「授乳中の母親の飲酒はダメ」は科学的にはウソである

1月30日(木)9時15分 プレジデント社

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Rawpixel

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「授乳中の母親は飲酒をしてはいけない」「カフェインを摂取してはならない」。赤ちゃんを持つママに関するこうした「噂」は正しいのか。医師であり自らも母親である森田麻里子氏が、科学的根拠に基づいてさまざまな疑問に答えていく——。

※本稿は、森田麻里子『科学的に正しい子育て』(光文社新書)の一部を再編集したものです。



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■母親が摂取したアルコールは赤ちゃんに影響するか


授乳中のアルコールについても、妊娠中と同様に「できれば避けたほうがいい」「このくらいなら大丈夫」などいろいろな意見があるので、混乱してしまうかもしれません。


そもそも、ママが摂取したアルコールは、どのくらい母乳に出てくるものなのでしょうか?


実は、吸収されたアルコールは母親の血中からすみやかに母乳中に入っていき、母乳中の濃度は母親の血中とほぼ同じになることがフィンランドの研究からわかっています。


たとえば50キロのママが30グラム、つまりビール500ミリリットル程度のアルコールを摂取して30〜90分後に赤ちゃんが200ミリリットルの母乳を飲んだとします。


すると、赤ちゃんは母乳を介して約0.15グラムのアルコールを摂取することになります。これを体重あたりで換算すると、ママが摂取したアルコールのおよそ5パーセントになります。


そのため、授乳中のママがアルコールを多量に摂取すると、赤ちゃんも母乳を介してある程度の量のアルコールを摂取することになり、短期的には赤ちゃんが傾眠状態になったり、ホルモンバランスが崩れたりする可能性があります。しかしこれまでの研究では、長期的にどのような影響があるか、また赤ちゃんの発達にどんな影響があるかは、まだ意見が一致していません。



■「このくらいなら大丈夫」は決まっていない


母親のアルコールが増えると、子どもはどうなるか?


一つの例として、オーストラリアの研究者によって発表された、授乳中のアルコール摂取と子どもの認知能力についての研究結果をご紹介しましょう。


この研究では、5107人の赤ちゃんとその母親について、2004年から2年ごとに追跡した結果を解析しています。その結果、母親のアルコール摂取量が増えるほど、子どもが6〜7歳になったときの非言語的推理力(複数の図形から法則性を見つけて穴埋めする問題)の点数が下がっていることがわかりました。


この研究では、母親のアルコール摂取量をアンケート形式で点数付けしています。お酒を飲んだ量が少ない場合、たとえば「去年は飲んでいない」「月に1回以下」などと答えた母親でも、「全く飲んでいない」人に比べて1点ずつ点数が上がるようになっています。それでも、アルコール摂取量の点数が増えるほど悪影響があるという結果になっていたのです。


つまり、授乳中にアルコールを飲めば、それがたまにであっても、赤ちゃんに影響する可能性があります。同じ量のアルコールを飲んでも、ママの体格によって母乳中の濃度は変わってきますし、アルコールの代謝能力は個人差も大きいです。どのくらいのアルコールなら飲んでいい、という一定の見解はありません。


■多少の飲酒が赤ちゃんのためになることも


それでは、実際どのくらいの影響があったのでしょうか? 6〜7歳時点での非言語的推理力の点数の中央値は14点でしたが、アルコール摂取量のスコアが1点増えると、非言語的推理力のスコアが0.11点下がる、という結果になっています。さらに、その影響は10〜11歳時点では消失しています。


授乳中のアルコール摂取の影響は非常に大きいとはいえず、これまでの研究結果からは、少しでも飲んだら大変なことになる、とまではいえないようです。


大前提として、アルコール摂取は少なければ少ないほどいい、というのが私の意見です。ただ、この意見には、私がそれほどアルコールを好きではないことも、多少影響しているかもしれません。


お酒を飲まないことがほとんどストレスにならないママもいれば、ものすごくストレスになるという方もいらっしゃると思います。お酒をときどきちょっとでも飲めば、それだけでリラックスして笑顔で育児を楽しめる、ということであれば、その方が総合的に赤ちゃんのためになる場合もあるのかもしれません。



■お酒を飲む時間帯に要注意


また、一般的にお酒に弱いというと、お酒を飲むとすぐ顔が赤くなる人を思い浮かべるかもしれません。しかしこれはアルコールではなく、アルコールの代謝産物であるアルデヒドの代謝速度が影響しています。日本人の約半数はアルデヒドの代謝が遅いのですが、アルデヒドは母乳中には分泌されないといわれていますので、これは少し安心材料かもしれません。逆に、顔が赤くならないタイプでも、お酒が残りやすい人はアルコール自体の代謝が遅いのかもしれず、要注意です。


母乳中のアルコール濃度は、アルコール摂取から30〜60分後が最大となるといわれています。もし、どうしてもお酒を飲みたいという場合は、アルコール濃度の高くないものをグラス1杯程度にとどめ、授乳するまでに2〜2時間半以上の時間をあけると、影響を少なくすることができるといわれています。


個人差も大きい部分ですが、授乳中はお酒を飲まないことにするのか、飲むとしたらどのくらい飲むのか、リスクを知った上で判断していただけたらと思います。


■「授乳中カフェインを一切摂るな」は間違い


授乳中のカフェイン摂取についても、あまり気にせず摂取していいとする意見と、控えたほうがいいという意見がありますね。たしかに現在では、授乳中にママがカフェインをある程度摂取しても、赤ちゃんに大きな影響はないという意見が主流です。ある程度というのは、「コーヒー2〜3杯」が目安になっています。しかし、大きな影響がないといっても、少しは影響がある可能性があるのか気になる方もいらっしゃるかもしれません。


研究では、生後3〜6カ月頃までは、カフェインの代謝が大人より遅いことがわかっています。


たとえば、1979年のカナダの研究では、治療のためカフェインを摂取している、生後8日から8カ月の赤ちゃん10人を対象に、尿中のカフェインの量を調べました。すると、生後3カ月頃までは8割以上のカフェインがそのままの形で尿中に排出されていましたが、その後は代謝された形で排出されるようになっていきました。7〜8カ月頃には、大人と同じレベルの代謝能力となり、9割以上のカフェインは代謝された形で排出されていました。



■カフェインの排出には時間がかかる


また、1985年のアメリカの研究では、新生児の赤ちゃんとその母親を対象に、母親のカフェイン摂取量と赤ちゃんの血中カフェイン濃度を調べています。母親は最初の5日間に1日750ミリグラムのカフェインを摂取し、次の4日間はカフェインを摂取しないようにしました。すると、母親がカフェインを5日連続で摂取した後の母乳中のカフェイン量は、最も低い母親では検出できない量で、最も高い場合で28.6マイクログラムでした。また、赤ちゃんの血中のカフェイン濃度は、最も高い子でも1ミリリットルあたり3.2マイクログラムでした。その後4日間カフェインを摂取しないと、母乳中のカフェイン量は検出できないくらいに下がりましたが、2人の赤ちゃんでは、5日目と変わらないくらいの量のカフェインが血中から検出されました。月齢の低い赤ちゃんでは、一度カフェインを摂取すると、排出に何日も時間がかかることがあるということです。


■赤ちゃんへの影響はごく小さい


しかし、750ミリグラムとか500ミリグラムというのは、コーヒー5〜9杯分とかなり多い量です。もっと少ない量だと、どうなるでしょうか。


1979年のアメリカの研究では、母親が150ミリグラムのカフェインを摂取すると、その30分後には母乳中のカフェイン濃度は1ミリリットルあたり1.1〜2.3マイクログラムになることを示しています。コーヒー1杯のカフェイン量が90ミリグラム程度なので、コーヒーを飲んだ後の母乳中のカフェイン量として、かなり実際に近い数字だと考えられます。この研究では赤ちゃんの血中カフェイン濃度は調べられていませんが、体重5キロの赤ちゃんが母乳200ミリリットルを飲んでも、摂取するカフェインの量は体重1キログラムあたり0.08ミリグラムとなります。これは、体重50キロの大人がコーヒー1杯分のカフェインを摂取した場合の、20分の1程度です。体重あたりの割合で考えても、かなり少量といえるでしょう。



■母親がコーヒーを飲むと赤ちゃんは眠れなくなるのか


カフェインが赤ちゃんに及ぼす影響を実際に調べた研究もあります。


2012年にブラジルから発表された論文では、ママが摂取したカフェインによって、赤ちゃんの睡眠が妨げられることがあるのかどうかを調べています。この研究では、885人の母親を対象に、出産時と産後3カ月後にインタビューを行い、カフェイン飲料の摂取量を聞きました。産後3カ月のときには、インタビュー前の15日間に赤ちゃんがどのくらい寝ているかも合わせて聞いています。すると、特に産後にカフェインを1日300ミリグラム以上摂取していると、赤ちゃんが夜に3回以上起きるリスクが高くなる傾向にはありましたが、統計的に明らかな差があるとはいえず、証明はされませんでした。




森田麻里子『科学的に正しい子育て』(光文社新書)

カフェインには、眠気覚ましの効果だけでなく心拍数の増加などさまざまな体への影響がありますが、赤ちゃんが母乳を通して摂取する量は、先にご説明した通りかなり少ない量です。夜泣きに限らず、この程度の量ではっきりとした影響が出るとは考えにくいと思います。


私が授乳していたときは、紅茶や緑茶、ココアは普通に飲み、コーヒーはできるだけカフェインレスのものにしていました。ただ、赤ちゃんが小さいうちは、大人よりカフェインを分解する力が弱いので、特に赤ちゃんの夜泣きで困っているなら、コーヒーを控えるのがやはりおすすめです。


赤ちゃんが6カ月を過ぎたら2〜3杯までなら気にする必要はなさそうですが、もし気をつけるとしたら、コーヒーを飲むならできるだけ午前中、特に授乳直後に飲むようにすると、より安心だと思います。



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森田 麻里子(もりた・まりこ)

医師

Child Health Laboratory代表・昭和大学病院附属東病院睡眠医療センター非常勤医師。1987年、東京都生まれ。2012年、東京大学医学部医学科卒業。亀田総合病院での初期研修を経て、2014年、仙台厚生病院麻酔科、2016年より南相馬市立総合病院麻酔科に勤務。2017年に第一子となる男の子を出産。自身が子どもの夜泣きに悩んだことから、睡眠についての医学研究のリサーチを始め、赤ちゃんの健康をサポートする「Child Health Laboratory」を設立。

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(医師 森田 麻里子)

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