「なぜ円の面積は半径×半径×円周率なのか」東大のベストセラー教授が教える文系も歓喜の"円周率のヒミツ"

2025年1月30日(木)8時15分 プレジデント社

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/sovika

円周率とは何なのか。東大教授の西成活裕さんは「なぜ円周率は3より大きいのか、その理屈がわかるだけでも“3.14”という数に親しみが湧きます」と言います。文系ライターの郷和貴さんのインタビューをもとに、円周率のヒミツと奥深い魅力について解説します——。

※本稿は、西成活裕『東大の先生!文系の私に超わかりやすく算数を教えてください!』(かんき出版)の一部を再編集したものです。


■グーグル社が計算した円周率は100兆ケタ!


【西成先生】円の面積の話をする前に、大事なことを学ばないといけません。それは円周の長さの求め方。円の外側の線はまっすぐなところがひとつもありませんが、その長さを計算する方法はちゃんとあるんです。


【郷さん】巻き尺ではかる?


【西成先生】それも正解です。でも、たとえばまだ設計段階で円が存在しないケースもありますよね。想像の世界で円周を求めないといけない。そのときに使うのが次の公式です。


ここがポイント!<円周の長さの公式>
円周=直径×円周率(π)

【西成先生】円周率のことは中学以降、π(パイ)と呼ぶので、小学生のうちから覚えておいてもいいと思います。


【郷さん】そういわれてみると……円周率っていったい何者なんですかね?


写真=iStock.com/sovika
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/sovika

【西成先生】円周率は約3.14で、延々と続く数字です。昔の数学者は円周率を手で計算していたわけですが、現代ではコンピュータに計算させています。いまのところ世界記録はグーグル社が2022年に記録した100兆ケタ。


【郷さん】100兆!


■円周率とは何者か?


【西成先生】ロマンがあるのか、電気の無駄使いなのかよくわからない世界になっていますけど、とりあえず延々と続くと。


【郷さん】どこかで割り切れると思って計算しているわけじゃないんですか?


【西成先生】小数点以下が延々と続く数字を無理数といいますが、円周率が無理数であることは250年前くらいに数学者が証明しています。


【郷さん】そうなんですね。それなら電気の無駄使いだ(笑)。


【西成先生】意味がないとはいわないですけど、そこまで精度を高めなくても人類は宇宙にロケットを飛ばせているし、ましてや日常生活で困ることはないので、円周率といえば約3.14と覚えておけば十分です。そもそも円周率とは何者かという話、こっちのほうが重要です。


【郷さん】それが知りたいんです。


【西成先生】円周率(π)とは「円周が直径の何倍かを表す数字」です。図表1をみるとイメージがつかみやすいですけど、円が針金でできているとして、その針金の一カ所を切って、まっすぐな直線にしたら、確実に直径よりは長いですよね。


東大の先生!文系の私に超わかりやすく算数を教えてください!』(かんき出版)P.365より

【郷さん】長いですね。


【西成先生】どれくらい長いでしょうか。直径2本分よりは長そうです。直径3本分はどうだろう。微妙なところですね。では実際にどれくらい長いのかといったら約3.14倍なんです。


【郷さん】それはどんな円でも?


【西成先生】そう。小さい円だろうと大きい円だろうと円周は直径の約3.14倍。これを昔の人たちが発見したわけです。


■小学生もわかる! 円周率が3より大きい理由


【西成先生】昔、東大入試で「円周率が3.05より大きいことを証明せよ」という問題がでたことがあるんですけど、「円周率は3より大きい」という説明なら小学生でも理解できます。


【郷さん】それは知りたいです。


【西成先生】1辺が0.5の正三角形を図表2のように6つ並べます。すると正六角形ができますね。次に、正六角形の頂点と接するように円で囲みます。この円の半径は正三角形の1辺と同じですから0.5。つまり直径は1になります。いまはあえて単位をつけていませんが、cmやmで考えてもかまいません。


東大の先生!文系の私に超わかりやすく算数を教えてください!』(かんき出版)P.366より

【郷さん】はい。


【西成先生】ここで正六角形の外側の線に注目してください。カクカクした円の円周といってもいいですけど、長さはいくつですか?


【郷さん】長さ0.5の辺が6つあるから3ですか。


【西成先生】そう。つまり、正六角形を円に見立てるとしたら、直径が1のときに、その外周はその3倍になるということ。円周率でいえば3です。でも、実際の円は一切カクカクしていませんね。正六角形のように近道を使うズルはしていません。ということは、円周は3よりも長くなるはずです。円周が3よりも長くなるということは、円周率も3より大きくなるということ。


【郷さん】おお!


【西成先生】すごくかんたんな説明をしただけですけど、いまの理屈がわかるだけでも「3.14」という数に少し血が通うと思うんです。ちなみに、円周率が3.05より大きいことを証明するには、円に内接する正十二角形の面積を、高校数学で習う三角関数を使って求め、3.05より大きいことを証明できればいい。


【郷さん】じゃあ「円周=直径×3.14」という公式でもいいのでは?


写真=iStock.com/Natalya Gaydukevich
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Natalya Gaydukevich

【西成先生】計算するときはそれでもいいんですよ。でも公式というからには正確性が求められるので、円周率やπと書いたほうが正確ですよね。特に円周率は永遠に続く数字ですから。数学の世界には、決まった数字を独自の文字や表現方法で示すものがたくさんあります。それらは「数学定数」と呼ばれていますが、πはその代表的なもののひとつです。


■ピザを100分割すると……


【西成先生】ここではあえて円の面積を求める公式を先に発表せず、一緒に公式を導きだしていきたいと思います。まず、ピザを100分割することを想像してください。これを、図表3のように開いて、横にまっすぐ並べます。


東大の先生!文系の私に超わかりやすく算数を教えてください!』(かんき出版)P.367より

【西成先生】すると限りなく二等辺三角形に近い超極細のピザの切れ端が100枚並ぶわけですね。二等辺三角形の底辺は厳密には丸みを帯びていますけど、さすがに100分割するとほぼ直線にしか見えません。


【郷さん】メザシみたい(笑)。


【西成先生】そのイメージもいいですね(笑)。下の部分は横とつながっているけど、上は三角形の頂点なのでつながっていません。ここで補助線を足してみると、図表4のように横長の長方形ができます。長方形の面積はもうお手のものですね。


東大の先生!文系の私に超わかりやすく算数を教えてください!』(かんき出版)P.368より

【郷さん】たて×横!


【西成先生】OKです。ではこの長方形のたての長さってなんですか?


【郷さん】うーん……。あっ、もしかして半径?


【西成先生】よく気づきました! 「ほぼ半径」です。では横の長さはどうですか?


【郷さん】え……切れ端の幅の100こ分ですよね。でも切れ端の幅がわからない……。



西成活裕『東大の先生!文系の私に超わかりやすく算数を教えてください!』(かんき出版)

【西成先生】それなら長方形全体を見てみましょうか。この長方形はもともと円だったものを広げたものでしたよね?


【郷さん】あ、もしかして円周?


【西成先生】正解! 今回は「ほぼ円周」ですけど、そういうことです。円周の長さは「円周=直径×円周率」でしたよね。ということはこの長方形の面積は「半径」と「直径×円周率」を掛けたものになります。ただし、長方形は私が補助線を足してかいただけなので、私たちが知りたい円の面積と同じではありません。そこでひとつひとつの二等辺三角形にクローズアップしてみましょう。するとなにか気づきませんか?


【郷さん】あ、半分だ。同じ形の三角形が上下反転して並んでいます。


■ピザから円の面積の公式ができた!


【西成先生】はい。補助線をかいてできた三角形と元の三角形は合同なので、「長方形の面積の半分」が「二等辺三角形の面積の合計」、つまり「円の面積」になるんです。先ほど求めた長方形の面積を半分にしましょう。


円の面積=長方形の面積÷2
=半径×直径×円周率÷2

【西成先生】このままでも公式として成り立ちますが、直径は「半径+半径」でもありますから、そう置き換えて、すっきりさせましょう。


円の面積=半径×(半径+半径)×円周率÷2

分配法則


=(半径×半径+半径×半径)×円周率÷2

(半径×半径)が2つあるから


=2×(半径×半径)×円周率÷2

2÷2=1で2が消える


=半径×半径×円周率
ここがポイント!<円の面積の公式>
半径×半径×円周率=円の面積

写真=iStock.com/mikkelwilliam
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/mikkelwilliam

【郷さん】おお! なんで半径と半径を掛けるんだろうとは思ってましたけど、実は半径と直径を掛けて2で割ったら「半径×半径」になるということだったんですね。いやぁ、知らなかった。


【西成先生】はい。もちろんいま説明で使ったピザは正百角形ですから厳密には円ではありません。ただ、いまの式の求め方は正一万角形でも、正一億角形でも同じ。円をどんどん細かく分割していけば、そのすき間は0に近づくんです。


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西成 活裕(にしなり・かつひろ)
東京大学 先端科学技術研究センター教授
専門は数理物理学、渋滞学。東京大学工学部卒業、同大大学院工学系研究科航空宇宙工学専攻博士課程修了。その後、ドイツのケルン大学理論物理学研究所などを経て現在に至る。予備校講師のアルバイトをした経験から、わかりやすく教えることを得意としている。『東大の先生! 文系の私に超わかりやすく数学を教えてください!』(かんき出版)は、20万部を超えるベストセラーに。
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(東京大学 先端科学技術研究センター教授 西成 活裕 イラスト=meppelstatt)

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