地球の永久凍土帯に広がる地形を用いて、火星の地下に氷が豊富にある場所を特定!
2025年1月23日(木)20時5分 Digital PR Platform
高知大学理工学部の長谷川精准教授らの研究グループは、火星周回衛星で撮像された衛星画像を利用して、地球の永久凍土帯に見られる周氷河地形の分布を探索し、火星中緯度域の浅部地下に氷が豊富に存在する場所を精密に推定しました。火星の浅部地下氷は、2040年代に計画されているNASAの火星有人着陸探査時の水資源として利用可能であり、本研究で明らかにした地下氷が豊富に存在する場所を、将来の火星有人探査時の着陸候補地として提案しました。
ポイント
◎火星周回衛星で撮像された衛星画像を利用して、地球の永久凍土(※1)帯に見られる周氷河地形(※2)の分布を探索し、火星中緯度域の浅部地下に氷が豊富に存在する場所を精密に推定した。
◎周氷河地形の分布は、隕石衝突で形成された新しいクレーターの底で地下氷の存在が確認されている場所や、気候モデル(※3)により推定された多量の降雪がある場所と一致した。
◎火星の浅部地下氷は有人着陸探査時の水資源として利用可能であり、本研究で明らかにした地下氷が豊富に存在する場所を、将来の火星有人探査時の着陸候補地として提案した。
概要
岡山大学大学院環境生命自然科学研究科(博士前期課程)の佐古貴紀さん(高知大学理工学部卒業生)、高知大学理工学部の長谷川精准教授、岡山大学惑星物質研究所のルジ・トリシット准教授、イタリア・ダヌンツィオ大学惑星科学研究大学院の小松吾郎准教授(千葉工業大学惑星探査センター客員主席研究員)、東京科学大学地球生命研究所(ELSI)の関根康人教授らの研究グループは、火星周回衛星から得られた衛星画像を探索し、地下氷の存在により形成される周氷河地形の分布を調べ、火星中緯度で地下氷が豊富に存在する場所を精密に推定することに世界で初めて成功しました。
現在の火星は極寒乾燥な環境からなり、地表に液体の水は存在しません。しかし地下数十cm〜数mには、永久凍土の形で多量の水氷が存在していると考えられています。この浅部地下氷は、2040年代に計画されている火星有人着陸探査の際に、飲料や燃料の形で水資源として利用可能です(図1)。そのため有人探査が可能な火星のなるべく低緯度域に、浅部地下氷が豊富に分布する場所を正確に把握することが求められていました。
そこで同研究グループは、地球の永久凍土地帯に広がる「周氷河地形」と似た地形が、火星の地表にも見られることに着目しました(図2、3)。周氷河地形は、地球では特に永久凍土地帯に発達します。周氷河地形の中でも、特に地下の氷が冬季に凍結・膨張し、夏季に融解・収縮を繰り返すことで地表に亀裂ができる、「ポリゴン地形(図3)」に着目しました。そして永久凍土帯の南限域に当たるモンゴルで調査を行い、ポリゴン地形の形状の違いによって地下氷の深度が異なることを明らかにしました。
この成果を基に、米国航空宇宙局(NASA)の火星周回衛星「マーズ・リコネッサンス・オービター(※4)」で撮像された高解像度衛星画像(HiRISE(※5))を用いて、4,789箇所で火星の表層地形を観察し、有人探査候補地の北半球中緯度域(N30°〜42°)において、地下氷が豊富に存在する場所を探索しました(図2)。その結果、アラビア台地、ユートピア平原、アマゾニス平原の3つのエリアに、対象とした周氷河地形が多数分布し、浅部地下氷が豊富に存在する可能性が高いことを明らかにしました。本研究で明らかになった周氷河地形の分布領域は、隕石衝突により形成された新しいクレーターの底部で地下氷の露出が確認されている場所や、気候モデルにより推定された多量の降雪がある場所とも一致しており、この場所を将来の火星有人探査時の着陸候補地として提案しました。
この成果は、米国地球科学連合が発行するオープンアクセス科学誌「Journal of Geophysical Research: Planets」に2024年12月30日付けで掲載されました。
今後の展望
2040年代に計画されている火星有人着陸探査に向けた先行探査として、NASA、ESA(欧州宇宙機関)、CSA(カナダ宇宙庁)、ISA(イタリア宇宙機関)、そしてJAXA(宇宙航空研究開発機構)を主体とした国際協同探査 [Mars Ice Mapper (MIM) 計画] が計画されています。MIM計画では、合成開口レーダーを用いて火星中緯度域の地下氷分布を正確に調べることを目的としており、2030年代前半に実施予定となっています。JAXAもMIM計画に参画しており、火星磁気圏の観測のための周回衛星機器と、火星表面に着陸する着陸探査機(ランダー)を搭載することが計画されています。本研究による火星中緯度域(北緯30°〜42°)の浅部地下氷分布に関する研究結果は、このJAXAの火星着陸探査機(ランダー)の着陸候補地の選定においても、重要なデータとして活用されると期待されます。
詳細については、添付の資料をご確認ください。
用語の解説
(※1)周氷河地形:氷が地下にあることによって形成される特殊な地形で、永久凍土帯に多く見られる。火星の中緯度でも地球に似た地形が発見されており、地下氷の存在を示唆する指標として利用されている。
(※2)永久凍土:少なくとも2年以上通して地温が0℃以下に保たれる土壌のこと。地表や地下に凍結した水分を含んでおり、氷が存在するため、周氷河地形が発達しやすい。アラスカやカナダ、シベリアなどの寒冷地に分布。
(※3)気候モデル:地球科学や気象学で使用されるシミュレーションで、気温、降水量、風の流れなどを計算し、気候変動などを予測することが可能。火星では大気循環の理解などに使用される。
(※4)マーズ・リコネッサンス・オービター (MRO):NASAが運用する火星探査機で、2006年から火星の軌道を周回し表面を観測。超高解像度カメラ「HiRISE」などの観測機器を搭載している。
(※5)HiRISE:MROに搭載された超高解像度カメラで、High Resolution Imaging Science Experimentの略。1ピクセル約30cmで火星表面の微細な地形や構造を捉えることが可能。地球のGoogle Earth画像は最大1ピクセル約50cmであり、それより高解像度に地形の観察が可能である。
発表論文
雑誌名:Journal of Geophysical Research: Planets
論文タイトル:The periglacial landforms and estimated subsurface ice distribution in the northern mid-latitude of Mars
著者:Takaki Sako、 Hitoshi Hasegawa*(責任著者)、 Trishit Ruj、 Goro Komatsu、 Yasuhito Sekine
佐古 貴紀(岡山大学大学院環境生命自然科学研究科(博士前期課程))
長谷川 精(高知大学自然科学系理工学部門 准教授)
ルジ トリシット(岡山大学惑星物質研究所 准教授)
小松 吾郎 (ダヌンツィオ大学惑星科学研究大学院 准教授、千葉工業大学惑星探査センター客員主席研究員)
関根 康人(東京科学大学 地球生命研究所ELSI教授)
巻号:v.130, e2023JE008232.
DOI: 10.1029/2023JE008232
研究に関する問合せ先
高知大学自然科学系理工学部門 准教授
長谷川 精
Tel: 088-844-8321
E-mail: hito_hase★kochi-u.ac.jp (アドレスの★を@に変換して送信してください)
▼本件に関する問い合わせ先
高知大学広報・校友課広報係
TEL:088-844-8643
FAX:088-844-8033
メール:kh13@kochi-u.ac.jp
【リリース発信元】 大学プレスセンター https://www.u-presscenter.jp/