超大手企業の花形部門で働く20代社員が口に発した「離れ小島」の意味とは?

2024年1月18日(木)4時0分 JBpress

「職場がゆるくて、成長実感がないから辞めます」。これまでの育て方が通用せず、会社を離れようとする若手社員に、上司はどう向き合えばいいのか?本連載は、リクルートワークス研究所の主任研究員が、独自調査を通じてZ世代の実像に迫り、効果的な育成ポイントを解説した『なぜ「若手を育てる」のは今、こんなに難しいのか』(古屋星斗著/日本経済新聞出版)から、内容の一部を抜粋・再編集。若手社員の定着・育成のヒントを探る。

 第1回は、若手社員の「囲い込み」が、会社に対する愛着などにどう影響するかについて、調査データをもとに解説する。

<連載ラインアップ>
■第1回 超大手企業の花形部門で働く20代社員が発した「離れ小島」の意味とは?(本稿)
■第2回 総合電機メーカー入社3年目の若手が、副業先の地方企業で得た手ごたえとは?
■第3回 調査で判明、育成上手のマネジャーになるための「黄金ルート」とは?(2月1日公開)
■第4回 マネジャー歴10年、大手企業社員が気づいた、若手育成の重要なヒントとは?(2月8日公開)

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「パフォーマンスが高い若手ほど退職する」問題への対応仮説

■若手育成に意味がないこと、意味があること

 この非常に厄介な問題にマネジャーや企業が向き合うためにどのような対応が有効だろうか。まず、パフォーマンスが高い若手に対する育て方の打ち手として、ここまでの内容から見えてきている事実をもとに、有効な対応の仮説を述べる。

①囲い込み策は無意味

 能力もあって意欲もある、そんな優秀な若者がいる場合、自分の手元に残して存分に活躍させたいと思うのは人情だ。

 部下の若手が他所でその力を尽くしているのを見ると、「そんなことしてないで、こっちでもっと力を出せよ」と思ってしまう経験は筆者にもあるし、その気持ちが本当に全くないというマネジャーはいないだろう。

 しかし、外の世界を見せないことは、本当に自分が働く会社への愛着や忠誠心、エンゲージメントを維持し、高めるのか。

 実際には真逆である可能性がある。20代の若手社会人2000人以上に対して行った調査結果からは、興味深い事実が浮かび上がっている。

 まず、社外の活動が自社への評価にどう作用するのかを調べてみよう。様々な「社外での活動経験の有無」と「会社に対する評価」の関係を整理するべく比較した。

 例えば「収入を伴う副業・兼業」を経験した若手(5・8ポイント)は、経験していない若手(5・4ポイント)より自社(現職企業)への評価が高い。無報酬の副業・兼業(プロボノ活動)、学び直し、ボランティア活動、社外勉強会の主催・参加といった社外活動の経験の有無で比べるとすべての活動で、「社外活動を経験している人の方が、会社への評価が高い」 という傾向が出ている。

 さらに、社外活動の頻度と自社への評価点の関係性を見てみよう。

 現職企業の評価点が高い若手は、社外活動スコアも高いことがわかるだろう。例えば、自社に対して10点満点をつけている若手は、社外活動スコアが+1・62ポイントと高頻度、6〜9点をつける若手についても+0・30〜1・04ポイントと社外活動の頻度が上昇していく。一方で、0〜3点を自社につけた若手は、社外活動スコアが−0・70〜−0・46ポイントとなっており、低い。

社外活動をしている人は、自分の会社が好き」 という傾向が見られるのである(なお、図表7—10では「社外活動と企業評価の関係」をより明確にするため、“過去の社外活動スコア”と“現在の企業評価点”を比較し、転職をしていない若手に限定して集計している(サンプルサイズ1407)が、現在の社外活動スコアと現在の企業評価点を比較しても全く同様の傾向となる)。

 この結果の意味することはとてもシンプルだ。

「他社と比べてはじめて、自社の良いところがわかる」

 比べることではじめて長所を知り、短所を許せるようになることは、ショッピングでも恋愛でも同じ。人間の“あたりまえ”だ。
「自分がやりたいと思った社外活動を認めてくれた」こと、会社が自分の挑戦を後押ししてくれた信頼感から、「会社に対して本気で貢献したいと思った」と筆者に語ってくれた若手社会人もいる。

「会社が自分のことを応援してくれている」と感じたことで、個人と会社のギブアンドテイクの循環が回り出す。これこそ、新しい個人と会社の関係の芽吹きではないか。

 また、外から自社を客観的に見ることで、自社の強みを再確認することもある。研修の一環として全くの異業種に出向していた若手の話もある(第3章のIさんの話を参照)。

 外の経験がもたらした視点は、自社の見方をも変える力がある。

 日本を代表する超大手企業の花形部門で働き、社内で数々の革新的な取り組みを行ってきたとある20代の社員は、自社のことを「離れ小島」と揶揄していた。外の世界から遮断され、組織の内側の話だけで1日が終わっていく。そんな人材が囲い込まれた様子を、彼は情報が入ってこない孤島、離れ小島に例えていたのだ。予想外の言葉に、思わず何と言ったのか聞き返したほどだ。

 あなたの会社はどうだろうか。ほとんどの会社は、社員に自社へ愛着を持ってもらいたい一心だろうし、彼ら彼女らを囲い込んで情報を制限しようとは全く思っていないだろう。ましてや若手から「離れ小島」と思われているなんて考えたこともない会社も多いはずだ。

× “離れ小島”に囲い込む
〇 かわいい子には旅をさせよ。早々に外の体験を与え、自社の職場での仕事・キャリアの特徴(長所と短所)を認識させる

<連載ラインアップ>
■第1回 超大手企業の花形部門で働く20代社員が発した「離れ小島」の意味とは?(本稿)
■第2回 総合電機メーカー入社3年目の若手が、副業先の地方企業で得た手ごたえとは?
■第3回 調査で判明、育成上手のマネジャーになるための「黄金ルート」とは?(2月1日公開)
■第4回 マネジャー歴10年、大手企業社員が気づいた、若手育成の重要なヒントとは?(2月8日公開)

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筆者:古屋 星斗

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