トヨタはメガグループ戦略 単独主義のホンダは生き残れるか

2月7日(火)16時0分 NEWSポストセブン

トヨタとスズキの提携交渉がいよいよ本格化する

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 クルマの電動化、自動運転、はたまたIoT(モノのインターネット)の適用など、新世代テクノロジーの台頭で激動が巻き起こっている自動車業界。自動車メーカー同士、あるいは自動車メーカーとIT企業、電機メーカーといった異業種間の合従連衡が次々に起こるなか、2月6日、スズキがトヨタ自動車と業務提携に関する覚書を締結したと発表した。


 この提携により、ライバル陣営の勢力地図はどう塗り替えられていくのか──。自動車ジャーナリストの井元康一郎氏がレポートする。


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 トヨタとスズキが業務提携の検討に入ったと最初に発表したのは昨年10月。この時は自動車業界の名物オヤジとして知られる鈴木修・スズキ会長(87)と、鈴木氏と親子ほども歳が離れた豊田章男・トヨタ社長(60)が席を並べ、「一緒にやっていくということは決めた。これから何ができるかゆっくり考える」と口を揃えた。


 それからおよそ4か月後の今回の覚書で取り決められたのは、環境、安全、IT(情報通信)など幅広い分野で共同研究を行うということで、具体的な提携内容はこれから決めるとのこと。


 それらの分野はどれも、自動車メーカーであれば共同研究の候補としていのいちに挙げるもので、決断の早さが身上の鈴木修氏なら1秒で決めてもおかしくない。それを4か月もかけてようやくポリシーメモにしたというのだから、提携が業務そのものよりトヨタとスズキが身内のような関係になることに比重を置いたものだったことは明らかだ。


 それはさておき、フォルクスワーゲンとの提携破談で宙に浮いていたスズキが事実上、トヨタ陣営に入ったことで、国別でみれば量産車メーカーを最も多く抱える日本の自動車業界の“戦国時代”も、いよいよ頂上決戦がほの見えてきた。


 資本関係の有無を抜きにして提携の相関でみると、トヨタ、マツダ、スズキ、ダイハツ工業、スバル(富士重工業)に商用車の日野自動車、いすゞ自動車を加えたトヨタ陣営、三菱自動車を傘下に従えたルノー・日産陣営、そしてホンダの三つ巴という情勢である。


 勢力で圧倒的なのはトヨタ陣営。前述のメーカーの台数を単純に足せばグローバルで1800万台超というとんでもないメガグループである。


 対するルノー・日産陣営も、グローバルの勢力では結構なもの。三菱自動車を従えたことで台数は1000万台級に。トヨタ陣営と異なるのはルノーが介在するがゆえに海外メーカーとのつながりが深いことで、ダイムラーを仲間だと考えればさらに地盤は強固と言える。


 その2大勢力の挟撃に遭っているのが第3の勢力、グローバル500万台規模のホンダだ。他者との提携はGMとの燃料電池開発のようにごく限られたものばかりで、世界的な合従連衡の流れの中で単独主義を保っている数少ないメーカーの1社である。


 そのホンダにとって、メガグループが続々と誕生していることは大変なプレッシャーだ。倉石誠司副社長は「何でも単独という時代ではない。お互いに利益があるなら(提携に)前向きに取り組みたい」と会見で語った。


 が、実際には自動車メーカー相手の包括提携は難しい。500万台という規模は今日においては中規模レベルだが、ブランド力や技術レベルをみれば、提携する場合はホストの側に立つべき存在。だが、今日ではホンダが下に従わせるような小規模メーカーの大半は、すでに他の陣営に取られてしまっている。


 残っているのは韓国の現代自動車グループやイタリアのフィアット・クライスラー、フランスのプジョー・シトロエンなどだが、現代は相手とするには勢力が強すぎ、あとの2社もそれなりの名門。長年単独主義に過剰にこだわってきたことが裏目に出て、合従連衡の流れに完全に乗り遅れてしまったという状況だ。


 数の面では劣勢にしか見えないホンダが、今後、相当苦しくなるという観測は、実はホンダ社内からも結構聞こえてくる。


 業績の数字は一時、リコールの嵐に見舞われて苦境に立たされた時に比べれば回復しているように見えるが、「これは度重なる出費の節約や、研究所での正社員比率の削減や賃金抑制で益出しをした結果で、内情は全然良くない。そういう策を打たなければ日本部門の単独決算は赤字になってしまうくらい」(本田技術研究所関係者)というのが実情だという。


 それが生みの苦しみであればいいのだが、「研究所では競争に勝つための将来技術の種をいっぱい用意してストックしておくものなのですが、そのストックが今、枯渇している」(前出の関係者)というのだから、心中穏やかでいられないのも無理からぬところだ。


 500万台規模にホンダはこのままだと、いずれ2大勢力に挟まれて投降するしかないのか。


 実は、そうと決まったわけではない。その生死を分けるのは、実はホンダの頑張りではなく、冒頭に述べた自動運転やIoTなどクルマづくりの先端技術分野のトレンドがどう推移するかにかかっている。


 今日、巨大グループが世界で続々と誕生したり、自動車メーカーとIT企業が提携したりしているのは、それらの技術をグループ単独で作り上げなければクルマが作れなくなるという恐怖心に押されてのことだ。


 こうした動きは今回に限らず、今までも何度もあった。例を挙げればきりがないが「ハイブリッドを作れなければ終わり」「燃料電池車を作れなければ終わり」といったものである。


 だが、技術開発ができなかったために企業が命運を絶たれたという例は、実際にはほとんどない。今回、スズキはトヨタと提携したが、これは何かあったときに“トヨタの傘”に守ってもらおうという安保的な意味合いが濃い。スズキはすでにいくつかのハイブリッドシステムを実用化し、市販車に搭載しているのだ。


 スズキのような小さなメーカーがそれを成し得たのは、巨大部品メーカーとの関係をうまく構築したということが大きい。クルマの先進技術はいつの時代もすごいもののように感じられるが、それが広く大衆車に普及する絶対条件は、価格が安くなることだ。


 1社が圧倒的にすごいものを作っても、それが独占的で価格が高いうちは、メジャートレンドにはならない。どんな技術であっても、社会的ニーズが高まれば必ず競争が起こり、コモディティ化(技術の普遍化)が進み、価格が安くなる。


 そうなったときに技術を持つサプライヤーと協業すれば、生き残りに必要なものは手に入る。これまでのその法則を考えれば、IoTや自動運転であっても、いずれはそうなる公算が強い。


 ホンダのこれまでの戦略を見ると、そのトレンドを先取りしようとしていた形跡が濃厚に伺える。


 リコール連発で手痛い失策となったが、「フィット」をはじめとするコンパクトカー向けのハイブリッドシステムはドイツの部品大手、シェフラーのアイデアによるもの。また、情報筋によれば次世代の先進安全システムも日本企業、ドイツ企業の製品をパッケージ買いする方針だという。先端技術の開発を外出しし、クルマとしての良さで勝負するというこのやり方は、まさに小規模メーカーの戦略と言える。


 今、まだ実現にはほど遠い状態の完全自動運転をはじめ、低価格化、コモディティ化することが想像もできない最先端の技術が下に降りてくる時代がゆっくりとやってくれば、ホンダは巨大勢力に圧倒されて生きていけなくなるということはないだろう。500万台という規模は、小規模メーカー的な戦略をとるうえでは相当に強固なバッファとなる。


 だが、世界の巨大陣営が次々にものすごいイノベーションを起こし、急速に不可能が可能になるような状況が起こったときは、ホンダはいずれかの勢力の軍門に降らなければならなくなる。


「そうならないためには何をやればいいかという長期ビジョンを社内で策定中なのですが、本来はとっくに決まっていなければならないはずなのにいまだに決められないでいる。ここを乗り切らないと、ウチの未来はない」(ホンダ幹部社員)


 トヨタとスズキの歴史的な融和でひとつの節目を迎えた自動車業界。戦後長らく群雄割拠が続いてきた自動車業界の戦国時代がどのような形で終わるのか。そのとき、ホンダはホンダとして生き残ることができるのか。その最後の決戦から目が離せない。

NEWSポストセブン

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