楽天・三木谷社長が語った「それでも“送料無料化”を推し進める理由」とは

2月13日(木)22時35分 文春オンライン

「(3980円以上、送料無料を実施すると)ハッピーでない人がいるかもしれないが、これをやらないとみんなが沈んでしまう。5万店の店舗を載せた楽天という船が、激化する一方の荒波を乗り切るにはこれしかない、という思いでやっている」


 楽天会長兼社長の三木谷浩史が吠えた。



送料無料化の理由を説明する楽天の三木谷浩史会長兼社長 ©大西康之


 同社のネットショッピング・モール「楽天市場」が打ち出した「3980円以上お買い上げで、一律送料無料」の施策に対し、公正取引委員会は2月10日、「独禁法で禁じている優越的地位の乱用に当たる恐れがある」として立入検査に入った。中小の店舗に送料を負担させ、経営を圧迫しているのではないか、という疑いだ。


楽天では店舗が個々に送料を決めている


 2月13日の楽天の決算発表記者会見。メディアは楽天の業績より、「送料無料」に関する三木谷の発言に注目した。結論を先に言えば、三木谷は冒頭の発言の通り、持論を通した。


 楽天の理屈はこうである。


 最大のライバルであるアマゾン・ドット・コムは原則「お買い上げ2000円以上で送料無料」としており、年会費4900円を払ってプライム会員になれば、対象商品は全て送料無料になる。


 これに対し、現在の楽天は出店している店舗が個々に送料を決めている。商品の販売価格を高めにして送料無料にしている店もあれば、商品を安く送料を高く設定している店もある。利用者は商品の価格と送料を注意深く見ないと、どれが一番安いのか分からない。


「楽天が儲けようという話ではない」


 この「分かりにくさ」が「楽天よりアマゾンの方が安い」という利用者のイメージに繋がっている、と楽天は分析した。そこで1年ほど前から、一定金額以上は送料無料とし、価格表示をアマゾン並みに分かりやすくする方針を打ち出し、店舗と話し合いを続けてきた。その結果として出てきたのが、3月18日から実施する「3980円以上で送料無料」の方針だ。



 しかし「無料」と言っても、実際には利用者のところまで商品を届ける運賃がかかるわけで、そこは店舗の負担になる。


 これに対し「楽天ユニオン」を名乗る人々が「店舗いじめだ」と反発。1700筆超の署名を集めて公取に駆け込んだ。弱者の味方、公取が悪代官の楽天を成敗する、という構図が生まれた。


 三木谷はこう反論した。


「これ(送料無料化)は、楽天が儲けようという話ではない。やらなければ(楽天市場の成長が止まり)みんなで沈むことになる」



三木谷社長が恐れる「アマゾンの猛攻」


 三木谷の危機感の背後にはアマゾンの猛攻がある。マーケティング調査会社、ニールセンによると、2019年4月時点で日本におけるアマゾンの利用者は前年の4555万人から5004万人に10%増えた。これに対し4451万人だった楽天市場の利用者は8%増の4804万人。伸び率で下回り、アマゾンの背中が遠のいている。



 2年ほど前に顕在化した「宅配クライシス」も、楽天のビジネスに影を落とす。ネットショッピングの急増で仕事が増えすぎたヤマト運輸や佐川急便は折からの人手不足もあり、「もうこれ以上、運べない」と一部で荷受けを拒否し、大幅な運賃値上げを要求した。三木谷は言う。


「あの時、店舗さんから、荷物を受け取ってもらえない、運賃が高すぎて商売ができない、と悲鳴が上がり、楽天は物流に投資することを決めた」


 楽天は2019年、向こう10年で自社物流網の整備に2000億円を投じる計画を発表している。2020年には千葉県と神奈川県に巨大な物流センターがオープンする。


 しかし、アマゾンの年間流通総額は約28兆円とされ、3.9兆円の楽天とは桁が違う。国内でもアマゾンは15カ所の物流センターを持ち、地域の運送会社を束ねて着々と自前の物流網を構築している。ヤマトや佐川が「配れない」と言っても、「それなら自分で配るからいい」と言える状況を作りつつある。


携帯電話事業参入に向けても先行投資がかさむ楽天


 三木谷が「みんなで沈むことになる」と言うのは、自前の物流網を完成させたアマゾンに利用者を奪われ、楽天市場が衰退してしまうことを指す。送料の負担は中小の店舗にとって確かに負担だが、「楽天市場が寂れてしまったのでは、元も子もないだろう」というのが三木谷の言い分だ。


 実際、13日に発表した楽天の2019年12月期、通期決算は8年ぶりの赤字だった。前述した物流網の整備に加え、4月に控えた携帯電話事業参入に向けた基地局の設置など先行投資がかさんでいるのだ。



 成長分野に投資することによる赤字は、悪いことではない。アマゾンや電気自動車のテスラなど米国のベンチャーが黒字を計上するようになったのは、割と最近のことである。彼らはずっと、期間損益を赤字にし、投資を先行させたが、株式市場はこうした攻めの姿勢を好感し、両社の株価は上がり続けた。


 物流に2000億円、携帯電話に6000億円。投資すべきビジョンを持つ楽天には成長余力があると見るべきだろう。



楽天市場に人を集めるために年間3000億円


 楽天市場の創業期から出店している有力店舗の経営者は、今回の送料無料騒動をこう見る。


「昔は店舗も楽天も一緒に成長できたから、誰も文句を言わなかった。今は店舗もなかなか利益が出なくなり、楽天と同じ方向を向きにくい。しかしウチを含めて、楽天市場を利用して成長してきた店舗は、相応分の負担はすべきだとも思う」


 楽天は楽天市場の最大の魅力とされる楽天スーパーポイントに年間3000億円強を投じている。これも楽天市場に人を集めるための投資である。



 新聞やテレビが「弱い店舗の代表」とクローズアップする楽天ユニオンは、ユニオンと名乗っているが正式な労働組合ではなく、ネットショップとしての実績も乏しい。しかしメディアではいつの間にか「強い楽天と弱いユニオン」という構図が出来上がり、そこに公取が登場した。


「楽天ユニオンがどんな人々か、メディアの人たちにも一度ちゃんと調べて欲しい」(三木谷社長)


 楽天が衰退しアマゾン一択になった時、困るのは店舗と利用者だろう。しかし「剛腕」で知られる三木谷は、何かするたびに叩かれ役だ。その表情には「また俺が悪者かよ」という苛立ちが浮かんでいた。



(大西 康之)

文春オンライン

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