金利1%上昇で残酷すぎる格差…リスク"ゼロ"で資産増の高齢者vs.住宅ローン"負担増"現役世代の雲泥の差

2025年2月13日(木)10時15分 プレジデント社

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kentoh

長年続いた金利のない時代が終焉し、現在の金利は上限0.5%。経営コンサルタントの小宮一慶さんはアメリカ経済やドル円レートの動向などを踏まえ、「2025年は金利1.5%にまで上がる可能性もある。そうなると得する人と損する人がくっきり分かれる」という——。
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■2025年の金利上昇で得する人・損する人とは


注目されていた石破茂首相とトランプ大統領の初の首脳会談も予想よりも平穏に終わりました。関税を課されるなどにより日本経済にも大きな影響を及ぼす可能性もあっただけにひと安心です。


日本製鉄によるUSスチールの案件についても、「買収」ではなく「投資」という解釈に苦しむ決着がつきました。「投資」というからには、資金の新たな投入が必要と考えられ、また、USスチールを支配することを避ける手法としては、おそらく過半数を超えない程度のUSスチールによる第三者割当増資を日本製鉄が引き受ける可能性があります。あるいは、別会社を日本製鉄とUSスチールがそれぞれ出資して設立し、そこにUSスチールの資産の一部を移すなどが考えられますが、こちらは、今後の展開を待たなければなりません。


日米首脳会談では、累計で1兆ドルの対米投資を行うことを石破首相は表明しましたが、「関税」については触れられなかったようで、投資を含めて米国にとって日本からの貿易赤字解消に向けての具体策が今後は求められるでしょう。


その中には、現状150円程度のドル・円レートの是正も視野に入る可能性があります。トランプ大統領自身も自国の輸出に有利なドル安を望んでいると考えられます。また、それと関連して、米金利が下がることを望んでいるとの発言もあります。


米国経済は今後もある程度の堅調さを維持すると考えられますが、こうした中、日本の金利が上昇するのは必至で、焦点となるのは金利がいつまでにどれくらい上がるのか、それにより得する人、損する人がどれくらいいるのか。本稿はこの点を考察していきます。


■堅調な米国経済と米金利


日本の金利を分析する際には米国経済の現状と今後の見通しを考える必要があります。


米国経済は堅調で11四半期連続で経済は拡大しています。コロナが明けたという事情があるにせよ、かなり長期にわたっての景気拡大です。


そうした中でのドル・円レートはやや円安に偏りすぎで、これは日本経済にも米国経済にもあまり良いことではないと考える政府関係者や経済人が少なくありません。


この為替レートは、米国と日本との金利差による部分もおおいに関わっています。現状、政策金利は4.25〜4.50%の米国と、上限0.5%の日本の差は4%程度あり、円安が続きやすい環境にあります。政策金利とは、日米とも1日だけ銀行間で資金を貸し借りする金利で、ここに中央銀行が毎日介入することで、決められた金利を維持しています。


一時は160円程度まで進んだ円安ですが、その要因のひとつは、金利の安い円を借りて、それを即座にドルに換え、金利の高いドルで運用するという「円キャリー取引」が活発に起こっていたという背景があります。現状の大きな金利差ではこのキャリー取引が起こる可能性があります。


■今後も下がりにくい米金利


こうした状況ですが、米金利はここしばらく下がりにくい状況です。なぜでしょうか。


ひとつは図表1にあるようにインフレ率が下げ止まっていることが挙げられます。2022年6月に9.1%というピークをつけた米国のインフレ率はその後、順調に下がってきたものの、直近では2%台後半で、3%台に逆戻りという可能性も低くはありません。企業の仕入れを表す卸売物価も3%台です。米国の中央銀行であるFRB(連邦準備制度理事会)のインフレ目標は2%ですから、少し乖離した状態が続いています。


景気に大きな影響を及ぼす雇用の状況を見ると、かなり良い状態が続いています。図表2の失業率は今年1月が4%ちょうどで、世界中のエコノミストたちが注目している非農業部門の雇用増減数も1月は少し弱含んだものの、総じて堅調で時間あたり賃金も順調に伸びています。表の数字は、「前月比」の数字ですが、前年比では4%以上の伸びです。


トランプ大統領の「アメリカファースト」や大幅減税の政策も米国のインフレ率を高止まりさせ、雇用も比較的安定すると考えられます。また不法移民の強制送還が実施されれば、労働者不足が生じますが、これも米国民の雇用環境を良くする作用があり、賃金上昇を通じて、インフレに影響を与えると考えられます。


こうしたことを考えると、FRBはインフレを高めないため現状の政策金利の水準(4.25〜4.50%)を下げにくいと考えられます。


昨年の半ばには、2025年は「年4回」の利下げをすると言われていました。ところが、昨年末ごろにはそれが「年2回」に減少しました。1回の利下げは通常0.25%ですから、年1%利下げ予定が0.5%まで利下げの予定幅が縮小しました。そして今では、当面は利下げはなしという意見まで出ています。


■金利を1%程度まで上げる日銀


一方、日本銀行は現状0.5%を上限としている政策金利を上昇させる考えを持っています。理由は大きく2つあります。


ひとつは、ここまで述べてきたドル・円レートをもう少し円高方向に誘導したいということ。円安は、常識的には日本の輸出産業に有利ですが、図表3に見るように、日本は基調的には貿易赤字国です。かつ、輸入の約4分の1はエネルギーで、これはほぼすべてドル建てで決済されています。原油価格は「1バーレル=75ドル」というように表示されますが、決済もドルで行われているのです。極度な円安は、日本の輸入、ひいては輸入物価や消費者物価に悪影響を与えます。


2つめの理由は、消費者物価が高止まりしていること。2%台で推移していましたが、昨年12月にはとうとう前年比で3%に逆戻りしてしまいました。企業の仕入れを表す国内企業物価も3%台後半と高止まりしています。日銀も物価誘導目標を2%としていますから、この状態を放置するわけにはいきません。


■金利が上がって得する人、損する人


筆者は、日銀で金利を決定する役割を担う政策審議委員の発言を常にチェックしていますが、その内容を総合的に判断すれば、高い確率でこの1年ほどの間に、現状上限0.5%の政策金利を1%にまで上げる予定です。


しかし、先に説明したように米国経済が堅調で、米金利やドル相場が高止まる可能性があることや、ここで説明している日本のインフレ率が落ちにくいことも想定され、その場合には、1%では済まず、1.5%程度まで政策金利が上昇する可能性もあります。


金利が高くなる公算が大。となると、気になるのは金利が上がって得する人はどんな人かということでしょう。その筆頭に挙げられるのは、金融資産とくに預貯金を持っている企業や個人です。


日本の個人の金融資産は約2200兆円あり(2024年3月時点)、そのうちの約半分1100兆円は現預金です。現金を除いた、金融機関などに置いている預貯金は約1000兆円で、その大部分は高齢者が保有しています。もし、1%金利が上昇すれば、それだけで10兆円の金利が、預金保有者に入る計算となります。約2割が税金で取られますが、それでも8兆円ものお金が入るわけです。


もちろん、高齢者の金融資産にはばらつきがありますが、約2000万円の預金を持っている場合には、20万円ほどの増収となり、標準的な世帯の年金ひと月分くらいの収入が増えるのです。


一方、若年層や氷河期世代などは預貯金をあまり保有せず、逆に住宅ローンを抱えている人も少なくありません。日本では長い間低金利が続いたために変動金利でローンを組んでいる人の比率が高く、この人たちには少なからぬ影響が出ます。


金利が上がってもすぐには毎月の返済額に影響が出ないように契約されているローンも多いですが、それはあくまでも月々の返済額だけの話であり、金利上昇分はもちろんトータルでは返済が増えます。


もし、3000万円のローン残高がある人がいれば、1%金利が上昇すると年間30万円の負担増です。住宅ローンをお持ちで変動金利を適用している人は、一度、ローン残高を確認するといいでしょう。


これから住宅を持とうと考えている人は、都市部では住宅価格が上がっているうえに、固定・変動にかかわらず、今後は金利も上昇しますから、住宅取得のハードルは上がります。


企業で言えば、有利子負債の多い企業では金利上昇はマイナスの影響を受けますから、企業経営者のみならず、そこで働く人も利益の減少を通じて給与などの待遇面で影響を受ける可能性もあり、さらには、企業再編の可能性も上がるので、その影響を受けることとなるかもしれません。


いずれにしても、長い間の金利がなかった時代が終焉しようとしており、その影響は小さくないでしょう。


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小宮 一慶(こみや・かずよし)
小宮コンサルタンツ会長CEO
京都大学法学部卒業。米国ダートマス大学タック経営大学院留学、東京銀行などを経て独立。『小宮一慶の「日経新聞」深読み講座2020年版』など著書多数。
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(小宮コンサルタンツ会長CEO 小宮 一慶)

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