餃子の宇都宮が"紅茶の街"に変貌したワケ

2月7日(木)9時15分 プレジデント社

(写真左端)ワイズティーネットワーク 社長 根本泰昌氏

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餃子の街・栃木県宇都宮市が今、「紅茶の街」として沸いている。トリガーとなったのは、紅茶製造・販売のワイズティーネットワーク。2006年に市内の商店街で開業した同社は、地元の特産品を用いた「ご当地紅茶」を次々と生み出した。総務省家計調査ではランク外だった宇都宮市の紅茶消費量は、そのわずか5年後に全国1位(一世帯あたり、08〜10年平均)に。空洞化した中心市街地の再生にも大きく寄与している。寂れた商店街の一画から始まった変化の波。その軌跡を、森下正・明治大学専任教授が探る。

■未経験のビジネスで市街地再生に寄与


ワイズティーは、宇都宮市のオリオン通り商店街に店舗を構えています。開店した06年当時、この通りは県都の中心市街地にありながら、空洞化が著しく、“シャッター通り”化した商店街でした。




(写真左端)ワイズティーネットワーク 社長 根本泰昌氏

土地柄からして紅茶を楽しむ習慣はあまりなく、「なぜこの寂れた商店街で、紅茶の専門店なのか」と周囲から言われたそうです。それが今では、地元のみならず県外からも同社のオリジナルブレンドを買い求めに来る得意客が増加。しかも、商店街は新規の出店も増えて徐々に活気を取り戻しつつあります。


そのけん引役となった同社ですが、着目したいのは、同社の創業目的が、紅茶の製造・販売そのものよりも、地域の再生にあったことです。


創業者・根本泰昌社長の前の職場は大手製薬会社。名の知られた栄養食品を担当し、20代後半でブランドマネジャーに抜擢されたほどです。


しかし、仕事をしながら「日本の医療は世界最高レベルなのに、なぜこれほど心の病を抱えた人が多いのか」と考えていたといいます。一方、故郷の宇都宮市に帰ると、目にするのは日に日に廃れゆく商店街の姿。根本社長は、それを政治やお金では解決できない地方都市の病と捉え、「このままでは、日本の地方都市はどこも生き残れなくなる」と強い危機感を抱いていました。


起業には、社会を見る観察眼と気づきの力が大切だといわれます。心の病と地方都市の病、それは今日の日本で普遍性のある解決すべき社会課題といえますが、それを身近なもので解決したいという願いが、ワイズティー誕生の発端です。


とはいえ、根本社長は紅茶ビジネスについては未経験。前職で将来を嘱望されていた人材がその職を捨て、紅茶の消費量が少ない宇都宮に専門店を開こうというのですから、そこに並々ならぬ決意がうかがえます。



■仕入れ→販売までを統括、S級品で勝負


二つ目の見どころは、原材料の調達から販売までの流れを、既存の仕組みに乗るのではなく、独自に組み立てたことです。そこでは、前職でのブランドマネジャーの経験が、フルに活かされています。




地元の問題解決に繋がるビジネス●地元産の梨やワインの赤ブドウの“廃棄物”を買い取り、障がい者“マイスター”が乾燥させフレーバーに。地元の問題解決に繋がっている。

どんな商売を始めるかを決める際、5000ものキーワードから「紅茶」を選び出したという手法も稀有ですが、その後の原材料の調達法、商品開発や販売法も実にユニークです。


たとえば、紅茶の調達では、インド人が経営するカレー店に飛び込みで行き「インドの紅茶事情を教えてほしい」と頼み込み、さらにはインドへ行き、紅茶事情を自分の目で見てくることから始めています。


小売り・卸売業、製造業も発達した日本では、出店準備も便利になっており、必要な原材料は業者に依頼すれば、ほとんどのものがそろいます。にもかかわらず、根本社長はそれに頼らず、自らの手で茶葉の選定と調達を行っているのです。


そのために必要な紅茶の知識と技術についても、取得に2年以上かかるシニアティーコーディネーターの認証を、わずか1カ月半で取得したそうです。これも、マイスターを雇い、自分は店主に納まるという方法もあるのに、それをしませんでした。


なぜなら、ワイズティーオリジナルの紅茶を、宇都宮オリジナルにするという熱意が根本社長にあったからです。誰にでも扱えて、横並びになりがちなB級品ではだめ。A級品をも飛び越え、S級品で勝負することが彼には重要だったのです。


宇都宮は戦前・戦後を通じ、商工業で発展してきた街です。「他の中核都市に比べて、今も所得水準が高いので、オリジナルブレンドで良質の紅茶を扱えば、街の人は利用してくれるだろうし、外からも人を呼べる」と見込んだのだといいます。


出店に至るまでの彼の行動は一見、破天荒です。が、社会の動きを捉える眼、市場を的確に読む能力、商品開発やブランディングのノウハウなど、前職で培われた力が存分に発揮されていることが感じ取れます。



■地元の生活文化を育てるという発想


単に商品を売るのではない。地域の生活文化に紅茶を根づかせる——結果として、この考え方が出店から11年を経た今日までのワイズティーの好調な業績を支えています。


開店以来、店舗で開催している紅茶教室はいつも満席。近所の小学校での講演を契機に「紅茶部」もできました。根本社長は子供たちにおいしい紅茶の淹れ方と併せ、大人ももてなせるきちんとした作法を教えています。紅茶の消費量が全国一となったことは、紅茶が宇都宮の生活文化として浸透した証しでしょう。


農業者とのコラボレーションにも熱心です。県特産の苺や梨を用いたフレーバーティーの開発から「ご当地紅茶」が生まれ、各地からも開発支援の依頼を受けています。かつては本州北限の茶どころとして知られた大田原市では、地元の農業者らとタッグを組み、耕作放棄された茶畑の復活に取り組んでいます。


これらを元請け—下請けではなくパートナーどうしの対等な関係で進めるのが、いわば根本流。インドやスリランカなど、海外産地からの仕入れでも相場よりかなり高値で買い入れていますが、それは、「安い賃金で働く現地の人々の待遇を、少しでも改善したい」との思いからです。


「社会の問題解決に何らかの寄与ができなければ、弊社に存在する価値はない」と根本社長は言い切ります。金銭的な利益より、関わる者が互いに受ける有形無形の恩恵を重んずる独特なビジネススタイル。それが共感と協力者の輪を広げ、重層的なネットワークを形成し、新たな事業を生み出す原動力となっています。


地方都市の衰退が著しい今日、その再生には地域の内外を問わず、さまざまな主体が、それぞれの特性を活かして連携し、新しい商品・サービスを生み出していくことが求められます。地方都市の空洞化する中心市街地の活性化を考えるとき、ワイズティーのようなネットワーキングやコラボレーションのスタイルは、良き参考事例になると思います。



文科大臣賞を受賞。地元への貢献で高評価

●本社所在地:栃木県宇都宮市

●従業員数:10名(パート2名含む)

●社長:根本泰昌(1974年栃木県宇都宮市生まれ。宇都宮東高校、中央大学文学部卒業。97年大塚製薬入社。2005年退社、06年ワイズティー設立)

●事業内容(単独):紅茶・茶器・雑貨等の販売、ティールーム・紅茶教室の運営。16年度「青少年の体験活動推進企業表彰」文部科学大臣賞受賞。

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森下 正

明治大学 政治経済学部専任教授

1965年、埼玉県生まれ。89年明治大学政治経済学部卒業。94年同大学院政治経済学研究科経済学専攻博士後期課程単位取得・退学。2005年より現職。著書に『空洞化する都市型製造業集積の未来ー革新的中小企業経営に学ぶー』ほか。

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(明治大学政治経済学部専任教授 森下 正 構成=高橋盛男 撮影=石橋素幸)

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