米国の新法「ARIA」に猛反発、中国の反撃の一手とは

1月17日(木)6時0分 JBpress

南シナ海でのFONOPを実施した米海軍駆逐艦マッキャンベル

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 アメリカ海軍が、2019年に入って初めての南シナ海でのFONOP(公海における航行自由維持のための作戦)を実施した。それに対応して、中国は対艦弾道ミサイルでの反撃態勢が整っている状況を誇示することでアメリカ側を牽制した。


米国が制定した「アジア再保証推進法」

 1月7日、アメリカ海軍第7艦隊に所属し横須賀を母港とするイージス駆逐艦マッキャンベルは、中国とベトナム、それに台湾が領有権を主張し中国が実効支配を続けている西沙諸島(現時点では島嶼名は公表されていない)沿岸の12海里内海域を通航した。

 マッキャンベルは昨年12月5日には、ロシアによる「過剰な領海線の主張」を牽制するため、ウラジオストック沖のピョートル大帝湾でFONOPを実施した。それに引き続き、今回は中国による西沙諸島での「過剰な海洋主権の主張」を牽制し「国際法に基づいた自由航行が確保される」ためにFONOPを実施したのである。

 今回のマッキャンベルによる西沙諸島でのFONOPは、2019年初のFONOPであるというだけでなく、米国が昨年12月末に「Asia Reassurance Initiative Act(アジア再保証推進法:ARIA)」を制定して初めてのFONOPとなる。

 ARIAには、東シナ海と南シナ海を中心としたインド洋・太平洋地域において、同盟国や友好国との合同海洋訓練やFONOPを実施することにより、この海域での国際法に基づいた秩序維持を促進することを含む外交的戦略を構築し、実施しなければならないことが明示されている。

 このため、トランプ政権は今後も南シナ海でのFONOPや海上自衛隊、オーストラリア海軍、イギリス海軍などを巻き込んでの合同訓練などを積極的に実施していくであろう。


中国の反撃、砂漠地帯で弾道ミサイルを実践配置

 中国海軍はマッキャンベルを監視し“追い払う”ために軍艦と航空機を派遣した。同時に、中国外交部は「アメリカ軍艦は中国の法律と関連する国際法を踏みにじって中国の主権を侵害し、西沙諸島周辺海域の平和と安全と秩序を危殆にさらした。中国政府はこのような行為には強く反対するとともに、アメリカ政府に対してこのような挑発を直ちにやめるよう要求する。中国は、中国の主権と安全を守るために必要な手段をとり続けるであろう」という趣旨の非難声明を発した。

 このような中国側の反応は、アメリカ海軍による南シナ海でのFONOPに対しては恒例行事となっており、なんら目新しい動きではない。しかしながら今回は、新しい動きが見られた。すなわち、マッキャンベルのFONOPが実施された翌日、中央電視台が、中国人民解放軍ロケット軍が新鋭「東風26型」中距離弾道ミサイル(DF-26)を中国北西部砂漠地帯の高地に実戦配置につけた模様を伝えたのである。

 DF-26をはじめとする中国ロケット軍の近代的弾道ミサイルは、地上移動式発射装置(TEL)から発射される方式を採用している。そのため、中国内を移動して様々な地点から発射することが可能である。今回は、それが砂漠地帯の高地に姿を現したのだ。

 DF-26は最大射程距離が3000km以上(あるいは4000km以上)と言われている。そのためアメリカ軍ではグアムの米軍攻撃用と考え「グアムキラー」あるいは「グアムエクスプレス」などと呼んでいる。そしてDF-26は、地上建造物などのような静止目標だけでなく、移動する艦艇をも攻撃する能力がある対艦弾道ミサイルとされている。

 現在のところ、中国だけが開発に成功し保有している対艦弾道ミサイルの第1号は東風21D型弾道ミサイル(DF-21D)であり、DF-26はさらに性能が強化されたものと考えられている。DF-21Dは主としてアメリカ海軍の巨大原子力空母を主たる攻撃目標として開発されたが、DF-26はさらに命中精度を向上させて空母だけでなく米海軍の大型艦から中型艦、たとえばイージス駆逐艦、までをも攻撃することができるといわれている。

 要するに中国側は、「アメリカがFONOPと称して中国の領海に駆逐艦を派遣しているが、中国はいつでもアメリカ軍艦を葬り去る用意ができている」という警告を発したのである。


探知されにくい内陸奥地からの発射

 中国当局は、中国北西部の砂漠地帯という東シナ海や南シナ海の沿岸域から遠く離れた内陸部でDF-26を配置につけた状況を公表したわけだが、このことは、対艦弾道ミサイルによって、中国近海あるいは中国の“主権的海域内”に侵入したアメリカ艦艇を攻撃するという極めて実戦的な戦術を公にしたことを意味している。

 超高速で攻撃目標を目指して落下する弾道ミサイルは、打ち上げ直後から弾道軌道の頂点にまで押し上げられる上昇段階が、頂点から目標に向かう落下段階に比べると、探知されやすい。そのため、中国ロケット軍が弾道ミサイルを沿岸域で発射するのと、中国内陸奥深くから発射するのを比べると、後者の方が発射を探知されにくくなる。なぜならば、沿岸地域の方がアメリカ側が航空機や艦艇に搭載したセンサー類が充実しているからだ。

 DF-26対艦弾道ミサイルは「グアムキラー」などと呼ばれて西太平洋などの外洋を航行するアメリカ軍艦を攻撃するイメージを持たれていた(下の図)。

 だが、実は、中国沿岸域からはるか内陸の地域から発射して、南沙諸島周辺海域や西沙諸島周辺海域の“中国領海”をはじめとする南シナ海や東シナ海の中国近海に侵攻してきたアメリカ軍艦(それに自衛隊艦艇をはじめとするアメリカ同盟軍艦艇)を撃破するための“自衛”兵器ということになるわけである(下の図)。

 アメリカの侵攻に対する自衛兵器という意味合いを持たされたDF-26をはじめとする対艦弾道ミサイルは、アメリカ海軍にとっては(そして海上自衛隊にとっても)ますます厄介な代物となってしまったのだ。

筆者:北村 淳

JBpress

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