ゴーン逃亡を許した日本の法的問題点

1月17日(金)6時0分 JBpress

ロイターの取材を受けピースサインでカメラに応えるカルロス・ゴーン被告(左は妻のキャロライン氏、1月14日ベイルートで、写真:ロイター/アフロ)

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 レバノンに逃亡した日産自動車の前会長カルロス・ゴーン被告は、楽器を入れる木箱に身を隠し、プライベートジェットでセキュリティチェックを受けずに、出国したと報じられた。

 筆者は、プライベートジェットの利用者、すなわち富裕層が出入国審査をしている国の機関から、そんなに優遇されているのかと驚いた。

 富裕層が必ずしも信頼できる人たちとは限らないことはゴーン被告が例証している。

 我々が国際定期便で海外旅行に出かける時には、空港で搭乗前にかならず保安検査(セキュリティチェック)を通過する必要がある。

 保安検査で時間がかかりすぎて飛行機に乗り遅れそうになったり、あるいは荷物を没収されたりと、誰でもが一度は経験したことがあるであろう。

 その後の報道により、空港の出発ゲートであろうと、プライベートジェット専用ゲートであろうと、CIQ(入管・税関・検疫)業務は国の機関が実施しているが、保安検査は航空会社から委託された民間警備会社が実施していることが分かった。

 そして、保安検査の目的は、航空機の安全確保であるので、不特定多数の乗客が搭乗する一般の旅客機では徹底されているが、富裕層が利用するプライベートジェットでは緩いケースもあるということも分かった。

 例えば、通常、荷物はX線検査が行われるが、関西空港のプライベートジェット専用ゲートにあるX線検査の機械には木箱が入らなかったため、X線検査が行われなかったという。

 それでも、なぜ検査員が荷物を開け、中身を確認しなかったのという疑問は残る。

 周囲を海に囲まれた日本で、テロリストやエボラ出血熱などの入国・侵入を防ぐためには、国際空港・港湾において出入国審査、輸出入貨物の検査等の水際対策を的確に実施することが重要であることは言を俟たない。

 立憲民主党の枝野幸男代表は、1月4日の会見で、「こうしたことを許してしまったことは日本の出入国管理体制にとって大変恥ずかしい事態」だと指摘した(時事ドットコム1月4日)。

 筆者も日本の出入国管理はいったいどうなっているのかと思わざるを得ない。

 そこで、日本の出入国管理制度(含むテロの未然防止策)について、関連省庁のホームページ(HP)を参考に、取り纏めた。

 初めにプライベートジェット専用施設について述べ、次に保安検査について述べ、次にCIQ業務について述べ、最後に提言を述べる。

 なお、本稿は空港の出入国管理制度に焦点を当てているが、港湾の出入国管理制度も基本的に同じである。


1.プライベートジェット専用施設

 日本ではビジネスジェットをプライベートジェットと呼ぶことが多い。

 ビジネスジェット機は、自家用機(プライベートジェット)やチャーター機などに区分される。ビジネスジェットは、数人〜十数人乗りの小型機で、個人の都合に合わせて目的地まで飛ぶことができる飛行機のことである。

 主な利用者は、企業の経営層などが中心となっている。機内は机や椅子が準備され、移動しながらビジネスを行うことができ、欧米ではグローバルにビジネスを行うのに必須のツールとなっている。

 以下、関西国際空港のビジネスジェット専用施設「プレミアムゲート玉響」の場合について述べる。

(1)申込フロー(入国および出国の場合)

①前日(正午12時)までに、運航支援事業者(注)を通じて、プレミアムゲート受付(CKTS株式会社)へ「施設利用申し込み」を行う。

②プレミアムゲート受付は、受付後速やかに、受入可否判断し、運航支援事業者へ連絡する。

③運航支援事業者は、予約完了後速やかに CIQなどの関係先へ連絡する。

④当日の施設利用

(注)運航支援事業者(FBO:fixed base operator)とは、空港内または空港隣接地を拠点として、軍用および商用以外の航空機とその運航業者などに対して関連サービスを提供する事業者をいう。

(2)レイアウト

 右記レイアウトによれば、出国時は保安検査を受けることになっている。

 また、「1月6日、国土交通省より、ビジネスジェット専用施設における航空保安検査の厳格化に関する指示があり、関西国際空港では、当局からの指示に従い、関係各所と連携して、空港の保安対策強化に適切に対応します」というメッセージがHPに掲載されている。


2. 保安検査(セキュリティチェック)

 空港ではハイジャック、航空機爆破などの不法な行為の未然防止を図るため次の2種類の保安検査業務が実施される。

①機内持込手荷物検査業務:爆発物、凶器等が航空機内に搭載されないようにX線透視手荷物検査装置等を使用して、旅客が航空機内に持ち込む機内持込手荷物に対して実施する。

②受託手荷物検査業務:旅客からチェックインカウンターにおいて預かり運送する受託手荷物に対して実施する。飛行機の貨物スペースに預ける旅客の荷物に対する検査であり、主に爆発物や可燃性物質を発見することを主眼としている。

 ここで問題なのが、「誰が」責任を持って検査を実施しているかということである。

 日本国内では航空会社が責任を持って検査を行うことになっている。航空会社の行う保安検査は、航空法や航空法施行規則等の根拠法令等によって定められている。

 航空法第86条で、爆発物等を航空機で輸送してならないと定められている。

 さらに第86条の2では、「航空運送事業を経営する者は、手荷物又は旅客の携行品その他航空機内に持ち込まれ若しくは持ち込まれようとしている物件について、爆発物等の物件であることを疑うに足りる相当な理由がある場合は、当該物件の航空機内への持ち込みを拒絶すことができる」と明記されている。

 つまり、航空会社は旅客の手荷物等について危険なモノがあると疑われる場合には、航空機への持込を拒絶し取り卸すことができると法律に明記されている。

 また、日本において航空会社が航空運送業を営むためには、国土交通大臣から「許可(航空法第100条)」を受ける必要がある。

 この許可を受けるためには航空会社は各社必ず「事業計画(航空法第100条第2項)」を国土交通大臣へ提出しなくてはならない。

 その事業計画には 「航空機強取等防止措置の内容(航空法施行規則第210条第1項第7号、同法232条第1項第7号ホ)」を記載することと明記されており、この「航空機強取等防止措置の内容」が乗客の手荷物検査を含む保安措置内容ということになる。

 これらのことから、各航空会社によって、日本国内の空港における保安検査が行われている。

 しかし、実際に全国の空港で各航空会社が自ら検査を行うことは現実的には無理であるので、複数の会社が乗り入れている空港では、各航空会社が共同で保安検査会社(一般には空港保安警備会社といわれる)に委託している。

 ちなみに、国(国土交通省)は、ハイジャック、航空機爆破等の不法な行為の未然防止を図るため、航空会社との間で国内線に係る「ハイジャック等防止対策(機内持込手荷物検査業務等)費用分担に関する協定」(以下「協定」という)を締結している。

 そして、国が管理する空港において航空会社が警備業者に委託する費用の2分の1を分担している。

 ところで、警備業法(第18条)は、ハイジャック等を防止するための空港の保安検査には国家資格を持つ者を配置することを求めている。そして、各都道府県公安委員会により保安検査員の配置基準が定められている。

 大阪府の場合は、

①空港保安警備業務検定1級検定合格警備員を、空港保安警備業務を行う場所ごとに、1人

②同検定1級検定合格警備員または2級検定合格警備員を、エックス線透視装置が設置される場所ごとに、1人以上

 となっている。従って、ゴーン被告が逃亡した関西空港のビジネスジェット専用施設には、少なくても、1級検定合格警備員または2級検定合格警備員1人が配置されていたことになる。


3.CIQ業務

 CIQとは、customs(税関)、immigration(出入国審査)、quarantine(検疫)の頭文字をとったもので、出入国手続の総称である。

 日本の主要な港湾・空港のほとんどでCIQ体制が整備されている。税関は財務省、出入国管理は法務省、検疫所は厚生労働省と農林水産省が所管している。

(1)出入国管理

 日本の出入国管理制度を定めているのは「出入国管理及び難民認定法(略称入管法)」である。

 実際の出入国管理行政は、法務省の出入国在留管理庁(旧入国管理局)、入国者収容所及び地方出入国在留管理局(旧地方入国管理局)が所掌している。

 2019年4月1日から、入国管理局は「出入国在留管理庁」に組織名称が変更された。

ア.出入国管理行政の目的と根拠法令

 入管法は,その第1条において,「本邦に入国し,又は本邦から出国するすべての人の出入国の公正な管理を図ることを目的とする」と規定している。

 この「出入国の公正な管理」とは,外国人の円滑な受入れと好ましくない外国人の確実な排除をバランスよく適正に実現させることを意味するものであり、この目的を達成するために、入管法は在留資格制度を整備し、高度な専門技術を有する外国人等を円滑に受け入れることとする一方で、退去強制手続を整備し、我が国で犯罪を犯す外国人等に対しては厳正に対処している。

イ.外国人の出入国手続

 日本国籍を有しない外国人(無国籍者を含む)が我が国に入国する場合、原則として海外にある日本国大使館等で取得した査証のある有効な旅券(パスポート)を所持した上で、入国港において、入国審査官に対し上陸の申請をして、上陸許可の証印を受けなければならない。

 また、我が国から出国する場合は,出国の確認を受けなければならない。出国の確認を受けることなく出国し、又は出国することを企てた者は,刑事罰の対象となる(入管法第71条)。

 上陸審査の結果、旅券や査証が偽変造されたもので有効とはいえない場合、我が国において行う予定であると申請された活動が虚偽であると認められる場合、過去に麻薬等の犯罪で刑に処せられたことがあるなど法律に列挙された上陸拒否事由(入管法第5条)に当たるなどの場合は上陸を拒否される。

 この上陸拒否事由は、日本国の利益又は公安を害する行為を行うおそれがある外国人の入国・在留を禁止する目的で定められたものである。

ウ. テロの未然防止策

 政府は、米国中枢同時テロなどを受けて、テロを未然に防止するための措置を講ずるため入管法の改正案を平成8年3月に通常国会に提出した。

 そして、テロの未然防止策として、「指紋等個人識別情報の提供の義務付け」「テロリストの入国の規制」および「乗員・乗客名簿の事前提出の義務付け」の3つの規定が整備された。

(ア)指紋等個人識別情報の提供

 テロリストの入国を確実に阻止するためには、入国審査時に指紋などによる申請者の本人確認や要注意人物リストなどとの照合を行うことが効果的であるとされている。

 現行法(第6条)では、上陸審査時に16歳未満の者や特別永住者等を除いた外国人に指紋等の個人識別情報の提供を義務付けている。

 これまでは、他人の真正旅券を利用した入国は不正の確認が困難であったが、指紋等の提供により、本人の同一性の確認や、要注意人物リストとの照合が容易になり、過去に違う旅券で入国したことがあれば、上陸審査時にそのことが判明し、入国を防止することが可能となった。

(イ)テロリストの入国を規制する規定の整備

 テロリストの入国を阻止することや退去強制を行うことは、テロの未然防止を図る上で極めて重要であるが、これまで「テロ」や「テロリスト」について国際的に確立した定義がなく、また、それまでの入管法では、テロリストであることのみをもって入国を阻止し、又は退去強制とする規定がなかった。

 現行法(第24条)では、外国人テロリスト等について、「公衆等脅迫目的の犯罪行為、公衆等脅迫目的の犯罪行為の予備行為又は公衆等脅迫目的の犯罪行為の実行を容易にする行為」(すなわちテロ行為)を行うおそれがあると認めるに足りる相当の理由のある者として、法務大臣が関係省庁と協議してテロリストと認定する者等を退去強制の対象としている。

(ウ)乗員・乗客名簿の事前提出の義務付け

 テロリストの入国を阻止するためには、我が国に入国しようとする者に関する情報をできる限り早い段階で入手し、要注意人物リスト等と照合することが効果的であるとされている。

 これまでは、到着時に船舶等の長に対して乗客・乗員名簿の提出を義務付けることができる規定であった。

 また、外国を出発した航空機が日本に到着する前に、航空会社が搭乗手続時に取得した乗員・乗客に関する情報の提供を受けていたが、これは、航空会社の任意の協力に基づくものであり、必ずしもすべての航空会社の協力を得られていなかった。

 現行法(第57条)では、本邦に入る船舶等の長に乗員・乗客名簿の事前提出を義務付けている。

(2)税関

 税関では、旅客の所持品に対し、国の法律で定めた基準に従い、持ち込みを禁止したり、免税または課税を行う。

 また、税関職員は、関税法第105条の規定に基づき、旅券又は航空券等の関係書類の提示を求めること及び出入国時に手荷物等の検査をすることができる。

ア.出国時の税関審査

(ア)外国製品を持ち出す場合の手続

 海外旅行の際に現在使用している外国製品、例えば、時計、ネックレス、指輪などを外国に持出す場合は、「外国製品の持出し届」に持出す物の品名、数量、特徴などを記入し、現品を添えて税関の確認を受ける。

(イ)支払手段等の携帯輸出入の手続

 100万円(北朝鮮を仕向地とする輸出にあっては10万円)相当額を超える現金等(小切手、約束手形、有価証券)又は重量が1kgを超える金の地金を携帯して出国又は入国する場合には、出国(入国)時に、「支払手段等の携帯輸出・輸入申告書」を税関へ提出する。

(ウ)輸出規制品持ち出す場合の手続

 輸出が規制されている銃砲や超高性能パソコンなどの品物を持ち出す場合は、事前に経済産業省で手続を行うことが必要である。

イ.入国時の税関審査

(ア)入国カウンターでの手荷物検査

 銃や薬物など違法な物品の密輸を取り締まる監視業務と、一定額に達した土産物に課される税の徴収業務を併せて実施している。荷物の受け取りレーンなどで見かける麻薬探知犬も取り締まり業務に従事している。

(イ)税関への申告

 免税範囲を超えている旅客および別送品のある旅客は、「携帯品・別送品申告書」を提出する必要がある。

(3)検疫

 検疫業務には厚生労働省の行う検疫業務の他に、農林水産省の行う動物検疫業務及び植物検疫業務があるが、本稿では、動物検疫業務及び植物検疫業務については紙面の都合上割愛する。

ア.厚生労働省の行う検疫業務

 検疫とは、国内に常在しない感染症の病原体の国内侵入及びまん延を防止するため、海港や空港で人、貨物及び乗物の検査を行い、必要な措置をとることをいう。

 検疫所では、検疫法に基づき、海外から来港する船舶や航空機の検疫、海外の感染症情報の提供及び予防接種等の業務を行っている。

イ.日本への入国手続き

 検疫所の対象となる感染症が検疫感染症として法律で定められ、それにはエボラ出血熱をはじめ種々の感染症が指定されている。

 検疫に際しては、航空機の長から検疫前の通報及び機内の衛生状態等を示した明告書等の提示を受け、これらの感染症の病原体による汚染のおそれの有無を確認するとともに、検疫感染症の流行地から来航した旅客等については、健康状態に関する質問票の記入を求めている。

 書面または質問票による申告等で有症者が発見された場合は、医師による健康相談や問診、診察を行い、必要に応じて検査を実施する。

 また、重篤な感染症の疑い患者については、入院を委託した感染症指定医療機関へ速やかに搬送し、隔離・停留・消毒等の措置を行う。

 また、海外から来航する航空機のすべての乗員・乗客に対して、機内または検疫ブースにてサーモグラフィー(赤外線放射温度計)を用いた体温チェックと共に健康状態の確認を行い、検疫感染症の疑い(有症者)がいないかスクリーニングを実施している。


4.提言

 カルロス・ゴーン被告の逃亡事案は、日本の出入国管理制度を見直す機会を与えてくれた。赤羽国土交通大臣は、1月7日の会見で、大型荷物の保安検査を1月6日より義務化したことを明らかにした。

 しかし、今回の教訓は、大型荷物の保安検査の義務化ではない。あらゆる荷物の保安検査の徹底である。

 保安検査の甘いビジネスジェット専用施設を利用して、外為法(25条第3項)で国外持ち出しが許可対象となっている機微技術を記録した特定記録媒体等(USBメモリーなど)や輸出貿易管理令別表第1により輸出許可の対象となっている部分品・装置などを不正に国外に持ち出すかもしれない。

 このような企みを阻止する最後の砦は、荷物の中身を調べる保安検査しかない。

 そのためには、保安検査を民間の警備会社に委託(丸投げ)している現行体制を見直す必要がある。

 ちなみに、ビジネスジェットに対する保安検査の厳重化は、富裕層の来日を減少させるという否定的な意見もあるが、経済的利益よりも安全保障を優先することは言うまでもない。

 2つ目の教訓は、入出国者管理データと人工知能(AI)の活用である。

 報道によると、ゴーン被告の救出チームは日本を20回ほど訪れ、少なくとも10の空港を視察したとされる。

 日本を訪れた要員が同一人物であった場合、入出国者管理データをAIで処理すれば、AIは、短期間に日本を20回も訪れた人物を不審者として自動検出したであろう。

 3つ目の教訓は、空港でCQIに当たる入国審査官(法務省)、税関職員(財務省)、検疫官(厚生労働省)および手荷物などのセキュリティチェック当たる保安検査員(民間警備会社)の連携である。

 空港では様々な省庁の職員などが、様々な法令に基づき、様々な業務を遂行している。どうしても縦割りになりがちであろう。

 関連する職員が情報を共有するのを促進するために全体を統括する部署を新設する必要がある。この際、警察機関、特に外事警察との緊密な連携が不可欠である。

 4つ目の教訓は、刑法および入管法の罰則規定の不備である。

 現行の刑法(第97条)は、裁判の執行により拘禁された者が逃走した場合は罰せられるが、保釈中の逃走などは罪に問えない。

 また、現行の入管法(71条)は、正規な手続き(入国審査官から出国の確認を受ける)を経ずに出国した者は、「1年以下の懲役若しくは禁錮若しくは30万円以下の罰金に処し、又はその懲役若しくは禁錮及び罰金を併科する」と罰則が極めて緩い。

 早急に刑法と入管法を見直し、保釈中の逃走と不正出国の厳罰化を図るべきである。

 最後に、空港は日本を訪れる観光客を迎える玄関であると同時に、テロリストやエボラ出血熱等の入国・侵入経路でもある。

 これらの入国・侵入を防ぐためには、空港において、CIQと保安検査などの水際対策を的確に実施すること以外に方法はない。

筆者:横山 恭三

JBpress

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