日本人プロゲーマーが海外で勝てないワケ

1月30日(水)9時15分 プレジデント社

eスポーツがオリンピック種目になる日も近い。(※写真はイメージです 写真=iStock.com/imagedepotpro)

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ビデオゲームを使った競技「eスポーツ」が世界中で盛り上がっている。世界全体の競技人口は1億人以上、市場規模は1000億円を超えつつある。しかし日本大会の市場規模は5億円未満と少ない。自身がプロゲーマー(eスポーツプレイヤー)でもある野村総合研究所の隈部大地氏は「日本でプロの競技者を育てていくためには、賞金以外にもクリアすべき点が複数ある」と指摘する——。

※本稿は、野村総合研究所『ITナビゲーター2019年版』(東洋経済新報社)の一部を再編集したものです。




eスポーツがオリンピック種目になる日も近い。(※写真はイメージです 写真=iStock.com/imagedepotpro)

■トップクラスの大会では賞金も億単位に


「eスポーツ」とは、ビデオゲームを使った対戦をスポーツ競技として捉える際の名称だ。近年、このeスポーツが世界中で大きな盛り上がりを見せている。eスポーツの競技人口は既に1億人を超えるとも言われており、トップクラスの大会では、その賞金も億単位に達している。


2018年のアジア競技大会(ジャカルタ)では、デモンストレーション種目としてeスポーツが採用され、日本からも10名の代表選手が派遣された。2022年大会(杭州)では、正式にメダル種目として採用されることが決まっている。また、2024年に開催されるパリオリンピック・パラリンピックの新種目としてもeスポーツの採用が検討されており、今世界中で盛り上がりを見せている。


市場も爆発的に拡大しており、オランダの調査会社Newzooによれば、2018年には世界全体で約1000億円に達し、2021年には1800億円超に達するとされている(図表1)。その内訳は、全体の約6割が広告・スポンサー収入であり、各企業からの関心の高さが伺える。




■KDDIもプロチームのスポンサーに


世界と比較すると、日本のeスポーツ市場はまだ小さい。だが、2017年以降さまざまな企業が参入し、盛り上がりをみせている。2017年3月には、KDDI「au」がプロeスポーツチーム「DetonatioN Gaming」を運営するSun‐Genceとのスポンサー契約を締結した。従来、国内ではプロeスポーツチームのスポンサーには、ゲーム会社のほか、パソコン周辺機器メーカーや動画配信サイトなどeスポーツに直接かかわりのある企業が多かったが、KDDI「au」という大企業が参入したことは、大きな話題となった。


ゲーム会社以外の異業種からの参入が相次いだことで、プロリーグ環境の整備も進んできた。2018年3月には、エイベックス・エンタテインメント、Cygames、AbemaTV、CyberZの4社の合同により、プロリーグ「RAGE Shadowverse Pro League」が開催されることが発表された(図表2)。また同タイトルでは、年に数回の大規模賞金制大会も開催されており、2018年12月15日〜16日にかけて実施された大会では、優勝賞金が100万ドルと日本国内で初めて賞金が1億円を超えた大会としても大きな注目を集めた。これまでの国内開催のeスポーツ大会の賞金は、一般的には多くても数百万円であり、最高でも3000万円であった。


このほかにも、賃貸管理・建築事業者のレオパレス21もeスポーツ大会を開催することを発表している。また、Jリーグがサッカーゲームを用いたeスポーツ大会「eJ.LEAGUE」の開催をしたり、日本野球機構(NPB)が「eBASEBALL パワプロ・プロリーグ」を開催したりするなど、リアルスポーツのeスポーツ化も進んでおり、eスポーツが少しずつではあるが身近なものとなってきている。こうした異業種からの参入が相次ぐ背景には、eスポーツは従来のスポーツと異なり、年齢や性別などに関係なく誰もが参加できることに加えて、特に若年層への発信力の高さがある。


スマートフォンを1人1台持つことが当たり前の時代になり、前述した「Shadowverse」のようにスマートフォンでプレイできるeスポーツタイトルも多く、そのプレイヤーのほとんどは10代、20代の若年層である。そうした若年層に対して、eスポーツを通じてアプローチしたいという狙いが各社にはある。実際に、レオパレス21はeスポーツ大会を主催する理由として、「入居者がeスポーツへ快適に参加できることをアピールし、eスポーツ人気が高い若年層からの注目を集める」ことを挙げている。今後もさまざまな業種からの参入が相次ぎ、国内のeスポーツ産業がより盛り上がりをみせいくと想定される。




■普及に向けた最大の課題は認知と法整備


日本国内でも着実に普及が進んでいるものの、2018年の市場規模は、世界全体で約1000億円に達している一方で、日本の市場規模は約5億円にも満たないとされている。海外では、賞金総額が約28億円にも及ぶ大会も開催されており、それと比べるといかに日本の市場がいかに小さいかが分かる。


日本でeスポーツが普及しきれていない要因の一つが、認知度の低さによるものだ。NRIが10代〜60代の男女計約2000人を対象に実施した「情報通信サービスに関するアンケート調査」(2018年)によると、全体では「eスポーツという言葉を聞いたことがある」のは約半数に過ぎず、さらに「eスポーツという言葉を知っている」のは約20%にとどまる(図表3)。ゲームが身近にある若年層では比較的認知が高いが、年齢層が上がるにつれ認知度は下がる傾向にあり、高齢層の認知度は非常に低い。



また、eスポーツという言葉を知っていても、あまりeスポーツがスポーツとして受け入れられていないのが現状だ。例えば「これまで認められていなかった才能が認められることは良いこと」などの肯定的な意見もある一方で、「ゲームを“スポーツ”と呼ぶことに違和感」や「汗水流して努力しているアスリートと同じとは思えない」といった否定的な意見も多く見られる。日本では、「スポーツ」というと身体運動を伴うものと捉えられがちであるが、本来の「sport」には「楽しむこと・競い合うこと」といった意味もあり、そうした言葉の理解や受け止め方の違いによるところも大きい。


日本でeスポーツが普及しきれていないもう一つの大きな要因が法律上の問題である。eスポーツに大きく影響する法律が、刑法(賭博及び富くじに関する罪、以下賭博罪)と風俗営業等の規制及び業務の適正化に関する法律(以下、風営法)の2つである。


賭博罪では「偶然の勝敗により、財物・財産上の利益の得喪を争うこと」が禁止されており、eスポーツの大会において参加費を徴収し、賞金を提供した場合、これに該当する恐れがある。これが賞金の高額化や、収入が限定されるため大会の開催を妨げる要因となっている。風営法についても同様で、「ゲーム機を設置し、店舗を構えて営業する」場合には、ゲームの結果に応じて景品を提供することが禁じられており、大会の開催を妨げている。


実際に2018年1月26日〜28日にかけて日本で開催された格闘ゲームの祭典「EVO Japan 2018」では、法的な理由により参加費を無料にせざるを得ず、1億円を超える赤字を計上した(通常ラスベガスで開催されるEVOでは、5000円〜1万円の参加費を徴収している)。


「EVO Japan 2018」は、アメリカ以外で開催された初の「EVO」であり、配信の視聴者は世界全体でのべ1000万人を超えるほどの大きな大会である。こうした大規模大会が、法律上の問題が足枷となり開催できないことは、日本のeスポーツ産業にとって大きな損失であり、eスポーツに関わる法律上の課題の解決が業界全体から強く望まれている。



■プロゲーマーが国民的スターになる日が来れば……


認知や法律上の問題など、日本でeスポーツを普及させていくために解決すべき課題が多いことは事実であるが、前述の通りeスポーツ事業への参入も増えており、着実に普及が進んでいることは事実である。その一例として、2019年に茨城県で開催される国民体育大会の文化プログラムとして、「都道府県対抗eスポーツ大会」が開催されることが決定している。




野村総合研究所『ITナビゲーター2019年版』(東洋経済新報社)

今後eスポーツを新しい「スポーツ」として普及させるには、法律上の課題の解決はもちろんのこと、スター選手の存在、そして青少年が健全にプレイできる環境作りが欠かせない。日本にも、日本人初のプロゲーマーであるウメハラ(梅原大吾)選手や、東大卒プロゲーマーという異色の経歴を持つときど(谷口一)選手のようにスター選手は存在するものの、ゲーム界のスターにすぎない。彼らがゲーム界のスターから国民的スターになることができれば、一気に認知度が高まり、日本のeスポーツ産業は大きく躍進するだろう。そのためには、さまざまなメディアを通じて、eスポーツの「楽しさ」や「競技性」、さらにはeスポーツで生計を立てるプロゲーマーの存在を、正しく伝えていくことが欠かせない。


これまでインターネット番組での配信しかなかったeスポーツの番組だが、日本テレビが2018年7月から、日本初となる地上波でのeスポーツ番組をスタートさせ、普段eスポーツにかかわりのない一般の視聴者への露出が高まっている。こうした取り組みは今後も増加し、一般の人がeスポーツに接する機会は増えると思われる。前述のテレビ番組をはじめ、eスポーツを今後さらに普及させるには、マスメディアやSNSなどメディアの担う役割は非常に大きい。


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隈部大地(くまべ・だいち)

野村総合研究所コンサルタント

2016年東京工業大学大学院修了、同年野村総合研究所入社。専門はICT・メディア分野における事業戦略およびマーケティング戦略立案支援。コンサルタントとして活動する傍ら、eスポーツプレイヤーとしても活動しており、日本代表として4度の世界大会の出場経験を持つ。

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(野村総合研究所コンサルタント 隈部 大地 写真=iStock.com)

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