徹底研究!小池百合子「カイロ大卒」の真偽〈5〉

1月17日(金)6時0分 JBpress

昨年8月、Tokyo Robot Collection に登場した小池百合子・東京都知事(写真:Motoo Naka/アフロ)

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(黒木 亮:作家)

 これまでたびたび週刊誌などでも取り上げられながら、決定的な証拠を突き付けるまでには至らなかった小池百合子・東京都知事の「学歴詐称疑惑」。アラビア語やエジプト事情に疎い日本のメディアは小池氏の学歴詐称疑惑の追及に消極的で、このままでは、この疑惑は、永遠に疑惑のまま終わってしまうかもしれない。

 小池氏の「お使い」レベルのアラビア語を聞けば、カイロ大学卒業という学歴は即座におかしいと分かる。筆者はアラビア語を学び、エジプトの大学(カイロ・アメリカン大学大学院中東研究科)を卒業した者の責務として、複数回の現地取材を含む調査で疑惑を徹底検証した。その結果、小池氏がカイロ大学の卒業要件を満たして卒業したという証拠、印象、片鱗は何一つ見出せなかった。

 これまで他のメディアが報じてこなかった小池氏の「学歴詐称」を徹底検証するレポートの第5弾をお届けする。

(前回記事はこちら)
徹底研究!小池百合子「カイロ大卒」の真偽〈4〉「不正入学」というもう一つの疑惑
https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/58869


「小池氏に関する書類を出すのは学長の承諾が必要」

 本連載の第3回で、カイロ大学をはじめとするエジプトの国立大学では、卒業証書の不正発行が横行していると書いた。

 ただし、カイロ大学は対外的信用を維持するため、サダト・ムバラク時代の“不正卒業証書”の事実には口を閉ざしている。過去にそうした不正があったことを認めれば、“不正卒業証書”を受け取った国内外の政治家、有力者、その関係者に影響が及ぶからだろう(特にサダト時代は数が多く、影響は計り知れないのではないかと思われる)。小池氏のようにエジプトに多額のODAを供与している先進国の政治家が実は卒業していないとは口が裂けても言いたくない。

 カイロ大学の現文学部長アフメド・シェルビーニ氏は、「カイロ大学では2年前から小池氏に関する書類を出す場合は学長の承諾が必要になった」と言う。

 通常ルートで正々堂々と卒業したのであれば、このような承諾は要らないはずである。また筆者が取材をしたカイロ大学の職員の1人は「小池氏の件は、政府の上層部が関与しているのではないかと思う」と話した。

 日本はエジプトに対して2016年までで総額1524億8600万円の無償資金協力(要はお金をあげること)を実施しており、カイロ大学はこれまで、大学付属の小児病院の建設・拡充や看護学部の施設改修資金として、総額で131億4900万円を受け取っている(1980年20億円、81年20億円、86年1億3400万円、87年17億8800万円、88年9億8100万円、90年1億1900万円、91年5億7400万円、92年14億8600万円、93年12億300万円、95年7億600万円、96年5億9800万円、2015年15億6000万円)。

 エジプトの1人当たりのGDPは日本の約15分の1弱なので、大雑把に言ってこの数字は、カイロ大学にとって2000億円程度の価値があるとも考えられる。

 有償資金協力(返済が必要な円借款)でカイロ大学の関係のものはないが、日本は1986年までに総額で7613億7300万円を供与している。

(参考:在エジプト日本大使館のデータ)
https://www.eg.emb-japan.go.jp/j/birateral/oda/data/mushou_shikin.htm
https://www.eg.emb-japan.go.jp/j/birateral/oda/data/yushou_shikin.htm

 カイロ大学文学部日本語学科長のアーデル・アミン・サーレハ氏は、ジャーナリスト・山田敏弘氏の取材に対し「(小池氏は)1年時にアラビア語を落としているようだが補習でクリアしている。カイロ大学は今でも4人に1人は留年するが、彼女は4年間で卒業している」と回答している。

 同じく石井妙子氏の質問に対しても「確かに小池氏は1976年に卒業している。1972年、1年生の時にアラビア語を落としているが、4年生のときに同科目をパスしている」と回答したという。

 この回答は、小池氏が1973年に2年生に編入したという多くの日本人の証言や、小池氏自身の『振り袖、ピラミッドを登る』の「1年目は落第した(その結果、早くても1977年にならないと卒業できない)」という記述と真っ向から対立する。学科長の職にある教授がこういうことを言うカイロ大学は信用に値するだろうか?


エジプト政府の思惑

 エジプトは1953年に王政から共和制に移行して以来、2012年6月から2014年6月までの2年間を除いて軍が支配してきた国で、それは現在も変わらない。日本の援助関係者は、「軍の工営隊が国の建設工事を大統領のトップダウンで請け負っている。本来入札でやるべき工事も随意契約で軍に流れる」と話し、日本の新聞記者は「儲かるビジネスはみんな軍の会社がやる」と話す。

 街には軍出身のシーシー大統領(元国軍総司令官、国防大臣)の大きな写真がいたるところで見られる。ある意味で北朝鮮のような独裁国家であり、軍が「小池氏をカイロ大学の卒業生にしておきたい」と思えば、誰も逆らえない。小池氏のほうでもシーシー大統領が就任後、複数回会いに行っている。

 2016年時点で、日本は168億ドル(約1兆8200億円)を世界各国にODAとして供与しており、米国(351億ドル)、ドイツ(268億ドル)、英国(182億ドル)に次ぐ世界第4位のODA大国である。前述のとおり、エジプトに対しても巨額のDDAを供与しており、カイロのオペラハウスのように日本のODAが目立つ形で存在している。エジプト政府がODAを受け続けたいと思っていることは疑問の余地はない。そうした状況下、カイロ大学を卒業したと称している小池氏の言葉を否定して、波風を立てたいとは思わないだろう。

 そして、カイロ大学は大学であると同時に、政府の意向を忠実に実行する国家機関なのである。


国家に統制された大学

 歴史的に見て、カイロ大学を国家(すなわち軍)の完全なコントロール下に置いたのはナセル大統領である。これは軍部独裁政治に反対し、文民統制への移行やよりイスラム的な政府の樹立を主張するカイロ大学内のムスリム同胞団や教授・学生を排除するためだった。

 1954年に学長、副学長が解任され、反ナセルとみなされた教授、教員は全員解雇され、事務職員は少しでも政府を批判すれば失職した。1962〜63年にカイロ大学法学部で学んだサダム・フセイン元イラク大統領は「カイロ大学では政治的な意見を述べた学生や講師は、即、監獄に入れられた」と述べている(浅川芳裕著『“闘争と平和”の混沌 カイロ大学』)。

 ナセルに続くサダト大統領時代(1970〜81年)も、政府の親米・親イスラエル政策や戦争遂行への反対、イスラム原理主義、ナセル主義、左翼、リベラルな知識人、ワフド党(王政時代の民族主義政党で1953年に解散)の残党などを取り締まるため、大学内に秘密警察を送り込み、戦争反対のデモを行った学生数百人を逮捕したりした。

 その後も時期によって多少の強弱の差はあっても、国家による強力なカイロ大学の支配は変わっていない。前述のとおり、現文学部長アフメド・シェルビーニ氏が「2年前から小池氏に関する書類を出す場合は学長の承諾が必要になった」と言うのも、そうした国家の統制の現れだろう。


「そんなヤワでマトモな大学ではない」

 カイロ大学文学部(オリエント言語学科ヘブライ語専攻、1995年中退)で学んだ経験がある浅川芳裕氏は2018年6月に一連のツイッターで次のように述べている。

「小池氏の詐称疑惑についてカイロ大学に問い合わせれば済む話ではとの質問がくるが、そんなヤワでマトモな大学ではない。拙著『カイロ大学』読者はご存じのとおり、大学権力を完全に掌握しているのは軍部・情報部。カイロ大学は1954年、軍部に粛清され革命評議会下に置かれて以来その伝統は続いている。現在、軍事独裁政権トップ(シシ大統領)がカイロ大学長ならびに各学部長の任命権を持っている。学科長は軍部の息のかかった学長の任命。つまり、これまで日本のメディアからの取材に対し、小池氏を卒業生として認めたり、都知事就任を祝福した学長、文学学部長、学科長らは同じ穴のムジナなのだ。カイロ大学卒業生・講師として、小池氏を絶賛し、都知事就任を祝福したナサール元学長は現在、県知事の有力候補で、大統領からの任命待ち(無選挙)。学長(学者)は権力のトップには就けないが、大学の自治・民主化運動弾圧などでうまく立ち回れば、知事や軍閥企業社長などに天下りできる。そもそもカイロ大学を軍部管理下に置いた大元の一人が小池氏の後ろ盾、革命評議会の情報・文化・メディア担当のハーテム氏だった。現シシ大統領は、ハーテムからみれば、軍部時代の弟分タンターウィー(元国軍総司令官、11年革命後の国家元首代行)の部下、つまり孫弟子にあたる人物だ。小池氏の学歴偽証については長年、疑惑が出てきては、日本からのメディアの取材に対して、カイロ大学が卒業を認めることを繰り返しては、収束してきたが、その背後には、こうした小池のハーテム人脈を頂点とするエジプトの軍部・情報部と大学の権力階層構造があることも、念頭に置いておきたい。ただ、エジプト上層部・カイロ大学側にしても、何のメリットがなければ、いくらハーテム人脈といっても長年、わざわざ小池氏を擁護する理由はない。小池氏は(正規の学業を修めていないが)カイロ大学卒業(証書取得)がハーテムの権限による特別待遇だとすれば、その見返りは何かということが問題だ。これは、日本の国益にとってより本質的な問題である。小池氏の学歴詐称問題により、エジプトの軍部・情報部に借りがあり、弱みを握られた日本人が仮に現職の東京都知事だったり、長年国会議員、防衛大臣まで務めていたとしたら」。

(参考)https://togetter.com/li/1239938

 エジプト時代の小池氏と何らかの接点のあった人々やカイロ大学関係者を多数取材した筆者も、全く同じ結論を抱いている。

(続く)

筆者:黒木 亮

JBpress

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