なぜ恋人たちは井の頭公園のボートで別れるか

1月27日(月)11時15分 プレジデント社

※写真はイメージです(写真=iStock.com/mizoula)

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井の頭公園のボートに乗るとカップルは破局する——。この種の都市伝説は多く、“カップルの破局スポット”は全国いたるところにあります。ではなぜ、「そこで」破局する人が多いのでしょうか。行動経済学と確率論でアプローチします。


※写真はイメージです(写真=iStock.com/mizoula)

■混雑によるイライラが破局の原因なのか?


みなさんは、こんな話を聞いたことがありませんか? 吉祥寺にある井の頭公園でデートをしてカップルでボートに乗るとその後、その二人は別れることになるというお話です。実を言うと、この都市伝説は全国にあります。名古屋だと東山公園の池、京都は嵐山の渡月橋付近の大堰川でボートに乗ってはいけない、大阪では天保山にある海遊館に行くと別れる、といった具合です。


実際に調査をしたわけではありませんから(少なくともそんなデータは見たことがありません)、それが正しいかどうかは確認しようがないのですが、多くの人がそのように言われると思い当たるフシがあるようなので、まことしやかに伝えられている都市伝説と言っていいでしょう。


この理由は昔から様々な解釈がなされています。例えば井の頭公園にある弁財天は女性の神様なので、カップルに嫉妬して仲を引き裂くからだと言われます。でも神様が嫉妬するなんてことがあるでしょうか? これは七福神の中で唯一の女性の神様であることから、どうやら「女性は嫉妬深い」という男性の勝手な思い込みから考えた理屈のような気がします(本当は男性の方が嫉妬深いんですけどね)。


他にも行楽地ではどこも混雑するので、待っている間にイライラして喧嘩しがちになるから別れることになる可能性が高いのだ、とも言われます。でもその程度のことで喧嘩して別れるのであれば、多分結婚してもうまくいくはずがないので、その人達は恐らく最初からうまくいかない運命にあったのでしょう(笑)。これも理由としてはやや希薄なような気がします。


ところが、こんなこじつけのような理由を考える必要はありません。行動経済学と確率論で考えると、その答えは明快に出てきます。



■世の中、別れる人のほうが圧倒的に多い


生涯でたった一人の男性としか付き合ったことがなく、その人と結婚したという人は、昔ならともかく、最近ではほとんどいないでしょう。誰でも何人かの人と付き合った後で誰かと結婚することになるはずです。仮に結婚するまで5人の人と付き合ったとすれば、その中から結婚するのはたった一人ですから後の4人とは別れたことになります。つまり付き合った人と別れる確率は80%、もし10人の人と付き合っていたのならその確率は90%になります。したがって、数の上で言えば、めでたくゴールインするよりも別れた人の方がはるかに多いわけです。


井の頭公園をはじめ、各地のいわゆる“カップル破局スポット”はいずれもその地域で有名なデートスポットばかりですから、結婚せずに別れた人とも行った可能性は高いでしょう。だとすれば「あ、やっぱりね。私も別れた彼とはそこへ行ったことあるもんね」と感じるのも無理はありません。でも確率論で考えればこれはごく当たり前のことです。


このように冷静に確率論で考えるのではなく、印象や感覚的に判断してしまうことを行動経済学ではヒューリスティックと言います。よく考えてみれば当たり前の確率論でわかることでも、イメージや感覚で判断してしまうと間違った判断になりがちなのです。ヒューリスティックに関しては有名な「リンダ問題」というのがあります。これは次のようなものです。


■誰もが陥りがちなヒューリスティックとは


「リンダは30歳、ハーバード大学を卒業して独身。意見を率直に言い、またとても聡明です。彼女は学生時代に哲学を専攻し、差別や社会正義の問題にも深く関心を持ち、反原発のデモにも積極的に参加していました」


さて、リンダの現在の仕事や活動は次のうち、どちらである可能性が高いでしょう?


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A. リンダは銀行員である

B. リンダは銀行員で女性活躍推進運動に参加している

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さて、みなさんはどちらだと思いますか?「Bじゃないの?」と思った方、あなたは見事にヒューリスティックの罠に陥ってしまっています。この質問、「どちらがリンダっぽいですか?」と聞かれたら、恐らくBでしょう。でも質問は「どちらである可能性が高いですか?」と聞いています。つまり確率の問題です。もっと言えば数学の問題なのです。


みなさんも高校時代に「集合」という概念を習ったことがあるでしょう。図表1をご覧ください。世の中には「銀行員の人達」(A)という集合がありますね。一方、職業は様々でも「女性活躍推進運動に参加している人達」(B)という集合もあります。だとすれば、「銀行員で女性活躍推進運動に参加している人達」は両方の集合が重なった部分ですから、(C)の部分に該当します。すなわちここでの質問は(A)の面積と(C)の面積のどちらが大きいですか? ということを聞いているにすぎないのです。だったら答えはあきらかですね。




■「思い込み」の怖さ


さらにこんなエピソードもあります。


早くに父を亡くした母子家庭の一人息子、交通事故に遭って入院したが一命はとりとめました。そこへ有名な交響楽団の指揮者が病室に飛び込んでくるなり、こう言って叫びました。「おお我が息子よ、命が無事で良かった!」


ちなみにこの母親は再婚していません。こんなことがあるでしょうか?


十分あります。この場合、母親が交響楽団の指揮者だったのです。指揮者と言えば男だと思い込んでしまっているのもヒューリスティックだからです。


このように少し冷静に考えればわかることでも感覚的に判断すると、一瞬勘違いしてしまうというのはよくあることです。


例えば日常の消費行動で考えてみましょう。以前にこのコラムでも書いたことがありますが(「バーゲンで大損する人の"心理的ワナ"3つ」)、バーゲンセールにおいて、以前の価格に二重線を引いて新しい価格を書くというのもアンカリングと言う名前のヒューリスティックです。何か辛いものを食べたいと思ってスーパーで買い物をする時に、無意識のうちに赤いパッケージのものを選んでしまうというのも赤=辛いものという連想が働くからでしょう。


日常の買い物をするぐらいなら、別に大きな問題ではありませんが、金融商品の購入については感覚的に判断するのは危険です。お茶でも飲みながら井の頭公園の都市伝説の話題で盛り上がるくらいなら良いですが、投資や保険については感覚やドタ勘で判断するのではなく、しっかり考えることがとても大切だと言えるでしょう。



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大江 英樹(おおえ・ひでき)

経済コラムニスト

オフィス・リベルタス代表 大手証券勤務を経て2012年独立。行動経済学、シニア層向けライフプラン等をテーマに執筆・講演活動。著書に『「定年後」の“お金の不安”をなくす 貯金がなくても安心老後をすごす方法』ほか。

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(経済コラムニスト 大江 英樹 写真=iStock.com)

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