デジタル化で成果を上げている会社が考えていること

1月16日(木)6時0分 JBpress

本コンテンツは、2019年12月3日に開催されたCDO Club Japan主催「CDO Summit Tokyo 2019 Winter」での講演内容を採録したものです。

<パネリスト>
味の素株式会社 代表取締役 副社長執行役員(Chief Digital Officer (CDO)) 
福士 博司 氏

東京海上ホールディングス株式会社 事業戦略部部長 兼 デジタル戦略室長
住 隆幸 氏

ストックマーク株式会社 代表取締役CEO
林 達 氏

<モデレータ>
一般社団法人CDO Club Japan 理事・事務総長
水上 晃 氏


デジタルは、企業にとって脅威なのか機会なのか

 CDO Club Japan主催のCDOサミットで注目を集めた3つのパネルディスカッション。一つ目のセッションでは「DXの本質」がテーマだったが、二つ目の本セッションではより具体的な題材がテーマ。デジタルやデータの活用によって「ビジネスとサービスをどう変えるか」について、3人のパネラーが持論を披露した。

水上晃氏(以下、水上):最初にお聞きしたいのは、デジタル技術やデータを生かしたビジネスというものが、果たして機会なのか脅威なのかという点です。自社の飛躍をもたらす可能性もあれば、既存事業を脅かす存在でもあると思うのですが、いかがでしょうか?

福士博司氏(以下、福士):味の素はご承知の通り「食」に関するあらゆるソリューションを提供している企業であり、同時にアミノ酸メーカーとしての顔も持っているわけですが、どちらの領域においても「他社のデジタル活用によって強みを切り崩される可能性」と直面しています。ですから、そういう意味では脅威にさらされている危機意識はあります。

 ただしわれわれもまたMTP(戦略的革新目標)として「食と健康の課題解決企業 Eat Well, Live Well.」を掲げながらDXに取り組んでいる最中です。デジタル技術やデータの活用が当社だけでなく、例えば地域や医療機関や他の企業にも広がっていけば、つながりながらともに価値を創出して社会課題を解決することが可能になる、という希望も持っています。ですから脅威もあれば機会もある、というのが正直なところです。

住隆幸氏(以下、住):私どもも脅威と機会の両面があると考えています。脅威として、実にシンプルな例を挙げれば「世の中の技術が進歩すればするほど事故は減る」という大原則。

 自動運転のテクノロジーが完璧になってしまえば、東京海上の主力商品である自動車保険のマーケットは間違いなく縮小しますよね。でも、そもそも保険事業というのは世の中の変化によって生み出される新しいリスクと向き合い、商品化することで発展してきた歴史を持っています。

 デジタル社会、データ社会が進展する今も、サイバーアタックのような新たなリスクが急拡大していたりするわけです。リスクのあるところに保険マーケットは開かれていきますから、ビジネス機会が新たに生まれているとも言えます。

林達氏(以下、林):自然言語処理に特化したAI技術による価値提供がストックマークのビジネスですから、デジタルやデータの活用が進む状況は機会の源と言えます。

 ただしベンチャー企業としては「激しい競争の中でどこまで生き残れるか」という脅威を常に感じておく必要がありますし、私個人の問題として捉えるなら「このままストックマークにとどまる方が成長できるのか、外の組織に行った方が伸び伸びやれるのか」というシビアな意識も持っておくべきだろうと考えています。

水上:皆さん「機会も脅威も両方ある」というお答えですが、強引に比較した場合、どちらがより大きいと感じているのか教えてもらえますか?

福士:単純明快ですよ。若い年代には大きな機会が示されているし、年寄りたちは脅威にさらされています(笑)。

:おっしゃるとおり(笑)。ただ、保険業というのは非常に労働集約的な側面が大きいので、少し前まで「自分たちの仕事がデジタル技術によって奪われる」という懸念が社員の間に広がっていました。

 これについてはCDOとして誤解を解かなければいけません。「テクノロジーとヒトとを融合させて新しい仕事を生み出すのがDXなんだ」という発信を、繰り返し行ってきました。

:それについてはデジタル技術側の人間としてぜひ言わせてください。AIや機械学習といったテクノロジーで業務の効率化を達成できれば、コスト削減だけでなく社員の皆さんに時間という価値を提供できます。

「仕事を奪う脅威」なのではなく「手に入った時間で新しいバリューを生み出す機会」なのだというスタンスを住さんのような方が社内で根付かせてくれたなら、脅威よりも機会を増大させていくことは可能だと信じています。


他社連携による事業の共創。その必要性と課題は?

水上:1回目のパネルディスカッションでも、他社連携や異分野連携によるエコシステム創出が必要だという話が出ていましたが、「新しい事業やサービスを生み出す」という面でも連携や共創は必要だとお考えですか? もしも必要だというのであれば、どんな課題があるのでしょうか。

福士:味の素では、アミノ酸の濃度バランスから疾病リスクを調べるサービスを行っています。これまで対象としていたのは、がん、脳卒中、心筋梗塞の三大疾病の可能性についてだったのですが、2020年度からは認知症リスクも対象に加えます。

 認知症リスクへの対応では非常に複雑な課題解決が必要になりますから、当社だけでは無理ですし、特定の病院や行政機関と連携するだけでも十分な対応は困難です。企業+医療機関+行政というつながりの輪を広げていくことで、初めてサービスが成立すると考えています。

:先ほどもお話しした通り、さまざまな技術の進化によって従来からある保険の役割は徐々に縮小することになります。東京海上が保険業というビジネスを続けていくためには、何か新しい役割を見つけ出さなければいけません。

 例えば「病気になったらどうする」というリスクに対する保険ではなく、「病気にならないための保険」というものを考えることになる。しかし、そう簡単に新しいビジネスモデルを生み出せるわけではありません。一社で考えていても煮詰まってしまう。

 それならば、異なる視点を持つ外部の組織と一緒に考えていこう、ということになりベンチャー企業などとの連携を想定しながらスカウティング活動をしているんです。最近の成果としては、人工衛星からの地球の画像をAI解析することで大規模災害の発生情報をいち早く獲得していく取り組みを2018年に開始しました。

福士:実に素晴らしいことです。やはり今後新しい価値の提供を本気で実行するのであれば、1つの企業が独力で奮闘するのではなく、さまざまな優れた企業や組織とつながっていける仕組みを設けるべきだと思います。

 そうすれば、頼りになるパートナーと出会うこともできるし、逆に他社が構築した仕組みに味の素が参画していくことになっても良い。連携や共創に前向きな企業と出会うことが事業やサービスの創出につながる、と私は確信しているので、今こうして住さんの隣に座っているだけでも、いろいろな可能性を感じているところなんです(笑)。

:誤解を恐れずにスタートアップ周辺の本音として言わせていただこうと思うのですが、オープンイノベーションとしての企業連携の話題になると、ともすれば大企業がスタートアップをスカウティングする事例ばかりが取り上げられがちですよね。

 でも実際にはスタートアップ側も「どこ(大企業)と一緒にやりたいのか」をスカウティングしているんです。住さんや福士さんのような方がいて、スタートアップ企業の発想や提案を柔軟に受け止めて理解してくれる大企業であれば言うことなしですが。

水上:確かに強みを確立できているベンチャー企業であれば、むしろつながる大企業をこちらが選ばせてもらいますよ、という流れも今後目立っていくでしょうね。では今度はデータ活用について教えてください。


データ活用に悩む前に、パーパスを明確にするべき

福士:いわゆる顧客データや社内にある知的リソースの活用によって、それが他社との違いを生み出すためのパズルの新たなピースになるのであれば、大いに積極的に取り組んでいこうと考えています。

 ただし、知の集約化につながるデータ活用でなければ、むやみにいろいろなデータを集めても意味がない、という考え方も私は持っています。

:そうなんですよね。データを集めてくることが目的になっているような企業もあるように思いますが、私たちが目指すべき本来の目的はそこではない。「何に使うのか」「何のために必要なデータなのか」を具体化させることが先決です。

 ただ一方で、議論ばかり進めていてもいざという時に動き出せないようでは困ります。「こういうデータが必要だ」と具体化できた時に、それらを確実に手に入れられるような仕組みやシステムを整備しておくことも忘れてはいけないと考えています。

:これまで容易に利用できた構造化データばかりでなく、ストックマークでは企業内に眠っている非構造化データも活用できる技術を提供していますので、「ぜひ使ってほしい」と願っています。ただし福士さんや住さんのご指摘の通り、「何に使うためにデータを集約するのか」が明らかになっていない企業が数多くある実態を私たちも感じています。

 一つのブレークスルーとして、ご提案するならば「まずは他社のまねでも良いから、データを集め、分析して、ビジネスやサービスに生かすトライをしてみる」というアプローチもあるのではないかと考えています。

福士:林さんのおっしゃることもよく分かります。私が徹底しているのは人財資産、顧客資産、物的資産、金融資産というものを可視化していく営みです。そうして問題点を発見できた時「何をするべきなのか」、つまりパーパスが見えてくる。そうすれば結果として「こういうデータが必要だ」ということも分かるはず。

 先ほどの話題にもあった、連携すべきパートナーとの関係性も見えてくるはず。今日のCDOサミットの各セッションでも、皆さんこのパーパスの重要性を説いていますし、やはりDXで的確に成果を上げるためには、その目的をCDOが中心になって明確にすることが一番重要なのではないでしょうか。

水上:自社の資産価値を知るためのデータ活用というパーパスもあるでしょうし、社会に向けて価値を提供するためのデータ活用というパーパスもあるわけで、CDOとしてはその両面の可能性を追いかける必要があるということですね。

筆者:JBpress

JBpress

「デジタル化」をもっと詳しく

「デジタル化」のニュース

トピックス

BIGLOBE
トップへ