東京五輪で日本は「食の国際基準」を満たせるか

1月14日(日)10時0分 Forbes JAPAN

トランプ大統領の「アメリカファースト!」の影で、実は日本も東京オリンピック・パラリンピック開催に向け、国際基準から脱却している事実がある。今、アメリカとイギリスで自国ファーストの潮流が水産資源の持続可能性にどのような影響を与えているか、一方の日本で何が起きているかを紹介したい。

アメリカでは2017年にトランプ大統領が環境政策への予算を大幅に削減した。環境保護局の予算は31%削減の51億ドルである。しかし、返す刀で、アメリカの財団がこぞって研究者への助成を表明した。

パリ協定を離脱した時も、カリフォルニア州知事は力強くパリ協定存続を表明した。ノーベル平和賞・アカデミー賞受賞者のゴア前副大統領は「不都合な真実2」を公開しトランプ大統領の後退する環境政策を批判している。混乱が続くアメリカだが、海洋環境保護活動のステークホルダーたちは大統領に耳を貸す気配はない。

一方、ヨーロッパに目を向けると、イギリスのEU離脱(ブレクジット)にともない、EUとイギリスの双方で水産行政の法整備が進められている。

イギリスでは9割を超える漁業者がブレクジットを支持したと言われている。それはEU政府による漁業規制強化とヨーロッパ諸国への国別個別漁獲割り当てによって被ったイギリス水産業の不利益、減収、そして廃業への反発だ。

イギリスは自国のEEZ圏内での操業権をEU諸国に分配されたため、目の前の海でも魚が獲れない事態が続いた。フランス船やスイス船が港から見える近海で網を巻いていくのを指をくわえて見ているしかなかったのだ。イギリスは今、自国の水産業を取り戻そうとしている。

そんな中、日本でも”ファースト”を主張していることがある。東京オリンピックにおける水産資源の食糧調達において、東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会(以下、オリパラ委員会)は、「日本ファースト」な食糧調達基準を発表した。そこには持続可能な社会を目指す国際基準から実質離脱した日本がある。

EU時代の2012年にロンドンオリンピックを迎えたイギリスでは、オリンピック史上初めて持続可能な食糧調達基準を制定し、水産物の調達において達成率100%を成し遂げた。オリンピックの期間中、オリンピック村で調達されるすべての食糧は国連食糧農業機関(FAO)の定める持続可能な食糧調達基準に批准したルールを順守して調達するというものだ。続く2016年のリオにもこのレガシーは受け継がれた。

残念ながら、日本はこのレガシーを受け継いでいない。東京オリンピックの食糧調達基準は、FAOの持続可能な食糧調達基準に達しておらず、批判の対象となっているのだ。

東京オリンピック・パラリンピックは、「食の輸出産業促進」を掲げる日本にとって大切な成長戦略のショーケースでもある。持続可能性はもはや世界の市場では付加価値として認知されており、水産物の輸出促進には欠かせないうえ、自国の水産資源の持続可能性を高めることは水産業の衰退を食い止める重要な要因である。海洋環境のステークホルダーはみな、オリンピックレガシーとして持続可能な水産資源の調達へのムーブメントを期待している。

では解決策はあるのか、探ってみよう。

水産物の持続可能性を証明するには、第三者機関GSSI(Global Sustainable Seafood Institute)が認めるFAO基準をクリアした国際機関の漁業認証制度を利用するのが妥当である。

現在該当するのはMSC、ASCなどであるが、一般社団法人「大日本水産会」が発行する和製認証MEL、AELはその基準に達していない。ロンドンでは漁業認証に加えて資源量等を客観的に示すレーティングプログラムMCSも採用された。筆者はオリパラ委員会の担当者に直接お伺いしたのだが、残念ながらレーティングプログラムの導入は必要ないし、発表した現行のMEL、AELなどを含む体制を改善するつもりもないとの答えだった。

このようにFAO基準を無視したのは国産の水産物を提供しやすいように苦肉の策を呈した結果だと推察すれば、その努力は同情に値する。我々国民もオリンピックを盛り上げるためにもオリパラ委員会を応援したい。しかし、このままでは国際社会での評価の低下とともに、水産資源の持続可能な利用への道は閉ざされるだろう。

そもそも国産水産物で資源量が高位にあるものは16.7%に過ぎず、半数は枯渇している。市場に出回る水産物の約半数はすでに輸入に頼らざるを得ない状況である。これは水産庁の発表した数字である。オリンピック村だけ90%を国産で持続可能性を確保できるというオリパラ委員会の示す数字自体に大きな矛盾があるのだ。

では、仮に日本がロンドンの基準をそのまま採用するとどうなるのか。

国際漁業認証を取得した魚種である北海道のホタテ、宮城のカキ、一本釣りカツオ、ビンチョウ、京都のアカガレイのみを提供することになる。不足分は漁業認証を取得している数ある輸入魚に依存すれば、サーモンやサバなど魚種は一気に増える。そこで国産水産物で賄いたいオリパラ委員会は苦肉の策で、現行の低く設定した調達基準を編み出したものと思われる。オリンピックほどの大舞台をこのような矛盾を抱えたままで果たして乗り切ることができるのだろうか。

いますぐやるべきことは明快だ。まずオリパラ委員会が自己矛盾を認めるべきである。そして調達基準をロンドン、リオ両オリンピックと同じくFAOの示す国際水準まで引き上げるべきである。その上で、現状では持続可能な水産物の国内調達が厳しいことを認め、2020年までにその比率を上げることを目標にあらゆる努力をする。

さらに2020年以降、たとえばSDGsの達成目標である2030年までに達成したい国内水産物の持続可能な調達の数値目標を提示し、それを達成することをオリンピックレガシーとして掲げる。と宣言するのがごまかしのない、日本のあるべき姿なのではないか。

さらに2020年までにするべきことが3つある。1つはFAOの掲げる持続可能な食糧調達基準を満たすMSC、ASCの漁業認証の取得漁業を増やすこと。2つ目は日本独自のエコラベルであるMEL、AELをGSSIの審査をクリアさせてFAO基準を達成することである。 いずれの認証も認証数を増やすことが大前提だ。そして3つ目として、ロンドンオリンピックで採用されたMCSに相当するレーティングプログラムも並行して活用するべきである。

これらすべては日本の枯渇した水産資源を取り戻し持続可能な漁業を復活させることにつながる。それは相当な努力を必要とするだろう。しかしだからこそ、オリンピックレガシーとして子供たちの未来へ繋げられる、持続可能な国産水産物の復活を応援したい。

東京オリンピック・パラリンピックは世界に日本の食をアピールする好機でもある。出汁をとるカツオも昆布も水産物。持続可能な食でおもてなしができるよう、日本も「サステナビリティ ファースト」を掲げたい。

Forbes JAPAN

この記事が気に入ったらいいね!しよう

東京をもっと詳しく

BIGLOBE
トップへ