「合格できそう?」は最悪、「頑張って」はNG…東大生の親たちが受験会場に向かうわが子にかけた「最高のフレーズ」
2025年1月16日(木)18時15分 プレジデント社
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/koumaru
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■東大生の親に“お受験ママ”は少ない
大学入学共通テストが始まります。いよいよ試験本番が近付いてきて、「受験生のわが子に、どのように接すればいいかわからない。どんなふうに声をかけたらいいのか?」と親御さんから質問を受けることが多くなってきました。
どんなふうに接すればいいのか……。なかなか答えが出ない難しい問いですが、今回は、東大生の親御さんが受験本番直前にどう接していたのかについて、お話しさせていただければと思います。
まず、そもそもの前提として、東大生の親御さんに対してみなさんはどんなイメージを持っているでしょうか? おそらく、「すごく厳しく」て、「子供に勉強を強制」し、受験期にも「あんた、合格できるの? 大丈夫なの? もっと必死に勉強しなさいよ」とプレッシャーをかけている「お受験ママ」のイメージが多いのではないでしょうか?
僕たちの会社では東大生にアンケートやインタビューをして実情を調べていますが、実際に分析してみると、そういう親御さんは本当に少なく、むしろ逆であることに驚かされます。
親から「合格できる? 大丈夫?」と聞かれていたという家庭は本当に少なく、むしろ「体調は大丈夫? 風邪ひかないようにね」とか「あんまり遅くまで勉強していちゃダメだよ」という声かけをされていた家庭の方が多かったのです。勉強に関しては子供に任せ、受験についても最低限の話しかしなかった、という家庭ばかりでした。
■「子供の受験勉強」に口を出さない
もっと言えば、受験そのものに関しても、子供が自分でしっかり考えているなら何も口出ししない、という態度の親御さんも多いようです。
例えばどこの家庭でも、模試の成績や判定、自分のテスト結果などを親御さんに見せるのは当たり前にある状況だと思いますが、東大生の親御さんの中には、模試やテストの成績を見せることを要求せず、高校3年間で一度も「テストどうだった?」「模試の結果、どうだった?」と聞かれなかったという家庭もありました。
受験期においてもこれは同様で、合格できるかどうかは一切尋ねられず、勉強に関して口出しされなかったという家庭は多いです。60人の東大生にアンケートを取った時にも、40人の東大生が「大学受験のときに勉強についてあまり口出しされなかった」と回答していました。約7割の東大生が、受験について口出しされていなかったのです。意外ですよね。
どうして口出しされないのか? これについて、漫画『ドラゴン桜』の作者であり、多くの東大生の家庭を分析していた三田紀房先生は面白い考察をしています。東大生の親御さんは、「そもそも子供が合格しようが、不合格になろうが、どっちでもいい」と考えている場合が多いのだそうです。
■親が心配したところで、合格率は上がらない
“子供が合格したら嬉しい”とは思うけれど、それは「こんなに頑張っているのだから、報われてほしい」と思っているだけで、もし第一志望が不合格になってしまったとしても、親御さんとしては「そこまで深刻に捉えなくていい」と考えている場合が多いというのです。もっと言えば、「まあ、こんなに努力できる子供に育ったのだから、もう自分の子育ては終了したようなものだな」と考えている場合が多いのだそうです。
そもそも、受験ってなんのために挑戦するものなのかと立ち返ると、もちろん「いい学校に行くため」と答える人も多いでしょうが、それ以上に、「自分を成長させるためのチャンス」でもあると考えられます。学歴を得るだけではなく、受験本番の日まで努力して、人間的に成長して、試験会場で全力を出すことができるのならば、それだけでもう受験の目的は、半分は達成されていると言えると思います。
そういう意味では、三田先生の考察も踏まえると、受験のために努力を重ね、自分を成長させるチャンスをうまく活かして、いい大学を目指している……ということだけで、結果に関係なく子育ては成功した/終了したとも解釈できます。だからこそ、多くの東大生の親は、受験に関してとやかく聞いたり、声かけしたりしないのだと考えられます。
また、受験について親御さんが聞いたり声かけしたりしても、かえってプレッシャーをかけるだけで、あまり良い効果がないとも思います。心配を口にしたところで、合格率が高くなるわけではないからです。むしろ合格率は下がってしまうかもしれませんから、親御さんは口出ししない方がいいと思います。
■“試験を無事に受けられるよう”サポートする
ちなみに、東大生の親御さんにインタビューをしていると、「合格発表の日ではなく、受験が終わったタイミングでお祝いをしている家庭」が複数いることに驚かされます。普通はお祝いって、合格発表のタイミングですよね。でも東大生の親御さんの中には、「受験お疲れさま」のタイミングでお祝いをする家庭も多いのです。これも、合格に拘泥していない人が多いということだと考えられます。
では、「受験の結果に拘泥しない」東大生の親御さんは、どんな声かけをしていたのか? これは非常にシンプルで、「しっかり試験会場に着いて、受験できるように」ということだけを考えているようでした。
写真=iStock.com/jaimax
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/jaimax
例えば「体調大丈夫?」と身体を心配したり、「明日は雪が降るらしいから気をつけてね」と試験会場に辿り着けるようにと声かけをしたり。とにかく子供がしっかり試験を受けられるようにサポートすることを意識しているケースが多かったです。試験会場に無事に辿り着いて、しっかりと受験ができるようにバックアップしてあげるような内容です。
試験当日の朝の天気を伝えて、「明日はとても寒くなるらしいから、こんな服を着ていったらいいんじゃない?」と声をかけてあげたり、試験の日の朝ごはんやお弁当をどうするかを考えてあげたりと、試験会場でフルパワーを出せるようにサポートしてあげるのです。そしてそれ以上は関わらない、という態度でいるのがいいと思います。
■僕の母も「合格」を祈っていなかった
ちなみに僕は3回東大受験をしています。僕の受験生時代、母親は毎年1月になると、家の近くの神社にお参りに行っていました。しかも5000円を包んでお祈りしていたのです。
それに対して僕は、3年目の時に、「毎回、自分の合格を祈願してくれてありがとう」と感謝を伝えたことがあります。すると母親からは「何を言っているんだ。あんたの合格なんて祈ったことは一度もない」って言われたのです。
僕は驚いて「え⁉ じゃあ何を祈っているのさ⁉」と聞いたら、「あんたが試験会場まで無事に辿り着けるように、とだけ祈っていたんだ。身体的な不調なく、風邪引かず、雪で電車が止まったりせずに、試験会場まで無事に辿り着けるように、とは祈っているけど、合格不合格に関しては私は知らない。試験会場に行ってから、合格できるかどうかなんて、あんたの人生でしょ。それこそ神様にだってそんなこと頼めないわよ」と言われました。
これは僕の話ですが、東大生の親も同じように「親の役割」=「子供の受験のサポート」だと理解し、徹している場合がとても多いです。「お疲れさま会」も同じですね。
写真=iStock.com/miya227
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/miya227
■本番当日は「全力で挑んできなさい!」と送り出す
それでも、子供から親御さんに「合格できるかどうか不安だ」とか「自分はもうダメかもしれない」とか、弱音を吐いてくることもあるかもしれません。そういう時は、優しく「大丈夫だよ」と言ってあげてください。心配しなくても大丈夫。もし合格できなかったとしても、今までの努力が無駄になるわけではないから、大丈夫。そんなふうに伝えてあげるといいのではないかと、受験生に関わっていて感じます。
ちなみに僕の母親は、自分が「もうダメだ」「俺はまた不合格になるんだ」と口にするたびに、「なるようにしかならん!」と言っていました。
「どうなるかなんて誰にもわからないし、まだ決まってもいない。合格になったらなったで大変な大学生活が待っているし、不合格になったって死ぬわけじゃない。なるようにしかならないんだから、グダグダ言ってても仕方ない」と言われました。突き放すような言い方でしたが、確かにその通りだな、と納得した記憶があります。
東大生の親の共通点を見聞きし、東大受験の経験者でもある自分が親御さんにアドバイスできるとすれば、最後は「合格しようができまいが、どっちでもいい。ここまでよく頑張った。あとは、全力で挑んできなさい!」と声をかけるといいですよ、ということです。
そしてすべての受験が終わったタイミングで、ご馳走を出してあげましょう。合格発表の日に喜ぶのではなく、1年間受験勉強を頑張ったこと自体をねぎらい、褒めてあげる。そうすれば、受験という経験が人生にとってもいい糧になるかと思います。ぜひ参考にしてみてください。そして受験生の皆さんは、ぜひ全力で挑んできてください!
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西岡 壱誠(にしおか・いっせい)
現役東大生 カルペ・ディエム代表
1996年生まれ。偏差値35から東大を目指すものの、2年連続で不合格に。二浪中に開発した独自の勉強術を駆使して東大合格を果たす。2020年に株式会社カルペ・ディエムを設立。全国の高校で高校生に思考法・勉強法を教え、教師に指導法のコンサルティングを行っている。日曜劇場「ドラゴン桜」の監修や漫画「ドラゴン桜2」の編集も担当。著書はシリーズ45万部となる『東大読書』『東大作文』『東大思考』『東大算数』(いずれも東洋経済新報社)ほか多数。
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(現役東大生 カルペ・ディエム代表 西岡 壱誠)