なぜ静岡駅には「のぞみ」が停まらないのか…乗車人員2万人の政令指定都市がスルーされる根本原因

2024年2月12日(月)14時15分 プレジデント社

新幹線主要駅の乗車人員(2019年度)(出所=『鉄道会社vs地方自治体 データが突き付ける存続限界』)

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なぜ東海道新幹線の「のぞみ」は静岡駅に停まらないのか。鉄道アナリストの鐵坊主さんは「静岡駅の乗客数は2万人で規模は少なくないが、人口減少が急激に進んでおり在来線の利用者数も少ない。現在の運行頻度でも十分に機能しており、仮にのぞみが停車したとしても利便性が高まるわけではない」という——。

※本稿は、鐵坊主『鉄道会社vs地方自治体 データが突き付ける存続限界』(KAWADE夢新書)の一部を再編集したものです。


■なぜ静岡には「のぞみ」が停車しないのか


東海地方の中心都市、政令指定都市の代表駅ながら、静岡駅には「ひかり」と「こだま」しか停車せず、「のぞみ」の全列車が通過している。のぞみの停車を要望する静岡県に対し、大きな市場を持つ東京、名古屋、新大阪を最短時間で結ぶことをおもな理由として、のぞみは静岡駅を通過するといわれている。


しかし、都市規模で近い岡山駅、都市規模がもっと小さな長野駅などでは、最速列車のすべてが停車している。なぜ、静岡駅だけがこうした扱いになっているのだろうか?


まずは、次の表を見ていただきたい。


新幹線主要駅の乗車人員(2019年度)(出所=『鉄道会社vs地方自治体 データが突き付ける存続限界』)

のぞみ全列車が停車する品川駅、新横浜駅、京都駅では乗車人員が3万人台とさほど大きなものではない。一方、静岡駅にはひかりとこだましか停車していないというハンデがありながら、乗車人員は2万人。しかも、静岡駅がある静岡市は政令指定都市であり、県都である。政令指定都市は全国で20あり、静岡県内では浜松市も政令指定都市である。


さらに、静岡駅と浜松駅は政令指定都市、さらにいえば、静岡駅は県庁所在地にある新幹線駅としては、唯一(ゆいいつ)速達列車が停車しない駅でもある。そして、他の新幹線の駅まで含めれば、JR東日本の全新幹線列車が停車する大宮駅でも3万人弱。


のぞみが停車する岡山駅や広島駅でも新幹線の乗車人員は2万人を切っている可能性が高く、小倉駅は1万2000人程度、新神戸駅に至っては1万人を切っており、いずれも静岡駅を大きく下回っている。静岡駅にのぞみを停車させれば、3万人を超えるくらいの数字にはならないのだろうか。


■人口減少が著しく、乗り換え需要も少ない


静岡駅にのぞみが停まらないのは、静岡駅の市場規模がもっとも大きな理由である。


2020(令和2)年度の国勢調査の数値を見ると、静岡市の人口は69万3389人。これは全政令指定都市のなかでもっとも低く、人口の増減率を見ると、2005(平成17)年時点で、人口が減少傾向に入っているのは静岡市と北九州市のみ。直近(ちょっきん)の2015(平成27)年と2020年の人口の対比でも新潟市、北九州市に次いで、3番目に減少率が高くなっている。


政令指定都市の過去20年の人口推移(出所=『鉄道会社vs地方自治体 データが突き付ける存続限界』)

そして、静岡駅の後背地(こうはいち)市場が小さいこともその理由である。後背地とは駅周辺の市場、静岡市の周辺都市を指すが、先ほどの乗車人員の一覧にあるように、静岡駅の在来線利用者数は他の駅に比べてかなり少なく、これは静岡駅周辺からの乗り換え需要が少ないことを示している。


さらに、他の主要駅ではJR路線のみならず、大手私鉄や地下鉄がある駅も多いが、静岡駅では静岡鉄道のみで、しかも駅は少し離れた場所にある新静岡駅である。在来線・他社線からの乗り換え需要が大きくないことが静岡駅周辺の市場規模の限界を示しており、のぞみの停車で需要を掘り起こす必要もないと考えられている。


■東海道新幹線の他駅と比べて規模が小さい


次に考えられる理由は、東海道新幹線の特殊性である。


静岡市は政令指定都市であり、人口が減少傾向にあるとはいえ、都市規模は全列車停車駅の岡山駅がある岡山市とさほど変わらない。しかし、静岡市を東京23区、横浜市、名古屋市、京都市、大阪市と比べると、その規模は格段に異なる。


岡山駅がある山陽新幹線の場合、福岡市は大きな都市だが、岡山市と比べた場合、その差は東名阪と静岡市の差ほど大きなものではない。つまり大阪と福岡の速達需要は山陽新幹線では大きな比重を占めるものの、東海道新幹線における東名阪の速達ニーズほど大きなものではないため、途中の岡山駅や広島駅の需要の比重も相対的に大きくなる。


もっといえば、これらの需要だけでも不十分なので、のぞみやみずほには、姫路、福山、徳山、新山口に停車する列車が設定され、よりきめ細かく需要を拾う施策をとっている。他の新幹線を見ると、さまざまな都市のニーズを拾う傾向がさらに顕著(けんちょ)に見られるほか、上越新幹線では、越後湯沢駅までの区間列車が「たにがわ」、新潟駅までの「とき」、東北新幹線では、区間列車の「なすの」、盛岡までの「やまびこ」、新青森や(北海道新幹線の)新函館北斗までの「はやぶさ」と、停車駅と運行区間双方で名前が分けられている。


山陽新幹線や九州新幹線こそ、やや東海道新幹線に近い運行パターンではあるが、東海道新幹線は東名阪という、他の新幹線にはない巨大な市場を持つゆえに、その三大都市の速達需要、つまり、のぞみの運行が最優先にされ、その結果、のぞみは静岡駅を通過してしまうというわけだ。


■東京から近いからこそ停車のメリットがない


そして、静岡駅への移動では競合不在であることも理由である。


ひかりは東京駅と静岡駅を約1時間で結び、しかも距離が短いため、フライトとの競合がない。高速バスは多数運行されており、料金も3000円以下と新幹線を圧倒するが、所要時間が3時間以上かかるため、速達性ではまったく太刀打ちできない。そのため、速さの新幹線と安さの高速バスで完全な棲み分けができており、のぞみを停車させたところで、現行のひかりとさほど大きな違いはない。


これが神戸、岡山、広島となると、航空機との競合があり、のぞみの速達性が重要視される。つまり静岡駅はさほど東京から離れていないことが、のぞみの速達性を不要としているのだ。


写真=iStock.com/tapanuth
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/tapanuth

■現状の運行本数でも十分にカバーできている


「静岡駅にのぞみを停車」という要望は、速達性と運行頻度の向上を求めてのことだが、現在のひかりの運行パターンを見る限り、静岡駅と新横浜駅、名古屋駅双方向での途中停車駅は1駅であることが多く、仮に静岡駅にのぞみが停車しても、所要時間は現行のひかりとさほど変わらないと思われる。


のぞみの運行本数がひかりとこだまに比べてあまりに多いため、のぞみを停車させれば、運行頻度は大幅に上がる。しかし、他の新幹線と比べると、静岡駅の列車の本数はけっして少なくない。


たとえば、東北新幹線の仙台駅では、はやぶさを含め、全列車が停車するが、列車の本数が多い東京方面を見ても、日中は出発、到着ともに片道1時間3本程度。静岡駅の片道毎時ひかり1本、こだま2本という運行パターンと変わらない。静岡駅の市場規模を考えた場合、1時間3本のひかり、こだまの停車で十分カバーできると判断されているわけだ。


■リニアができても運行本数はそこまで増えない


リニア中央新幹線は品川から名古屋を結び、将来的には新大阪まで延伸される。つまり、東名阪を最短で結ぶのぞみの役割はリニアへと移行する。



鐵坊主『鉄道会社vs地方自治体 データが突き付ける存続限界』(KAWADE夢新書)

その結果、東海道新幹線の新しい役割は中規模都市間輸送や大都市への通勤輸送になると予想され、たとえば、三島(みしま)、小田原発着の列車の増発、新横浜〜名古屋間で静岡や浜松だけに停車するといった列車の設定などが考えられる。そのように考えると、のぞみという名称の列車が残ったとしても、その役割は現在のひかりと何ら変わらない。


そして、静岡市をはじめ、沿線の人口減少が加速する。そして、東名阪の速達需要はリニア中央新幹線へ移行することを考えると、現在ののぞみのような高頻度の列車運転は必要なく、現在のひかりとこだまの運行本数からわずかに増える程度で十分になる可能性もある。


さらにいえば、適正な座席供給という考えから、10両編成といった短編成化される可能性もある。現在、隆盛を極める東海道新幹線であるが、リニア中央新幹線が開業すれば、一気にローカル化し、のんびりとした運行になることも十分考えられる。


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鐵坊主(てつぼうず)
鉄道解説系YouTuber&鉄道アナリスト
1968年生まれ。2020年11月にYouTubeチャンネルを開設。鉄道を中心とする日本の地域交通のあり方について鋭い視点で分析・解説し、人気を集めている。著書に『鉄道会社 データが警告する未来図』、『鉄道会社vs地方自治体 データが突き付ける存続限界』(ともにKAWADE夢新書)がある。
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(鉄道解説系YouTuber&鉄道アナリスト 鐵坊主)

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