ゾゾタウンの前澤友作氏が億万長者になれた理由

1月25日(金)6時6分 JBpress

2018年9月、米スペースX社が計画している月面周回旅行で、ロケットの最初の搭乗者であると発表された前澤友作氏(写真:AP/アフロ)

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 2018年9月、一人の日本人経営者が世界中で話題となった。「ZOZOTOWN」で知られるファッション通販大手、株式会社スタートトゥデイから社名を変更した株式会社ZOZO(以下ゾゾ)の創業者であり、現社長の前澤友作氏が月へ宇宙旅行に行くとアメリカで公表したからだ。

 本業でも全身タイツのようなボディスーツで体の寸法を測ってオーダーメイドの洋服を製造・販売するゾゾスーツが大きな話題になったが、現在では「月旅行へ行く社長」、最近では「ツイッターで1億円のお年玉を配った人」と説明した方が分かりやすいかもしれない。

 一部では1000億円かかるとも報じられている宇宙旅行にポンと財布を弾める前澤氏の個人資産にも注目が集まっている。なにしろ宇宙旅行以外にも、数十億円に上る美術品やバイオリン、100億円の豪邸など、豪快なお金の使いっぷりで度々話題となっているからだ。

 執筆時点でのゾゾの株価に株数を掛け合わせた同社の時価総額(企業としての値段)は6800億円程度となる。国内の時価総額ランキングを見ると180位前後に位置し、コンビニチェーンのローソン、カメラメーカーのニコン、精密機器の島津製作所、製造小売りの良品計画など、歴史ある大手企業と肩を並べる水準にある。

 そして創業者である前澤氏の株の持ち分は37.94%で、おおよそ2500億円と巨額な個人資産だ。企業としてのゾゾも売上高が2018年3月期には約984億円、純利益は約201億円と利益率の高い優良企業である。

 なぜゾゾはここまで急成長したのか? そしてなぜ前澤氏は一代でここまでの資産を築くことができたのだろうか?


ゾゾタウンの「平凡」なビジネス

 前澤氏のプロフィールは「異色」の一言だ。

 進学校に通っていた頃からバンド活動に明け暮れ、卒業後はプロデビューを果たす。並行して趣味で行っていた個人輸入のレコード販売が当り、年商1億円にまで達する規模となる。そしてバンド活動と通信販売の二足のわらじを経て、2001年にはより大きな可能性を感じた通信販売の経営者へ舵を切る。後に洋服も扱うようになったこの通信販売が、現在のゾゾタウンの前身となる・・・。

 多少でもゾゾタウンや前澤氏に興味がある人ならば、断片的でも聞いたことがある話だろう。ただ、異色の社長・前澤氏が経営するゾゾは主に洋服の通信販売を行う企業だが、何か特別な事業を行っているようには見えない。要するにアパレルのネット通販だ。

 2018年3月期のゾゾタタウンの取扱高は2700億円*を突破して急激に成長しているが、誤解を恐れずに言えば事業自体は「平凡」と言っても差支えは無いだろう。今時、ネットで洋服を売る企業はゴマンとある。

*受託販売の売上総額。

 しかし、これは「今現在の常識」で見た場合の話だ。忘れてしまっている人も多いかもしれないが、ほんの少し前までネットで買い物をすることには多少なりとも違和感があった。そしてその違和感は、短期間で「ほぼゼロ」になってしまったのだ。

 そもそもネット通販には馴染む商品もあれば馴染まない商品もあると考えられていた。その証拠に、ネット通販大手のアマゾンもスタートは書籍販売からだった。このように本やCDなどサイズが小さくどこで買っても同じものが手に入る通販向きの商品もあれば、通常は試着が必要な洋服のように通販で扱うにはハードルが高い商品もある。

 更にインターネットが普及し始めた頃は、ネットはいかがわしい場所、怪しいモノというイメージを強く持たれていたことも影響してか、高級な商品ほどネットへの参入は遅かった。

 これはインターネット普及期にネットを象徴するものが出会い系サイトや匿名掲示板などイメージが良くないサービスの印象が強かったことも原因と思われる。パソコンやネット=一部のオタクが使うモノ、といったイメージもまだ強かった頃だ。

 インターネットの通信販売は顧客にも売り手のアパレル企業にも極めて危なっかしく、胡散臭く、到底信用できない場所に見えていた。少なくともブランド価値が極めて重要なアパレル企業がリスクを冒して参入するメリットは全くと言っていいほど無かった。

 そんな状況で洋服の通販に乗り出し、しかも人気ブランドを扱おうと考え、そして実行したことはメチャクチャな発想であり立派なイノベーションだったわけだ。


飛躍のきっかけはユナイテッドアローズの参加

 筆者が自宅にヤフーBBのADSL回線を引いてインターネットを使い始めたのは2000年頃だ。当時気に入っていた国産のアパレルブランドはネット通販を行わないどころか、公式サイトすら無かった。そしてしばらく経って公式サイトがやっとできたと思ったら、載っている情報は採用に関するものだけ……これは極端な事例ではあるものの、それだけアパレルがネットから距離を置いていたということだ。今と全く異なる状況がその時代にはあった。

 そんな中、ゾゾタウンは人気ブランドをラインナップに加えるべく奔走し、国内でもトップクラスの人気と知名度を誇るセレクトショップのユナイテッドアローズを取り扱うことに成功する。

 ユナイテッドアローズの現名誉会長・重松理氏はネット通販への参入について以下のように語っている。

 社長の職にあった1995年から5年ほどかけて研究をしたが最終的にやらないと決めた、洋服は着てみないと分からないのでECは難しい、様々な会社から提案もあったがピンとこなかった。しかし当時のスタートトゥデイについてはサイトの作りが格好良く、自分達の好きな洋服を売っている感じが良く伝わってきた。そして自らスタートトゥデイのオフィスを訪れたという。

「当時の従業員は10人ほど。社長の前澤(友作)さんと話したら、物事に対する視野がすごく広いし、商品の質やサービスのあり方についてもよく考えていた。こういう人たちが次の流通を担うんだろうなと思ったし、商売と関係なしに彼らのサービスをずっと見ていきたいとも思った。

 程なくして出てきたのが『ZOZOTOWN(ゾゾタウン)』(04年開始)だった。当時見せてもらったデモ画面では、複数のブランドの店舗が集まった街がサイトに形成されており、とにかく格好よかった。すぐにやりたいと思って出店を決めた。ゾゾタウンは洋服が本当に好きな人たちが情熱を持ってやっている。当時、ほかのECサイトからも出店の話をいただいたが、そうした情熱は感じられなかったので、出店はしなかった」(『ユナイテッドアローズ名誉会長が語る 私がZOZOを選んだ理由』週刊東洋経済PLUS 2017/09/23号)

 ゾゾが成長した理由、飛躍するきっかけは多数あったと思うが、ユナイテッドアローズ出店は大きな要因になったと思われる。そして前述の通り、ブランド価値が毀損するリスクを多くのアパレル企業が心配していたように、ユナイテッドアローズもまた5年も検討した結果、進出を取りやめていた。しかしそれでも「ここならば大丈夫」と信頼を得るだけのパワーがゾゾタウンにはあったということだ。

 2005年にユナイテッドアローズが出店すると人気ブランドがこぞってゾゾタウンへと出店するきっかけとなった。アパレル各社が「ユナイテッドアローズがネットに、ゾゾタウンに進出したのにウチは何をやってるんだ!?」と慌てたことは間違いないだろう。


WEARというロック魂

 ゾゾタウンに関して、個人的に最も気に入っている逸話が「WEAR騒動」だ。

 ファッションアプリ・WEARは2013年にサービスを開始している。現在ではファッションスナップに特化したSNSで、一般人からモデル・芸能人まで多種多様な人がアップロードした写真を見てコーディネートの参考にできる。そしてそのままゾゾタウンでも買い物ができるアプリだ。

 WEARISTA(ウェアリスタ)といって、特に人気がある人はWEAR公認モデルのような存在となり、ウェアリスタが着た服は一瞬で売り切れてしまうこともある。さながらカリスマモデルだ。

 しかし当初WEARの最も重要な機能は、アパレルショップの店頭で洋服のバーコードを読み取り、お店で買うか後でゾゾタウンで買うか、じっくり検討できるという仕組みだった。これは店頭で実物を見てからネットで買う、いわゆる「ショールーミング」を推し進めるもので、当然のことながら百貨店やファッションビルからは猛反発を受けた。ルミネに至っては全店舗で撮影禁止、つまりWEARを使えないように締め出した。

 結局このバーコードを読み取ってゾゾタウンの販売につなげる機能は、パルコなど一部店舗とは実験的に提携はしたものの、反発の大きさに継続は難しいと判断したのか、後にサービスを中止することになる。

 今改めてWEARがやろうとしていたことを考えると、ネットや店頭の区別無く販売につなげる「オムニチャンネル」や、オンラインで集客して実店舗への来客を促す「O2O(オンライン・トゥ・オフライン)」の発想を先取りしており、再度同じ機能が復活すれば今度は協力したい企業が殺到するようにも見える。

 WEARの最も重要なバーコード読み取り機能が使えなくなった際には、個人的には完全にこのアプリは失敗に終わったと見ていた。「ツイッター、フェイスブック、インスタグラム等がすでに使われている状況で、ファッションに特化したSNSに需要があるのか?」と思ったのだが、結果として現在では1000万ダウンロードを超え、多数の利用者がこぞって写真をアップロードすることでゾゾ利用者のすそ野を広げ、売り上げ拡大に貢献したのだ。

 WEARの当初のサービスは常識的に考えれば事前に根回しするのが当然だが、「そんなことをやっていたら何年かかってもサービスを開始できない」と考えたのだろう。良くも悪くも常識にとらわれない前澤氏の「ロック魂」が現れたトラブルとも言える。この会社はとんでもないことをやるな……と個人的に強く印象に残った出来事でもある。


資産家になれたのは貯金したからではない

 売り上げや利益の額を見ればゾゾが企業として大成功したことは間違いない。しかし、それにしても前澤氏の数千億円という個人資産は多すぎやしないか? どこからお金が出ているのか……? そんな疑問を感じた人もいるかもしれない。

 アメリカの経済誌・フォーブスの長者番付では、上位に保有資産が円換算で兆単位の資産家が並ぶ。そのほとんどが創業して会社を上場させた経営者か、あるいは親から会社を引き継いだ2代目、3代目が占める。桁違いのお金持ちを目指すには起業して上場させることが最短ルートであることは間違いない。

 多額の収入を得ている職業としてスポーツ選手や歌手等もあるが、年収は世界トップクラスでも数十億円から百億円程度だ。この収入でも兆単位まで資産が増えることは無い。なにしろ、それだけ稼げる全盛期はマドンナのような例外を除けば極めて短いからだ。

 ゾゾの売上高は2018年3月期で約984億円、税引き後の純利益は約201億円だ。配当は約87億円、前澤氏の持ち分から考えると、昨年ならばその1/3程度の30億円ほど受け取っているはずだ。

 巨額の報酬と言えるが、配当額を考慮しても前澤氏の資産2500億円とは大きなズレがある。役員報酬もゾゾで1億円以上を受け取っている役員はいない。つまり配当や報酬をコツコツ貯めても2500億円には全く届かない。前澤氏の資産のほとんどがゾゾの株であることは間違いない。


上場でお金持ち?

 上場するとお金持ちになれる……。多少でもビジネスや株式投資に興味がある人ならば聞いたことはないだろうか。会社が株式市場に上場することは株式公開と言って、誰でも自由に株を売買できることを意味する。

 上場するためには株が活発に売買される必要がある。そのためには一定数以上の株主が必要で、創業者が100%の株を握ったまま上場することはできない。そこでオーナーや上場前に出資したベンチャーキャピタル(VC)は上場時に株を売り出す。

 安く株を取得していたVCは上場で大きな利益を得る。株式公開の最大の目的は資金調達なので、追加で株を売り出し、調達した資金を投資にあてることも重要な意味を持つ。

 そして、例えば上場時に時価総額が100億円、創業者が60%の株を保有していた企業があったとする。その半分の30%の株を創業者がIPOで売りに出せば、30億円の現金を手にした上に、残り30%の株式も30億円で評価される。総額で60億円、一夜にして大金持ちだ。

 その後、株を手放すこと無く急激に成長して時価総額が上場時の100倍、1兆円に到達した場合、創業者の資産は3000億円になる。多数の株を保有することから多額の配当を受け取ることもできるため、ちょっとやそっとの豪遊をしたところで株を売る必要も無い。前澤氏が気前よくお年玉を配って美術品を買い、その上で超のつく大金持ちになったのもこのような流れだ。

 では前澤氏を日本でも有数の資産家へと押し上げた「企業についた値段」、株価とは一体何を表しているのか?


株の価値とは?

 株価を語るには株の意味を知る必要がある。株式市場で売買されている株は会社の権利を細切れにしたものだ。全て集めて100%保有すればオーナー、つまり持ち主となる。株を保有することで得られる権利は主に3つある。

 配当を受け取る権利(利益配当請求権)、解散時に残った資産を受け取る権利(残余財産分配請求権)、そして株主総会で投票する権利(議決権)だ。利益・資産・議決権と、この3つの権利が株価の源になる。

 ゾゾの2018年3月期に生み出した利益は201億円と巨額に上る。昨年はゾゾスーツへの期待が高まり、時価総額は1兆円を大きく超えた。その後はゾゾスーツの製造・配布に手間取り、加えてゾゾスーツを利用した洋服の受注生産も大幅に遅れて株価は大きく下げた。株式市場全体が下落したことも影響した。

 将来得られるであろう利益に株価は強く影響を受ける*。「株価は将来得られる利益を現在の価値へと形を変えたもの」だ。つまり株価の正体、株価の源は将来の利益である。前澤氏の保有する2500億円という巨額の資産は将来の利益を先取りしたものであるわけだ。

 ゾゾの株価はごく穏やかとはいえ好景気の継続、そしてゾゾスーツへの期待で大きく上がり、そしてその両方が萎むことで高値の半分以下まで下落した。

*厳密には利益よりもキャッシュフロー、あるいはフリーキャッシュフローと表現すべきだが、ここでは利益と表記しておく。またこのような考え方を「割引現在価値」と呼ぶ。


株式市場で揺れ動く「価値と価格」

 投資家が売買の判断をする際には、「現在の株価は将来の利益をまだ反映しきっていない」と思えば割安と判断して株を買う。逆に「将来の利益と比べて株価が高すぎる」と思えば株を売る。

 つまり「将来の価値」と「現在の価格(株価)」を天秤にかけて判断をする。そして思惑の異なる多種多様な投資家の売りと買いが株式市場でぶつかってマッチングすると、そのぶつかり合いが株価を動かし、売買が成立する。

 当然のことながら投資家の思惑も日々変わる。企業の業績が良くても相場が冷え込めば株価は下がり、逆に企業の業績がイマイチでも相場の上昇によって株価が上がる場合もある。

 前澤氏の数千億円の資産は、バンド活動の片手間で行ったレコード販売を、年商1000億円近いファッション通販の上場企業まで成長させることで築き上げられてきた。

 無から有を生み出すことに成功した創業者の前澤氏は金銭的に大きな見返りを受け取ることができたわけだが、その個人資産のほとんどがゾゾ株式ということを考えると、株価の動向が前澤氏の資産額にもダイレクトに影響する。

 現在の株価について詳細な判断は避けるが、昨年の最高値を付けた夏ごろと比べ、現在はその半値以下。株価が大幅に下落したことで、「今後も従来通りに成長し続ける」と見る投資家にとっては割安、「いや、業績は横ばいで推移するだろう」と見る人にとっては現在の水準くらいが妥当と映るかもしれない。その意味で、同社の株価はまさに踊り場にあるように見える。

 正月に行われたお年玉キャンペーンが功を奏したのか、株価は多少持ち直したようだ。そう、前澤氏の派手なパフォーマンスも、ゾゾの株価に影響しているのだ。なにしろ社長が500万人超のフォロワーを抱える企業は国内に無い。前澤氏の発信力が業績にプラスに働くことは間違いない。

 前澤氏のロック魂は今後もアパレル業界にイノベーションを、株式市場にサプライズを巻き起こすことはできるのか。今後のゾゾに注目したい。

筆者:中嶋 よしふみ

JBpress

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