なぜ社員の飲み代を会社が負担するのか? 補助制度の狙いと効果

1月24日(水)8時0分 Forbes JAPAN

どんなにITが進化して情報共有が容易になっても、人間同士のコミュニケーションにはときどき誤解が発生する。組織の問題の多くがコミュケーションに起因するものだ。

このコラムでは、Sansanが創業から10年間で導入した社内制度について、その設計・運用上のポイントなどを紹介する予定だが、第一回の今回は、このコミュニケーションの問題について取り上げたい。当社もこの問題についてはいつも頭を悩ませ、手を打ってきたが、その中でも自信を持って紹介したい制度がある。

それが「Know Me」だ。

読みは「ノーミー」。日本語に訳せば「私を知って」であり、その響きは「飲み」である。つまり、飲み会を通して社員同士の相互理解を深めてもらうことを目的とした飲み会補助制度だ。ダジャレのような名前だが、制度はネーミングが8割といっても過言ではない。

「Know Me」とは、「他部署」で「過去に飲んだことがない」人と「3名まで」であれば、飲食費を1人につき3千円まで補助する制度だ。

「なぜ社員の飲み代を会社が補助する必要があるのか?」と疑問に思った人もいよう。「昔から上司は部下を飲みに連れていくものだし、同僚同士で飲みに行くのは普通のこと。業務でないものに会社がお金を使う意味がわからない」そんな声もあるだろう。しかし、ここにはあえて会社がお金を払ってでもやった方がいい3つの理由がある。

理由1. 飲みに行くと仲良くなる

言わずもがなであるが、飲みに行くと仲良くなる。仲良くなると仕事がしやすくなる。飲み会の次の日から呼び方がニックネームやファーストネームになって、距離がぐっと近づくということは誰にでも経験があるはずだ。

そして、あえて「これまでに接したことがない」「他部署の人」(例えば営業とエンジニアなど)で飲みに行くことで、他部署の仕事への理解が深まり、いわゆるセクショナリズムの発生を防止できる効果がある。

理由2. 放っておいても飲みに行かない

仕事終わりに上司が部下を飲みに誘う光景はずいぶん減ってきた。家族持ちの多いマネジメント層はもちろんのこと、若手層も仕事とプライベートを分ける傾向にあり、特別な社内イベントでもないない限り、飲み会が自然発生する機会は減ってきた。よって、社員を飲みに行かせたければ、何らかのインセンティブが必要になってきている。

ちなみに、「飲み」とはいっても必ずしもお酒を飲む必要はないし、時短社員に配慮してある時からランチもOKにした(もちろんお酒はNGだが)。ランチの場合の補助は1人千円を補助している。

理由3. 制度化することでオフィシャル感が出る

社員を飲みに行かせることを会社が推進していることに大きな意味がある。もちろん、制度の利用は任意なので、行きたい人だけが行くわけだが、「会社が推進している」という背景が背中を押してくれる。

オフィシャルな制度なので、相手を飲みに誘いやすくなるし、誘われた方もすんなり受け入れられる。これが極めて重要。特にこれまで関わったことのない人を誘う時に、口実がないとなかなか誘えないし、全く知らない人から誘われたら「なんで?」と思うが、会社がそれを推進しているので、誘う方も誘われる方も気が楽だ。これがまさに「制度化する」ことの意味である。

次に、この制度設計における4つのポイントを説明する。

ポイント1. 他部署の人を誘う必要がある

この制度を始めたのは、創業3年目、社員30人くらいになった頃。部署ができ、役割が明確になってきたことで、「他の人が何をやっているのかわからない」という声が出てきた頃だ。これは組織の拡大とともに避けられないことであるが、こうした状況を放置すると、そのうち「営業は現場のことがわかっていない」「現場は顧客視点がわかっていない」などといった不満に発展する。

しかし「Know Me」をすることで、営業は「エンジニアがどんな思いで開発しているのか」「仕様変更がいかに大変なのか」といったことがわかるし、エンジニアは「営業の仕事がいかに大変なのか」「顧客が何を求めているのか」という視点を得ることができる。

実際に筆者は、営業が「あのエンジニア達が本気で作ったものなんだから、なんとしても俺たちが売ってやる」と言っていたり、エンジニアが「営業達が売れないということはプロダクトに問題があるのだから、もっといいモノを作ろう」と言っているのを聞いたことがあり、この制度の効果を実感している。

ポイント2. 過去に飲みに行ったことがない

できるだけ多くの社員と交流して欲しいためこの条件をつけているが、そのうち全員が初顔合わせというのは難しくなり、条件は組織の拡大とともに何度かチューニングしている。現在は「過去に一度もKnow Meしたことがないペアが1組以上あること」「 過去3か月以内にKnow Meしたことがあるペアが含まれていないこと」を条件としている。制度の主旨を損なわず、かつ利用のしやすさも担保するためには絶えずこうしたチューニングが必要だ。

ポイント3. 人数は3人以内

この人数制限が肝である。10人の飲み会では単なる宴会になってしまう。しっかり全員と話ができ、本音で語り合える人数としては「3人以内」がベストだ。もちろん2人でもいい。4人でも悪くはないが、3人の場合よりも何も話さない人が出てくる確立が高まる。やはり、コミュニケーションの質が最も高まるのは3人がベストというのが経験則だ。

ポイント4. キャッチーな名前

制度を流行らせるためにはネーミングが重要だ。「飲み会補助制度で飲みに行かない?」と言うより、「Know Meしない?」と誘う方がよりフレンドリーで誘いやすい。当社の社内制度はどれもネーミングに凝っており、制度を考える時にはまず名前から決めるというくらい重視している。ネーミングについては別の回でも取り上げたい。

なお、この制度は「1人月2回まで」という回数制限があり、かつ会社全体での1ヶ月の総枠が設定されているが、会社としてはそれなりのコストをかけている。筆者はこの制度はどの会社にも強くお勧めしたいと思っているが、企業によって費用対効果は異なるだろう。では、どんな企業にとって「Know Me」は費用対効果が高いのか。それは以下の条件を満たす組織だ。

・ビジョン、理念を重視している
・企業の成長スピードが早い
・仕事の内容がころころ変わる

ビジョンや理念といった抽象的な概念を全員で共有するには、より腹を割った対話が必要だ。また、企業の成長スピードが早く仕事の内容がころころ変わる環境においては、「自分の仕事はこれだけ」「それ以外はやらない」というより、絶えず自分のポジショニングを確認しながら他者、他部署と連携していく必要がある。スポーツでいれば野球というよりサッカーに近い。Sansanにおいては、この緊密な連携について「7人8脚」と表現している。

最後に一つ重要な点について触れておく。それは、これらの制度をSansanでは「福利厚生」とは言っていない点だ。

「福利厚生」とは本来の意味は別にして、少なくとも「社員満足のためのもの」といったイメージがある。確かに「Know Me」は飲み代を補助するので、社員は喜ぶし、ある側面では「福利厚生」と言えなくもない。しかし、狙いはあくまで「ビジョン、理念に向かう望ましい行動を社員に促す仕掛け」であり、コミュニケーションを円滑にして「仕事の生産性を向上させること」である。

また、「社員満足のためのもの」と理解されると、ともすると「社員の権利」と誤解され、将来的に制度の廃止・改変がしずらくなるということも経営観点として抑えておきたい点だ。

これから複数回にわたって当社の社内制度を取り上げることになるが、それらは全て同じ考え方に基づいている。もしコラムを読んで読者の会社でも取り入れたいと思っていただけたら幸いだが、その際には是非この点も踏まえて一貫したメッセージを社内に発信することをお勧めする。

Forbes JAPAN

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