとんど効果を発揮していない

 もっとも米国も、アジア地域でファーウェイがどのようにビジネスをするのかについては、実はあまり関心を持っていないだろう。米国はすでに巨大な消費国家であり、必要なものはすべて輸入する国である。携帯電話の基地局もほとんどが欧州メーカーからの輸入であり、米国企業がファーウェイの巨大化でマイナスの影響を受けているわけではない。

 トランプ政権としてはあくまで外交交渉の1つでしかなく、ファーウェイの禁輸についても、おそらくそれ以上の意味はない。ファーウェイをはじめとする中国製品に本当に安全保障上の重大問題が存在しているのであれば、他の中国メーカーも同じ対応となるはずだが、国防総省などの政府機関は、今でも多数の中国製品を購入している。米中交渉がまとまれば、あっけなく禁輸措置を解除する可能性も十分にあり得るだろう。


安全保障は単体では実現できない

 ひるがえって日本である。仮に安全保障という分野であっても、中国製品の排除が外交交渉の一環ならば、日本側も相応のメリットを追求しなければ意味がない。

 アジア各国は米国の禁輸措置と通信インフラ整備との間で揺れているわけだが、ここで日本製品を使うという選択肢があれば、米国への配慮から一気に日本製品の導入に流れたはずであり、日本の利益と中国の権益排除という2つの果実を獲得できた。だが、困ったことに日本の通信機器メーカーはファーウェイに対抗できるだけの製品を開発できておらず、アジア各国にとっては、米国に配慮して日本製品を使うという選択肢が存在していない

 先ほどファーウェイは基地局市場で4割のシェアを持つと述べたが、残りはノキア、エリクソンといった欧州勢と韓国サムスンが占めており、日本メーカーの世界シェアはほとんどゼロといってよい状況だ。

 日本の携帯電話会社は、5Gの整備において当初、ファーウェイ製品の活用をかなり前向きに検討していた。だが、米国のファーウェイ排除の動きが本格化したことから、各社はノキアやエリクソンへの切り換えを進めてきた。つまりファーウェイ排除で得をしたのは欧州メーカーということになる。

 最大手のNTTドコモだけは、旧電電公社時代からの経緯もあり、日本メーカーからの調達にこだわっていたが、結局はノキアからも調達する方針を明らかにしており、日本メーカーのシェアはさらに低下する可能性が高い

 皮肉なことだが、経済的な面だけに限定すれば、今回の禁輸措置で大きなマイナスを受けたのは日本だけというのが現実なのである。

 安全保障というのは、経済や産業などあらゆる力を総合して実施するものであり、単体で機能するものではない。日本は米国と異なり、軍事大国、経済大国ではないので、産業競争力を駆使した安全保障政策が極めて重要となる。

 日本は過去20年間、現実から目を背け、現状維持を最優先させたことで、企業の競争力を著しく低下させてしまった。そのツケは極めて大きいということが、今回のケースからも見て取れる。

筆者:加谷 珪一

JBpress

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