中国の結婚式が「午前11時58分」に始まる理由

1月17日(金)11時15分 プレジデント社

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Satoshi-K

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結婚式は午前11時58分から、引っ越し先が「606号室」なら幸運……。中国では数字に対し、並々ならぬこだわりをもつ人がいる。ジャーナリストの中島恵氏は「中国で『8』は縁起のいい数字。中には『8』が入った部屋にしたいとわざわざフロントに申し出る人もいる」という——。

※本稿は、中島恵『中国人は見ている。』(日本経済新聞出版社)の一部を再編集したものです。



写真=iStock.com/Satoshi-K
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■わざわざ正午2分前なのは「8」がつくから


「これを見てください。結婚式の招待状に、開始が午前11時58分からと書いてあるんですが、この中途半端な時刻は一体何なのでしょうか!?」


上海在住の日本人の友人が私に見せてくれたのは「喜帖」(シーティエ)と呼ばれる結婚式(披露宴)の招待状。中国では、最近はSNSで招待状が届き、出欠をすぐに返信できるスタイルが増えてきていますが、通常は赤いカードに日時や会場名、新郎新婦の名前などが記されています。


なぜ正午からではなく、午前11時58分からなのか——。日本人が不思議に思うのも無理はありません。


これには中国ならではの“特別な理由”があります。


中国で「8」は縁起のいい数字。そのため、おめでたい結婚式や店の新規オープンなどの開始・開店時刻などを、あえて午前11時58分や午後5時28分など、「8」を入れた時間にすることがあるのです。大都市では最近あまり見かけなくなりましたが、両親や年配者が気にして、このような時間帯にわざと設定する人もいます。友人が受け取ったのは、そんな中国らしい招待状だったのです。


もちろん、正午や午後5時、午後6時などに始まる結婚式も少なくありません(といっても、中国では、時間厳守ではないので、実際に始まる時間は、結局少し遅れたりするのですが……)。半端な時間は、あくまでも招待状の記載だけです。



■「606号室」は幸運、「401号室」なら縁起が悪い


家庭や地方によっても習慣は異なるので一概にはいえませんが、中国人は少なくとも、日本人よりも数字に対するこだわりがかなり強いといえます。


私の家の近所でマッサージ店を営む中国人の男性は、母親の80歳の誕生日に合わせ、吉林省に帰省してパーティーを開く予定でした。ですが、仕事の都合で誕生日当日の16日には間に合いそうもない。そこで、親戚と相談して「縁起のいい18日に変更した」とうれしそうに語ってくれました。


別の中国人の友人は、会社が手配した引っ越し先の部屋番号が「606号室」だったことに「自分の幸運を感じましたよ」とガッツポーズ。「8ほどではありませんが、6も中国ではとてもいい数字ですからね」と喜んでいました。


上海に住む友人は「66歳の誕生日には、細かく切った66切れのお肉を食べるという変わった習慣もあります」と教えてくれました。


一方、別の友人は日本で「401号室」に住んでいたところ、中国人の彼女から「縁起が悪いわね!」と叱られ、急いで引っ越しの準備に取り掛かったと苦笑していました。


■2や6、8など偶数が好まれる


数字の縁起を気にする日本人ももちろんいますが、中国人がこれほど数字にこだわることは、日本では「中国関係者」以外にはあまり知られていないのではないでしょうか。逆に中国人からすると「中国人と日本人は似ていると思っていたが、案外、そうではないところも多い」と感じるようです。


中国人は見ている。』で紹介していますが、中国人の友人によると、中国でいい数字とされるのは「2、6、8、9」など偶数が多い。「2」は対(つい)であり、シンメトリー(左右対称)が好きな中国人にとって好ましい数字。「6」は「流」(なめらかに、という意味)と同じ発音で、「六六大順」(うまくいく、順調)に通じます。


「8」は「発」と発音が似ていることから「発財」(財を成す)につながり、「財運に恵まれる」「発展する」などの意味の、中国では最もいい数字になります。北京オリンピックが開幕したのは、2008年8月8日、午後8時8分でした。その当時の報道が記憶にある、という人もいるでしょう。


「8」はあまりにも人気があるため、自動車のナンバープレートや電話番号などでも争奪戦となり、価格が高騰しました。日本に住む中国人の友人が持つ電話番号には「6」や「8」が並んでいたので聞いてみたところ、「日本では数字にこだわる人が少ないですね。だから300円の追加料金だけで、私はこんなにいい電話番号を選べちゃってラッキーです」と喜んでいました。



■6階なのに「8609階」のビジネスホテル


こだわる中国人はホテルに行っても、とことんこだわります。「8」が入った部屋にしたいとわざわざフロントに申し出る人もいます。昨年末、私が中国・大連で宿泊したホテルは中級のビジネスホテル。私の部屋は6階でしたが、部屋番号はなぜか「8609」となっていました。



筆者撮影
中国のホテルでは部屋番号の前に縁起のいい「8」を入れることもある - 筆者撮影

フロントで「8階ですか?」と聞いたところ、「6階です」とのこと。行ってみたら、すべての部屋番号が8で始まっていました。試しに5階にも降りてみたのですが、5階も「8501」という部屋番号から順に並んでいました。そこまでして縁起のいい「8」を使いたいわけですね。


「9」は例外的に奇数ですが、一桁の中で最大数であり、「久」と同じ発音で、「永遠」という意味になることから縁起がいいとされています。日本では「苦」につながるので縁起が悪いという人もいますが、中国では異なります。香港に行ったことのある人は「九龍」という地名を聞いたことがあるでしょう。縁起のいい数字の「9」と、縁起のいい想像上の動物「龍」を掛け合わせた、非常にいい名称なのです。


日中で共通なのは「4」で、両国ともに「死」につなげて考えます。中国ではホテルやマンションでも4階はありません。私が先日大連で泊まったホテルも4階は「会議フロア」と表示されていて、客室にはなっていませんでした。


■結婚式のご祝儀で奇数の額を包むのは要注意


そういえば、中国各地にある有名なホテルチェーンに「モーテル168」があります。「168」は中国語の「一路発」(イール—ファー=ずっと発展する)という言葉と似た発音になる、おめでたい名前です。安いホテルチェーンですが、縁起を担いでいるのです。


中国で最も有名な企業、アリババが運営しているサイトは「168.com」。外国人が見てもすぐに気づきませんが、これも縁起のいい数字を並べているのは、中国人には一目瞭然。とにかくこだわりが強いのです。


日本に住む私の中国人の友人は居酒屋の靴箱の番号を必ず「8」や「18」にしていました。ちなみに、私も居酒屋の靴箱や駅のコインロッカーでは、ささやかながら、同じように“実践”しています。


都市部では結婚式のご祝儀も、最近では600元(約1万円)以上ですが、段階的に800元、1000元、1200元、1600元、1800元と縁起のいい数字や偶数にするのが“常識”です。日本でのご祝儀は「割り切れない」などの理由で3万円、5万円などの奇数にするのが一般的ですが、中国では奇数はご法度。


中国に住む日本人が、中国人の結婚式に招待されて「別に日本式でも構わないだろう」と奇数の金額を包んでしまうと、人間関係がこじれてしまうかもしれないので、要注意です。



■「一本締め」や「七五三」の文化が不思議


私の中国人の友人はいいます。




中島恵『中国人は見ている。』(日本経済新聞出版社)

「来日してから、宴席で『一本締め』や『三本締め』をしたり、子どもの『七五三』を祝ったりするのを見て、不思議に思いました。中国で日本語を勉強していたときには、こういうことは習いませんでした。でも、『一本締め』の意味を聞いても、日本人も知らないことが多いですね(笑)」


日本と中国は同じ漢字を使う民族同士であり、お互いに顔も似ているので、文化も「似ている」と思い込んでしまうところがあります。しかし、よく見たり、聞いたりしてみると、同じところもあれば、違うところもあります。


経済発展を続ける中国は、街並みも、人も、10年前とは様変わりしました。しかし、ここで紹介したように、ずっと変わらないこともある。日本人の常識が中国人の常識ではないように、中国人の常識は日本人の常識ではありません。


数字ひとつとっても、日中には違いがあることがこんなエピソードからも明らかになり、文化の違いのおもしろさを感じさせてくれます。



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中島 恵(なかじま・けい)

フリージャーナリスト

山梨県生まれ。主に中国、東アジアの社会事情、経済事情などを雑誌・ネット等に執筆。著書は『なぜ中国人は財布を持たないのか』(日経プレミアシリーズ)、『爆買い後、彼らはどこに向かうのか』(プレジデント社)、『なぜ中国人は日本のトイレの虜になるのか』(中央公論新社)、『中国人は見ている。』『日本の「中国人」社会』(ともに、日経プレミアシリーズ)など多数。

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(フリージャーナリスト 中島 恵)

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