マラソン凋落の"元凶"は、駅伝とテレビ局

1月21日(日)11時15分 プレジデント社

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日本人は「駅伝」が大好きだ。毎年1月には数々のレースがテレビ中継される。一方、五輪種目のマラソンでは日本勢の苦戦が続いている。日本の長距離界のために駅伝とマラソンを両立させる手はないのだろうか。元箱根駅伝選手であるライターの酒井政人氏は「2つの秘策がある」という——。

■マラソンにとって駅伝は邪魔な存在なのか


日本人は「駅伝」が大好きだ。特に1月は駅伝のハイシーズン。元日の「ニューイヤー駅伝」(全日本実業団駅伝)から、「箱根駅伝」(東京箱根間往復大学駅伝競走)、「皇后杯 全国女子駅伝」、「天皇杯 全国男子駅伝」と立て続けに開催され、テレビ中継も行われる。




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一方、マラソンでは日本勢の苦戦が続いている。現役選手は世界記録と男子で4分以上、女子は6分以上も引き離され、昨夏のロンドン世界選手権では「入賞」にさえ届かなかった。テレビ視聴率も、襷をつなぐドラマ=駅伝ほど高くない。


なぜ日本勢はマラソンで低迷するようになったのか。陸上関係者に聞くと、「駅伝がマラソンをダメにしたのではないか」という声が少なくない。つまり「駅伝がなければ、もっとマラソンを強化できる」と感じているようなのだ。


▼「駅伝は自分のキャリアの役には立っていない」

昨年12月の「福岡国際マラソン」で現役日本人選手最速の2時間7分19秒(日本歴代5位)をマークした大迫傑(Nike ORPJT)に、「駅伝の経験は現在のキャリアに役立っているか?」と聞いたところ、こんなアンサーが返ってきた。


「僕の走りに関しては(役立っている点は)ありません。ただ学生スポーツとして、大学卒業してからも付き合っていける友人を見つけるためには、すごく助けになったと思います。人間関係を構築する意味ではすごく良かった。そのままでしたら友達は少なかったと思いますから(笑)」


大迫の言葉には「駅伝」の“問題点”と“存在意義”が示されている。どういう意味か。この点を理解してもらうためには、駅伝とマラソンの関係について把握する必要がある。



■ニューイヤー駅伝の開催日「元日」がネック


陸上関係者が「駅伝がなければ」といったときの「駅伝」とは、元日の「ニューイヤー駅伝」(全日本実業団駅伝)を指す。一般的に「駅伝」といえば、大学生の「箱根駅伝」を想起する人が多いと思うが、これはそれほど”やっかい”な存在ではない。




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箱根駅伝でヒーローになり、マラソンでも2時間7分台をマークした今井正人(トヨタ自動車九州)も筆者に対してこう話す。


「箱根駅伝は大学時代に4回しか走れません。明確な目標があるので、選手もそこに向かって自然とモチベーションが上がる。でもその後、実業団に入ると、どこに目標を置いていいかわからなくなる選手は少なくありません」


全日本実業団駅伝のほうが箱根駅伝よりレベルは高い。だがテレビ視聴率では全日本実業団駅伝は箱根駅伝の半分以下だ。陸上長距離で箱根駅伝以上に注目される“舞台”は、オリンピックや世界陸上といった世界大会しかなく、そこに挑める選手は限られている。目標設定が難しいため、「駅伝でチームに貢献できればOK」という甘い考えの選手も出てきてしまう。


▼主要マラソン大会の間に組まれた「駅伝」がやっかい

さらに全日本実業団駅伝が“やっかい”な存在であるのは「レース・スケジュール」だ。


男子の場合、12月上旬に福岡国際マラソン、2月下旬に東京マラソン、3月上旬にびわ湖毎日マラソンと、3つの代表選考レースが開催される。ところが、その間となる元日に全日本実業団駅伝が行われるのだ。全日本実業団駅伝で優勝経験のあるエースランナーは、駅伝とマラソンの両立について、以前筆者にこう語っていた。


「チームとしては駅伝の優勝が最大の目標になります。そのため、直前の福岡国際を走るのは難しい。かといって全日本実業団駅伝の後にマラソン練習をするとしても、東京やびわ湖だと時間が足りません」



■駅伝とマラソンを「両立」させる秘策があった


マラソンで結果を残すためには、2〜3カ月の練習期間が必要になる。ところが、シーズンのど真ん中である正月に全日本実業団駅伝がある。マラソンは42.195kmの戦いだが、ニューイヤー駅伝は最長区間が22.4kmで、他の6区間は8.3〜15.8kmしかない。当然、マラソンと駅伝のトレーニングは変わってくる。よって、駅伝はマラソンの邪魔でしかない。それが多くの選手の本音だ。




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全日本実業団駅伝での名門チームといえば、2000年以降に8度優勝しているコニカミノルタと3度優勝しているトヨタ自動車だ。しかし、この2社に所属する選手は、マラソンでは結果を出せていない。両チームの日本人最高タイムは野口拓也(コニカミノルタ)の2時間8分59秒と、尾田賢典(トヨタ自動車)の2時間9分03秒だ。


近年マラソンで結果を残している前出の大迫や川内優輝(埼玉県庁)の共通点は、駅伝の“縛り”がないことだ。大迫が快走した昨年12月の福岡国際では、好タイムを期待されていた佐藤悠基(日清食品グループ)が思うような結果を残すことができなかった。11月の全日本実業団駅伝の予選会で脚を痛めたからだ。こうした例はひとつやふたつではない。駅伝はマラソンの障害となっていると言わざるをえない状況だ。


▼駅伝・マラソンの開催日程をチェンジせよ

では、駅伝がマラソンの“邪魔”をしないようにするにはどうすればいいのか。


実は、スケジュールを見直すことで、かなりの部分が解決できる。たとえば、2、3月に行われている代表選考レースを、11〜1月に前倒しすると同時に、現在元日に行われている全日本実業団駅伝を3月にスライドするのだ。


どのチームも夏には北海道や標高の高い涼しい場所で距離を走り込むため、夏合宿から11〜1月のマラソンレースに臨む流れは自然なかたちになる。そして、駅伝はトラックの長距離種目(5000m、1万m)と距離が近いので、トラックシーズにつながりやすい(4〜5月にはサーキットや記録会、6月には日本選手権が開催されている)。スケジュール見直しにより、マラソンも駅伝もスムーズに両立できるのだ。



■スケジュール変更の“抵抗勢力”は「あの組織」


実現のためには、日本陸連が全日本実業団駅伝の主催者を説得する必要があるだろう。元日の全日本実業団駅伝は日本実業団連合が主催で、毎日新聞社、TBSテレビ、群馬県が共催する形をとっている。




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メディアは自社のかかわっている駅伝やマラソンの注目度を、少しでも上げたい。毎日新聞社やTBSテレビは元日の全日本実業団駅伝を「ニューイヤー駅伝」と呼んで盛んに宣伝してきた。このため3月へスライドすることには難色を示すだろう。


だが、「ニューイヤー駅伝」という名称を続けることと、日本勢のマラソン強化では、どちらが重要だろうか。日本陸連がイニシアチブをとり、確固たるビジョンを掲げて、スケジュールを調整・管理すべきではないだろうか。


▼ニューイヤー駅伝の出場は「4回まで」にせよ

駅伝とマラソンの両立について、もうひとつ秘策がある。


それは、全日本実業団駅伝の出場回数に制限を設けることだ。たとえば、「出場は4回まで」という規定にすれば、個人のレースにも集中しやすくなる。大卒から4年連続出場した場合には26歳。マラソンに向けて本格参戦するにはちょうどいい。箱根駅伝のように出場できるチャンスが限られることで、選手は高いモチベーションを維持できる。視聴者にとっても熱いドラマを期待しやすくなる。


駅伝は日本特有の文化で、日本人の琴線に触れる美しさを持っている。駅伝という文化が長距離の裾野を広げたことは高く評価すべきだろう。また箱根駅伝の人気があるからこそ、高校駅伝や実業団駅伝も盛り上がる。


ただ、駅伝でどれだけ頑張っても、マラソンの強化にはつながりにくい。駅伝とマラソンが両立できるような「仕組み」を考えることが、日本長距離界の“明るい未来”につながる第一歩になるはずだ。



(スポーツライター 酒井 政人 写真=iStock.com)

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