ウクライナ機撃墜と中国・北朝鮮

1月21日(火)6時0分 JBpress

イランに撃墜されたウクライナ機の犠牲者を追悼する人々(写真:ロイター/アフロ)

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 ウクライナ航空機が、1月8日の夜明け前の暗闇の中イランの首都テヘラン近郊で墜落した。

 墜落は、イランがイラクの米軍駐留基地をミサイル攻撃(真夜中の午前1時30分頃)した数時間後であった。

 欧米各国のメディアは当初、イランの地対空ミサイル(以下、ミサイル)の誤射によって撃墜されたとする見方を示した。

 一方、イランは「技術的な原因だ」「いかなるミサイルも機体に当たっていない」と述べ、撃墜の可能性を否定した。

 予想に反して、翌日には、イランはこの旅客機を誤って撃墜したことを認めた。

 欧米諸国がなぜ、「ミサイルによる撃墜だ」と判断したのか、イランが「なぜ、撃墜したことを認めざるをえなかった」のか——。

 これについて、自衛隊が装備する防空兵器の運用・整備の教育を受講したことや情報分析の業務に長く携わってきたことなどの知見を加えて分析する。


ミサイルが航空機に命中する様子

 メディアが公開している監視カメラが捉えたとする撃墜瞬間の映像を見て、ミサイルと航空機の動きを順番に解説する。

①青白い光が、旅客機よりも速いスピードで、斜め上空に上がって行く。ミサイルによる撃墜の証拠1。

②明るい閃光が、瞬間、丸く広がる。ミサイルが何かと衝突したことを示す。

③衝突後にも光は消滅しない。航空機が爆破したことを示す。この瞬間、爆破の規模は不明である。

④閃光が収まると、右上空に薄明るい細い光が広がる。ミサイルの破片ともに破壊された航空機の一部分が、燃焼しながら、飛び散った様子を示す。

 ミサイルと衝突しない限り、このような光の流れは生起しない。ミサイルによる撃墜の証拠2。

⑤光が、左の方向にしばらく移動する。ミサイルが命中して、機内の一部が、燃えながらも飛行していることを示す(図参照)。

⑥青白い光が、よろめくように下方に動いて、その後落下する。飛行不能になって落下することを示す。

 ①と④の事象は、機内にある火薬が爆発した場合には、発生しない事象で、ミサイルが衝突したことの明確な証拠である。

ミサイルが航空機に命中、爆破・燃焼する様子(イメージ)


航空機に衝突するまでの航跡

 イラクとイランは、陸続きで接している。日本と北朝鮮のように、海を境に遠く離れてはいない。

 そのことから、捜索用の防空レーダーを高い山に設置していれば、遠くの航空機やミサイルを発見し、監視することができる。

 米国は、レーダーをイラクやイランの周辺国に配置、あるいは、弾道ミサイル探知のために電子戦機を飛行させて、そのレーダーでイラン国内のミサイル発射の動きを監視していた。

 軍事衝突が予想されるときに、監視の目を出しておくことは、当然のことである。

 イランの弾道ミサイルを監視していた時に、偶然、地対空ミサイルがウクライナ機に衝突する様子がレーダーの監視画面(写真参照)に現れて、その事実が判明したのだろう。

地対空ミサイルシステム用レーダーの監視画面


電波情報の解明で分かる
ミサイル発射部隊

 軍事衝突が予想されるほどの軍事的緊張がある中で、米国の電波情報収集機関、つまり米国の国家安全保障局(NSA)は、電波(情報をやり取りする通信情報とレーダー波などの電子情報)傍受する派遣部隊をイラク国内やイランの周辺国に配備して、イラン軍の電波情報を収集していたものと推測される。

 ミサイルによる航空機撃墜の決定的証拠は、イラン防空部隊と上級司令部との会話などのやり取りを含んだ通信状況を傍受したことと、その記録だろう。

 イランの地対空ミサイルと一体になって動く防空レーダーが作動状態にあれば、捜索用レーダー波と追随用レーダー波などの電子情報を放射する。

 米国は、これらの電子情報とロックオンや発射を示す電子情報を入手し、発射されたミサイルの種類を特定する。

 米軍は、公開された映像、通信情報、そして電子情報を、時間経過に沿って総合的に照合した。

 そして、何時何分に、イラン軍のどの司令部が射撃指示を出し、どのミサイル部隊がミサイルを発射したか、また、その後の民間機を撃墜したことが判明してからの司令部内の状況が分かったのだろう。

 イラン側は、それらの情報の一部を見せつけられて、ミサイル撃墜を認めたと考えるのが妥当である。

 上記の情報は、地上の基地局による収集の他、「RC-135」などの電子戦機が飛行し、情報収集していたことも十分考えられる。

 米軍は、イランが撃墜を認めたことで、証拠となったこれらの秘密性の高い電波情報を公開することはないだろう。

 なぜなら、これらの情報を公開することで、米国の電波情報収集機関の情報収集能力やその方法が、中国やロシアなどに知られてしまうからだ。


どのような通信場面がキャッチされるか

 正確な通信の交信内容が公開されることは、「ない」と言っていい。

 だが、かつて、通信の交信内容が公開された事件がある。それは、樺太上空で行われた大韓航空機撃墜事件だ。

 秘密性の高い情報が公開された理由は、旧ソ連が、航空機を撃墜したことを、絶対に認めようとしなかったからだ。

 公開された情報を紹介すると、1983年9月1日、旧ソ連防空軍戦闘機が、旧ソ連樺太の領空を侵犯した大韓航空のボーイング747機(KAL007便)を撃墜した。

 午前3時半前にKAL機と東京コントロールとの交信も途絶えた。

 旧ソ連は当初、撃墜したことを否定していたが、大韓航空機の航跡が、航空自衛隊稚内基地のレーダーサイトのレーダー監視画面から消滅したことも明らかにされた。

 次に、自衛隊の電波傍受機関が、戦闘機パイロットと地上局とのボイス交信内容を受信し、その撃墜の詳細が世界に公開された。

 旧ソ連は、その事実を隠蔽することができなくなり、戦闘機パイロットが撃墜したことを認めた。

 今回のウクライナ機撃墜について、イラン軍動向のどのような場面がキャッチされたのかについて、大韓航空機撃墜事件などの不測事態の事例を参考にして、私が推測したシナリオを解説する。

 航空機を撃墜した後、

①ミサイル操作員から部隊長に発射と撃墜の報告がある。

②ミサイル部隊から上級司令部へ、同じ報告がある。

③民間機の撃墜であったことが判明してからは、司令部内部やミサイル部隊が大混乱になり、併せて、司令部と部隊間の交信が大量に行き交う。

 昭和60年、日航機が群馬県御巣鷹山に墜落した時には、当初、災害派遣を行った自衛隊の派遣司令部の電話でさえも、鳴りっぱなしだったと聞いている。

④交信内容は、傍受されている可能性があるために、本来、暗号がかけられるのが軍通信の常識だ。

 だが、緊急でかつ混乱している場合には、交信内容に暗号をかける間がないので、秘匿されてない膨大な量の生の交信文が行き交い、交信の錯誤も生じる。

 その時が、電波情報収集のチャンスであり、重要な情報が入手できるのである。

 イラン軍の通信は、このような状況になっていたために、米国の電波情報収集機関にしっかりと情報を収集されたに違いない。

 そしてそれが、カナダにも伝えられ、そして、イランに証拠として突きつけられたとみていい。


ウクライナ機撃墜は現実的な情報戦

 旧ソ連は撃墜を認めた後も、「大韓航空機007は、民間機を装ったスパイ機だ」と主張した。

 今回の事態で、イランは「米軍の反撃への備えや、恐れの中で起きた誤り」「ウクライナ機が進路を変え、イラン革命防衛隊の重要な軍事施設に近づいたため」と言い訳をした。

 つまり、「我々のミスは、もともと相手国の脅威が我々に迫っているからであり、関係国の航空機が怪しい動きをしたからだ」といった趣旨を主張する。

 撃墜した国は、まず撃墜した事実を認めない。認めたとしても相手国の動きが、我々の誤りを誘発したと反論する。

 このように、撃墜した国の思惑を撃ち砕く証拠を出さなければならないのが、軍と軍が対立する世界の実情だ。

 旧ソ連やイランは、自国軍がミサイルを発射し、旅客機を撃墜したことを認めた。

 だが、相手国の軍艦を撃沈させ、旅客機を爆破し、証拠を突きつけられても、全く認めない国家がある。

 それが北朝鮮だ。拉致でさえも長期間認めなかったが、交渉の末やっと金正日総書記がそれだけは認めた。


日本は緊急事態の情報戦で勝て

 日本の周辺には、軍事大国である中国やロシア、何をしでかすか分からない北朝鮮、日本の哨戒機にロックオンした韓国が存在する。

 航空自衛隊は日々、中露軍が情報収集のために、日本に接近してくる飛行に対応している。

 その中で、中国空軍戦闘機の過激な飛行により、接触事故が発生しそうになったこともあった。

 2001年には、海南島付近の南シナ海上空で、米軍の情報収集機に中国空軍の戦闘機が接触し、中国軍機は墜落、米軍機は海南島に不時着したということもあった。

 中・露は、自国の過激な飛行を認めることなく、相手国の航空機が悪いと非を責めたてるケースが多い。

 日本は、周辺海域において今回のウクライナ航空機撃墜と同様の事案が起こることを想定して、何時でも証拠を突きつけられるように、24時間昼夜を問わず、綿密・周到な情報活動に専心すること。

 情報戦に勝利するためには、情報を収集して分析するだけでは不十分である。

 これを使って、騙そうと仕かけてきた情報戦を打ち破り、事実を認めさせなければならない。

筆者:西村 金一

JBpress

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