なぜミシュランガイドに「ハンバーガー」が掲載されないのか

1月27日(日)7時0分 NEWSポストセブン

究極の「グルメバーガー」は具材の積み上げ順も計算されている

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 レストランの格付け本として名高い『ミシュランガイド東京2019』に、世界で初めて“おにぎり専門店”の「浅草 宿六」が掲載され、大きな話題となった。これまで同ガイドには、和食やフレンチなどの高級店ばかりではなく、B級グルメの人気ラーメン店なども掲載されてきたが、意外にも日本人が大好きな“ハンバーガー店”は紹介されていない。一体なぜなのか。近著に『ハンバーガーの発想と組み立て』(誠文堂新光社)があるフードコンサルタントでバーガー研究家の白根智彦氏が解明する。


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 ラーメンが『ミシュランガイド東京2015』で初めて掲載され、新たなカテゴリー(ビブグルマン=コストパフォーマンスの良いオススメ店)となった時には、大きな驚きがあった。


 確かにラーメンはメディアの露出も大きく、ラーメンフリークだけでなく外国人観光客の来店も増えた。今や「日本独自の食文化」として認知はされてきたものの、庶民の日常に寄りすぎているうえ、おおよそ1000円以内で食べることができてしまい、ミシュラン的な“食事としてのストーリー”ではなく、“単品のメニュー”としてポジショニングされていると理解していたからである。


 しかし、翌年の「ミシュランガイド東京2016」では、「Japanese Soba Noodles 蔦(つた)」が一つ星を獲得。1杯のラーメンを作り上げる“職人の仕事”のクオリティは充分に星のレベルに値すると考えていたが、店舗の設備や利用動機が選定の前提条件として重要なファクターだと認識していたので、さらに驚いた。


 以来店の入れ替わりはあるが最新の「ミシュランガイド東京2019」では一つ星が3店、ビブグルマンに24店が掲載されている。さらに今回は「おにぎり」のカテゴリーも増えたのが話題となったのは周知の通り。


 ラーメン業界では、「日高屋」や「一風堂」など、チェーンストアとして運営している店が数々ある。品質も高いレベルで安定し、価格も手頃、普段使いとしてとても重宝する。しかし実際ミシュランガイドに掲載されているラーメン店は、企業の運営するチェーンストアではなく、主に小規模経営の個人のお店だ。


 当然のごとく、店舗で趣向を凝らしたスープを作り、 チャーシューなどの具材に徹底的にこだわって仕込み、自家製麺を使っている店も少なくない。店主が陣頭指揮を執っているからこそのクラフト性。期待を裏切らずレベルの高い1杯を提供してくれる。


 また、ラーメン店はテレビ番組や雑誌でも常に新登場や話題の店は紹介されているので、情報が入手しやすい。人気店のメニューはコンビニとコラボしたカップ麺としても、高いレベルで再現されている。ポイントは、ラーメンマニアでない人も、行ったことのあるラーメン店がいくつかあるということである。


 しかし、これがことハンバーガーとなると事情は一変する。



 ハンバーガー業界は、「マクドナルド」や「ロッテリア」、「ウエンディーズファーストキッチン」などが、チェーンストアとして運営している店が大半を占める。現在の一般的な認識でのハンバーガーとは、「マクドナルドを筆頭とするファストフード」のことを指し、“グルメバーガー”というスタイルがあることを知らない人がほとんどである。


 グルメバーガーも数年に一度ちょっとしたブームが起こり、テレビ番組や雑誌で特集されたりもするが、「1000円以上もする高級ハンバーガー」として括られることが多い。つまり、企画物、マニア向けの趣向品的な扱いで一般性がなく、なかなか根付いてこないのが実情なのである。


 では、グルメバーガーの定義とは何か──。本来はハンバーガー専門店で提供されている、細部まで味の構成がしっかりデザインされたハンバーガーのことを指すのだが、飲食店では意外とハンバーガーというメニューの参入障壁は低い。


 少しでも肉を食材として扱い、丸いフォルムのバンズ(サンドイッチ用のパン)にハンバーグやテリヤキチキン、その他、野菜など何でも挟み込めば、「〇〇バーガー」というメニューができてしまう。しかし、中には“ハンバーガーらしきもの”が多く、グルメバーガーと呼ぶには程遠い商品があるのも事実だ。


 しかし、それはそれで仕方がない面もあるだろう。そもそもラーメン店と比べて圧倒的にハンバーガー専門店の数が少なかったことに加え、グルメバーガーの定義が曖昧だったので、残念ながら料理として認められてこなかったからだ。


 ならば「真のグルメバーガー」の存在を世に知らしめたい──というところから自著『ハンバーガーの発想と組み立て』の企画が始まった。業界内で技術を共有して全体のレベルの底上げもしたいとの意図から、グルメバーガー界のレジェンド的存在の吉澤清太氏にも、技術監修として持てる技術やレシピを惜しげなく披露していただいた。


 ここで、少しグルメバーガーについて解説すると、本書で紹介したトップランカーのハンバーガー店の特徴は、提供された時点で味の構成が完成されていることにある。



 ケチャップやマスタードを好きなだけかけて食べるアメリカンなスタイルではなく、味のバランスが緻密に計算されている日本独自のハンバーガースタイルである。いってみれば食材が“口中調味”で交ざり合うことで完成される逸品なので、具材を積み上げていく順番もしっかり意図されている。


 そしてラーメンの味を決定づけるスープに相当する「ミートパティ」は基本的に店舗で仕込まれている。原料肉として使う牛肉は、原産国や部位を製作意図に合わせて選び、粗く挽いて成形する。


 本書でも紹介した「NO18 DINNING & BAR」(東京都豊島区)という格別にミートパティ作りに情熱を持つ店では、米国産のチャックアイロール(肩ロース肉)をまるごと塊で仕入れている。


 それを極限まで脂身を取り除きつつ10部位まで分解するように肉片のカットサイズを切り分け、再度ブレンドすることでミートパティの食感や味わいの複雑さを出していくというこだわりの職人技が見られる。塊肉のコンディションは個体によっても異なるので、日々肉と対話するように、その日に思い描く状態に魂を入れて仕上げていくというから驚きだ。


 このように、ハンバーガーらしきメニューが乱立している中でも、真のグルメバーガーを味わえる店はある。今後、ミシュランガイドにカテゴリーが設定されれば、「立派な料理」として高いレベルのハンバーガーを提供する店はさらに増えていくはずだ。


 グルメバーガーが檜舞台に立つ日が来ることを願ってやまない。

NEWSポストセブン

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