【東京医科大学】肝線維化を制御する経口投与可能な核酸医薬品の開発 ~ 飲み薬で肝硬変を改善する方法を目指して 〜

2025年1月20日(月)14時5分 Digital PR Platform




東京医科大学(学長:宮澤啓介/東京都新宿区)先端核酸医療講座 村上善基 客員教授(朝日大学 歯学部 総合医科学講座 内科学分野 教授・朝日大学病院 消化器内科 教授)、分子病理学分野 梅津知宏 講師、黒田雅彦 主任教授らの研究チームは肝線維化に対し経口で制御可能な核酸を開発し、米国遺伝子細胞治療学会誌「Molecular Therapy, Nucleic Acids」(IF 6.5)に掲載されました。




【概要】 
 東京医科大学(学長:宮澤啓介/東京都新宿区)先端核酸医療講座 村上善基 客員教授(朝日大学 歯学部 総合医科学講座 内科学分野 教授・朝日大学病院 消化器内科 教授)、分子病理学分野 梅津知宏 講師、黒田雅彦 主任教授らの研究チームは肝線維化に対し経口で制御可能な核酸を開発し、米国遺伝子細胞治療学会誌「Molecular Therapy, Nucleic Acids」(IF 6.5)に掲載されました。

【本研究のポイント】
●肝線維化に対する標準治療は、原疾患の治療により炎症を改善させ、肝線維化の進行を防ぐ対症的な治療方法です。現在のところ肝線維化を直接の標的とした治療方法はありません。
●マイクロRNA (miR-29a-3p)の補充が肝線維化の回復促進効果があることは確認されていましたが、核酸を生体に投与する場合には核酸の遺伝子導入方法に工夫が必要です。
●miR-29a-3pを安定的に生体に投与するため、核酸を修飾した「修飾核酸」は遺伝子導入に必要なキャリアー物質を用いず、マウスの実験モデルに経口投与で肝線維化改善効果を示しました。

【研究の背景】
 慢性肝疾患の治療目標は肝線維化進展抑制と発がん抑制による肝疾患関連死を減少することです。しかし肝線維化を直接標的とした治療方法はなく、各原因物質(C型肝炎ウイルスであれば抗ウイルス治療を行う、アルコールであればアルコール摂取を制限するなど)を排除したのちに、宿主の治癒能力により線維化が改善するのを待っているのが現状です。また肝線維化が増悪し非代償性肝硬変になった場合は、肝移植しか治療方法がありません。
 マイクロRNA*1は、標的mRNAの翻訳を分解または発現を抑制することで遺伝子発現を制御する小さな内因性非コードRNAです。発がん、線維症など多くの状態、病態にマイクロRNAの発現異常が関連しています。近年疾患の原因である遺伝子発現異常をマイクロRNAにて制御する核酸創薬が試みられています。肝臓は構造上、小分子は取り込まれやすい構造になっており、核酸創薬の標的臓器としては最適です。また慢性肝障害の創薬について適当な動物実験モデルがなく、ヒトとマウスでの薬物動態が異なっていることなどが研究開発の律速段階となっています。



【本研究で得られた結果・知見】
 今回注目したmiR-29a-3pは肝線維化進展に関係するCollagen 1A1(細胞外マトリクス)と持続的な炎症反応に関係するPDGFC、IL-1βの発現を直接制御します。肝線維化進展は持続炎症の結果、細胞外マトリクスの増生が起こるため、miR-29a-3pにより複数の遺伝子発現を制御することで肝線維化進行を阻害することが期待できます。また、本研究では、従来の核酸創薬の問題点である薬物輸送(送達)システム (drug delivery system (DDS))*2に関して、マイクロ RNAがRNA分解酵素から阻害されるのを防ぐため、核酸(マイクロRNA)に特殊な化学修飾を行いました。その結果、本マイクロRNAは、遺伝子導入試薬やDDSを用いずに、経口投与によって、肝線維化の抑制を可能にしました。

【今後の研究展開および波及効果】
 現在本邦で進められている肝線維化を標的とした創薬は、(1)非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)に対しPNPLA3阻害剤の皮下注射の治験、(2)CBP/βカテニン阻害剤(OP-724)の静脈注射による治験が、いずれもフェーズ2に進んでいます。両者とも注射薬ですが、肝疾患患者は血管が脆弱な人が多いため、簡便に投与できる経口投与可能な薬剤の登場が期待できます。また、マイクロRNAは元々生体内にある分子であるため、生体に対する毒性も低く、安全性の高い薬剤であることが期待されます。

【用語の解説】
*1 Victor Ambros博士とGary Ruvkun博士は共同でマイクロRNAの発見の功績にて2024年ノーベル医学生理学賞を受賞しました。彼らの発見は、遺伝子制御のまったく新しい原理を明らかにし、それが人間を含む多細胞生物にとって不可欠であること示しました。現在、ヒトゲノムは 1,000 を超えるマイクロ RNA をコードしていることがわかっています。マイクロ RNA は、生物の発達と機能に根本的に重要であることが証明されています。
*2 Drug Delivery System(DDS)とは、必要な濃度で、必要な期間、必要な細胞・組織へ薬物を送達するシステムのことを示します。薬物の体内動態を最適化する創薬・創剤技術と定義されます。このことで薬剤は特製の作用が増強され、副作用の発生リスクが軽減され、必要最小限の薬剤投与による経済性などを期待することができます。


【図の説明】
A: 核酸の構造
B: 核酸を経口投与し、小腸に到達したのちに肝組織に移行するメカニズム
C: 核酸が門脈を通り肝類胴に至ると、類胴上皮細胞の間隙を抜け肝星細胞や肝細胞に至る
D: 核酸を投与する前の肝線維化がある状態
E:核酸投与後肝線維化が改善した状態
F: マウス肝組織を線維染色(細胞外マトリクスを染色する(赤の部分))を行った結果
(上段=肝に炎症を生じ線維化がある状態、中段=生理食塩水を投与した状態。下段=核酸を投与した状態)
G: Fで示した線維染色陽性面積(赤で染色される部分(線維化の部分)の面積を数値化し、比較したもの)

【論文情報】
タイトル:Development of novel nucleic acid therapy aimed to directly controlling liver fibrosis
著  者:Tomohiro Umezu, Masakatsu Takanashi, Koji Fujita, Akio Ishikawa, Yuichirou Harada, Yoshinari Matsumoto, Masahiko Kuroda, Yoshiki Murakami*(*:責任著者) 
掲載誌名:Molecular Therapy: Nucleic Acid
DOI:https://doi.org/10.1016/j.omtn.2024.102438


【主な競争的研究資金】
日本医療研究開発機構 B型肝炎創薬実用化等研究事業



▼本件に関する問い合わせ先
企画部 広報・社会連携推進室
住所:〒160-8402 東京都新宿区新宿6-1-1
TEL:03-3351-6141(代)
メール:d-koho@tokyo-med.ac.jp


【リリース発信元】 大学プレスセンター https://www.u-presscenter.jp/

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