テレビ番組の反響で倒産危機に…なぜサイゼリヤは「宣伝なし」「直営店」にこだわるのか?
2025年1月21日(火)4時0分 JBpress
国内外で1500以上の直営店を展開し、年間の来客数は2億人を超えるサイゼリヤ。創業者の正垣泰彦会長は、大学4年生だった1967年に小さな洋食屋を開業して以来、安くておいしい料理の提供を追求してきた。本連載では『一生学べる仕事力大全』(致知出版社)に収録されたインタビュー「最悪の時こそ最高である」から内容の一部を抜粋・再編集し、正垣氏の経営観と人生観を紹介する。
今回は「人のため、正しく、仲良く」を理念に掲げた理由や直営店にこだわる背景、正垣氏が考えるリーダーシップに迫る。
「人のため、正しく、仲良く」 基本理念に込めた思い
——お店が繁盛してチェーン展開するようになった頃は、働き詰めで休みは1年に1回しかなかったと伺っています。
正垣 ええ。なぜそれだけ頑張れたかと言えば、楽しいからです。お客さんに喜んでもらうために安くていいものを提供し、お客さんが食べに来てくれて、スタッフに給料を払える。それが純粋に楽しかったんですね。
儲けてやろうと思っていた頃は苦しんでいましたが、お客さんが全く来ない状態が続くと、お客さんが来てくれただけですごく嬉しいんです。そういう中で、自分のためじゃなくて、俺はお客さんに喜んでもらうために、役に立つために店をやっているんだということが見えてきました。それで「人のため、正しく、仲良く」という基本理念をつくったんです。
——「人のため、正しく、仲良く」を理念に掲げられている。
正垣「人のため」とは、お客さんに喜んでいただくためということです。お客さんに喜んでもらえているかをどうやって計るのかといえば、お客さんの数が増えることだと捉え、客数を増やすことを最優先にしようと。
「正しく」とは、正しい考え方で仕事をするということ。自分本位に物事を考えるのではなく、自分も含めて皆がより幸せになることを考えて、物事を“ありのまま”に見る。店で起きるあらゆる現象を可能な限り数値や客観的なデータに置き換えて因果関係を探り、よりよい料理やサービスの提供を目指して改善し続けるんです。
正垣「仲良く」とは、共に働く仲間の強みや得意分野に目を向け、スタッフ一人ひとりを公正に評価し、皆の心を一つにして頑張ろうということです。
うまくいかない時、苦しい時はこの理念に立ち返って、自分たちの考え方ややり方が間違っていることを反省し改めていくことで、一つひとつ乗り越えてきました。
——その中でも特に大きな試練は何でしたか?
正垣 いっぱいあるんですけど、一つはやっぱり100店舗に到達した1994年に潰れそうになったことです。あるテレビ番組で1時間にわたってサイゼリヤが大々的に紹介されました。ありがたい話ではあるものの、その反響で各店の客数が2〜3倍に急増して現場のオペレーションが対応できなくなってしまったんです。お客さんを1時間ほど待たせてしまったり、まずい料理を出してしまったり、苦情が殺到しました。
それによって、テレビの反響が収まると、ブーム前より客数が2〜3割も減る店が続出しました。その頃、大卒の新入社員を大量に採用し始めたことも重なり、業績が低迷してしまったんです。
そこで「人のため、正しく、仲良く」という基本理念に基づいてメニューを大幅にリニューアルしました。当時まだ日本ではあまり知られていなかったプロシュートやペペロンチーノといった料理を投入したんです。
本当に安くておいしいものを出せば、「サイゼリヤの料理はおいしい」「よかったよ」って家族や友達に言うでしょう。勧められた人が食べに行って、また「おいしい」って誰かに伝える。そうすれば、「あんな店、二度と行かないぞ」と思ったお客さんもいずれ再来店してくれるはずだと。
実際、メニューを変更してオペレーションを整えてしばらくすると、離れていたお客さんが戻ってきて、今度は反対にブーム前より2〜3割ほど客数を伸ばすことができました。それ以降、宣伝はしない、宣伝費をかけないというのがポリシーになっています。
——理念に立ち返ったことで道が開けていったのですね。
正垣 苦しい時に基本理念に立ち返る。そうすれば結果が出ます。ただ、結果が出て有頂天になるとまたすぐダメになっちゃう。その連続です。人間は何のために生きているかと言ったら、一つは人の役に立つためであり、もう一つは反省するため。ピンチの時が反省する絶好のチャンスなんです。
フランチャイズを一切やらない理由
正垣 他にも例えば、初めて海外に出店した時も最初はうまくいきませんでした。
——2003年にまず中国に進出されていますね。
正垣 そもそもチェーン展開している企業の多くがフランチャイズを取り入れている中で、うちは海外も含めてすべての店舗を直営しています。当時、中国に独資(出資の100%が外国企業)でやっている店舗はなかったものの、貧富の差が激しい中国で、お金のない人たちがおいしいものを食べて幸せな気持ちになれるような店をつくろうと思って、上海に海外1号店を出したんです。
ところが、お客さんが全然来ない。月の売り上げが店舗の賃料よりも低かった。周りの人が「中国は安いとお客さん来ないですよ。安い店はいくらでもあるから高くすれば来ます」と助言してくれたんですけど、エネルギーの法則とは違うなと。やっぱり自分の信じる道を貫こうと思ってさらに安くしました。すると面白いことに、お客さんがドーッと来るようになって人気に火がついたんです。
そこから上海、広州、北京に次々と出店し、台湾、香港、シンガポールにも進出して428店舗となり、いまや売り上げの4割を海外が占めています。
——僅か20年足らずでそれだけの規模に。
正垣 結局、創業期の1号店と同じで、こっちが安くておいしいと思って出していた料理は、中国のお客さんにしてみれば高くてまずかった。だから、そこを変えていったということです。
——フランチャイズを一切やらないのはどういう理由ですか?
正垣 フランチャイズで出せばいいのにってよく言われます。確かにフランチャイズでやれば、立地のいい場所は簡単に見つかるんですよ。だけど、フランチャイジー(加盟店)は楽をしてお金儲けしたいから、商品の値段を高くしろって言ってきます。そうすると、自分たちの目指す店づくりができない、理念を実現できない。そういう信念があるからです。
仕事とは心を磨く修業の場
——これまで経営トップとして心掛けてきたことは何ですか?
正垣 人間なら誰でも幸せになりたいと思いますよね。じゃあ本当の幸せとは何かっていうと、それはお金を儲けることでも、地位や名誉を得ることでもなくて、人のために役に立つこと、目の前の人や周りの人と一緒に喜び合えることなんですよ。
あくまでも会社や仕事というのはそれを実現するための道具であり、会社や仕事とは心を磨く修業の場。それを社員に教えることが経営者の一番の役目だと思って、事あるごとに「人のため、正しく、仲良く」という基本理念を伝えてきました。
正垣 この基本理念を実行できているとリーダーシップが身につくんですよ。リーダーシップとは何かって言ったら、部下や周囲の人から助けてもらえること、この人のために頑張りたいと思われる状態を指します。言い換えれば、途中で成長が止まってしまう人とは自分中心で物事を考えている人です。
とはいえ、基本理念を実践するのは難しい。だから、日々反省することが大切なんです。人間って反省の階段を上がっていくと幸せになれるんですよ。私は朝起きたらまず反省する時間を取るようにしています。基本理念と自分の言動を照らし合わせて、実行できているかを振り返るんです。なぜ朝かというと、呆けているから(笑)。私利私欲が入らない、静かに考えられる時間が必要ですね。
——いまも自分の心と向き合い、反省の日々を過ごされている。
正垣 静かに考えていると、息を吸って吐いていることに意識が向くようになって、なんで空気ってあるんだろう、呼吸ができることって有り難いなという思いが湧き上がってくる。そうすると、酸素があって呼吸ができないと生きていくことができないにも拘らず、普段そのことに感謝していない自分に気づかされるんですね。
いままで感じなかったことを感じられるようになり、いままで聞こえなかったことが聞こえるようになり、いままで見えなかったことが見えるようになる。そうやって自分が正しいことをやっているかどうかを考えています。
繰り返しになりますけど、人間っていうのは自分を変えることが一番難しい。自分中心に考えているから、すべて人のせいにしちゃうわけです。だから、本当に苦しい時、まさに死中にいる時こそ、自分を変えるチャンス。自分のあり方、考え方が間違っていたと分かれば、自分を変え、活路を見出すことができるんです。
——まさに「死中活あり」を体験の中で掴まれたのが、正垣会長の人生ではなかったでしょうか。
正垣 そうですね。失敗や挫折、艱難辛苦を経験しない限り、物事の本質は分からない。死中の時は否定的に考えるのではなく、「いまは苦しいけれども、これまでにない魅力あるものをつくろう」「お客さんが来ないのは、以前よりもっとお客さんが来る店に変えるために起こっているんだ」と前向きに物事を考える。いまの状態は自分にとって最高の状態だと捉える。
そういう心構えで努力していけば必ず花が咲きますよ。
私は自分の身に起こるすべての出来事を常に最高だと思って生きてきましたし、これからもそうあり続けたいと思います。最悪の時こそ最高なんです。
正垣 泰彦(しょうがき・やすひこ)
昭和21年兵庫県生まれ。42年東京理科大学4年次に、レストラン「サイゼリヤ」を千葉県市川市に開業。43年同大学卒業後、イタリア料理店として再オープン。48年マリアーヌ商会(現・サイゼリヤ)を設立、社長就任。平成12年東証一部上場を果たす。21年より現職。27年グループ年間来客数2億人を突破。令和元年7月国内外1,500店舗を達成。同年11月旭日中綬章受章。
<連載ラインアップ>
■第1回 サイゼリヤの人気ナンバーワン商品「ミラノ風ドリア」は、なぜ1000回以上も改良を重ね続けているのか?
■第2回1日の来客数を40倍に跳ね上げた驚きの価格設定、サイゼリヤの破壊的な安さを生んだ“全部逆”の発想とは?
■第3回 テレビ番組の反響で倒産危機に…なぜサイゼリヤは「宣伝なし」「直営店」にこだわるのか?(本稿)
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筆者:藤尾 秀昭