「扶養控除」年86万円のバイトで14万円の追徴を科された親子の勘違い

1月28日(火)15時15分 プレジデント社

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Pattanaphong Khuankaew

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扶養家族の場合、アルバイト代などの稼ぎが103万円以下であれば、税控除を受けられる。これは「103万円の壁」として知られているが、そこには落し穴もある。元国税調査官で税理士・産業カウンセラーの飯田真弓氏は、「雇用形態が業務委託の場合は、所得が103万円以内でも扶養から外れてしまうことがある。たとえば子供が家庭教師をしている場合は注意が必要だ」という——。

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■年末調整の後には「源泉徴収票」が渡される


年が明けると書店に平積みされるのが確定申告本だ。住宅ローン控除に関するもの、医療費控除について書かれているもの、サラリーマンのための還付申告に関するものが多く見受けられる。


最近は、副業ブームもあってか、仮想通貨やスマホを使って確定申告をする方法を書いた本など、種類も増えてきている。


住宅ローンを完済し大きな病気や怪我もなく、リストラさえされなければ、後はおとなしく定年まで働き続けるまでだと思っているサラリーマンの方は少なくないだろう。


言わずと知れたことだが、サラリーマンが確定申告をしなくてもよいのは、毎月支払われる給料から、所得税が源泉徴収されているからだ。


源泉徴収制度は、給料を支払う際に天引きすることで、取りはぐれることがない。この制度は、徴税する側にとっては本当に効率のよい仕組みだといえるだろう。


サラリーマンの方は、令和元年分の源泉徴収票が先月渡されているはずである。源泉徴収票には、年末調整を行った結果が記載されている。



■バイトで稼いだお金を親に教えたくない子どもも…


源泉徴収義務者は、源泉徴収票を作成するにあたって「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」に基づいて主たる給与から控除を受ける金額を計算する。


「令和2年分 給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」は下記の通りだ。



給与所得者は、扶養家族(配偶者、子、両親など)にどれくらい所得があるかの見込み額を申請する。


源泉徴収義務者は、この申請書をもとに所得税法上の扶養家族に入れていいかどうかを判断する。


パートで働いている妻たちは、配偶者控除に入れる範囲を熟知している場合が多い。雇い主がシフトを組んでいても、年末になるとまとめて休みをとって収入を調整するのは、彼女たちが長年働く中で培った知恵だ。


では、親元を離れて大学に通っている子どもはどうだろうか。下宿の費用、学費、お小遣いなどを仕送りをしている親は、自分の扶養家族に入れて当然だという思いがあるかもしれない。


一方、子どもの中には、自由に使えるお金を稼ぐためにアルバイトをしている人もいる。いくら稼いでいるか親に知らせることで、仕送りの金額を減らされては本末転倒だ。知られずに済むのであれば、知らせたくないというのが子どもの言い分だろう。


■バイト代が103万円を超えないよう調整する大学生


ある日、筆者がカフェで一息ついていると、大学生の会話が耳に入ってきた。


大学生A:「お前、今日もバイト行かないの?」

大学生B:「うん……」

大学生A:「年末年始、実家に帰らないんだろ。じゃあ、バイトに行けばいいのに」

大学生B:「そうなんだけど、親からあんまりバイトしすぎないようにって、言われてるんだ」

大学生A:「お前、バイトでいくら稼いでるか親に言ってるの?」

大学生B:「うん、去年、親父が税務署の呼び出しを食らって、罰金まで払わされたからな」

大学生A:「えっ、それって、どういうこと……?」


A君もB君も、同じコンビニで時給1000円でアルバイトをしている。


A君は、今年は年間収入を扶養控除の範囲内である103万円までになるように、調整してアルバイトをしていた。


年間の収入を気にしていないB君は、年末年始もアルバイトのシフトを入れて、扶養控除の範囲を超えてしまうかもしれない。



■「業務委託」のアルバイトの場合はひと手間かかる


大学生のアルバイトで効率よく稼げるのは家庭教師だろうか。テレビなどでCMをしている大手もあれば、大学の掲示板に貼り紙をしているものある。ここで注意しないといけないのは、求人サイトの家庭教師のアルバイトが「業務委託」となっている場合だ。


雇用契約となっている場合は、その所得の扱いは給与所得だ。所得金額に応じた「給与所得控除」が適用されるため、自分で経費を計算して収入から差し引く必要がない。一方で、業務委託の場合は、収入から経費を差し引きして課税所得の額を自分で算出しなければならない。


B君が、コンビニではなく業務委託の家庭教師をした場合はどうなるだろうか。「1時間2000円、1回3時間、週に3回」という条件で1年間働いた場合でどのようになるのか考えてみよう


2000円×3時間×3回×4週×12カ月=86万4000円


これが、雇用契約としての家庭教師であれば、103万円以下なので扶養家族に入れることができる。


しかし、「業務委託」となると話は違ってくる。


いわゆる「103万円の壁」というのは、給与所得控除65万円と基礎控除38万円を合わせた金額が103万円なので、この範囲内の稼ぎなら税金がかからず、扶養の範囲にもなるという意味だ。


しかし、業務委託の場合はこの「給与所得控除」がないため、かかった経費を実費で自分で計算して課税所得を出さなければならない。


家庭教師の収入を得るための直接的な費用を必要経費として差し引きできるので、テキストや教材が自分持ちなら、それらは当然必要経費になるだろう。家庭教師先のお宅までの交通費も必要経費として認められる(通学定期の範囲だった場合、交通費の必要経費は0円ということになるかもしれないが)。


先ほどのケースの収入86万4000円から基礎控除38万円を引くと、48万4000円。経費が48万4000円以上かかっていれば扶養に入れることができるが、アルバイトでこれだけ多額の経費がかかることはなかなかないだろう。


このように、業務委託の場合、扶養に入るかどうかの基準が103万円ではない点に注意すべきだ。


■年末調整をやり直す「再年調」という制度がある


再度年末調整を行う事務のことを「再年調」と呼んだりしているが、企業側で年末調整のやり直しをしてくれるのは、原則1月末までだ。


No.2671 年末調整の後に扶養親族等の人数が異動したとき

少しでも気になった人は、離れて暮らす子どもに連絡をとるとよいだろう。1月末までに、令和元年(2019年)分の所得の確定額がわかれば、「再年調」に間に合うかもしれない。扶養家族を外した金額で所得税が再計算され、手取りが少なくなるということで、追加の税金を納めたことになる。


「大丈夫、103万円までに抑えているから……」


少し知識を持った子どもからは、すぐにこういった返事が返ってくるかもしれない。しかし、ここで納得してしまってはいけない。子どものアルバイトが雇用契約なのか、業務委託なのか。口頭だけではなく、書面で確認する方が賢明だ。



■再年調ができなければ確定申告をすることになる


アルバイト先から渡されるのが「給与所得の源泉徴収票」なら雇用契約、「支払調書」であれば業務委託だ。アルバイト先によっては、「源泉徴収票」や「支払調書」を発行しないところがあるかもしれないが、その場合は発行を請求するように子どもに伝えるのがよいだろう。


企業によっては、年末調整のやり直しを渋るかもしれない。その場合は、確定申告をすることで扶養家族の数を減らし、追加の税金を納めることができる。


通常の年であれば3月15日が期限だが、今年は土日の関係で3月16日(月)となっている。


3月16日を過ぎてもそのまま放っておくとどうなるのか。所轄の税務署では、「事後処理」という仕事がある。


「事後処理」とは、給与所得者が、扶養家族と申請していた人に基準を超える所得があった場合や、長年掛けていた生命保険が満期になったが申告をするのを忘れていた場合などに、追加の税金を納めるように促す事務をいう。


筆者も国税に在職中、「事後処理」という業務に携わったことがある。呼び出しのはがきを手に税務署に来る人は、いったい何がいけなかったのだろうという顔をしていることがあった。


FXで大もうけして所得税を納めることになったご老人は、「家に来てFXをやるといいと教えてくれた人は、税金がかかるなんて一言も言ってなかったのに……」と言っていた。


生命保険が満期になったことで呼びだしはがきを受け取った老婦人が、「そんなこと担当の人から聞いてない」の一点張りで、らちが明かないということもあった。


■国税は「税法は周知の事実」としているが実際はどうか


「事後処理」は、資料があって必ず追加の税金がとれる仕事なので、調査官の間では地味な仕事だと思われている。確かに1件当たりの追加の税額としては少ないが、件数は多いので、合計するとそこそこの税収になる。だから「事後処理」は地味ながらも重要な仕事なのだ。


国税当局は、税法は周知の事実で、知らない方が悪いというスタンスで仕事をしているというきらいがある。


法律をきちんと守って納税をしている人がいる限り、ルールを守っていない人がペナルティーとなるのは当然だ。


ペナルティーについては、国税庁のHPに明記されている。


No.2024 確定申告を忘れたとき

期限に遅れて申告する「期限後申告」をすると、「無申告加算税」が課されてしまう。その金額は、原則として、納付すべき税額に対して50万円までは15%、50万円を超える部分は20%だ。


ここで、B君が業務委託の家庭教師をしているにもかかわらず、お父さんは扶養家族として申請し、後日税務署から連絡を受けて期限後申告をした場合の所得税をざっと計算してみよう。B君が仕事で使った経費は0円とする。


86万4000円−38万円(基礎控除)=48万4000円

48万4000円×5%(所得税率)=2万4200円

ここに、復興特別所得税という税金もかかるので、2万4200円×2.1%=508.2円。

100円未満は切り捨てなので、500円。


それらを合算すると、B君が納めるべき所得税の金額は、2万4700円となる。


税務署からの通知を受けてから確定申告をしたことになるので、無申告加算税の計算も必要だ。


加算税の基礎になる本税の端数処理は1万円未満は切り捨てなので、



2万円×15%=3000円



ただし、加算税は5000円未満であれば切り捨てになるので、B君には無申告加算税はかからない。


B君を扶養親族としているお父さんは、課税所得が330万円を超え695万円以下だった場合


63万円(特定扶養親族の控除額)×20%=12万6千円


追加で納める所得税は、12万6千円。ちなみにこの場合に復興特別所得税は考慮しなくてよい。


無申告加算税は、


12万円×15%=1万8千円


となり、追加の所得税と無申告加算税、合わせて14万4千円を納税しなければならない。


交通ルールで考えると、幼いころから信号の赤は止まれ、青はすすめと教えられてきた。だから誰でも知っている。


翻って、税法はどうだろうか。


筆者は、所属している税理士会の支部の租税教育推進委員を務めていたことがある。支部がある地区の学校や母校に出向き、租税教育の授業の講師をするのだ。小学生や中学生には、「子どもでも税金の恩恵を受けているから、大人になったらきちんと納税しましょうね」などという内容を講義する。


高校生になると、グループで必要だと思う税金と必要でないと思う税金について話し合い、全体で共有するという授業になる。ある高校では、実際に確定申告書の書き方を生徒に体験させたいという要望から、一人一人に確定申告書を作成してもらうという授業を行ったこともある。



■残念なPR動画を作るよりも国税が行うべきこと


昨年12月、国税庁は国税局査察部・通称「マルサ」の仕事を紹介するドラマ仕立てのPR動画を公開したが、2019年12月16日配信の朝日新聞デジタルは、その内容について「期待を裏切られた」と批判していた。



「マルサの女」想像したが 期待裏切られた国税PR動画

脱税に目を光らせる国税局査察部、通称「マルサ」。その仕事ぶりを紹介するドラマ仕立てのPR動画を国税庁がつくり、13日に公式ホームページなどで公開された。国税担当の記者(41)は、映画「マルサの女」のような名作を思い浮かべながら今回の動画を見たが、期待は裏切られた。

記事によると、この動画は若者を国税組織にリクルートする狙いも兼ねているとのことだが、職場の魅力をアピールする力も、脱税に警鐘を鳴らす力もいま一つだとのことだった。


ストーリーを考え、俳優を使い撮影をするには、それ相当なお金が使われたのだろうと想像する。この映像はどれくらいの人が観たのだろうか。また、この映像を観ることが適正公平な課税の実現に繋がっているのだろうかと思うと、はなはだ疑問だ。


各税務署では、毎年年末調整の説明会が開催されている。その際、年末調整で記入した「扶養控除申告書」の扶養家族の見込み収入額と、その後にもらう「源泉徴収票」で確定した金額と照らし合わせることで、扶養家族の判定をし直すことができるのだということも伝えるようにしてはどうだろうか。そうすることで、「事後処理」の際に、扶養家族の判定誤りで呼び出しを受ける人が減ることになる。


■中学や高校でも税教育を充実させるべきだ


また、「扶養控除申告書」の書き方を中学校や高校の授業の中で教えるというのも一つの手ではないだろうか。


教職員もサラリーマンなので、「扶養控除申告書」は毎年書いているはずだ。多くの生徒が将来給与所得者になって、毎年「扶養控除申告書」を書く。働く前から書き方を知っていても損はない。「扶養控除申告書」を書くことで税金のことを身近に考えるきっかけになると思うのだ。


「平成31年(2019年)分 給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」は下記の通りだ。



さて、サラリーマンの読者のみなさん。


平成31年(2019年)分「扶養控除等(異動)申告書」の控えは手元にあるだろうか。扶養家族に入れた家族の所得金額の見込み額と確定金額は同じだろうか。


子どもの所得を知らずして、追加の税金を徴収される残念な親にならないために、今一度離れて暮らす子どもの昨年の所得を確認してみることをお勧めしたい。



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飯田 真弓(いいだ・まゆみ)

税理士

元国税調査官。産業カウンセラー。健康経営アドバイザー。日本芸術療法学会正会員。初級国家公務員(税務職)女子1期生で、26年間国税調査官として税務調査に従事。2008年に退職し、12年日本マインドヘルス協会を設立し代表理事を務める。著書に『税務署は見ている。』『B勘あり!』『税務署は3年泳がせる。』(ともに日本経済新聞出版社)、『調査官目線でつかむ セーフ?アウト?税務調査』(清文社)がある。

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(税理士 飯田 真弓)

プレジデント社

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