海自派遣を政争の具にする主要野党の狭い視野

1月16日(木)6時0分 JBpress

航空自衛隊の戦闘機

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 政府が海上自衛隊の中東派遣を昨年末に閣議決定したことを受けて、防衛大臣は海上自衛隊を中東に派遣する命令を1月10日に発出した。

 任務は日本関係船舶の安全航行に資する情報収集と関係国への情報提供・連携である。

「P-3Cオライオン」哨戒機2機が11日、海賊対処行動の基地があるジブチに向けて出発し、今月下旬から活動開始する。護衛艦「たかなみ」は2月2日に出港し、同月下旬から活動に参加する。

 これに対し主要野党は自衛隊の派遣中止と、その根拠となる閣議決定を破棄するように求めている。

 派遣に反対する野党の主張は派遣地域が危険だから自衛隊の安全が確保されないというものである。自衛隊員の身の安全を重視しているように聞こえるが、その根底には安倍晋三政権へ打撃を与えて政局にしたい意向が見え隠れしている。


自衛隊派遣は国家と国民の安全のため

 自衛隊員の安全を慮ってくれることは、現役自衛官にとっては言うまでもなく有り難いし、派遣隊員を支える家族にとっては安心感を与える印象を与える。

 また、かつて自衛官として勤務した筆者らにとっても半世紀以上も前からもっと自衛隊に前向きの関心を持ってもらいたいと願ってきたことが実るかと思うと感無量だ。

 しかし、中東派遣中止要請に絡めた野党の提議は、邪な思惑が根底に横たわっており、素直に賛成できない。

 不断の野党は、自衛隊を戦争勢力と揶揄し、特に共産党は将来の解体を企図しながら、中東派遣やPKOなどの国際協力時の派遣などだけは「安全でない」「危険な場所へ自衛隊を派遣して殺すのか」などと主張する矛盾をきたしている。

 外国の侵略や非常事態から国家を守る軍隊は古今東西、なくてはならない存在である。

 国家連合や超国家で地球平和が叫ばれることはあっても、現実は国家が最高の主権機構である。

 その存続保障の軍隊が不可欠であり、国際機構としての国際連合(国連)が機能するまでの間は、自衛権発動が認められ、交戦権を有するとしている。

 自衛隊の中東派遣に反対する野党の主張には基本的に「国家の生存と国民の安全」が抜けており、安倍憎しの裏返しで国民に「派遣される自衛隊員の安全」を訴えてお涙頂戴のゼスチャを示しているに過ぎない。

 根底に「原油の輸入=日本の存立」があると洞察するならば、「自衛隊の安全 ⇒ 派遣中止」の前に、「国家の存続・国民の安全 ⇒ 軍隊の保持 ⇒ 自主憲法の制定」があるべき主張でなければならない。

 そこまで一気にできないというならば、暫定的に自衛権としての交戦権をもつ自衛隊をはっきりと認知することが、今次中東派遣に対する野党でなければならないであろう。

 単に自衛官の身が危ないと政局に絡ませるように取り上げるのではなく、日本の存立問題として認識し、その中で派遣される自衛隊員が誇りを以って国際法に基づいて活動できる地位と名誉を与える法体制の整備をこそ、進んで政府・与党に提議すべきであろう。


自衛隊の地位と隊員の名誉が先決

 そもそも自衛隊の任務は何ぞや。

 自衛隊は創立の当初から、国家と国民の安全・安心を守るための組織であり、国家の防衛が何にも代えがたい至上の任務である。その合間で災害などに対処しているわけである。

 しかし、近年は地球温暖化の影響とみられる激甚化した災害の多発から自衛隊の災害派遣が頻繁となり、災害派遣で活躍する自衛隊の印象を強くしている。

 その結果、「自衛隊は災害対処に特化すればいい」といった世論調査結果もある。しかしこれは、本末転倒の議論であり、自衛隊の真の姿、任務が国民に理解されていないことを示している。

 地方自治体は自衛隊員の募集などで協力することになっているが、積極的に協力する姿勢を示さない地方自治体が過半であることからは、地方自治体も自衛隊の任務に対する理解が十分でないことを示している。

 自衛隊は国家の安全と国民の幸せを守る最後の砦として存在するもので、隊員は「わが身の危険を顧みず・・・」と宣誓して入隊し、仮想敵(近年は目に見えないサイバー攻撃や電子戦などにも拡大)を想定して、死に物狂いの訓練を行っている唯一無比の組織である。

 TPO次第では国家・国民を守るために自分の命を捧げますというのである。

 その任に当たるのは、モナコやバチカン市国など人口数万や特殊な国以外のすべての国が保有する軍隊である。

 国家存立の基底として、有史以来存在する軍隊は国家の基本法における優先記載事項(条項)であり、それによって地位が与えられ、隊員の名誉が保証されてきた。

 逆に言えば、国家が与えるその地位と名誉が組織と組織員を鼓舞し、わが身の犠牲もいとわない強靭な精神を練り上げるのである。その意味では軍隊でない自衛隊は中途半端である。

 国家の最高法規で明確な地位と名誉を与え、それを源泉として教育と訓練で心身を練磨してこそ、国家への無償の愛(愛国心)を止揚し、わが身の危険をも顧みない献身的な奉仕ができる。


航行するだけで安心・安全に寄与

 かつて北方領土が日本の施政権下にあり、日本が軍事力をもっていたときの話である。

 北方領土の周辺海域ではロシア(その後ソ連)の密猟などが横行していた。操業している日本漁船の妨害をし、また争いになるようなこともあったという。

 当時は北方の脅威が大であったために、適宜日本の軍艦が遊弋(ゆうよく)していた。

 そうした軍艦が遠方にかすかに見えただけで、ロシアの密漁船や争いを起していた船舶はスーッと去って行き、日本の漁師たちは安心して操業することができたという。

 旧海軍の話は別としても、今日の自衛隊はソマリア沖で海賊対処活動を2009年から行っている。

 2007年頃からソマリア沖やアデン湾で海賊行為が頻発し、2008年には戦車を含む武器が多数積載していたウクライナの貨物船「ファイナ」号が襲撃される事件が起きた。

 荷物の行き先がダルフール紛争の続くスーダンであったため、単なる海賊事件ではなく安全保障上の事態とみた米国、EU、ロシアはこの事件を境に対策の強化に乗り出す。

 日本政府も自衛隊のソマリア沖への派遣を検討し始め、2009年3月13日、ソマリア沖・アデン湾における海賊行為対処のための海上警備行動を発令。翌14日、海上自衛隊の護衛艦2隻をソマリアに向けて出航させた。

 同年6月19日に海賊行為の処罰及び海賊行為への対処に関する法律(海賊対処法)が成立する。新法施行の7月24日以降、派遣部隊は海賊対処法に基づき当該海域の警備を行っている。

 海上自衛隊の護衛艦は派遣海賊対処行動水上部隊として洋上で船舶を護衛し、P-3C哨戒機は派遣海賊対処行動航空隊として空から海域を監視している。

 陸上自衛隊はジブチに設置された基地において警護と基地管理を担い、航空自衛隊は物資と人員輸送を担っている。


おわりに:護衛艦の警護を希望する船舶

 海上自衛隊の護衛艦による警護を希望する船舶は約2600隻にのぼるという。これは、アデン湾を航行する日本関係船舶の年間隻数にほぼ匹敵するそうである。

 海賊発生件数が多発した2010(平成22)年には、219件の襲撃があり49隻が乗っ取られ、1181人が人質にされた。ニュースとしてしばしば取り上げられ、翌2011年にピークに達し237件も発生した。

 しかし、2012年には80件弱となり、2013、2014年はひと桁、2015年には遂にゼロになったことからも劇的に状況が改善した。

 世界各国が手を携え、軍艦や自衛艦などを派遣し根気強く洋上の監視を行い、海賊という共通の脅威に対抗した結果がもたらしたものである。

 今回の派遣は海賊対処に加えて日本関係船舶の安全航行のためで、ジブチ基地沖のアデン湾からアラビア海北部、そしてホルムズ海
峡(含まない)に繋がるオマーン湾まで、正しく日本列島に匹敵する広範囲である。

 国家存立の基本であるエネルギーは、輸入先や資源の多様化が叫ばれて久しいが、原油の中東依存は1970年代の石油危機時よりも増大し88%にも達している。

 他方で、ドナルド・トランプ大統領は、米国はエネルギーを他国に依存する必要がなくなったと宣言した。

 このことからは、米国の中東関与も逐次縮小が予測され、日本は自らエネルギー安全確保の必要性に迫られるということである。

 このことからも、自衛隊の活動の礎をしっかり確立することが緊要であり、憲法の見直しが不可欠である。

 その意味で、野党の自衛隊の安全云々⇒派遣中止提言は狭小過ぎる議論である。

筆者:森 清勇

JBpress

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