あるべきDXの本質のため、CDOは何をすべきか

1月15日(水)6時0分 JBpress

本コンテンツは、2019年12月3日に開催されたCDO Club Japan主催「CDO Summit Tokyo 2019 Winter」での講演内容を採録したものです。

<パネリスト>
株式会社ブリヂストン フェロー 三枝 幸夫 氏

ヤマハ発動機株式会社 フェロー 平野 浩介 氏

<モデレータ>
一般社団法人CDO Club Japan 代表理事&創立者 加茂 純 氏


ブリヂストン、ヤマハ発動機、SOMPO。各社のDXの実情と今後の課題

 CDO Club Japan主催のCDOサミットには毎回多様な人々が参画する。業界や企業規模の違いを超え、デジタルトランスフォーメーション(以下、DX)に積極的な企業のCDOおよび関係者が集まるのはもちろんのこと、2018年以降は政官界・公共機関・教育関係者、さらに海外の企業や組織も参加。オーディエンスも回を重ねるごとに急増し、その注目度や期待値は拡大し続けている。

 そして今回、日本におけるDXが本格化した2019年の締めくくりといえるサミットで、とりわけ多くの聴衆から注目を集めたのがパネルディスカッション。それぞれ異なるテーマを掲げ、3つのセッションが用意された。一つ目のディスカッションのテーマは「CDOが取り組むDXの本質」。1時間に及ぶ議論のエッセンスをお伝えする。

加茂純氏(以下、加茂):いくらでも語り尽くせるテーマだとは思いますが、まずは皆さんが取り組んでいるDXの実情と展望について教えてください。

三枝幸夫氏(以下、三枝):私はもともと生産管理の最前線で改善・改革を担い、サプライチェーンを見つめていたのですが、その流れの中でCDOとしての働きを担うことになりました。DXとしてはさまざまな取り組みをしているのですが、事業面についてお話をすると、ブリヂストンの主力事業であるタイヤやベルトコンベアの領域が起点となりました。

 世界各地の鉱山では種々の産業機械や車両が生産性を決定付けるため、ブリヂストンとしては早い時期からタイヤやベルトにセンサーを取り付け、IoT化していくアプローチを進めてきたのですが、そこで得たノウハウを多様なフィールドで生かすための挑戦をしています。

 サブスクリプション型のタイヤマネジメントのシステム提供などがその代表例です。そしてこうした事業ベースのトライと並行して、ブリヂストンの組織の在り方や人材育成などの変革にも着手し、進めているところです。

平野浩介氏(以下、平野):ヤマハ発動機はバイクや船外機、電動アシスト付き自転車に加え、エンジン付きヘリコプターやドローンの製造も行い、今や組織もグローバル規模で動いているのですが、大きな改善課題を抱えていました。それはDXを実行する以前の基盤に関わる問題点です。

 例えばこれまで国内24社海外110社のグループ企業が、おのおの独自のシステムを運用していました。さらに、本社だけで130以上もの内製ソフトウエアが稼働していましたし、「お客さま視点で事業変革を目指す」と言いながらダイレクトな顧客接点をほぼ持っておらず、データの収集ができていないという問題も抱えていたのです。

 ですから、2017年にインテルからヤマハ発動機に転職し、CDOの役目を担うことになった私が最初に取り掛かったのは、経営やビジネスの在り方を改めてみんなで議論し、その目的意識をそろえていくことでした。その上で、「今を強くする」取り組みと「未来を創る」取り組みという2つに分けながら、さまざまな計画を実行しているのが現在の段階です。グローバル規模でシステム統合や総合データベース構築を行いつつ、お客さまに関わるデータの収集・蓄積・分析のための基盤作りも進めています。

加茂:実は本日、SOMPOホールディングスの楢﨑さんもこのセッションに参加する予定だったのですが、急きょアメリカに行くことになられたので、ビデオメッセージで参加していただきます。

SOMPOホールディングス株式会社 執行役常務(常務執行役員)グループCDO 楢﨑浩一氏:会場に行けなくて申し訳ありません。11月に発表もあったのでご存知の方もおられるかと思いますが、このたびSOMPOは米国のビッグデータ解析企業Palantir Technologiesと共同で新会社Palantir Technologies Japanを設立しました。私がこの新会社のCEOに就任することになり、それで急きょ渡米している次第です。

 ともあれ、これまでにもSOMPOは「保険のない世界を目指す」と明言し、そのためにデジタルを含むさまざまな技術やノウハウを追求してきました。つまり「転ばぬ先のつえや転んだ後のケア」として保険を売っていくビジネスに固執するのではなく、「転ばない社会」に貢献するため防災や減災にデジタルを生かしていったり、健康の維持向上のための「デジタルヘルス」サービスなどを追い求めたり、というチャレンジをしているわけです。今回のPalantir Technologies Japan設立も、同様の精神に基づいたもの。Palantir社が持つ技術や知見をSOMPOの経営に生かしていくだけでなく、外部の多くの企業にもその機能を活用してもらい、元気になってもらう。

 CDOとなってDXに取り組んで痛感したことですが、一つの企業体の努力だけでは真に価値ある変革を実現することは困難です。多くの企業に技術とサービスを提供しながら連携関係を深めていくことで、共創の可能性を引き上げていく。それがこれからのわれわれの使命だと考えているんです。そういう意味でCDOサミットという集まりにも、私は重要な価値があると信じていますし、今後も多くのCDOの方々と情報交換、意見交換をしていきたいと思っています。


「DXの本質とは?」。今こそ問い直すべきタイミング

加茂:一昨年や昨年に比べ、DXに本気で取り組む企業は急増しました。今お話を聞かせてくれた3社がそれぞれ違った中身の変革に取り組んでいるように、世の中では各社各様のDXが進行中かと思うのですが、そんな今だからこそ「DXで目指すべき本質」について皆さんにお聞きしたいと思います。実はCDOとしての役割を任された方には、必ず遭遇する根源的課題というのがあり、共通した悩みを持っているのではないかと考えているんです。

三枝:先ほど平野さんもおっしゃっていた「目的意識をそろえる」という部分で、私もいろいろ試行錯誤しています。例えば、「デジタル化やICT化という取り組みとDXとは違うんだ」というマインドセットを全社で共有する点だけを挙げても容易ではありません。

楢﨑:DXという言葉の一人歩きが、一つの企業内に限らず世の中全体で始まっていますね。はじめにデジタルありき、ではなく、経営を新しく変えていくことが目的であり、その成功のためにデジタル技術が関わっていく。そういう認識をどこまで根付かせていけるのかをCDOは問われていると思います。

平野:同感です。「何のために何をするのか」をきちんと詰めておかなければ、どんなに目新しい発想や技術を持ってきても本末転倒。なによりまず経営陣がこういう本質論を徹底議論すべきだという主張を私もし続けています。

加茂:「今を強くする」ことと「未来を創る」ことを分けている、というお話が平野さんからありましたね。でも、経営陣の関心はどうしても「今」の方に傾きがちですよね。

三枝:「それは儲かるのか?」という疑念は当然浮かんでくるわけですが、いかにその疑いを晴らしつつ、本質論についてのコンセンサスを築いていくかが問われます。

平野:確かに広くコンセンサスを得ていく努力は必要になりますね。トップ経営陣がしっかりと意識を固めたとしても、次に問題となるのが中間層。特に日本企業の場合、良くも悪くもミドルマネジメントの意向が反映される形で成功事例が作られてきた歴史がありますので、彼らを本気で突き動かすにはどうすればいいのかが問われます。私の前職のインテルなどは米国企業らしく、トップダウンで何事も動きましたが、日本企業で大胆な変革を実現するには、ミドル層も含めて組織のありようを考えていく必要もあると思います。

三枝:ありがちなのが「総論賛成・各論反対」。全社レベルで新しいことに挑戦するのは賛成だけれども、各論として実行するには「うちには人がいない」「KPIがない」という意見が出てくる。

加茂:三枝さんのところでは、非常に積極的にそうした部分の改善を進めてきましたよね? 具体的にどんな手法を用いたのですか?

三枝:いろいろな方策をしてきましたが、例えばDX実行チームとして私たちと一緒に議論や検討をしてきたプロジェクトメンバーを、既存の事業部門に送り込んで意思統一や発想の共有をしてきました。

平野:私は各論反対の現象が起きた場合、「反対するのは構いませんが、必ず対案を出してください」というお願いをし続けています。

三枝:KPIを変えていくこと。それがとても大事ですよね。平野さんもヤマハ発動機で取り組んでいらっしゃるようですが、ブリヂストンでも「頑張れば評価される」ということを、分かりやすく見せていくようにしています。

加茂:経営層の課題と、ミドル層の課題についてのお話が出ましたけれども、実際にDXの最前線で奮闘していく人材作りについてもお聞きしたいです。三枝さんのブリヂストンでは非常にこの部分に力を入れて、DX人材の登用や育成をしていますよね? 現状はどうですか?

三枝:社内に教育プログラムを作って実行し始めている中で、一つ嬉しい発見がありました。それは技術寄りの人材の変化。彼らが教育プログラムを通じて、リアルなビジネス現場の実情や課題を知るようになったことで、実質的な成果も上がり始めているんです。

加茂:なるほど。では最後に会場に集まった数百名をはじめ、日本でDXに取り組んでいる関係者に向けて、メッセージをお願いします。

三枝:お伝えしたいことは山程ありますが、なにより大切なのは楢﨑さんがビデオメッセージでおっしゃっていた1点に尽きます。つまり企業間の連携ということ。もちろん私としてもブリヂストンにできることを追求してはいますが、一つの会社にできることには限界があります。

 DXという大きな変革を成功させるためにはエコシステムが不可欠ですし、その理想形を築くにはさまざまな企業と手を組む必要がある。ですからこのCDOサミットのような場も活用させていただきながら、多くの皆さんと仲間になっていきたいと思います。

平野:三枝さん、それならば弊社もタイヤを使うものづくりをしていますし(笑)、ぜひともお仲間に加えてください。私からのメッセージとしては、日本のものづくりには世界に負けない圧倒的な強みがあるのだということを改めて認識し、自信を持って変革にチャレンジしましょう、と言いたいですね。

 大量生産ができて、しかもクオリティーが高くて、それによってグローバルにフットプリントを残してきたのが日本なのですから、ここにデジタルを活用し、データを活用していく仕組みができて機能していけば、必ず成功する。そういう自信を共有しながら、楢﨑さん、三枝さん同様、多くの企業や組織の皆さんと仲間になっていきたいと願っています。

筆者:JBpress

JBpress

「株式会社」をもっと詳しく

「株式会社」のニュース

トピックス

BIGLOBE
トップへ