台湾のヘリ墜落は中国の斬首作戦か

1月15日(水)6時0分 JBpress

2020年の台湾総統選で再選を果たした蔡英文氏(1月11日、写真:ZUMA Press/アフロ)

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1 イランと台湾

 イランの革命防衛隊コッズ部隊(対外工作部隊)司令官、ソレイマニ将軍への攻撃は米国の斬首攻撃だった。さぞや北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長は肝を冷やしたことだろう。強烈な抑止力だ。

 一方、その陰で1月2日に台湾軍の参謀総長が乗ったヘリコプターが、北東部・宜蘭県の部隊を訪問するため台北市の松山空軍基地(軍民両用)を離陸した直後、山中に墜落し、乗っていた参謀総長をはじめ8人が死亡した。

 しかし、この「事故」があったことに、日本人は関心がないようだ。

 この2つに何か類似性はないのか、疑問に思うことはないのだろうか。そして、誰がこの2つの出来事を喜んでいるのかを考えることはないのだろうか。

 国際社会を揺るがす事件に直面しても軍事は他人事、国民皆評論家ではこの国の行く末は危ない。


2 中東の危機

米国とイランの本格的な対決は始まったばかり

 言うまでもなく、現代の中東の危機はイスラエルに起因していると言っても過言ではない。

 そして、米国の中東政策の大きな誤りは、イラクを2度の戦争で壊滅させ、力の空白を作ったことに起因している。

 湾岸戦争まで、イラクは少数のスンニー派が支配し、過酷な統治であったものの、中東における米国の盟友であった。

 過酷な統治が悪いというならば、アラブの国の統治はサウジアラビアなども例外でなく過酷であろう。

 イラクが壊滅し、力のないシーア派の政権になって以来、イランが浸透する土壌ができ、さらに、スンニー派の残党を中心とするイスラム国を米国が中心となり壊滅させたが、結果的に、米国がイランのイラクに対する浸透を手助けしただけだった。

 今イランは、核武装する可能性のある反イスラエルの最後の砦であり、米ドナルド・トランプ大統領がイスラエルに傾倒すればするほど、イラン壊滅に向かうだろう。

 今回の休戦は一時的であって、イランの後押しを受けた民兵組織などが、もし、イスラエルを攻撃したならば、米国は即、イランに対して大規模な攻撃を仕かけるだろう。

中東の危機は日本の危機

 米国が、イランに関与すればするほど喜んでいるのは中国・北朝鮮だ。

 しかし、米国は中国打倒を諦めたわけではない。イランを叩き、中東が不安定化すれば、中国は原油を輸入することが困難になってこよう。

 米国は、イラク、アフガニスタンの軍事作戦で圧倒的な破壊力を発揮したが、中東諸国の粘り強いゲリラ戦には手を焼いている。

 そこで、今後は、①経済制裁を主とし、粘り強くイランを屈服させる②短期決戦でイランを攻撃し決着をつけるという2つのオプションを持ちながらイラン対処に臨むだろう。いずれにしても核の放棄は妥協しないだろう。

 ②のイランを攻撃する場合は、限定的な「A2/AD」能力を持つイランに対する攻撃の様相は、ミサイルや空軍、空母からの対地攻撃、すなわち、太平洋正面では放棄した「エアシーバトル」で一挙にイランの重要なインフラや地上目標を破壊することになるだろう。

 当然、イランの核施設の完全破壊が主目的だ。

 核のないイランはイスラエルにとって、もはや脅威ではない。その後米国は、経済制裁を強化することによってイランを3流国にまで貶めることは可能だ。

 上手くいけば、もう一度イラン革命へ持っていけるかもしれない。

 一方、米国は、中東の石油はもはや米国にとって必要ないと明言した。

 今後、米国はゲリラ戦に巻き込まれる不毛な戦いには関与せず、中東から大きく距離を置く可能性が出てきたと見るべきだろう。

 そうなると、中東石油依存率約88%の日本は、遂にそのような事態になったかと生存の危機を感じないだろうか。

 米国にとっては、当面、イランと中国という2正面作戦で不利な態勢ではあるが、イラン問題が収束し中東に関与をしなくてよくなれば、その後は中国へ専念できる。従って米国にとっては

①万一、武力衝突に突入した場合、イランとの対決は海空主体の短期決戦に持ち込む。

 米国の軍事産業にとっては、対地用の旧い弾を撃ち尽くすことで、対中国用の新型弾道ミサイル、対艦ミサイルなどの増産へ移行ができ、結果、新旧交代で(言葉はよくないが)儲けることができる。

②今後の中東は、NATO(北大西洋条約機構)や関係国に任せる(日本も含まれる)。

③中国の石油については、中東のみならず、長いシーレーンを活用して海上封鎖網を構築し抑止体制を強化する。このため英仏印豪などとの連携は必須だ。

 日本は、これらの激変に指をくわえて見ているのか。即やるべきことはあるだろう。

①自らの国は自ら守り切る防衛力を至急構築、このため、防衛国債などを活用して防衛費を2〜3倍に増加。

②イランやロシアが行う、サイバー攻撃や電磁波攻撃と連携した非正規軍(階級章はつけていなくても精強部隊)によるハイブリッド戦は、米国のみならず日本の「正規軍」では対処が難しい。

 さらに日本では、グレーゾーン事態に対処する法規もないために、自衛隊ではほとんど対応できない。

 1発も弾を撃たないで戦いが終わる可能性は極めて高い。結局、自衛隊が軍隊でなければならない理由はここにもある。

 至急、グレーゾーン事態においてサイバー・電磁波攻撃と連携する、海上民兵に先導された大量の「精強部隊」に対処できるよう、法律の制定も含め体制を整備すべきだ。陸自を削っている場合ではない。

③石油に頼る日本の体質を改善するため、本気で原発の再稼働、新原発の開発・増設、そして、気まぐれ発電の太陽、風に頼らない水素を中心とした新電源開発への転換を図る。

 さらに、食料の自給率の向上、閉鎖的な農業政策の抜本的改革の断行などやるべきことは沢山ある。

 野党は桜を見る会がどうしたと些末なことを言っている場合か。そして、これらの改革と実行に、これからの日本の繁栄と防衛がかかっている。


3 台湾の危機

 蔡英文総統は最高得票で再選され、民進党も議会の過半数を維持できたことは幸いだった。これで、少なくとも今後4年間は米国と共に、自由主義の盾となり続けるだろう。

 日本も祝意は示したものの、米国のマイク・ポンペオ国務長官はもっと踏み込んで「台湾が民主主義を求める国々の手本となる事を望む」「容赦のない圧力にもかかわらず、台湾海峡の安定に対する蔡英文総統の取り組みを称賛する」と語った。

 残念ながら、日本人は台湾が日本の運命共同体だということを理解していない。軍事的に見れば明白である。

 すなわち、台湾が中国のものになれば、中国は米国を西太平洋から排除し、かつ、中国の3つの経済的核心的地域である、

 北京・天津、上海、広州・珠海を守る外壁である第1列島線に出城を築くことができる。その破れた第1列島線から、中国の航空機、軍艦・潜水艦などが太平洋に自由に進出できる。

 一方、前方展開戦略を基本とする米国は、その中核の足場を奪われて戦略的破綻をきたし、グアム以東への退却を余儀なくされ、東アジアにおける覇権や権益を中国に明け渡すことになる。

 換言すれば、中国の「接近阻止・領域拒否(A2/AD)」戦略の完成を許し、米国は、中国の思惑通りハワイ以東に駆逐される。

 そして、中国軍の軍事的影響力は日本の太平洋側へも直接及ぶことになり、もはや、米軍も近づけず、日本は中国の軍門に下ることになろう。その意味をしっかりと心に刻み込む必要がある。

 一方で収まらないのが中国だ。

 香港で躓き、台湾でも躓いたことになる。日本だけが、相変わらず危機感もなく、習近平国家主席を国賓で招待することを進めている。

 中国は、日本は政治・経済的に籠絡することができると読んでいるのだろう。

 一方、台湾は、総統選および立法委員(国会議員に相当)選において与党民進党が勝利したことで、中国は、武力統一を行わない限り、2020年の中国共産党創設100周年記念で台湾を中国のものとして、祝杯を挙げることができなくなってしまった。

 参謀総長が乗ったヘリコプター墜落事故に戻ると、あくまで推測の域を出ないが、中国が、台湾総統選挙で敗色濃い情勢に一矢を報いたいと思っても不思議ではなかった。

 墜落事故の原因は、今後の詳細な調査結果を待たねばならないが、下記のようなことが考えられる。

①ヘリコプターの整備不良、または、部品の損壊
②人為的な操縦ミス

③天候不良
④誰かが作為して墜落させた

 事故の第1報では、天候は良く機械の故障でもないようだ。また、「UH-60」というヘリコプターは、エンジンが2つある優れたヘリコプターで、そう簡単には墜落しない。

 一般的に言って、軍トップの参謀総長が乗るヘリコプターは、十分に整備されていると考えてもおかしくないだろう。

 そうなれば、今のところ証拠はないが、誰かが作為してヘリコプターを墜落させたという推論は、架空の議論ではないだろう。

 もっと言えば、台湾軍の80%は中国を支持する国民党員であることは台湾にとって懸念材料だ。

 もし、中国が関与していたならば、その目的は

①台湾の軍トップでも蔡英文総統でも、中国は何時でも斬首攻撃ができるぞという脅し

②中国は台湾の統一はあきらめず、台湾の生殺与奪の権は中国が握っているというメッセージ

③習近平国家主席は、腰抜けではないというメッセージを中国共産党へ見せる

 などが挙げられよう。しかし、中国関与の証拠は示されないであろう。

 曖昧にしておく方が脅しは効くし、米国などの国際社会の非難を避けることができる。それでいて、得体のしれない恐怖を台湾に与えることができるからだ。


4 2020年は日本の鬼門

 日本は、夏のオリンピック、パラリンピックの成功に向けて、世界中からたくさんの来訪者を歓迎し何とか盛り上げようとしている。

 しかし、今春の習近平国家主席の訪日は別問題であり、外交関係者や経済界は、日本の生存という国益を顧みず、習近平国家主席を国賓で招くことに固執しているが、正月早々から、そんな状況ではないことが見えてきた。

 日本は、もう一度、与党も野党も些事に囚われることなく、この国の真の繁栄と生存を考え、即、実行に移さなければならない歴史の曲がり角に来たことを自覚するべきだろう。

筆者:用田 和仁

JBpress

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