大枚をはたいてわが子を「引き出し屋」に差し出す親の特徴

1月29日(水)9時15分 プレジデント社

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/brazzo

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ひきこもりの再生と称して親族から法外な費用を請求する「引き出し屋」のトラブルが増えている。ひきこもりの子を持つ家庭からマネー相談を受けている村井英一氏は「親は藁をもつかむ思いで支援団体に依存する。しかし子が社会復帰できるとは限らない。その前提でマネープランを組むべき」という——。

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■有名大学→大手企業→1年で退職→現在31歳でひきこもり


「あとどれくらいお金をかけても大丈夫でしょうか」


退職まであと1年となり、今後の資金状況のシミュレーションをしてほしいと、60代のご夫婦が相談に来ました。話を伺うと、長男(31)が自宅にひきこもりとなっており、なんとか社会復帰をさせたいとご両親には焦りの色が見られます。


◆家族構成

・父親:64歳(会社員) 年収300万円

・母親:60歳(パート主婦) 年収80万円

・ご本人:31歳(無職)

・姉:33歳(独立して、別居している)

◆資産

・預貯金:2000万円

・自宅:マンション(持ち家)

長男は、もともと内向的でおとなしい性格でした。学生時代の成績は優秀で、有名大学を卒業して大手企業に就職したものの、厳しい企業風土についていけず、1年もしないうちに退職してしまいました。その後、就職活動をするものの、前の職場での経験がトラウマとなってか、慎重になってしまい、新しい仕事に挑戦することができませんでした。そのうちに、働かない期間が長くなり、自室に閉じこもることが多くなりました。


なかなか仕事が決まらないものの、外出ができないわけではなく、両親が長男のことを「ひきこもり」と認識するのはしばらく時間がたってからでした。


「うちの子は、最近よく聞く『ひきこもり』なのかもしれない……」


両親はそう認識すると、なんとかわが子を立ち直らせるための行動に移しました。特に父親は熱心で、どこからか「ひきこもりの子を立ち直らせます」という団体を見つけ、長男への支援を依頼しました。



■「ウチの子を立ち直らせたい」一心で、ひきこもり支援団体に300万円


その団体は全寮制で、ひきこもりやニートを預かって、社会復帰のためのカリキュラムや就労訓練を行っているということでした。ホームページには、ひきこもりから立ち直り、就職できたという事例が華々しく掲載されています。


生活費込みということもあり、費用は安くはありませんでした。しかし、それで息子が立ち直り、きちんと就職できれば、なにものにも代えがたい。両親はそう考え、息子を預けることにしました。


長男は初めこそ抵抗しましたが、元から自分の意思をはっきりと示す性格ではありません。不承不承ではありましたが、両親の説得を受け入れ、寮に入りました。


最初は1カ月の予定だったのが、「回復にはもう少し時間がかかる。せっかく改善に向かいつつあるので、今やめたらもったいない」と言われ、2度3度と期間を延長しました。そのたびに追加の費用が求められます。それでもご両親は、「これで立ち直ってくれれば」との一念で料金を支払いました。


結局、半年後に自宅に戻りましたが、以前と状況は変わらず、社会復帰はできませんでした。本人は、「両親から強制的に施設に入れられた」との思いがあり、親子の関係はかえってギクシャクしてしまいました。支払った費用は計300万円にもなっていました。



写真=iStock.com/Ake Ngiamsanguan
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Ake Ngiamsanguan

母親はこう嘆きます。


「大金を払ったにもかかわらず、まったく効果はありませんでした。高い授業料でした」


■諦めない父「あそこはダメでしたが、ほかにも支援団体はあります」


しかし父親はまだあきらめていません。


「あそこはダメでしたが、ほかにも支援団体はあります。あとどれくらいお金をかけても大丈夫でしょうか」


今後の資金のシミュレーションを見て、可能な限りの資金をつぎ込みたいと考えているようでした。ここは少し冷静になる必要がありそうです。私はこうアドバイスしました。


「新たに資金を投入して、次の支援団体に入ることでご長男が仕事を再び働くことができ、自立した生活を送ることができれば素晴らしいです。でも、せっかくお金をかけてもうまくいくとは限りません。ご長男がこのままずっと働けないことを前提に資金計画を考えましょう。そうすると、今使える資金はそれほどありません」



■悪質な「引き出し屋」にさえすがってしまう親の心理


64歳の父親は再雇用という形でまだ現役で働いているとはいえ、定年時に退職金を受け取っており、今後は夫婦の年金だけが頼りです。長男に生活費を残すことを考慮に入れると、けっして余裕はありません。資産である2000万円の現金貯金には手を出すことも難しいです。


「立ち直ることを諦めろ、と言うのですか」


父親は強い口調になりました。


「いえ、けっしてそうではありません。しかし、立ち直るための努力がうまくいかない場合もあります。その場合でもご長男が生活していけるように考えておかなければなりません。その上で、できる範囲でお金をかけてみましょう」


私たちのファイナンシャル・プランナーのグループでは、ひきこもりのお子さんが生涯働けないことを前提にシミュレーションを行います。それでも親亡き後にお子さんが何とか生活していける方策を考えます。これはお子さんの回復を否定しているわけではなく、あらかじめ悪いケースを考えておきましょう、ということなのです。それでも生活が成り立つようにしながら、社会復帰の方策を考えましょうとお勧めしています。



写真=iStock.com/byryo
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お子さんが働けずに引きこもってしまうと、親は立ち直らせようと必死になります。藁(わら)をもつかむ思いで、支援団体や支援を行う企業にすがる気持ちもわかります。また、お子さんが働けるようになれば、ある程度の金額も無駄ではありません。それだけにお子さんを立ち直らせようと、多額の資金をつぎ込んでしまう親はいます。中にはそれを当て込む、いわゆる「引き出し屋」のような、不当に高い料金を請求する悪質な団体や業者がいるのも事実です。


■正しい支援団体を選ぶ際の3つのポイント


もちろん、多くの支援団体や支援企業が、本人のために献身的な努力をしています。しかし、なかなか外からはわかりにくい上、困っているときは盲目的になりがちです。また、たとえ真面目に取り組んでいる支援団体であっても、本人と合う・合わないの問題があり、誰でも効果があるとは限りません。


私はお金をかけて支援団体や支援企業に依頼することを否定はしません。自立支援の専門家ではありませんので、どのような方式がよいかもアドバイスできません。しかし、支援の依頼先を選ぶ際に、次の3つのポイントは押さえるようにお願いしています。


① 費用が大きすぎないか

「適正な金額」というのは難しいのですが、今は支援団体や支援会社がいくつもありますので、費用を比較してみましょう。高くても信頼できるところならよいのですが、あまりに高いようだと、困っているのにつけ込んでいるのかもしれません。


② ひきこもり支援の関係者や家族会などに評判を聞く

良い評判も悪い評判も、関係者の間では広まります。特に家族会には、家族や本人の立場からの経験が蓄積されていますので、情報が豊富です。効果があるのかどうかはもちろん、人権無視の研修をしていないかなども確認しておきたいものです。


③ あらかじめ支援を受ける期間と費用の限度を決めておく

短期であれば、一時的に大きな金額をかけても将来の家計に影響しません。しかし、それが長期にわたって続くと、かえって本人の将来の生活を苦しいものにしてしまいます。



■お金をつぎ込み始めると見境がなくなる親たち


特にファイナンシャル・プランナーとして、③については念を押しています。お金をつぎ込み始めると見境がなくなります。「子供が立ち直ってくれれば解決する」とばかりに、先のことを考えられなくなってしまう親は少なくありません。親としては、どうしてもすぐに回復することを期待してしまいますが、ひきこもりの社会復帰は長期戦で考えたほうがよいでしょう。お子さんの自立を願いながらも、一歩引いた冷静な判断を忘れてはいけません。


ここまで説明すると、父親も冷静さを取り戻してきました。



写真=iStock.com/Mladen Zivkovic
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Mladen Zivkovic

「長男を立ち直らせることばかり考えて、焦っていたようです。本当は考えたくないのですが、“立ち直らない”場合のことも考えておかなければなりませんね」

「お子様の自立支援は、あわてず、あきらめずに、無理のない範囲で継続されてください」


■長男が“立ち直らない”ことを前提に別の支援団体に入寮して200万円


長男が“立ち直らない”ことを前提にしたシミュレーションを作成することになりました。


父親の希望を入れて再度、支援団体の施設に入寮するとして、その費用は200万円を計上します。


<シミュレーションの前提条件>

・両親とも現在の平均余命まで生きるものとする。

・老齢厚生年金と老齢基礎年金の合計額は、父親が260万円、母親は100万円とする。

・両親の死去後に、自宅を売却(売却収入1000万円)し、一人暮らし用の中古マンションを購入(購入費用800万円)。

・現在の生活費は、住居費、自動車関連費、保険料などを除いて月額20万円。父親の死去で3割、母親の死去で4割減額。

・相続は、自宅も含めて法定相続割合で遺産分割。自宅は母親、そして長男が相続する。


その結果、両親が受け取る年金額は合計で8654万円となります。両親が亡くなる時点でおよそ3100万円の資産を残せばいいという結果になりました。



■「精神保健福祉センターなど、自治体でも相談窓口を用意しています」


「今の貯蓄が2000万円しかないのに、これから3100万円まで貯蓄を増やすのは無理ですね」


父親はうなだれました。



写真=iStock.com/paulaphoto
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「ご長男が働けなかった場合、相続である程度お姉様にがまんしていただく必要があります。それだけに、あまりご長男の自立支援にお金をつぎ込むのは考えものです。生前にご長男が受けた金額を考慮すると、均等に遺産分割をしたとしても、ご長男の利益のほうがかなり多くなるからです」

「長女のことも考えておかなければなりませんね」

「そうです。特にご両親亡き後は、いろいろな面でお姉様が頼りになります。ある程度ならがまんをお願いすることもできるでしょうが、あまりに不公平が大きいと、お姉様の協力が得られなくなります」

「ではどうすればよいでしょうか」

「申し上げにくいのですが、まず、お金をかければお子さんが必ず立ち直るという考えを捨ててみてください。前回、半年も寮生活を送ったにもかかわらず効果ありませんでした。同じことをしても、あまり期待できない、と考えるほうが自然かもしれません。今後それほど費用をかけなければ、お姉様に少し譲歩してもらうだけでご長男の生活は成り立ちそうです」


私は、お子さんが自立するための方策についてはできるだけ言及しないようにしていますが、ついつい言葉が出てしまいました。そこで母親が言いました。


「本人が嫌がっているのだから、もう施設に入れるのはよしましょう。地元の家族会に参加して、話を聞いてみてはどうでしょうか」

「精神保健福祉センターなど、自治体でも相談窓口を用意しています。けっしてお金をかければ状況が良くなるというものでもありません。ご長男はまだ31歳です。時間をかけて、じっくりと取り組むことをお勧めします」


父親の表情も少し明るくなりました。長男の社会復帰のための取り組みはまだ始まったばかりです。親子で試行錯誤しながらも、一歩ずつ進んでいければと願っています。



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村井 英一(むらい・えいいち)

ファイナンシャルプランナー

「働けない子どものお金を考える会」メンバー。
大手証券会社で個人顧客の投資相談業務を長年行い、ファイナンシャルプランナーとして独立後は、資産運用に限らず、家計の見直し、住宅購入、老後資金など幅広い相談を受ける。
特に、長期にわたる家計のシミュレーション分析を得意とし、ひきこもりや障害を持つお子さんとそのご家族の資金計画を行っている。

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(ファイナンシャルプランナー 村井 英一)

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