2号機も続け! 衛星づくりは地場企業と二人三脚で

1月16日(木)6時0分 JBpress

2019年12月11日、福岡県庁で行われた、QPS研究所の衛星「イザナギ」打ち上げパブリックビューイングには約500人が参加、クラッカーで成功を祝った。(写真提供:QPS研究所)

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 2019年12月11日、福岡県庁に詰めかけた500人を超える観衆は、インドから生中継で送られてくる映像を祈るような思いで見つめていた。18時55分、日本初の小型SAR(合成開口レーダー)衛星「イザナギ」がPSLV-C48号によってサティシュ・ダワン宇宙センターから打ち上げられ、19時12分に無事に軌道投入されると、割れんばかりの拍手と歓声が沸き上がる。全員で「成功おめでとう!」とクラッカーを鳴らし、打ち上げ成功を祝った。

【前回の記事】「九州に宇宙産業を、師匠と弟子の衛星開発ベンチャー」
(https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/58411)

 QPS研究所の衛星「イザナギ」は、翌12日早朝には初交信で元気な産声をあげた。さらに16日には、衛星の最大の特徴である直径3.6mのアンテナの展開にも成功。「最初にして最大の難関」をクリアしたと言っていいだろう。

 しかし成功の余韻に浸ることもなく、QPS研究所とパートナー企業は既に次のフェーズに向かっている。ビジネスの本格始動に欠かせない初画像取得、さらに2020年前半に打ち上げを目指す2号機「イザナミ」の開発と試験だ。

「初号機を打ち上げたばかりでもう2号機?」と思うかもしれない。そう。2号機の開発は初号機打ち上げ前から始まっていた。

 というのも、QPS研究所は4年間で36機の衛星を打ち上げることで、世界ほぼ全域にわたり昼夜天候問わず24時間観測し、車が識別できるほどの詳細な画像(分解能1m)を平均10分間隔で取得。「リアルタイム観測マップ」の実現を目指しているのだ。

 QPS研究所のモノづくりの特徴は前回の記事で紹介した通り、「九州に宇宙産業を根付かせる」という目標のもと、部品点数の8割を北部九州の地場企業(北部九州宇宙クラスター)20社と共同開発していること。いったいどんな衛星だろう。そして、どんな人たちがモノづくりを担っているのか。

 取材チームが向かったのは、福岡県久留米市。世界的企業ブリヂストン創業の地でありゴムの街として知られた久留米に、衛星開発のコアメンバーが集まっているという。

 訪れたのは「オガワ機工」。副社長の伊藤慎二さんが出迎えて下さった。さっそく工場に足を踏み入れると・・・六角柱の銀色に光り輝く物体が、圧倒的な存在感を放っている。もしかしてあれが・・・!?

「2号機『イザナミ』の振動試験モデルです。フライトモデル(実機)と形と質量は同じですが、電子機器類の代わりにアルミの削り出しで質量を合わせています。フライトモデルも並行して製作を進めていて、そろそろ組み立てを開始します」(伊藤さん)

 2号機は、初号機の開発過程で出た改善点を踏まえて、改良していく計画だ。例えば、太陽電池パネルの数が初号機の7面から、2号機では10面になり、SAR衛星が強力な電波を出すための電力を多く取り込めるようになる。

 QPS研究所がパートナーを組む20社の中で、オガワ機工は初号機開発から中心的役割を担ってきた。

「機械設計と組み立てのとりまとめを担当しています。初号機開発は約1年半とめちゃくちゃ短くて、プレッシャーがすごくて。『衛星をやるんだけど』とQPS研究所さんから伺った時、アンテナの基本的なものはできていたが、その他は白紙に近い状態。アンテナをどう取り付けてどう動かすのかなど、みんなで考えて作り上げました」

 2週間に1回はミーティング。「電源系も通信系も構造系も、全員で問題を共有して知恵を出し合う。2週間なんてすぐだから、最初は『また行かないといけない』と負担にも感じましたが、徐々に本当にみんなで作っているんだと『ワンチーム』を実感しました」(伊藤さん)


無理だと思うと思考が停止する

 衛星開発で難しい点は?

 伊藤さんによると、宇宙という極限環境でも絶対に壊れないメカを作らないといけない点。「ロケットで打ち上げるときも、宇宙にいる間も壊れずちゃんと動くものを作るのが僕たちの仕事です」。

 具体的にどんな条件が彼らを苦しめたのか。「-100℃から100℃以上の熱変化、ロケットで打ち上げる際の約10Gの振動。剛性を上げつつ、軽量化を実現しないといけないところが一番難しい」。

 なぜ軽く作らないといけないかと言えば、重くなればなるほど輸送費が高くなるから。ロケットで宇宙にモノを運ぶ際、1kgあたり数百万円のコストがかかる。コストを考えればできる限り軽くしたい。しかも壊れないように。そのせめぎ合いに設計者は頭を悩ますことになる。

 さらに、いったん打ち上げたら修理に行けないことも宇宙特有の難しさだ。地上で徹底的に問題点をつぶす必要があり、試験用モデルを作ってテストする。「解析もしますが、一番いいのは実際に試験をやってみること。初号機は5〜6回振動試験を繰り返しました。最初はボルトが緩んだり、ちょっとした部品が壊れたり。やってみないと分からないことがあります」

 何万点もの部品のうち、小さなねじひとつの不具合で全体が失敗する世界。すべてに百発百中が求められる。「例えばアンテナが開かなかったら衛星は役に立たない。何回も何回もテストして本当にこれでいいのかを突き詰める。失敗も山ほどしましたが、無理だと思うと思考が停止する。失敗するたび『この方法ではだめなことが分かった!』と前向きにとらえるしかない(笑)」(伊藤さん)

 そもそもオガワ機工は、FA(Factory Automation)機械を作る会社。従業員は25人。重工業からお菓子屋さんまで、さまざまな「物を運ぶ」会社である。工場内には「便利をつくる。ひとつから考える」という会社のスローガンが掲げられている。

「牛乳パックを整列させて箱詰めする機械を作ってほしいとか、製品を2階に上げる機械がほしいとか、漠然としたオーダーを形にしてきました」。課題を整理するために、クライアントの話をよく聞くとシンプルな作業で解決できると分かり、「1000万円の仕事だったはずが5万円ぐらいになったこともあった」と伊藤副社長は笑う。売り上げより顧客の立場に立ち、ゼロからのモノづくりが大好きなことが伝わってくる。


円陣スペースエンジニアリングが目指すもの

 なぜ、宇宙にモノを運ぶことに? 話は2005年ごろにさかのぼる。

 当時、久留米市近郊の中小製造企業の若手経営者が集まって、「何か面白いことをやろう!」と交流団体「円陣」が立ち上がった。背景には不況が長引き、廃業する会社も出始め、新しいことに挑戦しなければという危機感があった。「東京で展示会をして九州に仕事を引っ張ってくるにはどうしたらいいか」と議論し、ロボットや自動車を検討するものの、競合相手が大勢いるし、何より後発では面白くない。

 転機が訪れたのは2007年。九州大学で行われた宇宙ビジネスの講演会に、フッ素樹脂コーティング業「睦美化成」の當房睦仁社長が参加。宇宙開発を産業にしようという話に「円陣も入れて」と手をあげる。九州大学の教授から、大学に製造部門がなくモノづくりが難しい現状を聞き、大学と「円陣」が組めば互いにメリットがあることを知り、目標を宇宙に据えた。

「円陣」内に宇宙開発チームを立ち上げ、2012年にはNPO法人・円陣スペースエンジニアリングチーム(e-SET)を設立。2014年に打ち上げられた九州大学を中心にQPS研究所も参画して開発した衛星「QSAT-EOS」の試験用構体、学生サークルが開発したロケットの分離機構開発など実績を積み上げている。

 メンバーは12社。精密機械加工、熱処理、ゴム屋、表面処理などそれぞれ得意分野がはっきりしている。「さらに自分たちでできないことは、できる人の力を借りる『架け橋』の役割もある」(當房さん)。議論がうまくいかない場合の調整も含め、アイデアを形にするプロデューサー的な役割も担う。

 今回打ち上げられた「イザナギ」でも、e-SETは大事なパーツで新たな『架け橋』を築いた。直径3.6mのアンテナに使われた金属メッシュの縫製だ。0.1mm以下の細い線材を編み上げなければならず、小さく畳んだ状態から展開する際に破れる可能性が懸念された。特殊で高度な技術が必要であり、あちこち探し回った末に、高級車用シートなどを縫製する福岡県大川市のカネクラ加工に行きつく。

「ご相談に伺って『やってみますか?』と聞くと、快く『ぜひ』と。直径3.6mのアンテナのハーフサイズから始めて展開テストを重ねたところ、見事に要求性能をクリアされました」(當房さん)

 e-SETの狙いは?

「宇宙産業を地元・北部九州に根付かせたいという大きな目標があります。営利目的というより、産業振興なんです」(當房さん)

 例えば、カネクラ加工がある福岡県大川市は、かつて日本一の木工家具生産地として知られたが、家具の国内生産は減少傾向にある。カネクラ加工は業務のひとつに木製品加工を挙げるが、e-SETの誘いで宇宙への挑戦に参加した。

「久留米は技術の集積する場所であり、物づくりの土壌としては最高。何でも作っちゃう。衛星づくりも最初はどうかなと思ったけれど、実際やってみると、作ること自体に大きな障害はなかった。これからも先端産業をどんどん取り入れて、自分たちの得意分野にしてモノづくりを極めていきたい」

 當房さんは、宇宙に挑戦する企業がどんどん出ることを歓迎。競争もあるが協力もする、「日本版シリコンバレー」にしていきたいと意欲的だ。


2週間に一度の会議で「ワンチーム」に

 オガワ機工の伊藤副社長は、衛星づくりの過程で最高にうれしい点として、「若手社員のモチベーション上がっていること」を挙げる。

「『衛星の設計やってみてどうや?』と聞くと『楽しいです。めちゃくちゃやりがいがあります』と答えてくれる。会社の価値も上がるし、自分にとって励みになる」

 2号機「イザナミ」の設計を担当したオガワ機工設計課の近藤貴太さんは、「プロフェッショナルな方々の意見やご要望をまとめて構想を立て、もんでもらう、その繰り返しが大変だった。いかにシンプルで軽くて強い衛星にするかも苦労した」と語る。

 一方、組み立てを担う社員は「今までミリ単位の組み立てだったが、衛星ではコンマ何ミリが主になった。未知の経験ばかりで難しいが面白い」と、難しさも含めて楽しんでいる様子。

 ワンチームで衛星の開発を進めてきたQPS研究所×北部九州宇宙クラスターだが、時には突っ走ることもあったと伊藤さんは振り返る。「勝手にどんどん考えて、振り返ったら誰もいないことも(笑)」。

 その様子をQPS研究所の大西俊輔CEOは「ひとつの機能を作ろうとしても複数の候補を考えている。アイデアがどんどん出て、むしろまとめるのが大変そう」とパートナー企業の頼もしさを語れば、同社の八坂哲雄研究所長も「我々の協力会社さんはそれぞれ独特のいい技術を持っている。だから『こういうふうにしたい』というと『あ、できるよ』というわけ。物によっては『もっとできるよ』というから『ちょっと待って』と止めたりね」と嬉しそう。

 e-SETの課題は、独自の宇宙ミッションを構築すること。

「例えば、月探査やロケットは面白いと思っています」(當房さん)

 魅力的なプロジェクトを掲げつつ、10年後、20年後に当たり前に「九州で人工衛星が作れます」と全国からオーダーが来るように。宇宙を志す若者が出ていかず九州で働いてくれるように。やるべきことは多い。

「今は畑を耕す、開墾している状態」(伊藤さん)

 宇宙産業という大木を育てるには、いい土壌が必要だ。36機の衛星が打ち上がる頃には、北部九州の豊かな土壌から青々とした新芽が出ていることだろう。

筆者:林 公代

JBpress

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