低迷するテレビ業界に、ネスレ高岡社長が見つけたチャンス

2月11日(月)19時22分 Forbes JAPAN

「テレビの制作会社って、今、とても困っていると思うんです。テレビ番組を見ていると、番組制作にお金をかけられなくなっているのがわかる。そのしわ寄せは制作会社にもいっているはずです」

そう話すのは、長年、広告主として多くの番組のスポンサーをしてきたネスレ日本の高岡浩三社長だ。1月に都内で開催した「高岡イノベーションスクール(TIS)」の講義で、テレビ業界のイノベーションについて語った。講義には企業内で新規事業を担当する若手〜中堅社員が参加。企業内でのイノベーションの起こし方について議論する中で、高岡がネスレ日本での成功事例を解説した。

35年前にネスレ日本に入社した当時、同社は年間400億円の広告費を使っていたという。テレビ業界にとっては、トップクライアントだった。

「ネスカフェ ゴールドブレンドを担当していた頃は『日曜洋画劇場』に出稿していました。当時、もっとも広告料が高い番組で、1回600万円払っていた。当時はテレビしかありませんでしたから」

だが、今はテレビCMには懐疑的だ。視聴率の低迷も問題だが、テレビ機器本体の進化が追い討ちをかけた。高岡は言う。

「ボタン一つ番組を録画できるようになり、さらには30秒スキップボタンが付いてCMを飛ばせるようになった。『最悪や』って思いましたね」



視聴率も低迷しているうえに、広告はボタン一つでスキップされてしまう。広告主からしたらたまったものではない。広告主がテレビから離れ、制作費がかけられなくなると、制作会社が苦しくなるはず。そこに、高岡は目を付けた。

「困っている人たち」を集めて得た気づき

ネスレ日本は、独自にショートムービーを製作し、YouTubeで公開する「ネスレシアター」を運営している。これは高岡のアイデアから始まった日本独自の取り組みだ。映画監督の岩井俊二の「花とアリス」など著名な映画監督によるコンテンツが揃う。短いストーリーの中にさりげなくコーヒーが出てきて、ネスレの商品にアクセスしたくなるような仕掛けがされている。

なぜ、著名な映画監督や制作会社が、ネスレのショートムービー制作に協力したのか。高岡は言う。

「映画監督を10人くらい集めて議論した時に、僕は初めて映画監督が大変な仕事だってわかったんです」

映画監督の報酬は歩合制となることが多いうえに、途中で企画が立ち消えになることもある。その際、準備にかかった費用は自腹で、赤字になることもある。最後まで製作しても、ヒットしないと大した報酬はもらえない──映画監督と話す中で、彼らの置かれた厳しい現状がわかってきた。

そこで、高岡がショートムービーの製作を依頼すると、岩井俊二や、『踊る大捜査線』の本広克行、『君の膵臓をたべたい』の月川翔、といった錚々たる映画監督が協力してくれた。

こうした動画に字幕をつけて公開すると、中国や韓国でも視聴されるように。中国や韓国からの旅行客が、お土産にキットカットの抹茶味を買って帰ってくれるようになった。

「インターネットをうまく使ってコンテンツを配信することで、コミュニケーションが国境を超えた。ネスレシアターは『新しい現実』に対応して様々な課題を解決したと言っていいでしょう」

高岡の言う「新しい現実」とは何か。

一つは、テレビしかなかった時代から、インターネットで手軽に配信できるようになったことがある。もう一つは、製作側の問題だ。制作会社や映画監督が直面する課題を認識したことで、企業が独自に高品質なオリジナルコンテンツを作ることができるようになった。ネスレ日本のショートムービーに触発され、独自にコンテンツを作る動きが企業に広がっている。

高岡はネスレ日本で様々なヒットを飛ばしてきたカリスママーケターだが、一体、新規事業をどのように作ってきたのか。

「共通の問題を抱えている人を集めると、そこにチームができる。そしてあまりお金をかけずに新しいことができるかもしれません」

「困っている人」と変える!高岡流サプライチェーン改革

高岡は自身が提唱する「新しい現実」の手法をネスレ日本の企業運営にも取り入れている。例えばサプライチェーンの問題解決だ。

「サプライチェーンだったら、人手不足が最大の問題です。取引先の運送会社は、ドライバーが見つからないのに、物流量が増えて対応しきれなくなっている。若いドライバーを見つけようとしたって見つからないんです」

高岡はそこで、高齢者と新聞配達店に目を付けた。

「将来に不安を抱えている定年退職者で、元気で、車を持っている。彼らに配達してもらったらどうかと考えました」。ウーバー方式だ。

一方、新聞配達店は、新聞の読者の急速な減少で売上が低迷。後継者不足にも直面している。

「新聞を配達するのは、朝刊と夕刊だけ。さらには近所のお客さんのリストも持っている。さらに在庫をストックするスペースもあるから荷物を置くことが可能。それならネスレの商品を運んでくださいと」

「イノベーション」は、必ずしも起業をしなくても生み出すことが可能だ。新しい現実を見て、問題を解決しようとする時、社外も含めて「困っている人」と話してみてはどうだろう?

Forbes JAPAN

「ネスレ」をもっと詳しく

「ネスレ」のニュース

トピックス

BIGLOBE
トップへ